答え合わせ、その二。
作者的に本作において書きたかったシーントップ3の二つ目です。
オリ"個性"注意。
「―――いやあ……退屈ねえ」
真っ白な部屋の中に、そんな呟きがこぼれ落ちる。
「目を覚ませばまた即座に眠らされる。
白い机に椅子が二つ。
度々の懇談に使われたその部屋は、客人を招かずとも其処にある。
「あなたが眠っている間も、私にはこうして意識がある。本当に退屈でしょうがないわ」
『彼女』が席を立ち、対面席で震えている彼女へゆっくりと歩み寄る。
「感謝なさいよ? あなたが眠っている間も"個性"を使えると知れたら、看守の皆さんも射殺するしかなくなってしまう。退屈凌ぎの自殺は勘弁してあげてるんだから」
『彼女』の手が、彼女の肩に擦る様に乗せられる。
びくり、と一度身動ぎした彼女は、震えを止められないまま顔を向けた。
「私ったら本当に優しいなあ。そう思わない? ……ねえ、
「…………どうして?」
青髪の少女が、擦り硝子のような瞳で
金髪の少女は、悲喜の入り混じった瞳で
「どうして? どうして……どうして、と来るかあ」
爛々と輝く瞳を一度閉じ、大仰な手振りで『彼女』は問われたその一言を繰り返す。
時間にすれば僅かに数秒、歌うように呟いていた『彼女』は不意にぴたりと動きを止めた。
「あなたの、父親の"個性"。……何だったかしら?」
「お父様、の? 確か……『増力』、では?」
突然の質問に、彼女は遠い昔に母親から聞いた情報を思い起こす。
しかし同時にそのような質問をされることが不思議だった。
何故なら『彼女』は彼女の知覚した全てを知っているはずだからだ。
「そう、『増力』。対象に力を加える"個性"。腕力に"個性"で力を加えれば、そこらの"増強系"に迫る力を発揮出来る! まさしく"私"の【加速】の
「え…………何故、ですか?」
続いて出てきたのは、彼女の記憶には無い情報。
怯えは未だ残れど、純粋な興味を引かれて彼女は答えを求める。
「……力は増やせても、それに対する耐久は増やせなかった。ただの一度、拳を振るえば忽ち腕はぐしゃぐしゃに……あらあら、どこかで聞いたような話よね」
「……!」
「そんな"個性"でヒーローを目指そうとは思わない……彼はそんな『普通の』人間だったそうよ」
「…………」
頭に過ったのは緑髪のクラスメイトの顔。
入学直後の彼に何度となく戦慄を受けていた『彼女』の感情を、彼女は思い起こす。
「更にその"個性"が増加対象に出来たのは自身の内のみ……鍛えれば別だったかもしれないけど。自身に対してのみ"私"の制約がやけに緩いのは、その性質を受け継いだが故なのでしょうね」
「そう……なんだ」
思わぬ形で聞けた"個性"の考察に、彼女は一度恐怖を忘れて気を落ち着けた。
自分に欠けた知識を語る『彼女』の声音が、慣れ親しんだものであったことも大きい。
「―――さてさてさぁて! ここで問題よ、歩?」
「……っ!?」
そんな束の間の安堵は、常の様子から豹変した『彼女』によって打ち砕かれる。
「そんな彼が、あなたの父親が、永の眠りに就いたその時っ! 最後に見た光景は何だった!? あなたなら答えられるわよねえ! 答えられるだろぉ!? 答えろッ!」
「え、あ、ぅ……っ!?」
そう詰められて、なじられて、彼女の意思とは別に記憶が掘り起こされる。
……四歳そこそこの時分、あのときの自分は、そう……喜んでいた。
「わ……わたしの、"個性"を見せ―――うあっ!!?」
その瞬間の彼女に理解出来た事実はたった二つ。
折れんばかりの力で頬を殴られ、自身の身体が床に転がったこと。もう一つは―――
「
ただの一度も見たことがない程に、『彼女』が激昂しているということのみ。
「あなたが彼に見せたその光景! 彼の目にいったいどう映ったのか!」
「……っ、……?」
彼女の記憶に浮かぶのは、父親が見せた最初で最後の微笑みだ。
ようやく"個性"を
だからこそ、彼女は分からない。
彼女には分からない。
目の前で怒り狂う『彼女』の激情が。
「あの日から遡ること五年前、彼は愛する女性と引き裂かれた。婿入りという名の拉致によって」
耳に聞こえた言葉を、自身に関係のある情報だと認識出来なかった。
「五年間、屋敷から逃れようと足掻いて、その度に警備は強化されていった」
どこか異国の歴史を聞く思いで、それを聞いていた。
「手首を切っても、舌を噛んでも、即座に手厚い治療が待っている。眠れば毎晩やってくる憎い女から、聞きたくもない『心』を『伝え』られる。遂には親類の命を盾に子供まで作らされた」
彼女の知る父親の、彼女が知る母親の姿には、程遠かったから。
「そして五年後……彼は
「屋敷から逃れた彼と彼女を迎えたのは、五年前に二人の間に宿っていた愛娘」
