おしゃべりな"個性"   作:非単一三角形

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 Q. 切島くんも気付いてるの?
 A. 本作の麗日さんはそれぐらいわかりやすいのです。

 Q. 緑谷くんは?
 A. 彼はどこまでいってもクソナード(公式)ですので……



C3-12 合宿襲撃

 

「―――んっ、……んぅ……」

 

 彼女が重い瞼を開いたとき、その視界に飛び込んできたのはこの数日で見慣れた木々と夜空。

 

「……ここ、は?」

 

 朦朧とする意識に、ひどく気怠く重い手足。

 すぅ、と吸い込んだ空気が肺に貼りつくような感覚で、彼女は直前の記憶を思い出す。

 

(そう、だ……肝試しの途中、急に息苦しくなって……あ、葉隠、は……?)

 

 意識が落ちる寸前まで近くにいた友人の存在を思い出し、彼女はぐらつく視界を周囲に向ける。

 程なくして奇妙な形に膨らんだ学校指定のジャージ……自分と同様の姿勢で横たわる『透明』なクラスメイトの姿を確認した。

 

「……目を覚ましたのね、耳郎さん」

「干、河?」

 

 耳に届いたのは、別のクラスメイトの声。

 確か自分達の後ろ、3分後に出発した組に居たなと、耳郎は未だぼんやりとする頭で思い出す。

 

「……また、助けてもらっちゃった……のかな?」

「ええ……目が覚めて良かったわ。ただ―――」

 

 聞こえる声は歯切れが悪く、またどうにも距離があることに疑問が浮かぶ。

 感覚の鈍い腕で身体を起こし、声の方向に顔を向けたところで、彼女は初めて()()に気付いた。

 

 

「その顔……表彰台欠席した体育祭1位じゃないか」

「おまえ、死柄木の殺せリストには無かった顔だぜ! あったけどな!」

 

「出来ればもう少し遅く起きて欲しかったわ。言っても仕方ないけれどね」

 

 

 友人が二人の男―――推定、襲撃に現れた(ヴィラン)と対峙していたこと。

 そして彼らの口振りからして、自身の声によってたった今、発見されてしまったということに。

 

 

「氷に電気に光……放射系"個性"をことごとく反射、操作する"個性"だったな」

「マジかよ、荼毘お前相性悪くね!? 最高だな!」

「……大変ユニークなお仲間だことで」

 

「だろう? まだ縁は浅いが自慢の仲間さ」

「急に褒めんなよ気持ち悪いぜ! 最高かよ!」

 

 

 顔の半分から手首まで、焼け焦げた皮膚と奇妙な継ぎ目を晒す、荼毘と呼ばれた黒髪の男。

 全身タイツに奇妙な覆面、コミカルな仕草に奇矯な言葉遣いをするもう一人の男。

 理解不能さ由来の怖気を与えてくる敵達に、不敵な態度を崩さずに対峙する『彼女』を、耳郎は力の入らない四肢を震わせながら見つめていた。

 

「しかしヒーローの卵が敵を前に逃げ隠れ、か? オイオイ、情けないなあ」

「動けない仲間を背に、気付いてもいない敵に殴りかかるのは蛮勇ですらないわ」

 

「……へえ? それじゃ後ろに居ないお友達の命には目を瞑るのか?」

「……見敵必殺はヒーローの職務じゃない。何より『守る』為に『捨てて』いたら世話ないわよ」

 

 "個性"の予備動作であろう片手をかざす荼毘に、軽く身構えたまま返答する『干渉』。

 奇妙な沈黙はやがて、かざされた手の先に小さく灯った青い炎により破られる。

 

「見ての通り『炎』さ。山火事になればお前と傍のお友達はともかく……何人死ぬだろうな?」

「……お互い見なかったことに。そう願いたいわね」

 

「さすがはエリート校。お利口さんで結構だ。……行くぞ、トゥワイス」

「良いのか!? 良くねーよ! 見逃してやるぜ! 撤退だな!」

 

「お互いに()()()()()()()のさ。紳士協定ってヤツだ」

「成程な! どういうことだ!?」

 

 最後まで支離滅裂な言動を繰り返す男―――トゥワイスを引き連れて荼毘は歩き去っていく。

 その背が木々の向こうに消え、耳郎にすらその足音が聞こえなくなった頃、大きく息を吐く音を彼女の耳は捉えた。

 

「……ほし、『干渉』さん、ごめんっ」

「良いのよ。さっきも言ったけど意識が戻って何よりだわ。……状況の説明は必要?」

 

