おしゃべりな"個性"   作:非単一三角形

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 重ねてになりますが初期の草案通りです。
 この展開は一話目投稿前から決まっていました。



C4-3 家庭訪問・後編

 

「……どういう意味だ?」

 

 雄英の落ち度を突いたかと思えば、提示された理由は当人にこそ問題があるというもの。

 流石に意表を突かれた相澤に対し、『干渉』は淡々と告げる。

 

「入学試験、筆記実技共に合格点を出したのは私よ」

「……っ」

 

「その他にも、主要な判断を行ってきたのは私。体育祭後半などは相澤先生もお察しでしょう?」

「……だろうとは思ったが」

 

「合宿前の期末試験、特に筆記で急激に成績を落としていたでしょう? あれは初めて私が一切の手出しをしなかった結果よ」

「…………成程な」

「し、しかしそれは……」

 

 ―――()()()()()()()()として除籍させる。

 真の狙いはこちらかと、相澤は既に何度目かも怪しい戦慄を覚える。

 成程その方向で理論武装されれば、自分には特に反論が難しい……と彼が考えていた一方で。

 

「待ってくれほし……『干渉』君! 例えそうだとして"個性"とはその人間の身体機能の一つだ! つまり君も干河少女も合わせて一人の生徒であることに変わりはない! 何より彼女がヒーローに相応しい人間となるべく日々邁進していることを、他ならぬ君こそが一番良く知っているはずじゃないのかい!?」

「成績不振、向上心はあれどそれだけの無能、そんな歩にこれ以上雄英の末席を汚させたくない、これが雄英に通い続けることを反対する理由―――」

 

 言葉を尽くし追い縋ろうとするオールマイトを、彼女は一顧だにせず。

 淡々と、ただ淡々と彼女の口は結論を紡ぐ。

 

 

「その更に一割よ」

 

 

「……へっ?」

「何……っ?」

 

 飛び込んできた最後の一言に、己が耳を疑う二人の教師。

 聞くからに重大な、そして秘められた大事と思われた告解が、尚も理由の十に一つなのかと。

 

「一割は雄英の問題。もう一割は歩の問題。残りの八割に歩は関係しているけど……酌量の余地はあるのよね。残念なことに」

「……つまりようやく本題だと?」

 

「ふふ、ごめんなさい、合理性好きのイレイザーヘッド」

「……今は教師だと言ってるだろ」

 

 目を据わらせる相澤を茶化しながら、彼女は二つ目の包みを開けた。

 何が飛び出すのかと構えた教師達が見たのは、一つ目とほぼ変わらない見た目の携帯電話。

 

「まあまあ、相澤君……それで、これはなんだい?」

「歩の母親、干河心美の私用端末」

 

「……何でそんなものを君が?」

「借りてきたの。この話し合いに必要だから……ほらこれが合宿初日の夜に歩が送ったメールよ」

「……成程、これだけ情報があれば合宿場所の特定は難しくないな」

 

 送られていた文面から分かるのは、出発地点と移動時間、大体の方角に山岳地帯という情報。

 これらの要件を満たす場所は日本全国にもそう多くはない、と相澤は深く嘆息する。

 

「実は合宿の前、歩は場所が分かり次第連絡するように母親に頼まれていたのよ」

「あー……親御さんの気持ちを考えれば仕方のないことだね」

「……想定内ではあった。保護者から第三者へ広がらない限りは問題ない、とな」

 

 まさしく最初に指摘された懸念そのもの。

 むしろこれがあったからこそ初手に追及してきたのだと、相澤は納得する。

 

 

「そして通話記録を見るとね。届いてから十数分後、誰かから()()()()()()()()()()()の」

 

 

「…………オイ、だとしたら真夜中だぞ?」

「な……まさかッ!?」

 

 しかし続いた言葉は彼らからこれまでとは全く異なる驚愕を引き出した。

 椅子を蹴倒さんばかりに立ち上がった二人の前で、彼女は淀みない操作で携帯に標準搭載された通話録音アプリを起動する。

 

 カチ、と。

 何ということはない押下音が、記録された()()を再生した。

 

