おしゃべりな"個性"   作:非単一三角形

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※頂いた感想への返信もゆっくり再開する予定ですが、展開の予想に関するような箇所については今後、一律で言及を避けることにいたします。


 かなり大きな改変入ります。



C4-10 託されたモノ

 

 ―――その日、緑谷出久は夢を見た。

 

 

 荒野のような場所に立ち尽くす自分。

 動かせるのは鼻から上と、右手のみ。

 それ以外の部分はまるで靄のようにおぼろげで、感覚はひどく鈍く。

 

 ふと気付いて振り向けば、隣には見覚えのある精悍な女性―――『OFA』七代目所有者の姿。

 もしやと思った彼はその先へと目を向けて。

 五代目、六代目、四代目―――入学間もないあの日、言葉を交わした先達の姿を目に映した。

 

(これは……OFAの……!)

 

 彼がそれを見るのは、三度目のこと。

 ある種の『裏技』による初めの邂逅に比べれば、二度目および今回の()()はひどく不安定で。

 けれど何らかの意図を持って訪れたと思しき機会に、彼は全力で意識を傾けた。

 

 

『何故抗うんだ? 僕と征こう。愚かで可愛い弟よ』

『間違っているからだ。許してはならないからだ。兄さんの全てを』

 

 

(初代、と……この声……! オール・フォー・ワン……っ)

 

 『OFA』が緑谷に見せたのは、その初代所有者の記憶。

 『AFO』が如何にして"力"を手にしたか、如何にして"支配"を広げてきたか。その軌跡。

 

 

『―――兄さん、知ってるか。悪者はな、必ず最後に敗けるんだ』

架空(ゆめ)は現実になった! 現実は定石通りにいかない』

 

 

 記憶の中の『初代』が、オール・フォー・ワンの手に頭を掴まれる。

 それは、その二人のどちらもがその存在に気付かなかった"個性"と、与えられた"個性"が交わる―――OFA誕生の瞬間。

 拒絶しようともがく『初代』に、緑谷が思わず手を伸ばしたところで、記憶は終わりを迎えた。

 

 

「……やあ、久し振りだね。九代目」

(……っ!?)

 

 記憶の像が消え、靄の中から現れたのは初代の姿。

 呆然と手を伸ばす緑谷へと、彼もまたゆっくりと歩み寄る。

 

「もう少し見せたかったけど……まだなんとか20%なんだね……彼女達の力を再び借りられたら、良かったんだけど……」

(彼女……干河、さん……!)

 

 初代の口から出された、今は状況の分からないクラスメイトの顔が緑谷の頭を過った。

 その思考を視線から察したのか、初代もまた痛ましげな表情で彼を見る。

 

「彼女達について八木君は、君達に秘するという選択をしたようだからね……僕達の中でも意見は分かれているけど、彼の気持ちを無下には出来ない。……すまないね、九代目」

(え……な、何で……!?)

 

「ああ……気になることは沢山あるだろうけど、あまり時間がないからね……今はそれよりも君に伝えなくちゃいけないことがあるんだ」

 

 靄に包まれていない両目を剥いた緑谷に、気遣わしげにしながらも初代は言葉を続ける。

 

「特異点はもう過ぎている……ただ、彼女達に一度()()()()まで導いてもらったお陰かな。この先のことに多少融通を利かせられそうなんだ」

(特異点? ……融通? 一体何の話を……っ)

 

 夢から覚めようとしているのか、薄れゆく世界にもどかしさを目に宿す現所有者(緑谷)

 そんな彼に向け、初代は一度表情を緩めた後で口を開く。

 

「……忘れないでくれ。君は一人じゃない」

(あ……歴代……!?)

