おしゃべりな"個性"   作:非単一三角形

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※プロットの修正にはどうにか目途が立ちました。
 ……が、書き溜めの大半が書き直しとなり、またリアル事情で暫く執筆の時間が取れそうにないため、次の更新まで相当な間をいただくことになるかもしれません。



C4-8 乙女の密談

 

「―――文化祭があります」

「「「ガッポォオォイ!!」」」 (※学校っぽいの略)

 

 1年A組の教室。寝袋を着込み普段以上に気怠げな相澤の一言に、盛り上がる一同。

 とはいえ(ヴィラン)隆盛のこの時期に行えるものなのか、と問う切島に答える形で説明は続く。

 

 体育祭がヒーロー科の晴れ舞台なら、文化祭は他科が主役。

 また現状、学校全体がヒーロー科主体で動いていることに不満を抱く者も少なくない。

 一方で、()()懸念にも対応すべく、例年と異なりごく一部の関係者を除いた学内だけの文化祭が予定されているという。

 

「―――決まりとして一クラス一つ出し物をせにゃならん。今日はそれを決めてもらう」

 

 その一言を最後に教室の隅で寝袋に包まってしまう相澤。

 後の場を任された飯田(委員長)八百万(副委員長)が壇上で意見を求めた瞬間、一同は怒涛の勢いで挙手を始めた。

 

 

「メイド喫茶にしようぜ!」

「ぬるいわ上鳴!! オッパ―――」

「おもち屋さん」

「腕相撲大会!!」

「ビックリハウス」

 

 

 ―――銘々勝手に案を出し続けた結果、時間一杯まで候補は絞られず。

 先日までインターンという形で現場に出ていた面々を補習組として引き連れた相澤による、明日朝まで決まらないようなら公開座学にするという宣言により、その場は締められるのだった。

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「―――はー……それでライブになったんや。……相変わらずやなぁ、爆豪くん」

「ね。言い方アレだけど……いつも本質突いてくれるよ、あいつ」

 

 数日後、休日午前。

 麗日の部屋で行われていたのは、補習組ゆえにその後のやり取りを聞けなかった部屋主と、話の流れから企画の中心に据えられた耳郎による情報交換、という名の雑談であった。

 

「チラっと話聞いたけど……インターンで保護した子を文化祭に連れてこられないか、緑谷が掛け合ってるんだって?」

「ん、だから私もそれ聞いて……休学中の歩ちゃんもどうかって聞いてみたんやけど……」

 

「……相澤先生は、なんて?」

「『親御さんに打診はしてみるが、期待はするな』……だって」

 

 答えると共に力無く机に突っ伏す麗日に、口をつぐみ『耳』同士を絡ませる耳郎。

 暫くの沈黙の後、徐に伸ばした『耳』を部屋の扉に触れさせた後で、耳郎が口を開く。

 

 

「……やっぱ、緑谷の予想通りになってるってことなのかな。干河と、『干渉』さん」

「……オール・フォー・ワン」

 

 小さく、小さく、声を潜め。

 部屋に近付く足音を察知出来る備えを整えた上で、二人は言葉を交わす。

 

「……でも、何度考えてもタイミングがおかしいんよ」

 

 そう言って麗日が取り出したのは、彼女の所持する携帯電話。

 そこに表示されるは、まさに()()()に行われた幾つものやり取り。

 

「私が歩ちゃんと最後に会ったのは、前日の夜。あの神野区の中継でアイツが逮捕された前後に、私は歩ちゃんと『干渉』さんの両方とメールでやり取りしとる」

「襲われる時間が無いはずなんだよね。そうなると……」

 

「でも、そうでもないと……耳郎ちゃんがオールマイトから引き出した情報に合わへんし……」

「……二匹目のドジョウは狙わせてもらえないよね、流石に」

 

 耳郎が一世一代の不意打ちで手に入れた情報は、三人にとって値千金には違いなく。

 しかしその後で、こうして答えるのは最後だと、しっかりと釘刺しをされてしまっていた。

 他のクラスメイトが事情を明かされて質問権を得ることを危惧したのだろう。

 相手の不義理を突いてうるさくゴネれば可能性はゼロではないだろうが、それは彼らにとってもあまり取りたい方針とは言えなかった。

 

「……結局今でも、反応は無し?」

「うん……電話も、メールも……どんだけ送っても、うんともすんともあらへんよ」

 

 梨のつぶて。八方塞がり。

 無力感に苛まれる麗日は、再び机に頬を乗せて項垂れる。

 その様子に耳郎も「あー……」と口から覇気の無い唸りを漏らした。

 

 

「…………ウチも、やってもらっとけば良かったかな、【面会(ディグアウト)】」

「っ、耳郎ちゃん?」

 

 ガリガリと頭を掻きつつ、耳郎が選んだのは話題の転換。

 

「『イヤホンジャック』がどんな見た目でどんな性格なのか、麗日の『無重力(ゼログラビティ)』のこと聞いて、ちょい気になってきてさ」

「あー……うん、メッチャ可愛いかったで、私の"個性"」

 

 どうしようもない閉塞感の中に居た麗日も、友人の心遣いに乗る形で顔を上げた。

 耳郎もまた、努めて明るい話題にすべく自らの声に喜色を乗せる。

 

「だよね? 聞いた限りじゃ必ずしも持ち主に似てるってわけじゃないらしいし……そうだ、折角だしA組の皆の"個性"がどんな感じか想像してみない?」

「……ええねえ。ほんなら最初は……出席番号順で三奈ちゃん?」

 

