ちょい説明台詞多めです。
「―――それで訓練に付き合って欲しいって……何をすれば良いの?」
「『浮遊』を使ったときの空中制動の身のこなしと……それから新しく使えるようになった歴代の"個性"の習熟を目指しているところなんだけどね……」
「『黒鞭』だよね? 私もアレ見てコスチュームにワイヤー付けたばっかりやし、それについては教わってる側なんやけど……というか、デクくんその頭はどしたん……?」
「ああ、これは、かっちゃんを『黒鞭』で捕まえるって訓練で負け続けた結果だよ。かっちゃんは捕まらずに僕にタッチしたら勝ちっていう―――」
「爆破がルールにない! 爆豪くんあーた相変わらずひどいねえ!」
「実戦形式ってデクから言ってきたんだよ!」
雄英高校校舎内に用意された、予約制の"個性"訓練用教室。
そこに緑谷と爆豪、呼ばれて訪れた麗日、そして彼らを見守るオールマイトの姿があった。
「―――『浮遊』、からの……
「おお! いいじゃん!」
「うん、麗日さんのバーニア移動を見てたおかげでイメージは固められてたから……」
「っ……そっかぁ。……あ、もうちょっと空中を泳ぐ感じで手足のバランスを―――」
OFA七代目の"個性"を発動させ、軽い衝撃波を発生させる程度の力を四肢から放つことで、既に緑谷は空中機動の術を確保していた。
その道では一日の長を持つ麗日の指導を受け、彼は少しずつ自身の技術としてモノにしていく。
「んー……折角だから爆豪くんとやっとった訓練、私ともやらへん?」
「えっ!? そ、そんな……良いの、麗日さん?」
「私もワイヤーの練習したいし……どっちが先に相手を捕まえられるか勝負ってことで!」
「っ! ……乗った!」
「―――やれてンな」
「ああ……同程度の技量の持ち主と競い合えれば、上達も早いはずだ」
踊るように空を駆け、よく似た武器を伸ばし互いを追い合う緑谷と麗日。
そんな二人を見上げながら、施設の隅に腰を下ろした爆豪とオールマイトは言葉を交わす。
「……今はギリ誤魔化せてっけどなァ……現場で必要だと判断したら、デクがためらうわけねぇ。確実に隠し切れなくなるぞ、この先」
「……一番の懸念は、彼の意図しない形での暴発。故に習得は急がねばならない」
頭上から届く二人の声とは対照的に、交わされるやり取りは重く響く。
―――大いなる力を継承させられる、という事実が晒されることによる危険性。
オールマイトの手で集められたOFA歴代所有者達の記録から、爆豪が読み取った違和感。
そしてそこから彼らが辿り着き、未だ
「……なァ、何か気付いちまったんじゃねぇのか!? OFAが―――」
「まだ! ……分かっていないんだ。……分かってない事を断言は出来ない」
「…………」
「少年を案じているからこそだ。……君と同じように」
告げられたその言葉に、爆豪は一度視線を下げ……そして不意に上げた口から
「―――干河達の事もか?」
「っ!? …………」
「分かっていないから、じゃねェよな? あんたは言いたくねぇんだ。あいつらに」
「……君は……」
苦みの走った顔で緑谷を、そして何より麗日の姿を追うオールマイトを、爆豪は一瞥する。
対するオールマイトの脳裏には、数日前に
『―――それは許可出来ないのさ、オールマイト』
『なっ……何故です、根津校長!?』
それは余人を排した校長室で行われた、誰の耳にも入ることの無いやり取り。
"個性"『ハイスペック』―――人間以上の頭脳を持つとされる
『新たに脳無であると判明した黒霧について、干河母娘について……どちらも奴に聞いたところで利になる情報が得られるとは思えない、という点は同じさ。ただ後者については少々事情に違いがあってね』
『違い、ですか?』
議題はこれまで幾度か彼が行っていた、
何者も出ること叶わぬ最大の監獄の中にあって、尚も薄笑いを崩さない彼の者への、有意義とは言えないまでも無意味に終わらせない為に行われていたその場で、彼は初めて否定を受けていた。
