おしゃべりな"個性"   作:非単一三角形

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 一組目の五人しか面子が分かんないんですよね。



C3-4 救助訓練レース

 

「ハイ私が来た。……ってな感じでやっていくわけだけどもね、ハイ、ヒーロー基礎学ね!」

 

《ヌルっと入ったわね》

「ヌルっと入りましたね」

「久々なのにな」

「パターンが尽きたのかしら」

 

 職場体験明け、久々に感じるヒーロー基礎学。

 デクさん曰く黄金時代(ゴールデンエイジ)のコスチュームで現れたオールマイト先生の、やけに簡素な挨拶から授業は始まった。

 

 今回の内容は、遊びの要素を含めた『救助訓練レース』。

 舞台は複雑に入り組んだ細道が続く密集工業地帯……を模した運動場。

 五人四組に分かれて街外に待機、舞台のどこかで要救助者役のオールマイト先生が出す救難信号を合図に一斉スタート。

 そこで誰が一番早く要救助者のもとに駆け付けられるかの競争である。

 

「―――もちろん建物の被害は最小限にな!」

「指さすなよ」

《そりゃ一発目の授業でビル破壊してればそうなるわよ》

 

 クジで決まった最初の組は、デクさん、尾白さん、飯田さん、芦戸さん、瀬呂さんの五人。

 他の十五人はその間どうするのかと思っていたら、縦に五分割された映像を流す巨大モニターが用意された待機場所《OZASHIKIって書いてある……雄英のセンスって……》へ移動することに。

 

「トップ予想しようぜ。俺、瀬呂が一位」

「あー……うーん、でも尾白もあるぜ」

「オイラは芦戸! あいつ運動神経すげえぞ」

「デクが最下位」

「ケガのハンデはあっても飯田くんな気がするなあ」

《こう入り組んだ地形では彼はむしろ不利よ。上を行ける瀬呂さん、緑谷さんのどちらかね》

「……瀬呂さんかデクさんですね。飯田さんは真っ直ぐ走れない場所だと不利、かもしれません」

 

「ああ、そっか地形が……って、歩ちゃんガン有利やん、コレ」

《飛べる、ないし跳べる人間も多い以上、そうでもないわよ》

 

 そんな観客の勝手な予想を背景に、一組目の競争は初授業のような大きな波乱もなく決着。

 トップを取ったのは『干渉』の予想通り、瀬呂さんとデクさんのほぼ同着という結果に。

 途中、一度だけ着地にもたついたロスが無ければ、デクさんが単独トップだったかもしれない。

 

 

「―――皆、入学時より"個性"の使い方に幅が出て来たぞ! この調子で期末テストへ向け、準備を始めてくれ! …………それじゃ、二組目も位置について―――」

 

「……今の、明らかに締めの台詞でしたよね」

《相変わらずの段取り》

 

 モニター越しに聞こえるオールマイト先生の言葉に変な笑いが喉奥で燻る。

 ……偉大な人のはずなのに、ことあるごとに新米教師感出してくるからずるいです。

 

 

 

 

「―――【自己自在(マニピュレイション)】!」

 

「出た、伝家の宝刀」

「滞空時間って意味じゃクラス最強だよな」

「……でも前より速度上がってるような」

「一週間ホークスを……トッププロの背中を追い続けていたからな。然もあらん」

 

 

「―――速度は力÷『重さ』! 【ゼロ・ジャンプ】!」

 

「うおぉ!? 麗日、何だアレ!?」

「自分浮かすアレに名前付けたのか! でもあんな速度で跳ぶモンだったっけ!?」

《体捌きの強化とコスチュームの脚部に追加した推進装置(バーニア)の効果ね》

「今回は着地大丈夫でしょうか」

 

 

「―――運べ『黒影』……【黒の堕天使】!」

 

「常闇それアリなの!? ソレで飛べんのかよお前!?」

「案を出しておいてなんですけど、どこから推進力発生してるんでしょうね?」

「歩ちゃん発案やったんかー……あ、ひょっとして常闇くんも?」

《……黒い天使が堕天したら、それ光落ちなのでは? いや、黒い堕天使?》

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「はー……久々の授業で汗かいちゃいました」

「いやいやメッチャ余裕だったじゃん、干河。どこに疲れる要素あったのさ」

 

「それがここ最近必死に背中を追ってばっかりだったもので、元のペースが分からなく……」

「……ホークス事務所だったっけ。常闇も言ってたけど、一週間追っかけてたってマジなんだ」

 

 授業を終えて更衣室、それぞれ制服へと着替えながら先の訓練について振り返る。

 

「機動力課題だなあ、私」

「ウチもだよ。お互いそれに活かせる"個性"じゃないかんね……」

「私もビル溶かして登ってたからなー、一応セーフだけどやり過ぎ注意って言われちゃった」

「私も……もっと状況に応じた道具を的確に作れるようになりませんと」

 

 図らずも反省会のような空気が作られる中、余裕を持って高順位につけたわたしに降りかかるちょっとした疎外感。

 助けを求めてお茶子ちゃんに目を向ければ、ちょっと困り顔のうららかな微笑みに迎えられた。

 

「……そういえばお茶子ちゃん、その脚のバーニア……コスチューム改良したんですね」

「あ、うん。滞空時間伸びてきたから、空中で姿勢直したり飛距離伸ばしたり出来ひんかなって思って要望出してみたらこうなったんよ」

《今までは"個性"の解除タイミングで着地点を調整していたものね》

 

「そういう歩ちゃんもコスチュームの靴、デザイン変わっとるよね。何か新機能付いたん?」

「あ、はい、ホークスさんの所で働いているときにこういうものが欲しいなと思って―――」

 

 

