おしゃべりな"個性"   作:非単一三角形

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 ※今回、本編中に1箇所のみですが特殊タグを使用してみました。
 なお「k」は意図的に抜いてます。

 ゾウさんは明確にそうだと分かる台詞が無いので喋れるかどうかも分かんないんですよね。



C4-14 起床

 

「―――当たんなくなってきたなぁ! 生意気な!」

「彼ラの目が覚めテ来たんでス! 元は名うてノ(ヴィラン)だったソウですカラ……ワタシと違っテ」

 

「だろうなぁ! お前、パワーあっても動きがド素人だ!」

「ス、すみまセン……ワタシ、享年九歳なものデ……」

 

「ぉう…………ならしゃーねぇ! 切り替えてけ!」

「ハイっ!」

 

 

 残った二体のハイエンド、『角』と『鼻』に進路を阻まれた現状に、ミルコは悪態を吐く。

 この場から殻木が逃走して約五分。彼女の意識は少なからず老人が消えた先へと向いていた。

 

「……兎の生存本能だ。奥でやってること、止めなきゃなんねぇ……何を差し置いても」

 

 立てた兎耳をピクリと震わせ、ミルコはちらと横目を向ける。

 異形の身体を懸命に振るう『少女』へと、彼女は静かに問いかけた。

 

「なあお前……足止めしろっつったら出来るか?」

「っ……一瞬、一度で良イのナラ!」

 

 答えと共に、突き出した『少女』の両腕が、その肉感を失いながらブクと膨らむ。

 何が起きるか不明ながらも結果を直感したミルコは、頬を吊り上げながら前傾姿勢をとった。

 

 

「『液体化』(プラス)『炸裂』ッ!」

 

「……へえ」

『―――ッ』

『グッ!? こノ程度デ―――』

 

 スライム状の液体と化した『少女』の腕が、散弾となって二体の脳無へと降りかかる。

 その無数の水弾を追走するように駆け出したミルコの、防御に移った彼らの隙を抜けるべく踏み切った脚が床を砕いた。

 

 着弾の衝撃と、纏わりつく液体を力任せに堪えた彼らは、視線の先を横切っていく『兎』へと、それぞれ異形の『角』と『鼻』を伸ばし―――

 

 

「『液体化』部分解除……即興必殺【液生黒手(マッドハンド)】!」

 

『グガッ!?』

『―――ォ!?』

 

 

 二体に付着した液体から生えた(、、、)黒腕が、彼らの顔面に改人由来の『力』を刻む。

 意識外から叩き込まれたその一撃は、同型種たる彼らから確かに一瞬、思考を刈り取った。

 

「あっははは!? 良いなッ、お前! 良いなァ!!」

「恐縮デすッ!」

 

 笑う『兎』は悠々と、作り出された間隙を享受する。

 直ちに『再生』した彼らの視界に、もはやその背は映らなかった。

 

『キさ、マァッ! ……イヤ、先にあノ女ヲッ!』

『―――ッ!』

 

 『角』の個体が悪態の途中で振り返り、ミルコが消えていった通路へと『角』を伸ばす。

 『鼻』の個体が呼応するようにその背中に立ち、『少女』へと敵意を漲らせて対峙した。

 

「……役目ハ果たせタ、カナ?」

 

 『角』の邪魔はさせぬと迫りくる『鼻』を前に、『少女』はそんな呟きを溢す。

 次の瞬間、振り抜かれた黒腕が、防御に交差させた一回り細い腕を赤と青の水飛沫に変えた。

 

『―――ォ!』

「アっ……!」

 

 受けきれないと判断した瞬間の『液体化』であったが、生じる隙は避けられず。

 互いの急所たる頭部を狙った続く一撃を、躱しきれずに顎に受けた『少女』の身体が宙を舞う。

 

「っ、【液生(マッド)……】、あ……」

『―――!』

 

