おしゃべりな"個性"   作:非単一三角形

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※私事ですが、リアルが本格的にヤバくなってきました。そして書き溜めも残り僅かです。
 毎日更新が止まったらそういうことだということで。


 フラグ補完回。



C4-6 真実を追う者達

 

「―――おまえ、一番強ぇ人にレール敷いてもらって……敗けてんなよ」

 

 ヒーロー仮免試験、その日の夜。

 活動時間をとうに過ぎた寮外グラウンドで、()()は引き起こされた。

 

 鬱屈した感情の発露に決闘という手段を選んだ爆豪。

 そんな彼に呼びだされ、葛藤しつつもそれに応えた緑谷。

 

 爆豪は語った。

 "無個性"だったはずの幼馴染の突然の"個性"発現。

 常から異様なまでに彼を気にかけるオールマイト。

 そしてそのオールマイトの引退を決定付けたあのとき、全国へと届けられた『平和の象徴』のメッセージから、ただ一人別の意味を受け取っていた緑谷の姿。

 

「分かんねぇのは"個性"……だったが、神野に現れた(ヴィラン)のボスヤロー、あいつがいる」

 

「他人の"個性"をパクって使ったり与えたり……ンな"個性"が実在するなら、"個性"の移動ぐらい現実としてあってもおかしかねえ」

 

「……『平和の象徴』の"個性"、誰かに継がせる手段があるなら誰だってそーしようと思うわな」

 

「引退会見で、身体は限界だったっつってた……そんなオールマイトが街にやってきて、てめェが変わって、オールマイトは力を失った……」

 

 ―――これだけのヒントがあれば、気付かない方がおかしい。

 遠く後塵を拝していたはずの幼馴染(緑谷)こそが、自身の憧れたNo.1の選んだ後継者である、と。

 

 割り切れぬ想いに端を発した戦い(ケンカ)の行方が決したとき、現れたのはオールマイト。

 爆豪の胸の裡を、慟哭を、後悔を、『彼の憧れ』はただ静かに受け止めた。

 

「……分かった。こうなったからには爆豪少年にも納得いく説明が要る。それが筋だ」

 

 そうして、オールマイトは爆豪に語る。

 巨悪に立ち向かう為に受け継がれてきた"力"の存在。

 己の身体に迫っていた限界。

 そして彼の推測通りに、後継者を選んだということを。

 

 

「―――分かった。あんたとデクの事は、もういい。……結局、俺のやる事は変わんねえ」

 

 オールマイトの述懐を聞き終えた爆豪は、先程までより確かに晴れた顔でそう呟く。

 

「けど、もう一個……聞かなきゃなんねえことがあんだよ、デク」

「うえぇっ!? かっちゃん、何を……」

 

「自覚がねえのか……てめェが不可思議な反応してた瞬間がもう一つあったろうが」

「え……」

「……! 爆豪少年、それは―――」

 

 

「腹黒……()()()に何があった?」

 

 

 師弟揃って息を詰まらせ、視線でやり取りを繰り返す二人に胡乱な目を向ける爆豪。

 しばらくその様を見ていた彼は、やがて深く深く溜息を吐く。

 

「…………いや、いい。正直に言やぁ、俺はそこまで気になってるわけじゃねぇ」

「え……そ、そうなの!?」

 

「一番気にしてたヤツが今日には落ち着いてたからな。……麗日には何か教えたんだろ?」

「……本当に鋭いね君は」

 

 仮免試験の間、常に張り詰めた顔をしていた麗日が寮の自室へと戻ってから暫し。

 再び寮の一階へと姿を見せた彼女に、必要以上の気負いは既になかったと彼は言う。

 

「休学期間は社会情勢が落ち着くまで、だったか? ……戻ってくる可能性はあんのか?」

「…………」

 

「……ハッ! そうかよ」

「爆豪少年……」

 

