二次創作では原作以上に早く到着してワイプシの度肝を抜くという展開が多いですが、何らかの要因でクラス全体が底上げされているという描写があってこそ許される改変なので……
「―――やーーっと来たにゃん。とりあえずお昼は抜くまでもなかったねえ」
時刻は昼食どころか日没直前。
それぞれ体力も"個性"も使い切り、満身創痍のわたし達に掛けられたのはそんな一言。
「何が『三時間』ですか……」
「腹へった……死ぬ」
「三食必ず食べるようにとお母様に言い付けられていたのに……」
「この育ちの良さよ」
「八百万とはまた方向性の違うお嬢様感よな」
「あー……それはごめんね? 時間については私たちならって意味よ」
絶え間ない土魔獣の襲撃。慣れない山岳地帯および季節柄の暑さの下での長時間活動。
わたしを含めた何人かが木々の上から目的地を確認していたので、方向を見失う心配はなかったとはいえ、今までに経験のない過酷さを体験した。
「……でも歩ちゃん、案外元気やねえ」
「皆に比べると楽をさせてもらいましたから。"個性"も体力よりは頭を使うタイプですし」
相手が見た目はどうあれ『土』な以上、わたしの"個性"で個々の無力化は簡単だった。
これが突然目の前や背後に形成されることもある土魔獣に対して、安全地帯を作るのに有用だと判断され、わたしの役目は専ら集団中央で休憩の余地を確保することになる。
砂藤さんや上鳴さんのように消耗が激しい"個性"の持ち主は勿論のこと、切島さんや尾白さん、デクさんといったとにかく動く必要がある面々も暫く迎撃にあたるごとに休憩を取る必要があり。
その他の面々も始めから最後まで戦い続けるということは出来ず、多かれ少なかれ各員わたしの半径二メートルという安全地帯を利用することになった。
そのため皆わたしに倒れられるわけにはいかないと、負担を抑えられるよう守ってくれたのだ。
移動に関しても皆が木の根や泥に苦労する中、ひとり気楽な低空飛行。
……これでこの場で息を切らしていたら、そっちの方が申し訳なくなってしまう。
「それに幼い頃から鍛えら、鍛えてきたので……」
「……あ、そっかあ。私も走り込みとかしようかな、もうちょっと」
「私の土魔獣が思ったより簡単に攻略されちゃった。いいよ君ら……特にそこ四人」
土を操っていたというプロヒーローにデクさんを始めとした四人が想像以上だったと称賛され、ツバを付けられている(物理的に)《……何してるのかしら、アレ》間に、少しばかり許容重量をオーバーして青い顔をしているお茶子ちゃんの背中をさする。
触れるだけで土魔獣を実質撃破出来る彼女もまた交代しながら"個性"を使い、一度に消すことになる重量を抑えつつ戦っていたけれど、やはり目的地に辿り着いた今は限界ギリギリだった。
《使い方による消耗軽減にも限界はあるわ。これからは上限を伸ばす方向を考えないとね》
「これからは"個性"の上限を伸ばしていきましょう。わたしも散々……やらされてきましたから」
「そうなんや……うん、そん時はまた相談させてな」
「―――緑谷くん! おのれ従甥!! 何故緑谷くんの陰嚢を!!」
「「《えっ》」」
飯田さんの声に驚いて振り返ってみれば、明らかに疲労とは別の要因でのたうつデクさんの姿。
……それにしても、「いんのう?」「いんのうって……」と目配せをしたところで、一瞬遅れてお茶子ちゃんの頬が真っ赤に染まった。……多分、わたしも。
《あらまあ、緑谷さんの緑谷さんが》
「で、ででデクくん大丈夫!?」
「デクさん大丈夫ですか!?」
「やめてやってくれ! 今、女性陣が近付くのは駄目だ!」
「緑谷ぁ! しっかりしろ、傷は浅いぞ!」
「茶番はいい。バスから荷物降ろせ。部屋に荷物を運んだら食堂にて夕食。その後、入浴で就寝だ。本格的なスタートは明日からだ。さァ早くしろ」
その後、一部始終を見ていた飯田さんに夕食の傍ら聞いたところ、デクさんはプロヒーロー達に同行していた少年について尋ね、あの場にいたヒーローの一人『マンダレイ』の従甥、洸太くんであるとの答えをもらい。
これから一週間関わるのだからと、挨拶に手を差し出したところを、その……やられたそうな。
そのとき吐き捨てていった言葉から察するに、ヒーローというもの自体に否定的な感覚を持っているように見受けられたとのこと。