 奇策も二度は通じず、飛び散った液体から再度生やした腕は振るわれた『鼻』に薙ぎ砕かれる。

 そのまま地響きと共に足を進めた『鼻』は、床に転がり先の一撃で抉れた顎部を『再生』させる『少女』を憤然と見下ろした。

 

「……楽しかっタ、な。最期にチョットだけデも、ヒーローの気分になれテ……」

 

 同じ最上位(ハイエンド)とはいえ、片やパワー特化、此方知性に期待されたやや細身の女性型。

 さらに身体を操るは、悪の極北に見出された元(ヴィラン)と、悪意に絡め取られた一人の少女。

 肉体の覚醒状態、トップヒーロー(ミルコ)の存在という下駄が外れれば、この結果は必然であった。

 

「……おやスミ。お姉―――」

 

 見上げる瞳に何を感じたか、『鼻』の個体はまさしく象の如き脚を振り上げる。

 自らの頭部を覆う影を前に、『少女』はゆっくりと脳髄に埋まる眼を伏せた。

 

 

 

 

「―――いいや、()()はまだ早いな」

 

「…………エ?」

 

 

 届けられた声と共に、吹き荒れたのは業炎。

 赤く煌々と燃える炎熱を感じ、閉じようとしていた『少女』の眼が再び開かれる。

 

 

「眠りに就く前に、俺を見てゆけ……名も無きヒーロー!」

 

 

 火達磨となった『鼻』を、さらに噴射した炎の勢いで蹴り飛ばし現れるは現No.1。

 『フレイムヒーロー エンデヴァー』。

 

 

「ミルコの無線越しに聞こえていたぞ! よくやってくれた!」

 

「…………はイっ!」

 

 両腕から生成した『盾』を投射し、現れたのはNo.6、『シールドヒーロー クラスト』。

 さらには目から『光線』を放つヒーロー、身体にオーラを纏うヒーロー、『サーベル』を振るうヒーロー―――様々な"個性"を振るう者達が、彼に続き次々と地下室に足を踏み入れる。

 

 

「……なあ、イレイザー。あれが……」

「ああ……生前の自我を取り戻し、奴らに反抗する脳無……」

 

 そしてその一団の中に、トップヒーローにして雄英高校現役教師が二人。

 『ボイスヒーロー プレゼントマイク』ならびに『抹消ヒーロー イレイザーヘッド』。

 その姿を瞳に映した『少女』から、思わずといった声音で呟きが漏らされる。

 

 

「―――イレイ、ザー……セン、せイ……?」

 

「「っ!?」」

 

 

 『少女』の口から漏れた一言に、目を見開き絶句する二人の教師。

 無線越しに伝わっていたこの地下でのやり取りに、彼ら二人の心中が荒れ狂っていたことなど、『少女』にとっては与り知らぬことであったのだが。

 

 冷静になれば否定出来ただろう。反証は幾らでもあるのだから。

 漏れ聞こえた名前、享年……どちらも教師としての彼らと関わりを示すものではないだろうと。

 しかしこの鉄火場で、また()()()()()に関する目を覆いたい事実が頭にあった彼らに、自らの中で芽生えた可能性を即座に切り捨てることは出来なかった。

 

 すなわち目の前の、少女が素体となった遺体(改人)が―――

 

「……イレイザー……警告頼むわ」

「マイク……?」

 

 ―――かつての教え子であるという可能性を。

 

「っ! 総員、耳を塞げ!」

「なっ!?」

「は!?」

 

 

 『ボイスヒーロー プレゼント・マイク』。"個性"『ヴォイス』。

 声量がヤバイ。高音もヤバイ。低音もヤバイ。

 産声で両親、分娩医の耳を出血させた逸話を持つ、『声』を武器にするトップヒーロー。

 彼の必殺技【ラウドヴォイス】は、指向性を持たせた『声』で正面にある全てを破壊する。

 

 そして媒介が『声』であるが故に。

 技の威力に影響するのは、込められた声量あるいは―――感情の多寡。

 