 

 伸ばされた手の向こうに並ぶ、七つの人影。

 自分を見つめる八対の眼差しに、緑谷が目を大きく見開いたそのとき。

 

 

「…………まあ、それでもかなり苦労するだろうけど……頑張ってくれ、九代目」

(え―――)

 

 

 苦笑いで付け加えられた最後の言葉に、緑谷が問い返そうとした言葉は夢の中に消え―――

 

 

 

 

「…………え?」

 

 

 目を覚ました彼の視界には、見慣れた自室のベッドが映り。

 

 

「っ、痛!? ……はへ……?」

 

 

 背中と後頭部に走る鈍痛が、寝起きの思考を呼び覚ます。

 

「え、コレ……飛ん……えっ……?」

 

 そうして彼はようやく気付いた。

 自身の身体が、自室の()()()()()()()()()()という現状に。

 

 

「―――デクくん大丈夫!? さっきの音はいった、い……?」

 

「あ……」

 

 

 おそらくは彼が起きる直前、天井を半ばまで破壊する轟音が響いたのだろう。

 それに反応し、いち早く窓から駆け付けたらしい麗日が、部屋内の現状に硬直する。

 

「えっ……何コノ状況……?」

「そ、それが僕にも何が何だか……?」

 

 未だ混乱に思考を染めつつも、とにかく天井に生じたへこみから抜け出そうともがく緑谷。

 しかし彼がへこみの縁に手を掛け力を込めても、その身体はまるで宙にピン留めされたかの如く動かなかった。

 

「あ、あれ……出れない……っ!?」

「ええぇ!? デクくん、どうなってるのソレ……?」

 

 麗日もまた、状況は理解出来ないまでも手助けになろうと部屋内に入り、天井に貼り付けられた緑谷に手を伸ばす。

 掛け布団が跳ね飛ばされたベッドに上り、彼の片足に手を掛けたそのときだった。

 

 

「―――おい、どうした緑谷? 朝から何のお、と……」

 

「「あっ」」

 

 

 続いて部屋の様子を見に来たのは、緑谷の隣室である峰田。

 その目に映った光景は、天井にめり込む緑谷と、投げた瞬間のような姿勢でその足を掴む麗日。

 

「……んだよ、朝から痴話喧嘩かよ。……ケッ」

「「違うよ(ちゃうよ)!?」」

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「―――やはりソレはお師匠の"個性"『浮遊』に間違いない……! だが、一体何が……?」

「初代は、特異点を過ぎた、と言っていました。もしこれがそうなんだとしたら……」

 

 校舎内、仮眠室。

 以前から事ある毎に利用してきたその場所で、師弟は何度目かになる相談の場を設けていた。

 

 ―――OFA初代所有者の記憶。

 それ自体は八代目である自分も、そして七代目も同様の"面影"を見たことはあったらしい、とオールマイトは語った。

 その"面影"に声を掛けられたという現象は緑谷が初ということにはなるが、そうなる兆しがあるというのは他ならぬ歴代達から、とあるクラスメイトの力を借りることで既知となっている。

 

「……つまり将来的には歩ちゃんと『干渉』さんみたいになるはず……ってことやんね?」

「……プライベートもクソもねえな」

「そ、そこは流石に配慮してくれるんじゃないかな……?」

 

 これまで師弟二人だけで行われていたその場には、それぞれの経緯でOFAについて聞き及ぶことになった人間がもう二人。

 オールマイトが、緑谷が、それぞれ自責の念を大きな理由に秘密を明かし、以来その共有者となった爆豪と麗日の二名である。

 

「しかしお師匠の"個性"は自身の身体を宙に留め置くというものである筈……それが動けないほど固定されていたとなると……"個性"の出力が過剰になっていた……?」

「……今思えばそれとは別に身体に負担も掛かっている感覚もありました。多分ですけど今の僕が耐えられる20%ギリギリまで力が掛かっていたんじゃないかと……」

「そういえばカッチカチに強張っとったねえ……まあ、そのおかげで天井壊したのに怪我してへんかったんやろうけど」

 

 感触を思い出すように自身の手の平をさする麗日。

 一方で、話を聞きながら口元に手を当て考え込んでいた爆豪が、三人に向けて口を開く。

 

「……『この先』、『融通』……幾つかあるモンの中から選んだって口振りだな。今朝デクに発現したのがオールマイトの前のヤツの"個性"ってんなら、更に前の連中の"個性"もそのうち出るって意味じゃねえのか?」

