おしゃべりな"個性"   作:非単一三角形

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 "個性"伸ばし訓練のそれぞれの内容については単行本幕間で詳しく説明されています。
 飯田くんや耳郎さんのようにコマ内には映っていない面々も含めて。



C3-10 林間合宿・二日目

 

 ―――林間合宿二日目、AM5:30。

 

 誰も彼もが寝ぼけ眼な中、相澤先生が取り出したのは忘れもしない入学初日の"個性"把握テストに使われたソフトボール。

 それを爆豪さんへと投げ渡し、入学直後からどれだけ記録が伸びているか見せてみろとのこと。

 

「んじゃ、よっこら……くたばれ!!」

(《くたばれ!?》)

 

 相変わらず物騒な掛け声と爆破により、山景色へと吸い込まれていったボールが刻んだ記録は、以前の記録を越えること僅か数メートル。

 予想を裏切られ呆然とするわたし達に、こうなると分かっていたらしい相澤先生の説明は続く。

 

 入学から約三か月、これまで成長してきたのはあくまで精神面、技術面、そして体力面。

 今しがた目の当たりにした通り、"個性"そのものはそこまで成長していない。故に―――

 

「今日から君らの"個性"を伸ばす。死ぬ程キツイがくれぐれも……死なないように」

 

 

 

 

「―――煌めく眼でロックオン!」

「猫の手、手助けやって来る!」

「どこからともなくやって来る……」

「キュートにキャットにスティンガー!」

 

「「「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!!(フルver.)」」」」

 

 

《……そういえば四名一チームと言ってたわね。緑谷さんが》

(残りの二人も濃い……別方向に)

 

 前日に見せてくれた口上の完全版と共に現れた、二人加えて四人のプロヒーロー。

 猫の手や耳等を模した装飾は共通しているけれど、四人揃うと何というか……違和感が凄い。

 

 ヒーロー名『ラグドール』、"個性"『サーチ』。

 

「この目で見た人の情報、100人まで丸わかり! 居場所も弱点も!」

 

 

 ヒーロー名『ピクシーボブ』、"個性"『土流』。

 

「私の"個性"で各々の鍛錬に見合う場を形成!」

 

 

 ヒーロー名『マンダレイ』、"個性"『テレパス』。

 

「そして私の"個性"で一度に複数の人間へアドバイス」

 

 

 ヒーロー名『虎』。

 

「そこを我が殴る蹴るの暴行よ……!」

 

 

《いや、色々おかしい》

「一人だけ異色過ぎません!? ジャンルといい性別といい!」

 

 妙齢の女性三人組の中に一人混じった筋骨隆々の男性。当然の如く猫耳猫尻尾完備。

 発言の危なさまで含め、堂々と四人組として加わっている姿が逆に怖い。

 

「あ、虎さんは元女性だよ」

「「「《マジで!?》」」」

 

 安定のデクさん情報にわたし達が驚いている間に、プロヒーロー達は粛々と準備を進めていく。

 ドラム缶、大量のお菓子、大型バッテリーに巨大ハムスターボール……え、何ですかコレ?

 

「許容上限のある発動型は上限の底上げ。異形型・その他複合型は"個性"に由来する器官・部位の更なる鍛錬を行う。これらはその為の小道具だ。個々人が具体的に何をするかは順次説明する」

「ちなみに単純な増強型は、我の元で全身の筋繊維がブチブチに千切れるまでひたすら鍛錬だ!」

 

「……デクさん、頑張ってくださいね」

「……あっ!」

《その『あ、そっか、僕か!』みたいな反応……まだ"増強系"と言われてピンと来ないのね》

「俺らの中だと……後、砂藤もか?」

「いや俺の場合糖分がねえと……あっ、大量のお菓子……」

「"個性"伸ばし……そういうことかあ」

 

 

 当人も察した通り、糖分を必要とする砂藤さんに加え、脂肪を消費していたらしい八百万さんに大量のお菓子を食べながらの"個性"使用を。

 上鳴さんには巨大バッテリーを用いて長時間の通電を行うことで、耐えられる電力の向上を。

 爆豪さんにはドラム缶に沸かした湯で両手を熱し、掌の汗腺を拡げた状態での爆破―――という調子で、一人ずつ相澤先生とラグドールさんから鍛錬内容を指示されていく。

 

