おしゃべりな"個性"   作:非単一三角形

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 ハイ、二人組作ってー、を奇数でやるトラウマを回避するために赤点回避者を増やしました。
 ……嘘です。



C3-11 肝試し

 

 林間合宿三日目―――の夜。

 前日と大きくは変わらない一日(地獄)を過ごした一同にはしかし、前日とは異なって生気を溢れさせた顔を浮かべている者が幾人か。

 

 その要因は日中に伝えられた行事予定、クラス対抗の『肝試し』。

 苦難の後には楽しいこと。ザ、アメとムチ……その予告に目を輝かせる者もいれば、逆に意気が下がっている者もこれまた何名か。

 

 

「その前に大変心苦しいが、補習連中は……これから俺と補習授業だ」

 

「「「ウソだろ!!?」」」

 

 

 その言葉に死刑宣告も斯くやとばかりに絶望に満ちた顔で叫ぶ補習組。

 抵抗の間もなく無慈悲にお馴染み捕縛布で簀巻きにされた面々が引きずられていく。

 

「……『干渉』さんの言った通りやったなあ」

「ええ、歩の尻を蹴飛ばして勉強させた甲斐があったわ」

 

「…………えっ、『干渉』さん……っ!?」

Hi(ハァイ)、お茶子さん。こうして直接話すのは暫く振り……でもないか」

 

 咄嗟に息を潜めた麗日に、にこやかに顔の高さで手を振る、干河歩に宿りし"個性"『干渉』。

 補習組の嘆きがまだ響く中、"個性"由来の聴覚によりそのやり取りに気付いた耳郎もまた驚きに染まった顔で振り返った。

 

「な、何でまた急に……」

「何故だと思う? ヒントは『肝試し』」

 

「……答えやん!」

「……え、ちょっと待って何それズルくない!?」

 

 目を剥く麗日、何やら憤慨した様子の耳郎。

 集まってきた二人に声を潜めつつ『彼女』は説明する。

 日中、その行事予定を聞いた時からあまり乗り気ではなかった歩に対し、これに関しては自分が肩代わりしても一向に構わないと申し出たのだと。

 

「まあ、こういうお遊びにまで硬いことを言うつもりはないからね。こればっかりは楽しめる方が楽しんだらいいのよ」

「そっかあ……何と言うか……何て言ったらええねんやろ?」

「なにそれずるい……」

 

 時に世話を焼かれ、時に厳しく躾けられ……形容しがたい友人達の関係に首を傾げる麗日。

 一方、目の前に迫る行事に半ば以上本気で忌避感を抱えていた耳郎は、冗談抜きに妬心を露わにした後―――徐に自身の耳に目を向けた。

 

「ねえ…………『イヤホンジャック』?」

「イヤそれは無理やと思うで!?」

「耳郎さん、追い詰められ過ぎじゃない!?」

 

「そこのキティ達、ルール説明するよー?」

 

 

 据わった目で自らの耳を見つめる耳郎が二人掛かりで宥められる一幕を経て、やっと落ち着いたA組生徒16人に対し、肝試しの細かなルールが提示される。

 

 森の中に作られた一周の所要時間約15分のルートを進み、その中央に用意された名札を持ってルートの終着点であるこの出発地点へと帰還すること。

 A組生徒はくじ引きで二人一組を作り、3分置きに出発。

 その道中には既にB組生徒が脅かす側先攻として待機済み。

 脅かす側の注意として、直接接触禁止。"個性"を使った脅かしネタを披露すること。

 

「―――創意工夫でより多くの人数を失禁させたクラスが勝者だ!」

 

「いや失禁はどうかと思うわ」

「やめてください汚い……」

 

 

 その後、各々の引いたくじの結果により作られた八つの二人組。

 ある意味では組み合わせの妙と言うべきか、ペア相手に不満を持った者は実に多かったらしく。

 

「おい尻尾(尾白)、代われ……!」

 

 浅からぬ敵愾心を抱く相手()と組むことになった爆豪を皮切りに。

 

「干河ぁ、オイラと代わってくれよ!」

「下心を表に出し過ぎなのよ……あなたを八百万さんに近付ける女子が居るわけないでしょう」

 

「……そこで自分がトレード対象なのは怒らないんだ?」

「ああ……まあ、あっちは……いや何でもない」

 