『干河心美が現在どうなっているか、知っているかい?』
『いえ……並の手段では救助不能とみて、あの時は立ち去る他ありませんでしたが……』
『干河増太がセントラル病院に搬送されたことで、他の親類も状況を知ることになったさ。しかしそれを知った干河本家の者達は、直ちに彼女の救助活動を
『なっ!?』
『そして我々にもこの件に関して隠蔽に協力するよう要請してきたのさ。そこで様々鑑みた結果、私もその要求を呑むことにしたんだよ』
『な、何故ですか、校長!? そのような―――』
『"個性社会の闇"に傾倒した身内。……現状ではその身柄を扱いかねるから、だそうだよ』
『っ……』
息を呑んだ彼に対し、根津は「その要求時に聞き出したのだけどね」と前置きし、話を続ける。
『母親の方は娘と違い、明確な幇助の証拠が存在する。故に取り調べの段になれば罪過は確定する筈だが、それを現当主が知れば家名に傷が付くことも厭わず庇い立てするだろうとのことでね』
『既に老齢の当主は一年と待たずして代替わりを予定している状況。家の為にも本件を次代の者達で扱いたいというのがあちらの意向なのさ』
『幸いというべきか、件の地下室が人間一人であれば一年少々生き延びるに不自由しない事は私も確認済み。事が恙無く運んだ後なら罪人を庇うつもりも無いというので話に応じた形なのさ』
『…………し、しかし、それとこれとに何の関係が……』
理屈としては理解可能、されど心情としては筆舌しがたい感覚に絶句した後で、オールマイトは絞り出すようにそう問い返す。
そんな彼を前に、根津は校長室の机の中から一台の携帯電話を取り出しその眼前に鎮座させた。
『干河歩君の休学についても、学外の人間には口外しないよう生徒達に周知している。勿論これは秘するべき個人情報にあたるから、という理由そのままだけどね』
『加えて
『そしてその情報を奴に与えることを、同じく私の勘は不利益と判断しているのさ! まるで奴が
『…………』
根津の勘、という名の憂慮については、彼にも言語化不能ながら理解が及んでいた。
自身の手で討ち果たし、その命脈を断った筈の巨悪が未だ漂わせる余裕。
まるで自身が打つべき布石は何もかも打った後、とでも思わせる語り口。
故にしたくは無くとも出来てしまった。
かつての
『まあ、実のところ口止め料も受け取ってしまっているからね! 表向きには干河歩の学費ということになっているが、受け取った以上は他に選択肢は無いのさ! HAHAHA―――』
「―――オイ、オールマイト?」
「ハッ!? あ、ああ、すまない、爆豪少年」
眦を吊り上げ問いかける爆豪に、思考を現在に戻したオールマイトは慌てて返答する。
その反応により胡乱な表情となった爆豪だったが、何も言わぬまま視線を前へと戻した。
「……君は、何も聞かないんだね」
「……
「……そう、か」
「近ぇ内には話せよ? 何があったかはともかく、
「……そうだね。肝に銘じておくよ」
落ち窪んだ目の奥、細めた瞳でオールマイトは
彼らが真実を受け止められるその日まで、傍に在らねばならぬと彼は決意を新たにした。
「―――おわーっ!? デクくん、締まっとる! 締まっとるってェ!?」
「ご、ごめん、麗日さん!? い、今、解くから……あ、アレ、ワイヤーが絡まって……!?」
「ぐえぇっ……!? ちょ、ま……コレ、久々に…………うぷっ」
「わあぁっ!? 麗日さーんっ!?」
「ーーッにしてンだ、てめェら!! 解き殺してやっからそれ以上動こうとすんじゃねェ!!」
「はは…………まだもう少し先、かなあ」
歩ちゃんの休学扱いには様々な人間の思惑が絡み合っていましたというアレ。
『
清濁併吞……どころかあの世界なら清濁濁濁ぐらい呑んでてもおかしくないかなあと。
『黒鞭』が皆にバレてないので麗日さんに加えて梅雨ちゃん瀬呂くんに協力を仰ぐ展開が消去。
その分デク茶が進行したので無問題です(謎)。