 そうして迎えたお茶子ちゃんの順番、用意されたのはさっき見掛けた、中に人間が丸ごと入れるタイプのハムスターボール。

 

「……あの、何でハムスターボール?」

「麗日。お前の場合は酔った状態での"個性"使用を繰り返すことで、三半規管の強化とその感覚に慣らして限界重量の増加を試みる」

 

「…………それで何故にハムスターボール?」

「"個性"と無関係に酔った状態にする為だ。いいからはよ入れ」

 

「酔った状態……あっ…………いえす、さー」

「よし、入ったな。……お願いします、ピクシーボブ」

「オーケー! 舌噛まないようにね、ウララカキティ!」

 

 一瞬、ボールのビニル越しにお茶子ちゃんの色の無い視線がわたしに向いたのが見えて。

 どうするべきか悩んだわたしは結局、他に思い付くものもなく親指を立てた。

 

「いやそこでサムズアップはオカシ―――きゃああああッ!?」

「お茶子ちゃーん!?」

《もうちょっと他に方法は……一番手っ取り早いといえばそうかあ》

 

 『土流』に突き上げられたハムスターボールが天高く空を舞う。

 そのまま形成された坂道を勢いよく転がり落ちる……かと思えば、転がる先が再び盛り上がり、さらなる回転時間と距離を確保。世にも恐ろしい無限機関が実にコンパクトに構築されていた。

 

「……さて次、干河」

「お茶子ちゃ―――あ、はい」

《まあ、突っ込んでも無駄よね》

 

 お茶子ちゃんの悲鳴を背景に、呼ばれて前に出たわたしをラグドールさんの『視線』が射貫く。

 ……相澤先生もそうですが、目に関する"個性"に見つめられると何となく落ち着きませんね。

 

「うーん……やっぱりこの子の"個性"、フルスペックだとほぼ弱点が無いにゃん。肉弾戦の力押しに関してはどうしても相性が出るし、近接戦もこの齢この体格としては及第点にゃし……」

「……となるとやはり『全力』を出した際のリスク低減、許容上限の増加だな」

 

 どうやら"個性"『サーチ』には『彼女』に身を委ねたときの性能(スペック)が見えているらしい。

 確かにわたしにとって一番分かりやすい目標は、『干渉』自身が使うソレに追いつくことだ。

 現状ではわたしの身の丈に合わないせいで使用後に反動を受ける形になっているけれど、鍛錬を続ければいつかはわたしにも同じことが無反動で出来るようになるはず。

 ……あれ? それって、つまり―――

 

「ひたすら限界ギリギリまで『全力』を使え。それにより許容量増加と通常時の性能向上を図る」

「ですよねー……」

《成程成程……さぁて、合宿中何回胃をひっくり返すことになるかしら?》

 

 "個性"の『全力』使用について、他に影響を出さない事や、あまり集団から離れ過ぎないようにといった諸注意を受けている間、『彼女』は上機嫌にわたしを酷使する計画を練っていた。

 ……他のクラスメイトのようなサポートは無いのでしょうかと相澤先生に視線で尋ねたところ、「この山林の中なら"個性"対象には困らんだろう」と返されてしまった。確かにそうですけど。

 

「言っとくがあくまで限界近くまでだ。行動不能に陥るラインを見極めた上で、それを引き上げることが目的だからな」

《ちっ、イェッサー》

「……いえす、さー」

 

 付け加えられたそれは、わたしにというよりは見えない監督にでも向けたような一言で。

 何人かの納得と首を傾げる幾名かの視線を背に、気付けばわたしの身体は飛び立っていた。

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「―――さァ昨日言ったね、世話焼くのは今日だけ、って!」

「己で食う飯くらい己でつくれ! カレー!!」

 

「「「イエッサ……」」」

 

 

 あれからB組も加わって鍛錬を続け、気付けば日も傾き始めたPM4:00。

 テーブルの上にどっさり積まれたカレーの材料を前に、数十人分の覇気のない応答が揃う。

 