彼女が聞かされてきた『事実』とは、似ても似つかなかったから。
「喜びもそこそこに、海の向こうへ逃れんとしていた彼らの元へ……『魔王』が現れた」
彼女が生きてきた『世界』と、地続きになっているとは思えなかったから。
「……『妻』は殺され、愛娘は攫われ、自分は屋敷に連れ戻されて! そんな彼を迎えたのが!」
呆然と倒れたままだった彼女の首を、再び歩み寄った『彼女』が掴み上げる。
「―――愛娘の"
部屋の中に時計があったなら。
秒を刻む針が二周、三周するだけの時間、沈黙が部屋を満たした。
「……"私"が『増力』から受け継いだのだろう性質があと一つあるわ。さて、何だと思う?」
「…………」
徐に告げられた問いに、彼女の思考は動かない。
「今、私があなたにやっていること……『意思』、『意識』、あるいは『魂』の対象化、よっ」
「っ、……」
掴み上げた彼女の身体を、『彼女』は元の椅子へと叩きつけるように座らせて、手を離す。
そうして『彼女』は深く息を吐き、もう一度、今度は指揮でも取るように大仰に腕を振るった。
「っ、さぁて復習よ、歩? あなたの父親の"個性"『増力』! その欠点は何だった!?」
「…………」
「……そう! 力は増やせても丈夫にはならない! 増やせばそれだけ器が壊れる! もう流石に分かるわね!? 分かるでしょう!? 彼が最期に『力』を『増し』たのは! 壊した器は!?」
『彼女』に彼女の答えを待つ素振りなど無く。
意識の有無も分からぬほど項垂れた彼女に背を向け、『彼女』は高らかに声を上げ―――
「…………どうして?」
『彼女』が止まった。
振り返った。
見た。
彼女の擦り硝子のような―――
「…………ああ、あー……」
『彼女』は一言、呻き、顔を覆い、天を仰いで。
ゆるゆると伸ばした手を、彼女の顔へと触れさせる。
「……【減速】」
「っ、ぁ」
「【減速】、【減速】……【減速】【減速】【減速】【減速】【減速】【減速】【減速】【減速】【減速】【減速】【減速】【減速】【減速】【減速】【減速】【減速】【減速】【減速】【減速】【減速】【減速】【減速】【減速】【減速】【減速】【減速】―――」
やがて『彼女』の手が離され、その下から覗くようになった彼女の瞳は。
「……仇、とったよ…………お父さん、お母さん」
最早何も、何一つ、映してはいなかった。
ここまでの伏線的なヤツのコーナーその2。
・C2-1、C3-8:歩ちゃんが父親について話し始めると途端に台詞がなくなる『干渉』さん。
→ 口を開けば今話のようなブチギレを隠せなくなるのでひたすら耐えていました。
・C2-6冒頭:生まれ持った"個性"に対する心操くんの叫びを聞いてのやり取り。
→ 歩ちゃんの"個性"『干渉』への認識を再確認。これもまた一つの分水嶺でしたが……
・C3-13 :
合宿が
しかしC4-3時点で干河心美に襲撃幇助の自覚があったことは確実となりました。
となれば1通目、実家に戻ってくるよう言われたというのはどういうことだったのでしょうか?
結論から言えば、差出人干河歩のメールは全て『干渉』さんが書いたものです。
USJより続く心美さんへの情報送信→敵襲撃、の流れからその繋がりを確信した『干渉』さんは合宿地から戻り次第糾弾に向かっていました。
すなわち1通目、実家に戻るよう言われたということ自体が嘘です。
またC4-4での記述から、この時点で歩ちゃんの意識は封印済みだったことも判明します。
その証拠となるのが4通目。
「歩に代わって私よ」と始めに書いているにも関わらず、3通目に対する麗日さんの返信の中、すなわち歩ちゃんにあてた「また会いたい」の言葉に反応してしまっています。
歩ちゃんの振りをして3通目を書いたことがうっかり頭から抜けていた『干渉』さんでした。
では当の3通目は何故自分の言葉にしなかったのか。
これは「干河歩」の去就になるべく自然な「設定」を与える為でした。
娘の身を案じる母親、および前々から難色を示していた『干渉』から反対されて、ということにした上で「歩ちゃん」は雄英に通い続けることを希望していた、というのが麗日さんを一番傷付けない「設定」だろうと勘案。
ただしその内容を「代わって」書くのは不自然過ぎた為、歩ちゃんを演じることになりました。
最後に4通目追伸ですが……通常、追伸というのは本文を書き終えて送信する直前、どうしても書き加えたい内容が浮かんだ際に追記するものです。
つまりこの一言は「別れ」を書き終えた彼女がどうしても残したくなってしまった本音でした。
・今までの前書き、後書き、および皆様から頂いた感想への返信、その全ての中で私は一度として歩ちゃんを指して「オリ主」や「主人公」と表記したことはありません。
さて、そこで皆様に質問です。
本作のタイトルは?