おしゃべりな"個性"   作:非単一三角形

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 原作のハイエンド達って割と雑に退場しちゃった印象あるんですよね。
 折角複数の"個性"に知能を残して、という触れ込みなのに『抹消』による封殺および『崩壊』に巻き込まれて終了とは……

 無理に詰め込んだせいで普段の二話分近い文字数になりました。反省。



C4-16 救ける想い

 

『目標現在那鳩市をおよそ100km/hで直進中! 土竜のような長い爪で建物を掻き分けてる! 瓦礫が飛び散って奴の図体以上に被害規模がデカイ! 進路周辺5kmは避難区域になる!!』

 

 もはや災害と呼ぶべき超大型(ヴィラン)『ギガントマキア』の縦断。

 まるで子供が砂場の山を崩すかの如く、飛び散る建材が目を覆わんばかりの被害を生んでいく。

 

『まだある命を!! 死んでも守れ!! 我々への罰をこれ以上他者に被らせるな!!』

 

 逃げ惑う人々の悲鳴の中を飛び交うのは、"個性"相性から決戦には向かえなかったヒーロー達。

 降り注ぐ瓦礫を、ガラス片を振り払い、倒壊した建築物を取り払って、巻き込まれた被害者達の救助に奔走する。

 

 

「……どうシてワタシをそこまデ信用出来ルンですカ?」

「あ?」

 

 そんな渦中に存在するは、彼らと共に駆け抜ける『兎』と、液体が形作る『少女』。

 

「ワタシ自身、ワタシであるコトを思い出セタのはつい最近でス。今、こうしテいる内にモ、我を失っテ暴れ出すカモ知れなイ。ソんなワタシをどうしテここまで……」

 

 時折周囲を探る様に立てた兎耳をぴくぴくと動かしながら先導するミルコを、液体に隠した黒脚の膂力で『少女』は追いかける。

 今もまた一つ、倒壊する家屋を避難の妨げにならぬよう押し倒しつつ、『少女』は問い掛けた。

 

「ンなもん、決まってんだろ。勘だ、勘」

「エッ」

 

 しかし返ってきた答えは実に簡素極まる一言。

 液体で作り上げた顔に『呆然』を描く『少女』に、ミルコは振り返ることもなく言い放つ。

 

「お前を連れてった方が助かる命が多くなるって勘で出た。そんだけ、っだ!」

「……っ」

 

 頭上から崩れ落ちてきた瓦礫を宙で蹴り砕きながら、『兎』の瞳はギラリと光る。

 その間に何を感知していたか、着地した彼女は傍らの瓦礫を指差し『少女』を呼んだ。

 

「そこの瓦礫の奥、火ィ出てる! 消せ!」

「は、はイ! ……『炸裂』!」

 

 『少女』が『液体化』した腕を瓦礫の隙間に突っ込み、その先で『炸裂』。

 放置すれば大規模な火災に繋がっただろう、誰の手も届かなかった火種が消し止められる。

 引き抜いた腕は肘の中ほどまでに減じていたが、それも瞬き程の時間を置いて『超再生』した。

 

「次ィ! そこの下から声聞こえた! あの水から手ェ出すヤツやれ!」

「っ、『炸裂』……【液生黒手(マッドハンド)】!」

 

「……ぇ、うわっ」

 

 指を入れる余地すら無かった隙間に液体が浸透、そこから実体化した黒腕が積み重なった瓦礫を捲り上がる様に持ち上げる。

 身動き取れずに半ば諦めていた男性が一人、突然差し込んだ光に驚きながらも這い出した。

 

「ほら見ろ、お前クッソ便利だ。こんなもん使わねぇ方がバカだろ」

「…………」

 

 窮地を救われ走り去っていく男性からの感謝と、歯に衣着せぬミルコの言葉に、『少女』は沈黙したまま『再生』していく自分の腕を見つめる。

 

「……(たす)け、ラレた……ワタシの、手デ……」

 

 『液体化』により作られた頬から、コポリとひとつ気泡が漏れた。

 

「ワタシ、もっト(たす)けたイ……! こノ()()()()ガ、続ク限り……ッ!」

「……おう! 休んでる暇なんかねぇぞ!」

 