「……出来ればお願い」

「有毒ガスに気付く。ガスマスクを『創れる』八百万さんがB組の、ガスを退けられる私がA組の回収に動く。あなた達を見付けてガス地帯の外へ運搬。先の敵達に遭遇……こんなところかしら」

 

「うっわ端的ありがとう……でもあいつらの他にもまだ敵が居るってことか」

「マンダレイの『テレパス』で施設近くにも二人来てることが分かってるわ。さっき仲間に向けて大声で叫んでいた男も居たし、これで少なくとも六人ね」

 

「マジか……万全を期したハズじゃなかったの……っ!?」

 

 畳みかけるように知らされた凶報に、耳郎は堪らず頭を抱えガシガシと髪を掻く。

 その様子を一瞥した『干渉』は未だ昏睡する葉隠へと目を向け、その身体を浮かび上がらせた。

 

「……あれ、それって」

「丁度良く削った岩に乗せているのよ。市街地じゃなければコスチューム無しでもこういうことが出来る。……耳郎さんも辛いようなら運ぶけれど?」

 

「そっか……いや、ウチは大丈夫。ただ……」

「……耳郎さん?」

 

 ためらいながら耳郎が視線を向けるのは、先の敵が歩き去っていった木々の先。

 

「さっきのヤツの言葉……やけに簡単に引いてくれたことといい、何か不味いことが起きてるんじゃないの……?」

「……()()()()()()()()のリスクを嫌ったんでしょうね」

 

 半ば以上確信を含んだ耳郎の問いに、『干渉』は観念したように口を開く。

 しかし与えられた答えに耳郎は、決して浅くない後悔を抱くことになった。

 

「『テレパス』で周知された彼らの目的は爆豪さん。そして先刻の叫びは目標回収達成との連絡だった。先の二人が引いたのは、おそらく撤退の為に回収地点とやらへ向かう途中だったから」

「ッ、回収達成……それって……!?」

 

「……殺害が目的なら回収とは言わないわ。命に別状は無いはずよ」

「…………」

 

 辟易したように言い捨てた『干渉』に、耳郎は何事か考え込むように瞑目する。

 数瞬の逡巡の後で、彼女は力無く浮かぶ葉隠へと近付き、その身体を背負った。

 

「……行ってよ、『干渉』さん」

「っ、耳郎さん? 何を……」

 

「足手纏いのウチらさえ居なきゃ戦えたんでしょ? 葉隠はウチが何とかするから『干渉』さんは爆豪を助けに行ってやって!」

「それは……どうして私がそんな無謀なことを―――」

 

 

(たす)けに行きたいって顔、してたよ?」

「っ……!?」

 

 

 息を詰まらせ、口元を手で覆う『干渉』に、耳郎はこんなときにと自身を戒めつつ微かに笑う。

 敵と対峙する最中でさえ超然としていた表情が大きく歪んだその様は、ファーストコンタクトで軽く弄られた身として最上の意趣返しであった。

 

「ヒーローになんてなりたくない、なるもんかって言ってたけどさ。以前も、さっきも、ウチらを救けてくれたあんたの背中は間違いなくヒーローだったよ」

「…………心外、よ」

 

 背中を向け、顔も逸らして、やっとそれだけ返した、とばかりの呟きに耳郎の頬が再び緩む。

 互いにそれ以上の言葉は探さず、動き出そうとしたその瞬間。

 

 

『―――おおおおおお!?』

 

「「…………」」

 

 

 それぞれの視界の端を『何か』が高速で横切った。

 

「……今の、緑谷だった?」

「……ああ、彼ならこの状況、動かないわけないわね」

 

 クラスメイトである障子と、その手に掴まれた轟、そして緑谷。

 夜空をカッ飛んでいったソレを即座に識別出来たのは、それが二人が知る彼ならば、全くもって違和感の無い行動だったが故。

 

「……緑谷も救けてやって!」

「世話が焼けるわねえ、本当に!」

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「悪い癖だよ。マジックの基本でね。モノを見せびらかす時ってのは―――」

 

 草木の開かれた小さな広場に立っていたのは、荼毘やトゥワイスを含む四人の敵。

 その中でもシルクハットに仮面という道化師じみた風体の敵、Mr.コンプレスの"個性"は 人間を空間ごとビー玉サイズの玉に『圧縮』して持ち運べるというものだった。

 