「え」

「えぇ……!? 何それデクくんどうなるん……」

「む、ムゥ……確かにそういう意味にも……しかし何故緑谷少年の代になって急に……」

 

 

「オール・フォー・ワン。元々アイツから派生した"個性"なんだろ?」

 

 

 落とされたその一言に、混沌となりかけた場が静まり返る。

 

「"個性"の複数持ち。成程アイツと同じじゃねえか」

「……言いにくいことを……」

「…………」

「デクくん……」

 

 自身の腕を見つめ、物思いに沈む緑谷の横顔に、不安げに声を掛ける麗日。

 俄かに訪れた陰惨な空気に、爆豪の眦が吊り上がる。

 

「……ハッ! 由来が何でも得たモンは得たモンだろーが。第一腹黒達の介入で早まっただけで、元々そうなるハズだったんだろ。悩んでる暇があったら有効な使い方でも考えてろやっ!」

「うわぁ円滑、爆豪くん」

「ま、まあ爆豪少年の意見は尤もだ。その"力"はお師匠の……歴代の意思によるもの。ならば君の味方であることは疑いようが無いさ、緑谷少年!」

「あ……そ、そうですよね!」

 

 強引ながら懸念を振り払っていく爆豪に、感謝しつつも苦笑を止められない三人。

 コホン、と一つ咳払いをしたオールマイトが、以降の指針を決めるべく話を進める。

 

「私はお師匠より前の方々の"個性"を調べてみよう。どこまで辿れるかは分からないが……やれることはやっておかなければな。緑谷少年はこれまでの制御訓練に平行して"個性"の切り替えを……少なくとも皆の前で暴走させる心配がないように習熟しておく必要があるね」

「今回はたまったま誤魔化せた……いや、誤魔化せそうなのを中の連中が選んだんだろうが、出てくる"個性"によっちゃフォローのしようも無ぇだろうからな」

「だ、だよね……安定するまでは麗日さんに迷惑かけることになっちゃうけど……」

「気にせんでええよ。私がなるべくデクくんの近くにおるようにすればええだけ―――」

 

 笑顔でそう言いかけて、麗日は一瞬遅れてその言葉の意味に気付く。

 

 これから先、なるべく彼の―――緑谷出久の傍に居るように心掛ける。

 いや、何も変な意味ではない。……というより言われなくとも友人として普通に会話する機会はこれまでも多かったではないか。

 

 致命的なのは自分が居ない所で彼が突然『浮遊』してしまって、それを先に他のクラスメイトに見られてしまうことであって。

 それを防ぐ為には皆の視線が無い場所でも、なるべく彼の傍に居ておくべきであって。

 いやいや変な意味ではない。そこに変な意味は何も無いのだ。

 

 ただ、そう、他に人目がない状況というのは、つまり二人きりということでもあって。

 これから先、自然とそういう機会が増えるということであって。

 

 いやいやいや……いやいやいやいや―――

 

 

「―――そこで唐突にアオハル始めんなッ! うっとうしいんだよ、丸顔!!」

「か、かっちゃん、急に何を……!? だ、大丈夫、麗日さん? 顔赤いよ?」

「わひゃいっ!? い、いいいいや何でもあらへんよ!?」

 

「そんで、てめェの鈍感も大概にしやがれ! このクソナードがッ!」

「いやあ、香山君(ミッドナイト)じゃないが……青いなあ、十代……」

 





 C1-10の後書きでも触れましたが、原作におけるOFA歴代同士の会話が始まったのは三月下旬の決戦から四か月程前。すなわち文化祭直後の11月下旬(原作184話に記載あり)頃です。
 よって原作193話、今話冒頭のシーンはそれが始まった後だと推測できます。

 個人的に『黒鞭』が『超パワー』の延長として違和感を持たれつつも誤魔化せる展開をどうかと思っていたので少々大胆な改変をば。
 原作では緑谷くんの想いに呼応して対応する歴代の"個性"が発現、という形でしたが、原作よりOFAの成長が早まっているということで歴代側で発現のタイミングを調整出来た……という理屈をこねまわして「痴話喧嘩」の一言を引き出したかっただけの回です。仕方ないね。
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