その途端に溢された、《まあ真面な精神で目指す職じゃないものね》という呟きに微妙な相槌を打ったわたしを、お茶子ちゃんやデクさんは何事か察したらしい表情で見つめてくれていた。
二人は『干渉』がわたしを止めはしなくとも、ヒーローを目指すことに難色を示していることは知っている。……あれ、デクさんにも話したっけ? 《体育祭の時よ》……そっかあ。
その洸太くんという少年が『彼女』のような意図で言っているかはともかく、あの年齢の子供にしては珍しいなと、その時はそんなことを話し合った。
「……入浴って、温泉やったんやねえ」
「この辺り一帯所有地って言ってましたよね? 温泉付きの拠点ですか……」
夕食の後で通されたのは七人どころか十数人入っても余裕がありそうな露天風呂。
喜び勇んで飛び込んでいく芦戸さんや葉隠さん《お湯が体の形に凹んで……凄いわ》……の背中を見送りつつ、のんびりと服を脱いで湯船に向かう。
少し熱めの湯に身体を沈めて改めて周りを見れば、見慣れたクラスメイト達の見慣れない裸身が自然と視界に入った。
「…………こうして見ると耳郎さんも結構
「えっ……い、いや、そういう干河だってそこまで気にする、こと……」
今までさも
しっかりと丸みを帯びた
「……耳郎さん? 何で今、目を背けたんですか?」
「あ、いや、別に深い意味は……」
《人と話すときに背中向けちゃダメよー? あ、前向いてたのね》
「……ああ、背中と胸の見分けがつかなかったと? じゃあ後ろ向きましょうか?」
「え、ちょ、誰もそこまで言ってないって!?」
《そこまで》
「そこまで? それってちょっとは思ってたってことですよね?」
「うっわやばい面倒くさい!? ……どうしよう急に中学の頃の友達に謝りたくなってきた」
……何ですお茶子ちゃん? え、八百万さん? 良いんですアレもう同じ人類枠じゃないので。
「……解せませんわ」
「まあヤオモモのは、ね。次元が違うというか……うわぁ、浮いてる」
「このサイズになるとほんまに浮くんやなあ」
「透ちゃんもひょっとして浮いてないかしら? 透明で分かりにくいけれど」
《あら本当ね。服のシルエットじゃ分かりにくいけど水の中なら……》
「え?」
「わわっ! 梅雨ちゃんがそんなこと言うからこっち見たじゃん!」
「バーサーカーかよ。ほんと落ち着けってば」
お茶子ちゃんや耳郎さんに宥められて―――偶に『干渉』に煽られながら―――猛ってばかりも勿体ないと、温泉を堪能することに努めて集中する。
……八百万さんは例外と置くとしても、みんな発育が良過ぎると思うんです。
「……食生活、じゃないですよねえ?」
「あ、あー……せやなあ」
「そこ言うとずっと良い物食べてるはずだもんね」
「……ねえ、歩ちゃん。私、思ったことは何でも言っちゃうの。お茶子ちゃんから聞いたのだけど歩ちゃんって"個性"も身体も小さい頃からしっかり鍛えてきたのよね?」
……鍛えたというより、鍛えさせられたのだけど。否定する要素はないので頷く。
「あくまで俗説だけど……幼い内から身体を鍛え過ぎると成長が阻害されるという説が―――」
「っ!? 『干っ……』、ちくしょう!!」
「干河がどんどんぶっ壊れてく!?」
「梅雨ちゃーん!」
「けろぉ……ごめんなさい」
「「あっ……ああー……」」
「お二方とも諦めないでくださいまし!?」
「宥められるのはそこ二人だけだってばぁ!」
初めて知った新事実に思わず『彼女』を呼びそうになって、苛立ち紛れに水面を叩く。
事の次第を察したお茶子ちゃんと耳郎さんの生暖かい視線が背中に痛かった。
「―――峰田くん、やめたまえ! 君がしている事は己も女性陣も貶める恥ずべき行為だ!」
「「「…………」」」
暖かかった温泉の空気が、いつかのようにスンっと冷めた。
仕切りの向こうから聞こえてきた飯田さんの声で、何が起こっているかは大体推測出来る。
「壁とは越える為にある!! "Plus Ultra"!!」
「速っ!! 校訓を穢すんじゃないよ!!」
けれど今回はわたし達が反応するよりも早く事は推移しているらしい。
壁の向こう側であの
「え、ど、どうしよう!」
「出てきたところを叩き落せば……」
「それだと一瞬でも見られちゃうよ!」
「今すぐ仕切りを『創れ』ば……」
(……ね、ねえ、『干渉』?)
