おしゃべりな"個性"   作:非単一三角形

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 微妙に改変および独自解釈あり。
 またオリキャラの名前が出ます。



C4-11 残されたモノ

 

「―――考えなしに"個性"を持たせれば、それだけ思考能力に負荷が掛かる。適当な扱いでも機能する"個性"なら、最低限の命令を聞く程度の知能が残れば構わんのじゃがな」

 

「仮にも"王"に仕える"(しもべ)"としてそれではあまりにツマランじゃろう? 故に挑戦することにしたんじゃよ。高い戦闘力と思考力を両立した脳無……『ハイエンド』の製作にの」

 

「最初のアプローチは、戦闘志向の高い人間を素体とすること。まァ要するに多少知能が落ちても戦いに関する思考力だけなら残りそうな『人材』、ということじゃな」

 

「そこで素体の厳選に乗り出したわけじゃが……丁度手元に面白い『人材』があっての? 予定とは違ったが、そちらの『再利用』も兼ねて試してみることにしたんじゃよ」

 

 

「ところでのう……"個性"と体質の関係については―――おっと、言うまでもなかったの」

 

「"炎熱系個性"の持ち主ならば、熱に強い耐性を持った身体で生まれてくる。耐性の高さには……まあ、個人差があるわけじゃが」

 

「いやいや話したいのはお前さんのことじゃないわい。例えばそうじゃな……ウイングヒーロー ホークス。あの男の"個性"制御は最早芸術の域じゃよ」

 

「あれほどの量の羽根を同時操作……例えるなら大量に増やした指一本一本で精密作業をするようなもんじゃ。あんなモノ、少なくとも超常以前の人間の脳味噌では土台不可能」

 

「すなわちあの男の脳味噌は他とは比較にならん処理能力を持っとると推測出来るわけじゃが……仮にあやつから"個性"を奪ったとしよう。残ったホークスはさて、知能が落ちると思うかの?」

 

「……ああ、そうはならんとも。要するに統計として、"操作系個性"の持ち主からは良い脳味噌が手に入りやすい。これが言いたかったわけじゃな」

 

 

「さて話は変わるが……先生がオールマイトに深手を負わされ、自由に動かせる『手足』の調達が急務となったあの日から遡ること五年前、先生の元に少々面白い『依頼』が舞い込んだんじゃ」

 

「始めは"無個性"の娘に"個性"を与えて欲しい、というありふれた願いだったんじゃがな? いざ先生が向かってみれば、攫われた夫を取り返して欲しい、ときたもんじゃ」

 

「そんなもん警察かヒーローに頼めと思うじゃろ? だが事情を聞くに面白いことが分かっての」

 

「その夫というのが、厳重強固な警備システムに守られていたにも関わらず、一人の人間によって連れ出されたというんじゃ。如何なる"個性"がそれを成し得たのか、先生も興味津々じゃったよ」

 

 

「……まあ、それについてはそこそこの強"個性"を限界まで磨き抜いた結果ということに終わったんじゃがの。むしろワシらが驚かされたのは、その娘の"個性"だったんじゃ」

 

「長年"個性"の研究を行ってきたワシですら驚くほどに、()()()()()()()"操作系個性"じゃった。先生ですらコレを十全に扱うには脳味噌がもう一つ欲しい、と溢しとったよ」

 

「結局"個性"の方はワシも先生も持て余すということで要求通り依頼主の娘に渡したんじゃがの? ワシが注目したのは残った娘の方じゃよ。これほどの"個性"を持って生まれてきた脳味噌をただで捨てるのは余りにも惜しかった!」

 

「まだ年若かったゆえ、身体の成長を待つついでに『教育』を施せば何とかなるかと思うたが……如何せん元ヒーローの母親に『染まって』おっての。さっきも言った通りのんびり研究もしてられなくなった事情も相まって、思い切って『ハイエンド』の製作に回すことにしたんじゃ」

 

 

「……『生きる屍』か。言い得て妙じゃが、中でも()()()は凄いんじゃぞ?」

 

「他の者が暴れたい、壊したいといった性根や執着を残すのがせいぜいという中、この子は確かな知性や学習能力を残しておる! 生前は中々の聞かん坊じゃったが、今では『教育』も素直に受け入れてくれる良い子じゃよ」

 

「生前の記憶? ああ勿論綺麗サッパリ掃除しておいたとも。彼女は一度死ぬことで凝り固まった価値観を捨てることに成功したというわけじゃな。生まれ変わったと言っても良いかもしれん」

 

「そういう意味では君と真逆じゃのう、荼毘……いや、とどろ―――」

()()()()()()()()の話なんか、どうでもいいね」

 

 

「俺が戻ったのは、葬式に丁度いい場所だったからだよ」

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

《―――って、言っテタノ》

「…………」

 

 泡沫に存在する真っ白な部屋。

 そこで永の暇を過ごす筈だった彼女の元へ、あるとき突然届くようになった『少女』の声。

 

 舌足らずなその声で語られたのは、『少女』の置かれた尋常でない状況。

 知ったところで何の意味があるのかと自嘲しつつも、聞けば聞かれるまま答える『少女』から、彼女は幾日もかけて()()を聞き出した。

 

「あなた、は……」

《……お姉ちゃン?》

 

 『少女』の眼前で行われていたという悍ましきやり取り。

 他の内容も然ることながら、彼女にこの上ない驚愕と焦燥を与えたのは、老人の口から語られたという『少女』の由来。

 信じ難い、信じたくない、そんな想いを抱きながらも、彼女はそっと問いかける。

 