 

『―――やあ、合宿先は判明したかな?』

『ええ。娘が伝えてきてくれましたわ、叔父様』

 

 

「……ッ!!?」

 

 聞き違えるはずがなかった。

 他ならぬ『平和の象徴』オールマイトが。

 

 

「…………『オール・フォー・ワン』」

「な……っ!?」

 

 

 追い続け、追い詰め、己の全てを賭けて地に沈めた最凶最悪の敵の声を。

 

 

「……ね?」

 

 俄かに漂白された教師達の思考に、小さな呟きを落とし。

 見開かれた二対の瞳を見上げて、彼女はうっそりと笑う。

 

 

「雄英に置いてなどおけないでしょう? イレイザーヘッド」

「……!」

 

 

 彼ら教師陣が危惧し、生徒にまで疑念の目を向けさせた内通者。

 その正体こそ、1年A組出席番号17番『干河歩』―――自覚無き協力者だと。

 

 

「あらそれは悪しゅ―――」

「っ、『干渉』君!?」

 

 コスチュームではなくスーツ姿であったが故に捕縛布の用意は無く。

 やむを得ず相澤が選んだのは、"個性"『抹消』および直接取り押さえての無力化。

 しかし"個性"を使用し、髪を逆立てた彼がテーブルを乗り越えるより先に、彼女の身体はまるで糸が切れたかように倒れ伏した。

 

「相澤君、何を!?」

「……片方が内通者で片方が告発者、そんなものが事実とは限らない。念の為『消した』上で尋問するつもりでしたが……こうなるのか」

 

 相澤が取り押さえた身体には既に力は無い。

 それもそのはず、『干渉』が意識を顕在化させていたのも"個性"によるものだ。

 "個性"発動を無効化する『抹消』を受けてしまっては昏倒するのも必定である。

 彼女が倒れる間際に言おうとした『悪手』の意味を遅れて理解し、彼は意識の無い生徒の身体を見下ろしながらガリガリと頭を掻いた。

 

「……事実ならば……いや、どちらにせよ彼女の母親は奴と繋がっていた……」

「そちらについてもコイツが何かしらの対処をしたんでしょうが……いや、まさか……」

 

 相澤が目を向けたのは、彼女が包みと共に用意し、テーブルに残ったままの紙束。

 『干河歩』を当人の衣類を利用し拘束した彼は、一番上が白紙になっているそれを取り上げた。

 

「…………ああ、お前はそういうやつだったな」

「相澤君?」

 

 めくり上げた紙の下を見た後で、相澤はまた深く息を吐く。

 そこにあった最初の一文を、彼はオールマイトに見えるように広げた。

 

 

 "こちらには私が喋れなくなったときの為に続きを書いています。"

 "便利な個性には違いありませんが、以後気を付けてくださいな、イレイザーヘッド。"

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「―――至急、医療関係者を招く必要があるな」

 

 託されたメモに導かれ、相澤が向かった先は干河家地下の一室。

 辿り着いたその場所で、目に入ってきた景色に彼は小さく呟いた。

 

 それほど広くはない真っ白な部屋に佇む一つのベッド。

 その背後に、周囲に、所狭しと並ぶ生命維持用の機材。

 それらから伸びる無数の管に繋がれた、骨と皮にも近い一人の男性。

 

「……この男が干河増太。アイツらの父親、か」

 

 横たわるその顔を覗き込み、軽く意識確認を行って「()()()()か」と、相澤はまた息を吐く。

 つい先日見た捕縛された『脳無』が頭を過り、彼の思考を辟易が埋めていった。

 

 相澤には分かった。この男は最早何も見てはいない、と。

 何も聞いていない。

 何も感じていない。

 思考の一欠片すら、ぼんやりと開かれたこの瞳の奥には残っていないのだと。

 

 先程オールマイトが呟いた巨悪(AFO)の手により改造されたという遺体(脳無)もこれに近いが、こちらは彼を生き長らえさせようという『善意』で行われているという点において、よりタチが悪い。

 

「まァ、生理的反応の有無という差はあるが……『生きた死体』と『死んでいる生者』、どちらがマシかは分からんな」

 

