おしゃべりな"個性"   作:非単一三角形

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 ここから新章にしようかとも思ったんですが、どうにも収まりが悪く……

 原作ママの展開を文字起こしするみたいになってしまった感。
 ……あのシーンだけはカット出来ないからね。仕方ないね。



C4-13 解放

 

 ―――蛇腔病院、地下。

 院長である彼、殻木球大のみがその存在を知るその場所は今、喧噪が降りかかる直前にあった。

 

 潜入捜査を続けた警察により判明した、病院内を潜む改造人間脳無の存在。

 露見した脳無の製造者―――AFOの片腕。

 彼を捕えるべく病院に乗り込んだNo.1を含むトップヒーロー達。

 ……これがヒーロー達による一網打尽を計画した二方面作戦であることを彼はまだ知らない。

 

「ワシが死柄木 弔(マスターピース)に夢中で他事一切分身に任せているなど、知らんものなァ~」

 

 皺に白ひげを蓄えた顔で、彼の指は逸る心を示すように端末を叩く。

 成就間近の大願と、脳裏を走る損切りのラインが、彼の行動を知れず鈍らせていた。

 

「……この病院を捨てたくない! しかし苦渋の決断―――ぬおっ!?」

 

 突如、くぐもった水音と共に響いた打擲音に老人の身体は小さく飛び跳ねる。

 音の源は、彼の脇に佇む溶液の満たされた一つのカプセル。

 

 

「―――何、カ……来タ? ドク、ター……?」

 

「……お、おお! ウーマンちゃんか! そうじゃ、お主がおったわい!」

 

 

 しかし驚愕は一瞬、気を取り直したように顔を上げた彼は、喜色に満ちた声で()()を見上げた。

 

「お主の身体もまだ完成とは言えんが……ワシが死柄木を動かせる状態にする時間を稼ぐんじゃ。それが済んだら合図をするからワシの元へ! ジョン(ワープ)ちゃんと一緒に皆で逃げるぞい!」

「……了、解」

 

 返ってきた言葉に目を細め、殻木の手が小さな端末を操作する。

 微かな駆動音と共に容器を満たしていた液体が水位を下げ、カプセルのガラスが取り除かれた。

 

「ア……フ……」

 

 溶液が滴る手足を確かめるように曲げ伸ばししつつ、装置から歩き出る一体の脳無。

 手元の作業を進めつつも満足げにそれを眺めた老人は、徐に部屋の隅へと声を掛けた。

 

「さあ散歩は終わりじゃよ、ジョンちゃん。ワシと一緒に死柄木の元へ―――」

 

 その視線の先に居たのは、管に繋がれ二本足でテコテコと歩く子犬サイズの奇怪な脳無。

 その小さな体躯に"転移系個性"を宿し、閉鎖空間であるこの地下から多少の制限こそあれ逃走を可能にする、彼らにとって唯一無二の非常口。

 

「ジャあ……まず、ハ……」

 

 見た目以上に圧縮された太くしなやかな黒腕が。

 容易く床にヒビを入れ得る長く筋張った黒脚が、ぎこちなさを残しつつ唸りを上げる。

 

 

「―――『ワープ(ソレ)』から」

 

 

 『()()』の目の前を歩く、小さく哀れな脳無へと。

 

 

「キャッ

 

「ほ……?」

 

 

 振り返った老人の、時が止まる。

 振り下ろされた剛腕と、その主を見上げて一秒、二秒、沈黙を流して。

 

「ウーマン、ちゃ―――」

 

 何事かを言わんと口を開いたその瞬間、地下と地上を繋ぐ鉄扉が轟音と共に弾け飛ぶ。

 それぞれが視線を向けた先、扉周囲の壁と棚をも砕きながら、飛び込んできたのは一人の女性。

 

 

「―――てめェは、本物かぁ!?」

 

 

 砕かれた無数の試験管、飛び散る液体、弾け飛んだ鉄扉に破壊される無数の装置。

 目を覆わんばかりの被害にパカンと口を開ける老人を余所に、『少女』の瞳は()()を映す。

 

「っ、ヒーロー……! ……ウサギ?」

 

 ウサギの尻尾にウサギの耳。

 褐色の肢体を晒すヒーロースーツに、眦を吊り上げた獰猛な笑み。

 No.5ヒーロー、『ラビットヒーロー ミルコ』の姿を。

 

「やあああああ!!!」

「皆! 強そうな脳無とジジイいた。―――知らね、蹴りゃわかる」

 

 老いた喉から甲高い悲鳴を上げる殻木を前に、ミルコは耳元を押さえつつ遠くにいる誰かと会話する素振りを見せる。

 笑みを残しつつ油断なく向けられる視線の先は、黒き四肢に剥き出しの脳髄を乗せた『少女』。

 

「そ…………そうじゃ、ウーマンちゃん! そっちじゃ! お主は忌々しいヒーローを―――」

「ウーマンチャン? ソれはだぁレ?」

 