「芦戸……『酸』。『酸』かあ……」

「……何か、ジトっとしたイメージあるね。三奈ちゃんに合わん……」

 

「いや、それもだけど意外とやばい溶解力だからなー……割と危険な女が出てきそう。地雷的な」

「ちょっと"異形系"入っとるとこもあるし、動物的要素もあったりして……」

 

 

「ああ、"異形系個性"はそうなんだっけ。……あれ、じゃあ梅雨ちゃんの場合……カエル?」

「カエルそのまま出てくるん? ……喋れるんかな、ソレ」

 

「そこはこう……梅雨ちゃん的なカエルが喋るんじゃない?」

「メルヘン!? ……何となくだけど声高そう」

 

 

「次はー……飯田かあ。『エンジン』もやっぱ四角四面だったりするのかな?」

「絶対そうやね。カッチカチやね。あとメガネしてそう」

 

「っ、いや要らないでしょメガネ……っ! やめてよ想像しちゃったじゃん……!」

「飯田くんと言えばメガネ。これは外されへんよ」

 

 

 勝手な想像に花を咲かせ、時に突飛な発想を出し合いながら笑う二人。

 そうして順繰りに挙げられていく名前が、遂に『彼』へと辿り着く。

 

「―――緑谷、は……確か受けたことあるんだよね。干河は『想像以上』って言ってたけど」

「あ……うん」

 

「……あれ、麗日ひょっとして……」

「……ちょっと強引に聞いてもた。歩ちゃんとデクくんの秘密やったらしいんやけど……」

 

 特異、という意味では極北にあると言っていい、彼の"個性"『OFA』。

 緑谷と干河、そしてオールマイトの間で秘されてきたその事実を、麗日は結果的に彼らの罪悪感に突け込む形で聞き出していた。

 

 既に爆豪という、オールマイトから秘密を明かした人物が居たことも要因の一つである。

 事ここに至って麗日へも打ち明けたい、という緑谷の意思を、強硬に阻む名分をオールマイトは持ち合わせていなかったのだ。

 

 流石にこれ以上の流出は避けてほしいと、爆豪同様に麗日も言い含められている。

 ゆえに彼女は耳郎に対してその詳細を語るわけにはいかなかったのだが―――

 

 

「…………やきもち?」

「んきゅうっ!?」

 

 心外、とも言い切れない場所を突かれた麗日の喉から愉快な悲鳴が漏れる。

 流石に理由としては違うのだが……親友と緑谷の間に存在するらしい秘密に心揺らされた日々があったことを、彼女自身も己に強く否定は出来なかったのだ。

 

「な、なにゃにゃにゃにをいきなりィ!?」

「いやもう自白してるようなもんじゃん……まさかとは思うけど、気付かれてないと思ってる?」

 

「え…………ちょ、ま……まさか、みんなそうやと思ってるん?」

「男子にまで確認は取ってないけど……まあ、見たとこ大半は?」

 

 それを聞いた瞬間、先刻とは異なる理由で勢い良く机に沈む麗日。

 それをこれまた違う理由で「あー……」と息を吐きつつ見守る耳郎。

 

「……というか別に誰を好きになったっていーじゃんさ。芦戸や葉隠じゃないけど、命短し恋せよ乙女、ってヤツでしょ」

「うー……で、でも、今はお互い大事な時期やから……邪魔になりたくないというか……」

 

「……ウチら(ヒーロー志望)がそんなん言ってたらいつまでも何も出来なくない? 別にヒーロー目指すからって青春捨てなきゃいけないわけじゃないでしょ」

「…………」

 

 黙り込んでしまった麗日に、耳郎は暫し考え込んだ後……やや遠い目になって話を続ける。

 

「あと、そうやって青春捨てた先がさ……その、ピクシーボブさんの()()なんじゃないかなって、こないだ話題になって危機感的なアレがちょっとさ……」

「…………おおう」

 

 青少年にツバ付け(物理)する妙齢の女性ヒーローを思い出し、麗日の頭がスンと冷える。

 ヒーローとしてはともかく、乙女として追いたい背中ではなかった。切に。

 

「……まぁ、そんなわけで基本的には見守る流れだからさ。あの二人みたく急かしはしないけど、後に続けと見せてくれた方が個人的にはありがたいかなって」

「んにゅう……!」

 

 再々度、真っ赤に染まった頬のまま机で顔を覆い隠す麗日。

 そんな級友に暖かい眼差しを向けていた耳郎だったが、ふと手を口元に、彼方へと目を向けた。

 

「……あれ? でも進展しないのってむしろ緑谷側の問題? ていうか何で気付かないのアイツ? 爆豪じゃないけど罵りたくなる気持ちも分かるんだけど?」

「えっ……じ、耳郎ちゃん?」

 

「傍から見てて何回『そうじゃないんだよ』って言いたくなったか……やっぱ芦戸達巻き込んであっちをどうにかしにかかる方が先決……?」

「ちょ、ちょおっ、デクくんに何する気なん!? やめてぇっ!?」

 

 

 年頃の乙女は三人寄らずとも姦しき。

 午後に予定した各々の練習時間まで、部屋の中からは華やかな声が響くのだった。

 





 ピクシーボブさんのアレは女性ヒーローの卵達に向けた「あなた達は、こうなるなよ!」という身体を張った激励だった説……ないか。
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