自分の中に、よりハイスペックな『自分』が居たとしたら。
またその『自分』の存在を、自分以外は知らない、知る由もないとしたら。
受験、求職、人生の勘所において、
『自分』に頼らないという選択を、あなたはできますか?
《―――同じ受験生相手に、また会いましょう、か。良い激励ね》
(え? ……あ、確かに)
……呆れの感情だけを器用に送ってくる『干渉』から意識を背けながら、もう少なくなってきた仮想
とはいえ、受験生に襲い掛かる敵に、その敵を探し回る受験生。
試験会場が幾ら広くても受験生がばらけた現状、もう残っている仮想敵などそう居ない―――
「《……えっ》」
耳に感じた轟音、よろける受験生と空気の振動で察した地震。
彼方へ集まる視線に釣られ、振り返った先には、天を衝かんばかりの巨大な影。
「……0P
《……雄英ってひょっとしてバカしかいないのかしら》
「「「う、うわああああっっ!!?」」」
ゆっくりとした前進。緩慢な動作で振られる腕。
たったそれだけで模擬市街地に巻き起こされる絶望的な破壊。
あまりに分かりやすい暴威に、一斉に逃げ出す受験生達が眼下に見えて。
「……っ!」
《……あら》
そんな彼らを追うように【反射】し、暴威から距離を取る。
一瞬の迷いの後、その判断をしたわたしの頭に、どこか静かな呟きが落ちた。
《……この先の方針は?》
(……あれを避けて行動します。わたしの機動力なら可能なはず)
《……まあ、合理的な思考ができているようで何より》
(他がどれぐらい稼いでいるか分かりませんし、出来る限りはしないとですから)
《……仮想ビル、崩れてるわね》
(あ、本当だ……崩落に巻き込まれた受験生とかいないですよね?)
《……模擬、市街地に、巨大敵、か》
(……『干渉』?)
《―――ま、いいか。ヒーローになりたいのは私じゃないし》
…………いま、なんていった?
《あら……二時の方向》
「え……」
頭に響いた言葉を咀嚼するより早く、指示された方向に顔を向ける。
一方向に固定された人の流れ。その中にたった一つ、遡っていく人影。
「―――あ」
制御を手放した"個性"が、わたしの身体を地面に導く。
不格好に着地し、久し振りに踏んた地面は、何故だかひどく遠く感じた。
脅威から、我先にと逃げて。
街の被害から、能天気に目を背けて。
今の、わたしの行動は。
つい先刻の、わたしの判断は。
―――ヒーロー足り得る、振る舞いか?
「…………っ!」
頭の中で、火花が散った気がした。
振り返って、滲む視界についさっき見送った背中を探す。
誰もが背を向けた暴威へと。
ヒーローを志したはずの誰もが逃げ出した恐怖へと。
真っ直ぐに立ち向かっていく背中が、そこにあった。
「―――っ、『干渉』!」
《…………》
堪らず叫んだ声に、返って来た沈黙からは、わたしを試すような熱を感じた。
悔いは、ある。
後ろめたさも、ある。
出来る事なら、わたし、だけで挑みたかった。
けれど
そして何よりも。
「
《了解》
その小さな呟きを境に。
わたしの全身から、
「―――SMAASH!!!」
拳の一振り。
たった一度の拳の一振りが、聳え立った絶望を粉砕した。
「お見事。後は私が」
「え―――」
右腕を振り抜いた姿勢で宙に浮かんでいた男の子―――見覚えのある顔で驚いた―――が、
「
宙に直立した姿勢のまま、溢された呟き。
その瞬間、視界に映る全てが―――世界が、その歩みを緩める。
崩落するビルの残骸が。
粉砕された0P敵の欠片が。
急速に落下速度を失い、緩やかに地面へと降りていく。
干渉可能範囲にある知覚可能なほぼ全てのモノを無差別に対象化する技、【
半径二メートル圏内を限界とするわたしがここで使っても、防塵程度が精々だけど。
わたしに出来る対象化限界射程の十倍以上。
わたしに操作可能な限界重量の数十倍。
全対象に同操作であれば低負荷―――そんな考えが空しくなる規模の同時操作。
それらをいとも容易く実現する『
「―――そ、っか。二次被害……っ」
男の子のはっとしたような呟きに、『彼女』が目を向け、微笑んだ。
『干渉』にとって"個性"とは己そのもの。
わたしが指を曲げ伸ばしするように、あるいは呼吸をするように『彼女』は"それ"を扱える。
こうしてわたしの意志を引っ込めれば―――わたしと『彼女』の関係を疑似的に入れ替えれば、遥かに強力な出力で"個性"を使えるようになる。
……逆に『彼女』は手足の動きが覚束ないらしいが、【
「―――あ……わああぁっ!?」
「えっ?」
(えっ?)