 

「……『通子(とおこ)』ちゃん。あなたは……通子ちゃん、なの?」

《…………エ?》

 

 

 返ってきた声にはしかし、彼女が望んだ温度は含まれず。

 それでも彼我の距離を排する『繋がり』を通し、彼女―――"個性"『干渉』は尚も言い募る。

 

「何か……何か覚えてない? お母…………お父さんのこと、とか」

《ン……ゥ……?》

 

「それに…………あなたの、"個性"……とか」

《"個性"……無イ、よ?》

 

 唇を歪め、目を伏せた彼女の耳に、《……アッ》と遅れて何かに気付いたような声が届く。

 刹那、淡い希望を滲ませ上げた顔に、落とされたのは無情の呟き。

 

《ナイ……無い、カラ……移植スルって、『ドクター』が言ッテ―――》

「違うのよ!?」

 

 上げた叫びが、静寂の中に消えていく。

 彼方の『少女』が動揺する気配に、彼女は一度視線を落とした。

 

「違う……違う、のよ……あなたは、"私"の……っ!」

 

 幾つもの言葉が、沸き上がる感情が、彼女の脳裏を通り過ぎていく。

 数秒、数十秒、口元を覆い思考の海へと潜った彼女は、やがてゆっくりと顔を上げた。

 

 

「―――最初は……白いボールだったわね」

《……エ?》

 

 

 徐に呟かれたその言葉に、返って来たのは純粋な疑問。

 

「手を触れなくても動いたボールに、それを浮かせられる力に、夢中になって」

《…………》

 

「それを見たお母さんが喜んでくれるのが嬉しくて、他にもっと動かす物がないか探したの」

《何ノ、話……?》

 

 依然、困惑だけが返ってくる『繋がり』へ向けて、彼女は尚も言葉を紡ぐ。

 

 

「そうして気付いたの。……お母さんの真似をするのが、一番喜んでもらえるんじゃないかって」

 

「お母さんみたいに、空を自由に飛び回れたら、かっこいいなって」

 

「そうして覚えたての感覚を、自分の身体に向けて」

 

 

「……気付けば空中で《ひっくリ返っテタ……?》……っ!」

 

 

 彼方からの声に、戸惑いが混じった。

 

 

《な、ニ……コレ……? 知らな、イ……》

「っ……戻し、方が分かるまで……結局丸一日、お母さんに抱きかかえられて過ごしたわ」

 

《ア……》

「次の日は少しずつ"個性"でやれることを確かめていって……お母さんの"個性"より出来ることが多いねって、褒めてもらって……っ」

 

《……ァ、サ……》

「……そう言われて舞い上がった『(あなた)』は、お母さんに聞いたよね?」

 

 

「―――私も、《オ母さんみたいなヒーローにナれるカナ》? ……って」

 

 

 『少女』の声が、途切れる。

 突如訪れた痛みを伴うほどの沈黙は、それから何秒も経たぬ内に破られた。

 

 

《イィ、ヲ? ェエ、テァ……ンイ、エェ?》

「っ!?」

 

 

 再度届けられたのは、言葉を成さない雑音じみた声。

 豹変と呼ぶべきそれが何の前兆であるか、彼女は数十日に及ぶ『少女』との会話により、それを経験として知っていた。

 

「特定の思考を切っ掛け(トリガー)にした記憶の再設定(リセット)……ッ!」

 

 それが何の為に存在しているのか、今となれば最早明白であった。

 優秀な"(しもべ)"を"(しもべ)"のままで在らせる為、『余計な思考』を許さぬ為の安全機構(セーフティ)

 

 『ドクター』と呼ばれている老人、おそらくはその背後にいたのだろう『先生(AFO)』。

 どこまでも周到で、どこまでも醜悪な……どうしようもなく純粋なる、悪意の発露。

 

「生前の記憶……凝り固まった価値観……? ふざけ……ッ!?」

 

 『繋がり』の先へと意識を向け、手を掲げた彼女の思考が一瞬、止まる。

 姿勢をそのままに視線を向けた先は、未だ沈黙を保ったまま佇む青髪の少女。

 

「…………っ! 私、は……!!」

 

 浮かんだ迷いを振り払い、彼女は伸ばした手の彼方へと"自身"を延長する。

 今なお故の不明な、しかし確かに存在する『繋がり』を辿り、その果てに居る『少女』へと。

 

 

「あなたがまだ、そこに居るのなら……! 【加速】! 【加速】、【加速】ッ!!」

《アッ!? エ、ア゛、ォアッ!?》

 

「【加速】……ああ、畜生!? 【掌握(スフィア)】! 【反射】っ! 【加速】ッ!!」

《ヒィ、ローは……てキ……ひィロぉは、コロ、ろろろろろ―――》

 

 見えない手応えに、あるかも分からない希望に、それでも彼女は"力"を振るう。

 遥か以前に剥がされ、失い、忘れかけてすらいた―――()()()()()()へと。

 

 

 

 

「あなたの名前は、通子! 反向(そりむき)通子(とおこ)! ヒーローに……お母さんに憧れた、ヒーローの娘!!」

《おカ、ァ……あこ、ガ……ェ―――》

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………切れ、た?」

 

「いえ、『繋がり』は、まだ……」

 

「…………」

 

「……はは、どうしようかしらねえ」

 

「ああ、本当に私は―――」

 

 

 

 

『―――干河歩。貴様は……()()()()?』

 





 ドクターと荼毘の会話は原作ではフードちゃんの前ですね。
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