おしゃべりな"個性"   作:非単一三角形

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 新章前の繋ぎ回。



C4-17 破られし安寧

 

 ―――その後。

 

 病院一帯を塵に替え、緑谷出久(OFA所有者)を追った死柄木弔、集結したニア・ハイエンド達、そして都市を縦断し辿り着いたギガント・マキアとヒーロー達の戦いは、互いに最大の目的を果たせずに一旦の幕引きを見ることとなる。

 

 前線の生存者、および避難・救助等を終え前線へ向かった者。

 動ける者達が撤退を始めた死柄木を阻むも、彼らの確保には至らず。

 

 死柄木一行に残ったのは、頭である当人と十数体の近似・最上位脳無(ニア・ハイエンド)

 病院と同時に強襲を掛けた群牙山荘から、元(ヴィラン)連合、現超常解放戦線より幹部を含む132名。

 

 一方、ヒーロー側では―――

 

 

「……おい、今何つった?」

 

 負傷者が集められた簡易施設の中、比較的軽傷ながら身を休めていた『兎』はしかし、たった今()()を告げた警官へと苦々し気に問い返す。

 彼女を含め、顔を向ける余裕のあった十数人の視線を浴びながら、彼は繰り返した。

 

「聞いての通りだ。奴らが今向かっている先は……対"個性"最高警備特殊拘置所『タルタロス』」

 

 それを耳にした者から、理解が()()()()()()()者から、戦慄が伝搬していく。

 今、其処に何が―――()()居るのか。其処に向かう彼らが何を目的としているのかを。

 

 国内最高かつ最大規模の警備システム―――彼らと直接対峙しその脅威を思い知った者達ほど、そんな触れ込みを信じ楽観視出来る余裕からは無縁となっていた。

 

「……『トーコ』か」

「……ある()()()()()()によって『電波』を介した指示の傍受に成功した。……散開した脳無達に届かせる為にか、奴が広範囲へ一斉指示を行ってくれたお陰でもあるが……その人物が受け取った位置情報をこちらで照らし合わせたことで奴らの目的地が判明したんだ」

 

 一瞬、目の前の警官に探るような瞳を向けたミルコが、返される眼差しにややあって息を吐く。

 しかし納得を見せた彼女と対比するように、居合わせたヒーロー達には動揺が広がっていた。

 

「……今回の作戦の為に全国からヒーローを集めたはずだろ……?」

「今、追加で出せる戦力なんて、もうどこにも……」

 

「……ああ。確保した超常解放戦線構成員16929人の護送、その他全国に点在する支部及びシンパの制圧……重傷者を除き()()()()()()ヒーローは、最早ここにいる者達だけだ」

 

 互いの顔色を伺うようにして目を合わせたヒーロー達が、やがてその視線を一人に集中させる。

 この場にいる最大の実力者、最高の肩書を持つNo.5(ミルコ)へと。

 

No.1(エンデヴァー)No.2(ホークス)は共に瀕死の重傷、No.3(ベストジーニスト)も消耗に仮死の後遺症が重なり本調子には程遠く、No.4(エッジショット)の現在地はここから80km先の群牙山荘……向かってもらうには距離があり過ぎる」

 

 顔色を青くしていくヒーロー達を見渡しながら、彼は今一度口を開く。

 

 

「そこで聞きたい。君は―――」

「無理だな」

 

 

 しかし、彼の問い掛けは声になる前に否を突き付けられる。

 驚く彼に答えたのは、不本意という感情を顔中に貼り付けたミルコであった。

 

「……死んででも達成出来る目が1%(パー)でも有んなら行く。けどダメだ、勘が言ってる。今こっから何人連れてこうが0%(パー)だ」

 

 その言葉に一部のヒーローが悔し気に、また一部のヒーローが微かな安堵の息を吐く。

 ……後者に対しミルコは眉根を吊り上げたが、それ以外に何かを口にすることは無かった。

 

「……そうか。いや、私も同じ見解だよ」

「……あん?」

 

 警察という組織の一員としては場違いな言葉に、ミルコが直前とは違った理由で眉を寄せる。

 そんな彼女に微かに苦笑いを浮かべた上で、彼―――塚内直正は疑問に答えた。

 

 

「本来こういう状況での指示は公安から出るんだが、今はそちらも機能停止しているらしくてね。ついでに言ってしまえば『彼女』からの情報を信用したことすら私の独断さ」

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 ―――本土から沖合に約5km。対"個性"最高警備特殊拘置所、通称『タルタロス』。

 国民の安全を著しく脅かす、又は脅かした人物を、厳重に禁錮し監視下に置くべくある施設。

 

『―――セキュリティレッド発令。侵入者アリ、セキュリティレッド発令』

 

