おしゃべりな"個性"   作:非単一三角形

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 作者の趣味の一つにトランプタワーがあります。
 一組百枚オーバーのUNOを使って見上げるほどのタワーをよく作っています。
 しかし実のところ、最後の一段を立てる直前の状態が作者的には完成品なんです。
 そこまで立ててから崩すのが、一番気持ち良いんですよ。


 今回から新章開始です。



Chapter-4
C4-1 波及


 

「―――ねえ」

 

 小さな声が、重く響いた。

 

 雄英敷地内に建てられた1年A組用の寮、『ハイツアライアンス』。

 男女別に二分された寮の二階、男子棟。

 引退した元No.1ヒーローグッズに塗れたその部屋の中で。

 

「キミだけが、違う反応してた」

 

 一階に集まっていた一同の中から、その部屋主の手を引いて。

 誰にも追うことも、囃すことも許さない気迫を宿して。

 

「もしかしてって、顔しとった」

 

 彼女、麗日お茶子は、射殺すような瞳で問いかける。

 今も動揺に瞳を激しく揺らす少年、緑谷出久に向けて。

 

 

「歩ちゃんの休学。何か心当たりあるんやろ、デクくん?」

 

 

 

 

 『OFA(ワン・フォー・オール)』と『AFO(オール・フォー・ワン)』。

 紡がれてきた正義と、因縁深き巨悪。

 共通しているのはどちらも厳重に隠され、それにより社会の混乱が防がれてきたという事実。

 

「……おかしいやんか。電話もメールも、あれから全く通じひん」

 

 『AFO』は『OFA』に固執している。

 自身から生まれたそれへの執着か、自身に届き得るそれを疎んでか、それは分からない。

 

 彼の―――緑谷の抱いた懸念は、その執着の矛先。

 そしてただ一人、その"個性"の名と特異性を知っていたクラスメイトの、失踪に近い消失。

 

「相澤先生に聞いても、家庭の事情としか言うてくれへん」

 

 あの日、おそらく中継を見ていただろう彼女は知ってしまった。

 『平和の象徴』の真の姿と、受け継がれてきた"力"との関係を。

 

 その気付きが彼女達に何をもたらしたのか、それは彼には分からない。

 しかしそれでも言い様のない不安が、足元が瓦解する感覚が、彼女の休学を聞いたときから彼の頭を離れない。

 

「一番歩ちゃんの近くにおった私が、何も、なんも分からへんのに!」

 

 

 ―――そしてもう一人。

 出会った当初から彼に手を差し伸べ、明るく接してくれたクラスメイト。

 彼が長年抱えていた劣等感を拭い去り、新たな意味を授けてくれた相手。

 

 

「何を……キミは何を知ってるんよ! デクくん!?」

 

「ぼ、僕は……」

 

 

 うららかな瞳に激情を湛え。

 うららかな頬を憤りに引き締め。

 うららかな拳を彼の胸に打ち付けて。

 

 怒りと焦り、それに悲しみと恨みをない交ぜにした慟哭を突き付ける彼女に。

 

「何、も……っ」

 

 望む言葉を何一つ口に出来ない己を、彼は呪った。

 

 

 

 

「…………なんで」

 

 顔を伏せて、麗日は呟く。

 

「何で、そこまで……」

 

 緑谷の胸元を掴む手に一層力を籠め、肩を震わせて。

 

 

「何でそこまで、隠し事が下手っぴいなんさキミはぁ……」

「…………えっ」

 

 

 思わぬ方向からの罵倒に緑谷の表情が固まる。

 再び上がった麗日の顔は、怒りよりも泣き笑いに近かった。

 

「全部顔に書いてあるやん……むかついとったのに笑てまうわ……卑怯者ぉ」

「え、ご、ごめん?」

 

「ブフっ……!? 何でそこで謝るんさぁ!」

「ええぇ!? ど、どどどうしたら……」

 

 高校生になるまで女子との会話すら経験の無かった緑谷には些かハードルの高いやり取り。

 慌てふためく彼の姿に、麗日は今度こそ大声で笑いだした。

 

 

「……ねえ」

「っ!」

 

 繰り返されたのは最初の呼び掛け。

 同じ言葉ながらずっと柔らかなその声に、緑谷の顔が引き締まる。

 

「私は、歩ちゃんとこんな別れ方、イヤや」

「…………うん、僕も」

 

 先程までとは裏腹に、彼女の瞳を見つめ返して彼は答える。

 

「でも僕が知ってる事も、もしかしたらでしかない。だから―――」

 

 そう言って緑谷は、自身の携帯電話を手に取った。

 

 

「知っていそうな人に、聞いてみる!」

 

 

 

 

『―――ち、ちち違うぞ緑谷少年!? 干河少女の休学理由は決して……決して君が想像しているようなものでは……っ!』

 

 電話越しに響く、元No.1ヒーローの激しく狼狽滲む声。

 常の緑谷ならば、その必死過ぎる否定に引き下がっただろう。

 また相手があの担任教師(相澤)ならば、()()()()()()が通じるとも考えなかっただろう。

 

 しかし二人の友人を想う心と、何より罪悪感に突き動かされる今の彼には、他ならぬ師の動揺に付け込むという一手を選べた。……選べてしまった。

 