「ッ、ハイ!」

 

 再び要救助者を見付けるべく跳躍するミルコの背を追い、『少女』は造られた脚に力を込める。

 一瞬遅れて傍らへと並んだ『少女』に、『兎』は微かに目を見開き、そして頬を吊り上げた。

 

 

「……チッ、この辺、瓦礫が直撃したな? 動けなくなってるヤツがあっちこっち……」

「それジャ、一箇所ずつ持ち上ゲテいきますカ?」

 

「駄目だ、それやると他が崩れる。やるならいっぺんに持ち上げるか吹き飛ばすかしねぇとだな」

「いっぺンニ……」

 

 彼女らが向かった先に広がっていたのは、倒壊した家屋同士が複雑に積み重なり生まれた惨状。

 足の下から聞こえる複数の呻き声に、その親類らしき人々の悲鳴染みた叫びが木霊していた。

 

「…………ミルコさン、ちょっト任せて貰っテ良イデすか?」

「あぁ? ……良いぜ、やってみな」

 

 『少女』の一言に、問われたミルコは一瞬の思考を挟み口端を上げる。

 信頼か、直感か、何らかの確信を得たらしい『兎』の前で、『少女』は徐に諸手を上げた。

 

「『炸裂』……『超再生』、『炸裂』、『超再生』、『炸裂』!」

 

 上げた両腕が水飛沫となって先の繰り返しの如く積み重なった瓦礫の隙間へと流れ込んでいく。

 それでもそれらは『液体』となった『少女』の両腕には違いなく、すなわちたとえ『液体化』を解除しようとも二本以上の腕になるはずもない。

 

 

「限界とハ超えルもノ……『Plus Ultra(更に向こうへ)』、だよネ」

 

 

 制約、限界、それらを踏み越えてこそのヒーローである―――己にそう教えたのが果たして誰であったのか、『少女』の記憶は朧気で。

 しかし決して覆らないはずの制約を前に、『少女』は最早迷わない。

 

 

「『液体化』部分解除―――【液生黒手群(マッドハンドオーバー)】ッ!」

 

「……ははっ」

 

 

 ―――手、手、手。

 積み重なった瓦礫を、或いは倒壊した街そのものを、土台から持ち上げる無数の黒手。

 ともすれば一種の地獄のようにも見えるその光景に、救助を求め悲嘆に暮れていた人々も、一瞬息を忘れて静まり返る。

 

「あっ……はははは!? お前それどうなってんだ!?」

「『炸裂』さセた欠片一つ一つを腕とシテ『超再生』させマシた!」

 

「やっぱりお前最高だな! ……ほら、お前らもぼーっとしてないでさっさと逃げろ! 動けねぇヤツには手ェ貸してやれ!」

 

 ミルコに発破をかけられたことで、戸惑いながらも瓦礫に埋められていた人々が各々這い出し、自力で動けない者には周囲の人間が手を貸す形で避難が進んでいく。

 無数の黒腕の維持に集中しつつそれを見守っていた『少女』は、不意にミルコへと口を開いた。

 

「……ミルコさん……ワタシ、今でモやっぱリ、ヒーローになりたイと思っていマス」

「あぁ? あー……」

 

「ワタシは……ナれるでしょうカ。今カラでモ、ヒーローに」

「…………」

 

 『少女』の問いに、然しもの『兎』もこればかりは即答とはいかず、唇を引き結ぶ。

 

「…………ゴめんなサイ、忘レテ―――」

「いっこ、覚えとけ」

 

 元々諦念混じりだった問いを『少女』が謝罪と共に引っ込めようとしたその瞬間。

 常の笑みに微かな苦みを走らせつつも、No.5を背負う女傑は確かな口調で呟いた。

 

 

「―――自分(てめェ)ん中でヒーローだと叫んだそん瞬間(とき)から、自分(てめェ)ん中ではヒーローだ」

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「―――私、お茶子ちゃんみたいになりたいの。だから教えて、お茶子ちゃん」

 

 今なお降り注ぐ『災害』から、ヒーロー達の懸命な救助活動が続く街中に佇むとある平屋の中。

 動けない要救助者が居る―――そう懇願し走り出した老婆に応える形でそこへ誘導された麗日は今、一人の(ヴィラン)に組み敷かれ、その身に刃物を突き付けられていた。

 