 

「―――さすが雄英、無駄がない!! 世界一旨いカレーを作ろう、皆!!」

「「「オ……オォー……」」」

 

 本人も疲労困憊の筈ながら、急に張り切りだした飯田さんに急き立てられる形で調理に入る。

 飯盒による炊飯、食材の下拵えと、三々五々に別れて行動する中で、わたしと同様に喉をさするお茶子ちゃんと目が合った。

 

「……大丈夫ですか、お茶子ちゃん?」

「歩ちゃんこそ……なんかデッカイ土魔獣作ってたん見えとったで?」

 

「折角の機会だから、と……ふふ、いつも通りだと思ったわたしが浅はかでした……」

 

 "個性"伸ばし自体は小さい頃から『干渉』に言われるままこなしてきたけれど、これだけ広さのある屋外でというのは『彼女』にとっても初めてのこと。

 ピクシーボブさんの土魔獣にでも影響を受けたのか、何やら造形に拘った大規模"個性"操作で、あっという間にわたしを限界付近まで追い詰めてくれた。

 

「あの時は氷の竜巻だったけど、もう少し拘っても良かったかしら……なんて言ってました」

「あー……体育祭の時やな。溢れ出るラスボス感」

《まあそれで消耗してたら世話無いし、やらなかったでしょうけどね。決勝ならともかく》

 

 そうして返される身体は前後不覚に陥る寸前も寸前。

 絶え間ない吐き気と頭痛に襲われながら、たった一個の小さな石を対象にしてのろのろと操作。

 回復してくればそれだけ操作対象(負荷)を増やして 限界状態の"個性"使用を続け、それでも十分余裕が戻ってきたなら再び『彼女』に身体を渡して即席瀕死状態に―――この繰り返しだった。

 

「今朝に比べれば限界が延びた実感はあるんですけどね……」

「喉がヒリヒリするわ……カレー食えるんかな、私」

「あんたら二人は限界が吐き気として来るタイプだもんね。まあ"増強系"連中や、ひたすら声出しさせられてた口田あたりも似たような感じだけどさ」

 

「そういう耳郎さんは……うわ、耳……」

「ああ、うん。ひたすら耳たぶ……ジャック部分を打ち付けて鍛えてた。もう痛くて痛くて……」

「……それって効果は出てるん?」

 

「それが……何かだんだん音質が良くなってきた」

「「《何で?》」」

 

 

 

 

「干河ー! 料理漫画みたいにこう、食材を空に浮かせてスパパパって出来ない?」

「……前者はともかく固定出来ない空中でどうやって切るんですか」

《優雅に鍋に放り込むのが関の山ね》

 

 

「爆豪、爆発で火ィつけれね?」

「つけれるわクソが!」

「ええ……!?」

《何故そこで悪態》

(そして着火はするんですね)

 

 

「轟ー! こっちも火ィちょーだい」

「皆さん! 人の手を煩わせてばかりでは火の起こし方も学べませんよ」

《……言ってることは間違ってないのだけど……》

(……着火器具を『創る』のは、どうなんでしょう?)

 





 よくラグドールの"個性"に緑谷くんがどう映っていたのか、というのが話題になりますが、それ以前に彼女は一度ぐらいオールマイトを『視る』機会があったはずですよね。
 あんな"個性"を持ってヒーローになった以上、No.1ヒーローの"個性"が秘密にされている理由その他諸々、少なくとも彼女がプロデビューをする頃には知らされていたと考える方が自然です。

 単純な"個性"の性能だけでなく居場所や弱点まで丸わかりと言うからには、『OFA』についてもかなりのところまで知っていたと見て良いでしょう。
 具体的には『譲渡する』『力を培う』『八代目』、一度視れば100人分キープ出来るようなのでこの時点では『活動可能時間』などもでしょうか。持久戦に弱いというのは明確に弱点ですし。

 おそらく緑谷くん(後継者)についても合宿の話が決定した時点で根津校長あたりが根回ししていたはず。
 そんな彼にツバ付け(物理)するピクシーボブを、内心「とんでもねえことするにゃん……」という目で見ていたとしたら面白くないですか?
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