 一部の『脳無』については既に死体であるとして、荼毘に付す案が持ち上がっているという。

 それに対しこちらはそのような案を俎上に乗せることすら出来ないだろう。

 何せ当人の意識が無いという一点を除けば紛れもなく生きているのだから。

 

 

『―――相澤君、聞こえるかい?』

「オールマイト……警備室からですか」

 

 

 地下室に届いたのは、屋敷内放送に乗せたオールマイトの声。

 託されたメモにより最初に指示された、要塞じみた警備システムの掌握の為に、警備室に残った彼の声が届いたことに対して相澤の表情に驚きは無い。

 屋敷にそうした機能が備えられている事は、警備室および地下室の様相を見ればメモが無くとも推測可能だったからだ。

 

『ああ、屋敷内の警備システムが彼女の記述通りの状況であることを確認したよ……彼女の母親の現状についてもね』

「ああ……」

 

 "―――さて歩の母親にしてヴィランの直接の幇助者である干河心美についてですが、どこかに軟禁、拘束し続けるのも面倒、もとい難しい為、丁度良くこの屋敷に存在する脱走防止機構の中に放り込んでおきました。内部で数ヶ月は余裕で生きられるようになっていますし、自身で手ずから作り上げた仕掛けを堪能しているのですから、本望でしょう。"

 

『……システムを作った業者に連絡しないと救助は不可能じゃないかな、コレ』

「正規の建築の結果なら良いんですが……そのときは警察と共に改めてお邪魔するとしましょう」

 

 幇助犯の受ける刑は正犯の刑の減軽が基本。

 酌量の余地による減軽を除けば、懲役および罰金は正犯の二分の一と規定されている。

 

 しかしこの場合の正犯とは、すなわち(ヴィラン)連合の真なる首魁AFO(オール・フォー・ワン)である。

 あまりの罪過に特例中の特例として刑の確定を待たずして最高最悪の監獄(タルタロス)へと送られた存在だ。

 

「幇助の理由がどう判断されるかは分かりませんが、減刑の余地が残されたとして此処より処遇が良くなることは無いでしょう。それを思えば多少私刑の色が強いが合理的と言っていい」

『ムゥ……そう、かもしれないね』

 

 機材越しに聞こえた苦渋の滲む唸りに、相澤は知れず目を伏せる。

 今となっては『元』が付くとは言え、『平和の象徴』の心痛の原因は明らかだった。

 

 何故なら『干渉』のメモには、あくまで彼女の視点からとはいえ書かれていたからだ。

 干河心美の真実、干河家の真実、そして―――彼の生徒が内通者と化した経緯の全てが。

 

(全てが全て事実とは限らん。これからの取り調べ次第だが……)

 

 大至急手配した警察の手で護送されていった生徒を想い、相澤は瞑目する。

 彼女の"個性"は四肢や視覚を抑えれば封じられるものではない。

 そうした"個性"の持ち主に取り調べを行うにはそれに応じた"個性"が必要であり……何の因果か彼の"個性"はまさにお誂え向けであった。

 

 警察上層部の打診を受けて、相澤がそのような尋問を行ったことも一度や二度ではない。

 彼の脳裏には既に、慣れたくもない取り調べ風景に座る教え子の姿が実像を作っていた。

 

(……滅入るな)

 

 懐に仕舞った携帯電話、その中に今もあるだろう一人の生徒の訴えが思い起こされる。

 相澤にとって、これほど重く感じる生徒からの信頼は、久しかった。

 





 タグ:青山不在。
 ならば代わりが必要ですよね。

 刑法62条1項「正犯を幇助した者は、従犯とする。」
 刑法63条「従犯の刑は、正犯の刑を減軽する。」
 原作の法律がこれらに即しているかは分かりませんが、本作ではそういう設定ということで。

 何気に原作ではこのときAFOが収監された場所をタルタロスとは明言していません。
 ただし後にタルタロスで登場したステインが収監されていますし、単に名称が決まってなかっただけかもしれませんね。


 ところでこうなるとC3-13話のメールに違和感はありませんか?
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