「…………へ?」

「あぁ?」

 

 獰猛なウサギの微かに困惑が浮かんだ瞳に、『少女』はゆっくりと()()()()()

 

 

「ワタシは……通子(とおこ)反向(そりむき)通子(とおこ)。ヒーローに……母ニ憧レタ、ヒーローの娘!」

 

 

 ドス黒い悪意に形作られた、悍ましき身体。

 されど脳に埋もれたその瞳にだけは、確かな光を煌々と宿して。

 

「な…………」

 

 それを信じられないという目で呆然と見つめるのはこの男。

 自らの最高傑作が一つ、最上級脳無『ハイエンド』の、俎上にすら無かった『裏切り』。

 

「何でっ……何でェ!? 確かに記憶はっ、先生にも『嘘』を判定して貰って太鼓判をぉ!?」

 

 数ヶ月、数年、積み上げてきた研究が出す筈の無い結果に、老人は幼子のように泣き叫ぶ。

 しかしその嘆きに返って来たのはあまりに軽々しい答え。

 

「アァ、それナラ思い出シましタ。こないダ」

「コナイダァ!!?」

「……よく分かんねっ、けど面白ェなぁ!」

 

 混乱はすれど、即座に次の行動に移るは野生の(ラビット)ヒーロー。

 敵意は無いと判断した脳無の背を飛び越え、一足飛びに老人の身を間合いに入れる。

 

地上(うえ)のは偽物だったらしいからなぁ! まず本物か調べる!!」

「あ……あああああ!! ほ、本物じゃワシ本物じゃ!?」

 

「蹴りゃわかる」

 

 無情の宣言に老人のメガネの縁から、髭を蓄えた鼻から、あらゆる液体がビャッと噴き出す。

 ウサギのヒーローにも関わらず、肉食獣に睨まれた被食者の如き感覚を与えられた老人の脳裏に走るのは、積もりに積もった数多の思考。

 

(ほ、他のハイエンド脳無―――無ゥ理じゃよ! テスト段階にも至っておらん! 荼毘がフードちゃんの回収に――― じゃがあちらも起動に十時間――― AFO無き今増産も――― 緊急(スクランブル)では十分な力が―――)

 

 空転する思考の中、それでも彼の腕は他の『ハイエンド』を起動させる端末を取り出していた。

 その腕の白衣に、薙ぐように繰り出されたウサギの左脚がめり込んだその瞬間。

 

「あ!?」

「モカちゃ―――」

 

 物陰から飛び出した一体の影―――先の個体に似た小型脳無(モカちゃん)がミルコの腰に身体ごとぶつかり、その体勢を崩すことで蹴りの軌道を僅かにずらした。

 返す右脚が脳無を粉砕するも、生まれた一瞬の時間が逃げる殻木に端末操作の機会を与える。

 

「うぅうぅ、モカちゃんの勇気、無駄にはせんぞ!!」

「ッ、傍のカプセルヲ!」

「めんっ……どくせェ!」

 

 破壊を免れていた四つのカプセルに佇んでいた黒い影に、一筋の電流が流れる。

 沈黙は一瞬、黒き手足が内部からガラスを粉砕、破片と溶液を撒き散らしながら躍り出た。

 

「今度こそじゃ! 忌々しいヒーロー共を蹂躙せよ!! 愛しきハイエンドたち!!」

「【踵月輪(ルナリング)】ッ!」

 

 鍛え抜かれたウサギの両脚が二つの半月を描き、飛び出した異形を含む四肢と交差する。

 四肢の先を損壊し、たたらを踏んだのは二体の異形。

 顎から上を大きく変形させながら転がったのは、丸々とした体躯を持つ個体。

 

「っ、さセな、イ!」

「あぁ!? お前……っ!」

 

 両脚で踵落としを放った体勢から身体を捻り四つ足で着地したヒーローの前に、突如手を広げるようにして立った『少女』。

 その行動の意味をミルコが思考するより早く、目に見えた変化がその黒腕に発生した。

 

「……直線上……ッ、空間歪曲!」

「っ! てめェ他のヤツの"個性"―――」

 

 遮られた射線の先、直接ぶつかった三体から一歩離れた場所に佇み手を掲げる個体。

 頭に金属のアーマーを被らされたその脳無の手が捻られ、握られると同時に、血飛沫を噴き出し捻られる『少女』の右腕。

 

「彼の独り言からノ推察でス! それト……『超再生』ハ標準装備!」

「……ははっ! 良いなあ、お前ェ!」

 

 捻り切られた腕が即座に『再生』する様を見せる『少女』に、口の端を吊り上げるミルコ。

 そんな彼女らのやり取りを前に、同様に『再生』の煙を手足から立ち上らせた脳無達は、微かな声量で呟き合う。

 

『ひっ、お』

『えこっ』

『ひ……ロ』

 