 彼のコートのポケットから、推定クラスメイトの入った玉をすり取った障子は、轟、緑谷と共にその場を逃れんと走り出す。

 しかし、いつかの襲撃に続き同胞の回収に現れた"転移系個性"の持ち主、黒霧がその眼前に立ち足を止めさせる。

 たたらを踏んだ三人と、目標を取り返されたままだと食い下がる荼毘に向け、コンプレスは仮面を外し、これ見よがしに口の中を開いて見せた。

 

 そこにあったのは舌の上に乗せられた、彼の"個性"による玉が二つ。

 同時に障子の手にあった同じ玉が破裂し、中から玉の大きさを遥かに越える氷塊が飛び出す。

 騙されたことに気付いた三人が焦燥に身を焼かれながら振り向いた、その時だった。

 

見せたくないもの(トリック)がある時だ……ぜ?」

 

「……は?」

「えっ?」

「へ?」

 

 意気揚々と種明かしに興じていた敵の口から、二つの玉が音も無く宙を泳ぐ。

 誰もが止まった思考に視線だけでそれを追う中、広場に響いたのは静かな声。

 

「―――成程。つまりそれが本当の爆豪さんに常闇さんね」

「干河さんっ!!」

「彼女は……っ! こちらに来ていましたか!」

 

 ここに来ての思わぬ援軍に快哉を叫ぶ緑谷。

 いつかのように靄のような『ゲート』を散らされ歯噛みする黒霧。

 

「早く掴んで! 人間が入っているせいか"個性"の通りが悪いのよ!」

「「っ!」」

「体育祭1位の"操作系"……っ! 邪魔しやがって……俺のショウが台無しだ!」

 

 決して早くはない速度ながら、独りでに向かってくる二つの玉へと駆け出したのは轟と障子。

 コンプレスと荼毘もまた、それぞれ逃げていく玉に向かい走り出し手を伸ばす。

 緑谷も動き出そうとした瞬間、どこか重傷を負った部分に力を入れてしまったか、痛みに身体を痙攣させ膝をついた。

 

「オイオイ、紳士協定はどうしたァ!」

「敵の言う事を真面に取り合うとでも!?」

 

「なるほどそりゃ道理だ!」

「うおっ!? おいこら荼毘! 相性悪いんだから攻撃すんなっての!」

 

 走りながら荼毘が『干渉』へ向けて放った青い炎が、忽ち方向を変えて敵達へと降り注ぐ。

 悲鳴や悪態を吐きながら炎に対処する彼らを視界に入れつつ、浮かぶ玉へと轟が手を伸ばす。

 

「な……っ」

「哀しいなぁ、轟焦凍」

 

 しかし、青い炎を貫くように伸ばした腕で、先に玉を掴んだのは荼毘だった。

 目と鼻の先で僅かに手が届かなかった轟を煽るように憐れむ彼の背後に、一つの人影が現れる。

 

「黒霧……!」

「ありゃ? ワープゲートのあんたが何してんだ?」

「彼女にはゲートの生成を妨害されるので。直接触れなければ回収出来なくなるのです」

 

「つくづく厄介な生徒だな……Mr.(ミスター)、確認兼ねて解除しろ。そうすりゃもう引っ張られない。……もう一人は?」

「取られちまったよ……お前の炎のせいだぞ、荼毘!」

 

「……そりゃ悪かったよ」

 

 コンプレスと呼ばれた仮面の敵が忌々し気にパチンと指を鳴らす。

 その瞬間、障子の腕の中に常闇が、そして荼毘に首の裏を掴まれる形で爆豪が姿を現した。

 

「問題なし」

「かっちゃん!!」

 

 見るからに激痛が走っているだろう満身創痍な身体を引き摺り、壊れた手を伸ばす緑谷。

 靄を纏う黒霧の両手それぞれが、憤然と立つコンプレスと爆豪を捕える荼毘の背に伸ばされる。

 

「来んな、デク」

 

 敵達の身体と共に黒靄へと沈む僅かな時間、爆豪の発した言葉はその一言のみだった。

 





 『干渉』さんはマスタードくんとは戦いませんでした。人命救助最優先。
 ガス+拳銃に対して遠距離攻撃全反射とかイジメでしかないですが、一蹴出来る相性差と分かるのはあくまで原作読者視点ですので。
 意識不明の友人二人抱えて戦力不明の相手に挑めるわけがない。

 そんな訳で、原作通り拳藤さんと合流した鉄哲くんが倒しました。
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