「干河さんは……僕の、僕達のせいで()()()に目を付けられてしまったんじゃないですか!?」

『……っ!? ち、違う……のだ。原因は我々では―――』

 

 そして彼らは、師弟揃って―――

 

 

「……我々()()ない?」

『…………あ』

 

 

 隠し事がド下手クソであった。

 

「……っ、や……っぱり! アイツが関係しているんですね!? 干河さんの事情に!」

『き、きき汚いぞ緑谷少年!? 君いつからそんな話術を弄するようになったんだい!?』

 

「干河さん……『干渉』さんに、他人を手玉に取る手腕を間近で色々と!」

『Shit! 純朴な緑谷少年に何してくれてるんだ彼女!』

 

「そんなことより答えてください! 干河さんは……巻き込まれたんじゃないんですか!?」

『グ……ヌゥ……』

 

 口からスラングが飛び出すほどの動揺の極致に追い込まれたオールマイトは、しかし愛弟子への意地を見せるべく踏みとどまる。

 自身の中で幾つもの天秤が音を立てて崩れる様を感じながら、それでも相手は未だ守られるべき子供なのだと己に言い聞かせて。

 

『…………心配することは、ない。彼女は……干河少女は無事だよ。それに今の状況は……彼女の意志でもあるんだ』

「……っ」

 

 師にそう言われてしまえば、緑谷にそれ以上食い下がることは出来なかった。

 そもそもが無礼を働いた横紙破り。二歩目を踏み込める気力が彼には無い。

 

 

「…………その『アイツ』って、『オール・フォー・ワン』のこと?」

 

 

 しかしこの場には、その一歩を埋め得る生徒(子供)がもう一人。

 

『その、声……麗日少女、かい?』

「え……何で、その……名前……っ」

「デクくんが言うたんやん。オール・フォー・ワンは何が目的なんだ、ってショッピングモールで死柄木に」

 

 電話を挟み呆然とする師弟の前で、麗日の推理は続く。

 

「あの時そう聞いたってことは死柄木の後ろに居る奴ってことやんな? 神野区の中継で映った、あのとんでもない(ヴィラン)の事なん? でもあいつは逮捕されたやん。何なん? 歩ちゃんは―――」

 

 ギリ、と。

 噛み締めた唇から血を滴らせて、彼女は問いかける。

 

「何に、巻き込まれたん? 何に巻き込んだん? 教えてよ……デクくん。オールマイト」

 

 

 

 

「―――君達は、まだ子供だ。……ヒーローを志す卵に過ぎない」

 

「不安には思うだろうが、大人に任せて欲しい……と、言っても納得は出来ないんだろう?」

 

 

「…………『ヒーロー仮免試験』。迫っているのは分かっているね?」

 

「合格率は例年で五割。君達より一年、あるいは二年多く経験を積んだ者達を合わせて、五割だ」

 

「いかな雄英が国内最高峰のヒーロー輩出校と言えど、一年生での仮免取得は非常に狭き門だ」

 

 

「…………だからこそ、約束しよう」

 

「君達が見事に仮免取得を達成出来たならば……この件に関して『子供だから』という理由で排斥するのはやめる、とね」

 

 

「……あ、ああ、だがしかし、だ!」

 

「あくまで仮、であってヒーロー免許ではないんだ。分かるね?」

 

「そもそもプロヒーローであっても望む事件に関われるかと言えばそうじゃないんだ」

 

「だから……そうだ、こうしよう!」

 

 

「一つ。彼女について君達の質問に一つだけ、包み隠さずに答える、これでどうかな?」

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「…………戻ってこないねえ、緑谷と麗日」

「おい、誰か様子見に行けよ」

「イヤ、行くならお前行けよ」

 

「無茶言うなよ……絶対地雷踏むじゃねえか」

「じゃあ他人に行かせようとするなよ……」

 

「ああー……ほら、峰田お前行けよ。ひょっとしたら濡れ場かも―――」

「「「殺すよ?」」」

 

「…………ハイ、すんませんっした」

「巻き込むなよ……オイラだって空気ぐらい読むっての」

 

 

「うー……でも気になる……! 耳郎ー、聞こえてたりしない?」

「……ノーコメント」

 

「え、それ聞こえてるんじゃ―――」

「ノーコメント」

 

「……うう、こっちも怖いよぉ……」

「……無理もありませんわ」

 

 

「……ッ、じゃ、じゃあこれだけ教えてくれ、耳郎! ……俺達の、せいか?」

「切島……!」

「…………イヤ、それは違う……と思う」

 

「そ……そっか……」

「……うん」

 

 

「……ハッ! 何のことはねえ。これがあの腹黒女の選択ってだけじゃねえか」

「爆豪お前、こんな時まで……!」

「腹黒呼ばわりやめたげなよー!」

 

「腹黒は腹黒だ。いよいよ青髪に愛想尽かしたんだろ」

「…………んぅ?」

「何言ってんだお前……?」

 

 

「……! 爆豪、あんた……」

「……気付かねえこいつらが鈍過ぎんだよ」

 





 ※この後、摘出したはずの胃を関係者一同にハチの巣にされる模様。

 これが作者の送る至高のデク茶です。デク茶いいよねデク茶。


 次回、ちょっと時間を遡って干河家家庭訪問です。
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