 僅かな時間、言い淀んだオールマイトに、それで十分だとばかりに爆豪は背を向ける。

 そのまま歩き出して数歩、ふと立ち止まった彼が再び口を開いた。

 

「……あの女に伝言は出来るのか?」

「……っ、あ、ああ……不可能ではないね」

 

 

「なら言っとけ。……勝ち逃げは許さねぇ、ってな」

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 ―――緑谷出久は聞いた。「干河さんは今、どこに居るのか」と。

 得られた答えは、「例え私が知る限り最悪の(ヴィラン)でも、破ること叶わない守りの中だ」。

 

 ―――麗日お茶子は聞いた。「歩ちゃんは無事なのか」と。

 得られた答えは、「五体満足健康体さ。少々、退屈そうではあったがね」。

 

 

 それを聞いた彼女―――耳郎響香は思った。

 なるほど、二人が納得しそうな回答だ、と。

 

 

 彼女は知っている。

 『平和の象徴』オールマイトの為人を、一生徒の立場を逸脱しない範囲で。

 

 彼女は聞いていた。

 彼の人物が当初、慌てふためいて二人に弁解していた声を。

 

 

(……誰かが用意した答えだ。絶対)

 

 

 それが彼女の出した結論であり、見出した糸口。

 数日、数週間、考え、考え……警戒と呼ぶべき気構えが緩むだろうその時を待ち。

 

 

「―――緑谷と麗日が仮免取得で使った権利。ウチも使って良いですよね、オールマイト先生?」

 

 

 それは狙いに狙い澄ました、一刺し。

 

 

 

 

(だ…………だだだ大丈夫だ。あれから時間が経っているとはいえ、根津校長監修『聞かれそうな質問ならびに模範回答100選』はあれだけ頭に叩き込んだ! まだまだしっかり覚えているはずだろうオールマイトよ!)

 

 前々から特定の生徒への贔屓を繰り返し繰り返し釘差しされていたオールマイトに、承諾以外の返答が出来るはずもなく。

 かといって先の二人の時のように、新たに相談する時間を取れる道理もまた有り得ず。

 

(というか何でそんな『一世一代の決戦に挑む』みたいな覇気を背負ってるんだ耳郎少女よ!? ゆ、友人を想う心と思えば素晴らしいが……ソレ私に向けなくても良くない!? 私、キミに何かしちゃったかな!?)

 

 内心の動揺を隠す……隠しているつもりなのだろうその姿を前に、耳郎は一度息を吐く。

 第一段階、クリア―――そんな呟きを口の中だけで響かせ、再度身を奮い立たせた。

 

 

 彼女は知らない。

 答えを用意した者が何者であるのかを。

 

 ゆえにどこまでも高く想像するしかなかった。

 それを用意した人物の思慮深さ、世の中を知らぬ子供を納得させる賢しさを。

 

「……干河と、話をすることは出来ないわけじゃないんですよね?」

「あ、ああ……私にも簡単にとはいかないが、然るべき手続きを踏めば……」

 

「そうですか……なら、質問です」

 

 だから彼女は、考え続けた。

 想像の中にしかいない最強の頭脳を、出し抜き得る一手を。

 

 

「―――『干渉』さんとは、話せますか?」

 

 

 緑谷は、麗日は、言っていた。

 オールマイト"は"『彼女』の存在を知っている、と。

 

「……キミ……知って―――」

「干河について、包み隠さず答える。そうですよね?」

 

 

 故に耳郎は、賭けた。

 オールマイトに答えを用意した存在が、『彼女』を知っていたか否かに。

 

 果たして―――

 

 

「…………っ」

 

 

 『平和の象徴』の笑顔は、歪んだ。

 

 

 

 

「……『干渉』さんが話せへん状態……? なにそれ、どういうことなん……?」

「干河さんは無事なのに、『干渉』さんが……? それって、まさか……っ!」

 





 『ハイスペック』が如何にハイスペックだろうとも。

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