「私を、どうしたい?」

「…………っ、そんなこと聞く為に……! さっきのおばあちゃんの……"血"を奪ったの……? 殺したの……!?」

 

 老婆の正体は、彼女とほぼ同年代―――『変身』の"個性"を持つ少女、渡我被身子。

 合宿以来となる掴み所のない敵との予期せぬ遭遇に、麗日は内心に積もった苛立ちを隠す余裕もなく叫び返す。

 

「私は今、一人でも多くの人を助けたいの……!! トガヒミコ!! 邪魔するなら今すぐあなたを捕まえる!」

 

 その言葉と同時に麗日は勢い良く身体を捻り、自身に圧し掛かる相手の身体を吹き飛ばす。

 受け身を取りつつ起き上がった渡我は、彼女の"個性"により『重力』の軛が外れた袖口を横目で睨みつつナイフを構えた。

 

 狭い家屋の中、麗日は相手の無力化を狙い身体に触れるべく飛び掛かり。

 対する渡我は手にしたナイフで応戦しつつ、彼女特有の価値観による問い掛けを続ける。

 

 ―――曰く、好意を抱いた相手には、その人そのものになりたくなる。

 その人物の血の全てを、欲する気持ちが抑えられない。それが自身にとっての"普通"なのだ。

 

 そんな自身の"普通"を否定し、あまつさえ命を奪おうとした人物が居た。故に―――

 

「お茶子ちゃんの血と"個性"で、高いとこから落としたの」

「……!?」

 

 以前の遭遇の折、注射器に近い武器で採られていた血液。

 その使い道、および自身の"個性"により起こされた惨劇を、鮮明に思い浮かべてしまった麗日の思考が一瞬漂白される。

 

「『好きな人の血』だと"個性"もその人になれた―――あの時とっても幸せだったよ」

「……っ! トガぁッ!!」

 

 何よりも馴染み深い自身の"個性"だからこそ。

 自分にもそれが可能であることが考えるまでもなく理解出来る。出来てしまう。

 

「私の、"個性"……『無重力(ゼログラビティ)』をそんなことに……ッ!」

 

 彼女が親友達から教えられた、人それぞれの"個性"が持つ確固たる『意思』。

 向けられる笑みとは対照的に、凶行に嘆く小さな少女の姿を、麗日は自身の中に幻視していた。

 

「……? お茶子、ちゃん?」

「う、あっ……!?」

 

 一方で、彼女の激昂の理由が掴めず戸惑いを見せるは渡我被身子。

 しかし動揺とは裏腹に、必要に迫られ鍛えられた彼女の戦闘技術は、感情の発露で疎かになった麗日の武道に基づく動きを容易く見切り、再び床に組み敷くに至った。

 

「……っ、()()は! 人を落として幸せを感じたりしない! さっきから何が言いたいの!?」

「…………」

 

 今度は振りほどかれない為にか、麗日の喉元に刃物を押し当てたまま、渡我は矯めつ眇めつ彼女を眺める。

 沈黙を数秒、首を傾げたままの渡我は朴訥と呟いた。

 

「……お茶子ちゃん、何だか変わりました? こないだの人とちょっと似てるのです」

「……?」

 

「モヤモヤしたままは気持ち悪いのです。だから聞きたくて……でも今のお茶子ちゃんは分かんないです」

「何を―――」

 

 

「―――もう一回、刺したら。もう一回お茶子ちゃんになったら、分かるです?」

 

 

 首筋に当てられた刃が惑いながらも皮膚を裂く感覚に、麗日は総身を震わせた。

 相も変わらず殺意も敵意も感じさせない死の気配に、彼女の思考は激しく空転を始める。

 

(あかん……この体勢、返せへん……! ……今動いたら、首……! 誰か……梅雨ちゃんがまだ近くに……でも……!)