『うん……』

『久……ぶり』

『暴れらレル……』

 

 一部を除き剥き出しの脳味噌。異形と化した黒き手足。

 覗かせる眼球には知性こそあれ、宿るのは昏く淀んだ悪意のみ。

 

「ワタシの同型……でモ彼らの素体ハ、(ヴィラン)だソウでス」

「あー……なら全員蹴っとばすだけだな!」

 

「それカラ……みンナ既に死体でス。……ワタシも含めテ、ですケド」

「……ああ、知ってる」

 

 三体のハイエンドと対峙する彼女達の視界の端、レールが用意された椅子に飛び乗った殻木が、滑るように地下室の奥へと消えていく。

 一方、ミルコの一撃で転がっていった脳無は地上への出入り口に飛び込んだらしく、そちらから交戦するヒーローの声が地下室の中に微かに響いた。

 

「……さっきのジジイ、逃げずに奥で留まってんなァ。カタカタやってんのが聞こえてくんぞ」

「アァ、逃げ道……『ワープ』の脳無なラ、ワタシが潰しマシたカラ」

 

「マジか、お前やるなぁ!?」

「その代ワリ、死柄木……マスターピースとやらガ奥に。……そっちは見たことアりまセン」

 

「あー……ヤルならそっち優先―――」

 

 

『蹂躙せよト』

 

 

 動き出したのは、奇妙に伸びた頭部とアバラの浮いた胴体を持つ脳無。

 その頭部が高速で二人の頭上へと伸ばされ、木の根の如く枝分かれして降り注ぐ。

 

『ソそそういう指令ダ』

 

「伸びる角ト……胴と腕、隆起すル肋骨!」

「気ッ色悪ぃな!? 【月墜蹴(ルナフォール)】!」

 

 檻に捉えようとするかのように降り注ぐ『角』。

 警告に従い一瞬早くその隙間を抜けたミルコは、そのまま眼下にさらけ出された後頭部へと叩きつけるような蹴りを見舞った。

 

 

『―――』

 

「っ、こいつはぁ!?」

「パワー特化!」

 

「なら分かりやすいな! 【踵半月輪(ルナアーク)】!」

「……エッ」

 

 『角』を沈めた彼女に飛びついてきたのは、象を思わせる鼻に一回り大きな体躯の脳無。

 重さを感じさせない俊敏さで振るわれた鼻を、振り向きざまに放たれた踵が砕き弾く。

 

 

『チョ、チョコマカと……!』

 

「エ、遠距離特化っ……! 射線に―――」

「知ってる」

 

 特に殺傷能力の高い歪曲の一撃を放った脳無へと、助言も置き去りに突貫するミルコ。

 掲げられた手の直線上をしっかり避けつつ、瞬く間にその懐へと辿り着く。

 

『臆サず飛び込ンデクルとは―――』

「咄嗟に遠距離攻撃出す奴ぁ、近距離弱ェと決まってる」

 

 接近に対応すべく、標準搭載された膂力に頼ろうとした脳無の首に、伸ばされた腕の影から跳び上がったミルコの両脚が掛けられた。

 

『死ヌぞ』

「目かラ『レーザー』が―――」

「ああ! 死ぬ時ゃ死ぬんだよ人間はぁ!! 【月頭鋏(ルナティヘラ)】!!」

 

 瞬間、脳無の双眸から放たれた『レーザー』を避けると同時に、掛けた両脚でその首を捩じ切るべくミルコは身体を倒す。

 ベキ、ブチ、という悍ましい音と共に、メットに包まれた脳無の頭部が胴から毟り取られ、床に叩きつけるようにして砕き潰された。

 

「エ……えエェ……!?」

「ドタマ潰しゃあ止まンなら、むしろそこらの(ヴィラン)よかよっぽど楽だ!」

 

 ゆらりと振り向いた二体の脳無に、思わず目を剥いた『少女』に、見せつけるように自身の額を指差し、ミルコは不敵に笑う。

 

 

「―――こちとらいつ死んでも後悔ないよう毎日死ぬ気で息してる! ゾンビにヒーローミルコは殺れねえぞ」

 

 

「……ッ!」

 

 向けられたヒーローの輝き(笑み)に、『少女』は異形と成り果てた身体を震わせるのだった。

 





 原作のハイエンド達が飛び出すコマなんですが、よく見ると出てきた彼らの手足を数本、反撃で粉砕してるんですよね、ミルコさん。
 コレ、不意打ちじゃなかったら何とかしたんじゃね? と思った結果が今話です。

 ハイエンドの中でも特に活躍(?)していたアバラちゃんこと頭を伸縮させる個体なんですが、あの頭は『骨』なのか『角』なのかはたまた『樹木』なのか……
 文中での表現に非常に困ったので本作では『角』としました。言うまでもなく独自解釈です。
 アニメだと質感分かりやすくなってたのかな? (未視聴勢)
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