 男子生徒(尾白)とペアになった峰田が淡い期待を抱いて交渉を始め。

 

「俺は何なの……」

 

 自身とペア相手それぞれがトレード対象になりかけた尾白が居た堪れなさに襲われ。

 

「……緑谷ちゃんと代わりましょうか?」

「へっ!? い、いいイヤ別に私そんなデクくんと一緒に行きたいなんて……っ」

 

「あら、私が切島ちゃんと一緒に行きたいだけかもしれないわよ。けろけろ」

「っ! ……つ、梅雨ちゃーん!」

 

 

「くじの結果に物言いは……イヤ、むしろここは応じる方が漢なのか……?」

「切島くん?」

 

 混沌としかけた場は、くじ引きの結果は絶対、というピクシーボブの一声で収束した。

 決して青春の気配を感じた彼女が妬心から斬り捨てたわけではない。多分、きっと、おそらく。

 

 

 

 

 ―――9分後。

 時折木々の間から漏れ聞こえてくる耳郎の悲鳴に彩られながら出発した、干河・八百万ペア。

 

「……本当の本当に苦手だったのね、耳郎さん」

「……こちらまで身構えてしまいますわね」

 

 面食らった様子は見せつつも、緩まない足取りで進む『干渉』を追う形になる八百万。

 暫しの無言の中、言葉を探すように視線を彷徨わせていた彼女の耳に声が届く。

 

 

「……先日の、私の父親の話かしら?」

「え……は、ハイっ! すみません、あの時はあのような場で……」

 

「先に話題に出したのも許可したのもこちらよ。……耳郎さんにはちょっと気の毒だったけど」

 

 八百万が喉奥に滞らせていた話題を言い当て、『干渉』は気にするなとばかりに微笑む。

 ……続けて届いた渦中の人物の悲鳴が後押しになり、八百万もまた少なからず相好を崩した。

 

「私自身は本当に気にしていないわ。それに実のところ、一緒に過ごした時間が短過ぎて喪失感も何もない、というのが本音なのよね」

「そう、なのですか?」

 

「ええ、当時の事も殆ど覚えていないもの。眠り姿しか見たことないと言っても過言ではないわ」

「…………」

 

 その言葉に八百万は再び思い悩む。

 当人が苦にしていないことは事実のようだが、それはそれで放置して良いものなのだろうかと。

 

 彼女は両親より、干河家の現状についてある程度聞き及んでいる。

 目の前の友人の母親が、政財界に太い繋がりを持つ現当主の末孫であること。

 祖父にあたる現当主には溺愛されているが、他の親戚とは折り合いが悪いと言われていること。

 既に老齢な現当主の身に何かあれば、十年以上も眠り続ける男に執着している母親がどのような扱いになるのだろうかと、関わりの薄い他家からすら危ぶまれて―――

 

 

「ん」

 

「「…………」」

 

 

 音も無く、地面からぬるりと湧いた生首。

 はたと立ち止まった二人はそれを見遣り、一瞬悩んだ後で声を掛ける。

 

「B組の……小大さん、だったかしら」

「……ん」

 

「何を……ええと、脅かしに、ですわよね」

「ん……」

 

 泥のように『柔らかく』なった地面から顔を出した女子生徒が言葉少なに肯定する。

 暫しの沈黙の後、彼女は心なしか肩を落とした様子で再び地面に潜っていった。

 

「……干河さんは足取りに迷いがありませんのね。もしかして、"個性"で探知を?」

「やろうと思えばある程度は出来るわよ? けれど肝試しでお化け役の居所を察知してしまうのも風情がないと思わない?」

 

 八百万は知らないことだが、今の『彼女』の"個性"射程は普段の十倍以上。

 対象物が視界外にあれど問題無く対象化可能な『彼女』であれば、木々の間に潜む操作出来ない生物―――B組生徒を察知することは容易い。

 

「……そういうものでしょうか」

「そういうものだと思うわよ、多分」

 

 なおこの二人、世間一般で言うところの『お化け屋敷』に立ち入った経験は無い。

 自覚の有無はさておき、上流階級の家に生まれ育った彼女達にそのような機会は無かったのだ。

 

「……さっきの小大さん、悪いことをしてしまったのでしょうか」

「怖がらなきゃいけないってことはないんじゃないかしら。よく分からないけど」

 

 つまり事ここに至って、ツッコミ不在であった。

 