 

 

Get The Fuuuuuuuuuuuuuc Out(てめえらみんな消えちまえ)!!!」

 

 

 

『ク、ぉ―――』

『―――ァ』

 

 生き残っていた二体の脳無、稼働していなかった無数の脳無に様々な機器、薬品および培養物。

 数年、数十年、『魔王』の右腕が積み上げた悪意を、彼の激情が砕き、穿ち、千々へと還す。

 

「…………Fuc〇はやめとけ、英語教師」

 

 呆れたように呟く同僚(イレイザー)の一言が、沈黙するヒーロー達の痺れる耳朶を叩いた。

 

 

 

 

『―――オイ、お前ら! 聞いてんのかぁ!?』

 

「アっ、こノ声……」

「っ、ミルコか! すまん、一瞬だが音を拾える状態ではなくなっていて……」

 

 ヒーロー達が身に付けた無線から、苛立ちの混じったミルコの声が響く。

 同時に聞こえた足音に一同が目を向ければ、辛うじて原型を残した通路の先から駆け抜けてくる彼女……の奇妙に膨らんだシルエットが迫ってきていた。

 

「ミルコ? ……その男は!」

「殻木球大……本物か!」

 

 膨らんだ影の正体は、ミルコが小脇に抱えた白衣の老人、殻木の身体。

 襲撃の目的であり首謀者たる男を見事確保した女傑の顔からはしかし、常の笑みが消えていた。

 

「っ、聞いてなかったんなら、もいっぺん言うぞ! 今すぐ―――」

 

 如何なる危機にも、如何なる死線にも獰猛に笑ってきた彼女が浮かべる表情は、焦燥。

 床を砕き割り走るその背後で、明らかに彼女とは無関係に()()()()()通路。

 

 

「全員、()()()ォ!!」

 

 

「は……?」

「壁が……いや、建物そのものが、崩れ……」

 

 如何なトップに属するヒーローといえど、反応出来たのはごく数人。

 

「死柄木の、『崩壊』……っ!」

「接触するモノに伝播して……」

「唯一情報の無かった、強化内容……!」

 

 得ていた情報と、目の前の事態を繋げられた人間はさらに僅か。

 

「ヒビに触れるな! 死ぬぞ!」

「機動力のある者は他を運べ!」

「……乗っテ、下さイ!」

「ッ、地下から『崩壊』していく! 地上(うえ)に居る者も今すぐ逃げろ!」

 

 迫りくる『崩壊』の伝播、絶死の波から逃れるべく、ヒーロー達は動き出す。

 爆発的に広がるそれに危機感を覚えた数人が、地上に居る者へ伝えるべく無線に向けて叫んだ。

 

 

「―――終わらせぬよ」

 

 

 ミルコの腕に抱えられた老人が、しわがれた声で朴訥と呟く

 

 

死柄木()の為に生きてきた……魔王の夢は、終わらせぬ」

 

 涙に濡れた目で凄絶に嗤い。

 

 

ヒーロー(おまえたち)の積み重ねなど、寝覚めの一撫でで瓦解する」

 

 ただそこには、悍ましき悪意だけを湛えて。

 

 

「ワシらの、勝ちじゃ」

 





 Plus(プルス) Ultra(lo)ud(ウルトラウド) Voice(ヴォイス).
 ※kを抜いているのでセーフ。誤字にあらず。

 ミルコ&通子がドクターを追い詰め過ぎた為、彼が死柄木を起こす判断をする迄の時間が短縮。
 それ故原作のような奇跡に奇跡を重ねたものではなく、まだ生きている機器による中途ながらも正常な起床となりました。やばいですね。

 一方でクラスト、エクスレスその他モブヒーロー多数生存。ミルコさんも五体満足です。

 ところで『炸裂』の元の持ち主って発現時どうなったんだろう。
 四歳児が四肢炸裂させたんだろうか。
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