「―――見ろよこの穴ショーシャンク!! 恐らく諸先輩方が頑張ったんだろう!! 隣はそうさ! わかるだろう!? 女子更衣室!!」

 

 

 ……壁越しに聞こえた下劣極まりない叫びに、部屋内の空気がスンっと冷めた。

 誰ともなしに声の方向を探し、該当する穴らしきものを最初に見付けたのは耳郎さん。

 

「……ウチがやる」

「任せるわ」

「後の『執行』はわたし達が。ね、お茶子ちゃん」

「せやな。延び延びになっとったし」

 

 壁の向こうからは飯田さんを始めとした男子一同の制止が聞こえてくる。

 それでも欲望に忠実なブドウ頭(峰田)の声に、踏み止まろうとする意思は毛の先程もなく。

 

 

「八百万のヤオヨロッパイ!! 芦戸の腰つき!! 葉隠の浮かぶ下着!! 麗日のうららかボディに蛙吹の意外おっぱァアアア―――」

 

 

 穴の先に突き立てられた『イヤホンジャック』が、彼の叫びを断末魔に変更。

 眼球から爆音を流されたブドウ頭がのたうち回る声が壁の向こうから響き渡った。

 

「…………ウチらだけ何も言われてなかったな?」

「…………これは一時間コースですね」

「いや流石に死んでまうんとちゃうかな……」

《というか葉隠さんがアリなら下着売り場で十分なのでは》

 

 

 

 

「―――オイ、この光らないミラーボールと化した峰田は何があった?」

「「そのエロブドウの事ならお気になさらず」」

 

「……何となく理解はしたが、今日は重要な連絡事項がある。一人だけ聞いてないなんてことになったら非合理だ。下ろしてやれ」

「「……チッ、運が良かったな」」

 

「……何であの二人が一番キレてんの? いやキレられんのは分かるけどよ」

「まあ、そこは、乙女心的なアレコレで」

 

 

 気を取り直した相澤先生の連絡事項とは、目前に迫る夏休み期間のことだった。

 普通の学校なら無邪気に休校期間と喜ぶところだけど、天下の雄英ヒーロー科ともなるとそうはいかないようで。

 

「夏休み林間合宿やるぞ」

 

「肝試そー!」

「花火」

「カレーだな」

「ふ、風呂……行水っ……湯浴み……っ!!」

「ちっ、復活したか」

《わぁお、何てバイタリティ》

 

 次の瞬間、例の如くシーンと黙らされた教室に相澤先生の言葉が響く。

 

「ただし、その前の期末テストで合格点に届かなかった者は……学校で補習地獄だ」

「「みんな、頑張ろうぜ!!」」

 

 

「テスト……補習……」

《……さあて、どうしましょうか、歩?》

 

 思い出すのは入学試験、とりわけ筆記試験の惨状。

 実はあんまりついて行けていない、日々の座学。

 

 きっと今回ばかりは力を貸してはくれないだろう『干渉』の笑い声が、無情に頭に響いていた。

 

 

「お茶子ちゃん……林間合宿、楽しんできてね」

「歩ちゃん、諦め入っとる!? え、何で!? 確か中間試験では―――あっ」

 

「え……あっ」

「あー……」

「む……」

「……ハッ」

 

 教室のあちこちで、察してくれた皆さんの反応が見える。

 ……幸いなのはそれをズルだとして非難するような眼差しではないことか。

 

「あ、あー、そっかあ、そういう……いやでも歩ちゃんであることに違いは無いんやし……」

「ええ、そこの後ろめたさは……少しありますけど、ただ懸かっているのが補習となると……」

「……大人しく補習を受けろって意見なわけだね、『干渉』さんは」

《命や人生が懸かってるわけでもないからねえ、今回はより明確に》

 

 ぼそぼそと声を潜めてくれるお茶子ちゃんとデクさん。

 これなら他に聞こえてるのは、()()をこちらに向けている耳郎さんだけだろう。

 

「でも歩ちゃんてそんなに、その……ダメなん?」

《本当にざっくりいくわねー》

「自己採点だと……多分、上鳴さんと同じぐらいじゃないかなあ、と」

「クラス最下位を争うレベルなのか……」

 

 視界の端に「えっ、マジで?」という顔で、上鳴さんとわたしを見比べる耳郎さんが見えた。

 一周回った笑みを浮かべる芦戸さんと一緒に「全く勉強してねー!」と頭を抱える彼を見遣り、それからまたわたしを見て、もう一度「マジで?」と口が動いた。

 

 

「私は歩ちゃんと……『干渉』さんとも一緒に合宿行きたいんやけどなあ」

《…………》

「……あっ! 今ちょっと揺らいでます! お茶子ちゃん、その方向でどんどん説得を―――」

「必死過ぎるよ、干河さん……」

 





 麗日さんのコスチュームの詳しい解説は単行本6巻の幕間で確認できます。
 その時点では脚部の機能は高所からの着地補助のみですが、256話(単行本26巻)にて踵部分にバーニアが追加されていることが確認できます。
 他に彼女がコスチュームを着ているシーン(インターン・B組対抗戦)では明確な描写は見当たらず、またそこを区切りにメットのデザインが変わっているため、原作ではそのタイミングで追加された機能なのかもしれません。
 本作では自身を浮かせて移動、の習得が早まった為にコスチューム改良依頼を出す時期も変化したということで。

 緑谷くんもフルカウルを使い始めた時期が原作より早いため練度マシマシ。
 なお、この授業の直後にOFAのオリジンおよびAFOについて聞かされています。
 歩ちゃんはOFAの名前を知っているだけ、歴代からもそれにまつわる因縁は聞かされていないと分かっている為、オールマイトも緑谷くんも巻き込むことを避けました。
 歴代と再び相談したいとも思ってますが、100万%巻き込むことになるので断念しています。
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