 

「刺すから、動かないでね」

 

 ナイフをそのままに、渡我が空いた片手に注射器に似た武器を握る。

 刺した相手の血を必要量抜き取るというそれを、抜き取られる血の行方を再度意識してしまった麗日は、憤りと死の恐怖に挟まれたまま歯を食いしばる。

 

(血ぃ採られたら、また『無重力』に……! 誰か……誰か居てくれたら……! デクくん……! 歩ちゃん……! たす、け―――)

 

 

「―――どなタか、ソこに居るンですカ?」

 

「「……!」」

 

 

 薄暗い家屋の中に届いた声に、目を剥いたのは両人。

 しかし聞こえた声がややくぐもってはいれど幼い少女の声であることに気付いた麗日は、恐怖と混乱を振り払って警告を叫んだ。

 

「こっち来たらあかん!! 逃げてっ!」

「邪魔、しないでください」

 

 対して渡我は苛立ちを隠さず、視界に見えた小さな人影に手の中にあった注射器を投射する。

 光源に乏しい閉空間で、しかし投げられた針は狙い過たず顔を出した少女の額を捉えた。

 

「アッ」

「ああっ!?」

 

 仰け反った少女の影に、麗日が絶望に滲んだ悲鳴を上げる。

 けれど浮かんだそのシルエットが、彼女の想像した通りに倒れることはなかった。

 

「…………『炸裂』」

「え、わぷっ!?」

「は? えっ? ……これ、水?」

 

 さらには二人から見えていた人影が爆散。それを形成する『何か』が大量に飛来した。

 その内一つを顔で受ける形になった渡我が仰け反り転がされる中、麗日はコスチュームを濡らす青い液体を見つめる。

 

「……っ! 邪魔を―――」

「【液生黒手】」

 

「「えっ」」

 

 猛然と起き上がり飛び掛かろうとした渡我の、どうにか身体を起こし身構えた麗日の、それぞれの視界に唐突に生えた二本の黒い腕。

 一本は渡我の、もう一本は麗日の、それぞれの根元は()()()()()

 

「なにそ―――ア゛っ」

 

 自身から生えた腕に抑えられ、相対する相手の胸から繰り出された拳が渡我の胴を捉える。

 謎の黒腕に込められた腕力は、壁を破壊し家屋の外まで(ヴィラン)の少女の身体を吹き飛ばした。

 

「え……えぇ……?」

「ふゥ……」

 

 壁に空いた大穴、吹き飛ばされた敵と危機、液体に戻った黒い腕。

 目まぐるしく変わった状況に目を白黒させつつも、麗日は満足気に頷く液体に包まれた『少女』へと感謝を伝えるべく声を掛ける。

 

「あ、えと……ヒーロー、なんです、か? た、助けてもらったみたいで―――」

「ン……」

 

 それに気付いた『少女』はくるりと振り返り、にっこりと笑って口を開いた。

 

 

「―――初メましテ(久し振りね)お茶子チャン(お茶子さん)

 

「…………え」

 

 

 耳に届いた声は、確かに一つ。

 なのにまるでどこか彼方から聞き慣れた誰かの声が重なった気がして、麗日は目を見開く。

 

「……あなた、いったい―――」

 

「おいトーコぉ! 次行くぞ!」

「わワっ!? はイ、ミルコさん! 今行きまス!」

 

「あ……っ」

 

 しかし違和感の元を麗日が尋ねるより先に、『少女』は近くから届けられた女性の声に応答し、その場から跳び去っていく。

 吹き荒れた粉塵に一瞬閉じた瞼を開けた時、彼女の視界にはその背中だけが小さく映っていた。

 

「ア、そうダ、ミルコさン! さっき家ノ中にヴィランが居ましタ!」

「何!? 先に言え! どこだ!」

 

「……吹き飛ばシちゃいマシた。あっチの方ニ」

「あぁ? ……飛ばし過ぎだろ! 何してんだ!」

 

「すみませン!?」

 

 

 

 

「……『干渉』、さん……?」

 

 徐々に遠くなるやり取りを耳に入れながら、麗日はその方向に呆然と視線を送る。

 やがて戻ってこない彼女を案じた蛙吹に見付けられるまで、彼女はその場に立ち尽くしていた。

 





 原作に比べ精神的にガタガタな麗日さんではトガちゃんに対抗出来ず。
 トガちゃんも様子のおかしい麗日さんに乱入者も重なってモヤモヤを晴らせませんでした。
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