《くっっっだらないけど仕方ないわね。まあ彼の体重なら……》
俄かに大慌てで対策を考える皆の姿に、直前の怒りも忘れて呼び掛ける。
『彼女』もまたかつてない程の呆れの感情を噴き出させつつも、驚くほど早く腰を上げた。
わたしの"個性"射程、及び制御力では壁の向こうのアレをここから対象化することは出来ない。
けれど『彼女』なら話は別だ。非常に小柄なアレ相手なら行動阻害も可能だろうし。
そうしてわたしの身体から感覚が消えるか否かというその瞬間、仕切りの壁上に小さな人影。
一瞬、まさかと身体を強張らせたけれど、そこに居たのは危惧した相手とは別の少年。
「ヒーロー以前にヒトのあれこれから学び直せ」
「くそガキィイイィイ!!?」
登ってきたアレの突撃を阻み、男子風呂側へと突き落としたのは洸太くん。
おそらくはこうなると見越した相澤先生辺りが手配していたのだろう。
汚い断末魔をあげて落下―――『彼女』が一応【減速】させていた。要らなくない?―――する様子を壁越しに感じ取った一同に安堵の空気が広がる。
「やっぱり峰田ちゃんサイテーね」
「ありがと洸太くーん!」
「わっ……、あ……」
「「「あっ」」」
けれど功労者たる洸太くんは一度こちらを見たかと思うと、何やら動揺して後退ってしまった。
更にここからでは分からないけれど、その足元はあまり安定した足場ではなかったらしく、突き落としたアレを追うように男子風呂側へと落下してしまう。
「おっと【減速】。そちらの男子諸君、誰か―――」
「だ、大丈夫! 受け止めた!」
「その声、緑谷さんね? 彼の様子は?」
「…………失神しちゃってる。僕、マンダレイの所に運んでくるよ!」
『干渉』が落下速度を緩めた洸太くんを、壁の向こうでデクさんがキャッチしたらしい。
聞こえてくる足音と『彼女』から伝わる"個性"の感覚から、洸太くんを抱えたデクさんが浴場を真っ直ぐに離れていく様が感じ取れた。
「それじゃ後は彼に任せて、もう少し温泉を楽しみましょうか」
「……出た、干河の本気モード」
「切り換えの温度差で風邪ひきそうだよー……」
「けろ……温泉の中なのにね」
「……直前の話は完全にどっか行ったね。というかアレって……」
「そういうことなんやろね。その、あっちはそういうの気にせえへんみたいやから……」
「マジか……とことん真逆なんだなあ」
(あ、あのお……)
《何か?》
(……いえ、何でもないです)
その後、温泉に浸かっている間、『干渉』は身体を返してくれなかった。
……入浴の感覚はわたしにもあるから良いんですけどね?
あくまで俗説です。やみくもに負荷を掛けて成長軟骨まで影響が及ぶと、身長が伸びづらくなる可能性があるとは言われていますが、女性的な発育にまで影響するかどうかは……
さらっと終わらせて翌日まで飛ばすつもりだったのに何でこんなに文字数増えたんだろう。