『彼女』の笑みのせいか、やや赤面していた男の子の身体が落下を始める。
それだけならば何も不思議なことはないが、やけに男の子が慌てているのが気にかかった。
この高さまで飛び跳ね、0P敵を一撃で粉砕してのけた、おそらく身体能力を強化する"増強系"の中でも規格外の強化倍率を誇るだろう"個性"の持ち主。
身体の頑丈さも相応に跳ね上がるはずで、着地程度お茶の子さいさい―――
(―――には見えませんね!?)
「【減速】、【反射】っ」
理由は不明だが自力着地できない状態と判断した『彼女』が彼の身体にも"個性"を使う。
けれどそこで、使い手が『彼女』であっても避けられない"個性"の欠点が足を引っ張った。
「……あ、駄目だ彼意外と重いわ」
(ええっ!?)
"個性"『干渉』の欠点。それは自分を除く生物を対象にした場合、出力上限が非常に低いこと。
どうもこの"個性"は自身の意思で力を加えられない無機物を対象にするのが前提であるらしく、他者他人に対しては一定以上の力を加えられなくなっている。
加速度とは、加えた力と重さの割り算だ。
その力に上限が定められている以上、後は重さ次第。
小柄ながらも"増強系"らしく鍛え上げられているらしい男の子の身体を重力から解き放つには、上限出力でも全く足りないようだ。
【反射】も同様に、彼にかかる力のごく一部を逆向きにするのが精一杯。
どちらでも見て分からない程度には減速させられる、はずだけれど。
(ど、どどどうすれば……あうっ!?)
「……っ」
落下していく彼の悲鳴に思考を真っ白にしていたわたしは、突然ぐりぐりと動き出した視界に、思わず呻き声を上げた。
『彼女』がこの状況の打開策を探していたのだと気付いたのは、ある一点を注視したことでその動きが止まった後。
わたしと彼から十数メートル下方、そこに浮かんだ瓦礫の上に横たわりこちらを見上げている、見覚えのある女の子。
さっき目にした彼女の"個性"を思い起こすわたしを余所に、『わたし』の口が動き出す。
「―――私の"個性"は、人間には効きにくいっ!」
「……っ!」
その叫びに目を見張った女の子が、瓦礫の上で必死に手を伸ばす。
同時に『彼女』が、彼女の乗った瓦礫を男の子の落下軌道へと向かわせる。
(届い……たっ)
バチン、と頬を張られた男の子が、地面にぶつかる寸前でフワリと浮かんで。
その周囲を囲うように、『彼女』が失速させていた無数の瓦礫が静かに着地。
続いてわたしの身体もまた、即席の連携を行った女の子の傍に足をつけた。
(……ああ、起き上がった。良かった……)
地面についてすぐに、必死の形相で上半身を起こした男の子を見て、安堵した。
そういえば、もうすぐ試験時間終了のはずだと、頭の片隅でぼんやり考えて。
《ああ……それじゃ、身体返すわね》
(えっ)
達成感とか余韻とか、そんなあれこれを放り捨てた一言が聞こえて。
次の瞬間、噴き出すような勢いで総身の感覚が戻ってきた。
(えっ、ちょ、まだ試験―――)
《もう何秒も残ってないわよ》
(や、でも、この後―――)
《先延ばしにしてもしょうがないでしょ》
慌てるわたしを、にべもなく切り捨てる『彼女』。
返す言葉を考える暇もなく、
「…………うぷっ」
わたしが"個性"を使い続けて、許容量を超えると頭痛が始まる。
より正確に言うなら、頭痛が始まるその地点が、わたしの許容限界。
『彼女』は許容量もまた、わたしとは比較にもならない程。
そんな『彼女』が全力を出した後で、わたしに身体を戻すとどうなるか。
(こ、こんな、周りに一杯、人が居るのに……っ)
数十の鈍器で一斉に殴られたような頭痛と、共に襲い来るぐらぐらとした酩酊感。
咄嗟に口を抑えた手の向こう、喉の奥から熱くせり上がってくる不快感。
涙に滲んだ視界がぐらりと揺れて、耐え切れずに膝から倒れ込んで。
(え……)
(あ……)
―――そこで、目が合った。
同じような体勢、同じ仕草、同じ顔色をした、女の子と。
お互いに、抑えた口から声を出せるはずもなく。
今日会ったばかりで、互いの名前や出身など知る由もなく。
(……そっちも?)
(うん)
(そっかあ)
(えへへ……)
真っ青な顔を突き合わせた、聞こえるはずのない会話。
それでもお互い目元だけが、自然と笑みに変わって。
(ねえ、わたし達……)
(……うん)
((…………仲間だね))
友達になれると、そう思った。
「「おぇ
※しばらくお待ちください。
《二人とも合格すればの話だけどね》
「言わないでください」
メインヒロインがゲ○イン属性持ちなのは珍しい気がする。
ちなみに帰宅まで『干渉』さんが出続けていれば、歩ちゃんが人前で乙女の尊厳(婉曲表現)を吐き出す必要はありませんでした。