 

 

 

「―――泡瀬さん、鉄哲さん、塩崎さん。お疲れ様です」

「ああ、お疲れ……じゃねえよ! リアクションとってくれよ!」

「耳郎さんは凄い良い悲鳴上げてくれたのにな……」

「いや何というか……その影響でハードルが無駄に上がってるのよね……」

「……罪深いです」

 

 互いにとっての不幸は、3分先を行くペアの反応が良過ぎたことであった。

 これにより脅かす側は少なからず自信をつけ、次の相手側の反応を無意識に期待する。

 脅かされる側はその悲鳴に、次に襲い来る脅かし方への期待をこれまた無意識に高める。

 

 結果、お互いがお互いに勝手に設けたハードルを越えられず、微妙な空気が作り出される。

 先を行く彼女も全力で被害者であることを鑑みると、まさに勝者不在の戦いであった。

 ……否、その耳郎のペアである葉隠だけが行事を余すことなく楽しんでいるのかもしれない。

 

「……次のペアからはきっと良い反応が得られますわ」

「私達が無反応で通り過ぎてしまった分、今度は逆に、ね?」

「だと良いけどよぉ……よし、切り替えるぞ! 泡瀬、塩崎!」

 

 己を奮起させ、クラスメイト二人を連れて木々の間へと戻っていく鉄哲。

 『干渉』は八百万と目を合わせ、手持無沙汰に後ろ髪を掻き上げながらその背中を見送った。

 

「……いっそのこと探知して反応する準備をしながら進もうかしら」

「それもそれで何かが違うような気がいたしますけど……あら? そういえば次の耳郎さんの声が聞こえてきませんわね」

 

「目印にするのも悪いけれど確かに……というより何か変な―――っ!?」

「干河さん?」

 

 不自然に途切れた友人の言葉に、ただならぬ気配を感じて八百万が振り返る。

 返ってきたのは果たして、いつか本物の(ヴィラン)を相手に見せた鋭く怜悧な眼差し。

 

 

「半径っ……五メートル、【掌握(スフィア)】!」

 

「っ、これは……!?」

 

 

 八百万の目に映ったのは、今まで知覚の外にあった薄く色付いた空気が押し退けられる様。

 付随した臭いを一度意識してしまえば、有毒ガスの一種であると知識に富んだ頭が弾き出す。

 

「八百万さん!」

「ガスマスクを『創り』ました! B組の皆さん! まだ近くにおられますね!?」

「うおっ!? な、何だ何だ!?」

 

 即座に八百万の腕から『創り』出された複数の簡易式ガスマスク。

 呼び掛けに気付き振り向いた鉄哲にそれらを押し付けながら、彼女は『干渉』と視線を交わす。

 

「マスクを作れる私がB組の居場所を知る皆さんと行動し、他のB組の方の元へ向かいます!」

「なら私は、推定このガスの中で倒れているだろうA組生徒の回収ね」

 

 ハッと息を呑んだ八百万の前で、薄く伸ばされていたガスが突如、分厚く渦を巻き始めた。

 まるで尾を踏まれたと気付いた大蛇が如きその様子に、遅れて把握したB組一同が目を見開く。

 

「これは……このガス自体が敵の"個性"……?」

「やたらと広げているようだからまさかと思ったけれど、やはり感知を兼ねていたようね」

 

「っ、安全圏を狭めたのはその為ですの?」

「ええ……下手に私を脅威と判断させると、先に行ったはずのクラスメイトが危険だから」

 

 直後、ガスの幕に前触れなく大穴が穿たれる。

 穴の前に佇んだ『干渉』の視線を受け、意を察した八百万が頷きを返す。

 

「……ご武運を」

「そちらこそ。……敵が一人とは限らないわよ?」

 

 再度息を呑んだ八百万に背を向け、彼女は自ら穿った穴へと身を投じるのだった。

 





 というわけで久し振りの三人称でした。
 なお歩ちゃんは寝ています。『干渉』さんも敢えて起こしません。
 一刻を争う状況で説明に時間取られるからね。仕方ないね。

 ところで原作において5人しかいない女性陣に対し女子二人のペアが二組出来ているんですが、ピクシーボブさん本当にくじに細工とかしてませんよね?
 肝試しなのに男女ペアを可能な限り少なくするとかアラサーのひg(ry
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