 6つの居房に区分され、収監者は"個性"の危険性、事件の重大性によって振り分けられる。

 危険性の高い人物程地下深くへと収監され、最下層は地下10階、水深約500m。

 一度入れば生きて出ることは叶わないとされており、『"個性"社会の闇』とすら呼ばれている。

 

『―――橋降下開始。コットス(戦闘用ドローン)出撃。対象の殺―――』

 

 侵入者の生命を顧みない殺傷力と物量に特化した最大級の防衛設備。

 完全なるスタンドアローンで稼働する最高の警備監視システム。

 社会の為、人々の安寧の為、そうあれと願われた不落の監獄は、されど今―――

 

「―――監視棟崩壊!! 死柄木と脳無だ!!」

「監視システムダウン! EMP(電磁パルス)のような攻撃も受けたようだ」

「復旧まで3秒―――待て……何で……システムダウンは中から分からないハズだ!」

 

 空から、海から、襲い掛かるは超越者と、疲労も死の恐怖も感じぬその(しもべ)達。

 外から、内から、奇怪な手段で成されたシステム停止により、引き起こされるは収容者の暴走。

 

 銃器を手に制圧を試みる看守達。

 独房を抜け出し各々の"個性"を振りかざす収容者達。

 ()()()()を解放すべく地下へと進む超越者。

 

 血飛沫と硝煙、怒号と破壊が飛び交う地獄の渦中で。

 

 

 

 

「―――【掌握(スフィア)】」

 

 

 目鼻、口を覆う布、手足を縛る鉄枷。

 頭部に、胸部に、めり込むように突き付けられた銃口。

 僅かの"個性因子"の動きすら、余さず感知し動き出すはずだった各種機器。

 

 布が落ちる。

 錠が回る。

 銃口が少しずつ脇へと逸らされ、取り外された幾つもの管が床を擦る。

 

「…………困ったわ、ね」

 

 約半年振りとなる、その足で床を踏む感覚に身体を震わせながら。

 干河歩の身に宿された"個性"『干渉』は、乾く喉から絞るように呟いた。

 

「今更逃げる気力なんて……でも、このままここに居たら……」

 

 ()()()()()によりここ数日で、地上側から海底に近い場所へと独房を移されていた彼女。

 壁の先、天井の向こうへと【掌握】した空間を伸ばして、また小さく溜め息を吐く。

 

「……この生物とも無機物ともとれない感覚……ああ、覚えてるわ。こいつらが、脳無……」

 

 【掌握】下を動く()()に"干渉"、その接近を感知した彼女はそう独りごちる。

 監獄生活で棒きれの如く衰えた手足を"個性"で操作し、聞こえる喧噪を耳に入れながら。

 

「そして、先頭に居るこいつが…………はは、何よコレ……」

 

 海底方向へと進行する『彼』へと感覚を伸ばしたところで、彼女は自らの手で顔を覆い呻く。

 指の隙間から覗く瞳には今や、やつれた四肢以上に覇気は無く。

 

「こんなの……今更私に、何が……っ」

 

 言いかけた彼女の言葉が、不意に途切れる。

 何かに気付いたように見上げたその視線の先は、重々しい錠が回されていく独房の扉。

 

 

「ああ…………私は、何の為に―――」

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 ―――蛇腔病院、および群牙山荘における決戦から数日後の朝。

 雄英高校1年A組用の寮はその日、ハチの巣をつついたが如き混乱の最中にあった。

 

「みんな大変だ!! ドアに緑谷からの手紙が……!!」

「おまえも……!?」

「なんだよこれ……」

 

 その原因は、推定前日夜の内に全員の部屋扉に挟まれていた置手紙。

 クラスメイトの一人、緑谷出久がその心中と、"個性"に関する秘密を綴ったソレを残し、彼らの前から姿を消したことによるものだった。

 

「『オール・フォー・ワン』……!? (ヴィラン)が……狙ってる……!?」

「緑谷……! 何なんだよこれ……!!」

「こ、こんなの……ねえ麗―――ヒィッ!?」

 

 その場の多くの者が真っ先に頭に浮かべた懸念は、彼と最も近かったクラスメイトの反応。

 うち一人が恐る恐るといった風情で彼女を視界に収め……悲鳴と共に目を逸らした。

 

 

「―――あんっ……のッ! ばっかやろぉッ!!?」

 

 

 そこにあったのは、常のうららかさなど彼方に投げ捨てた鬼の如き形相。

 背中を向けてすら感じ取れるような轟々と噴き出す怒気。

 沈黙は一瞬、手の中の書置きを握り潰した彼女は、寮の出入り口へと身を翻し―――

 

「どこ行く気だ、丸顔」

 

 その足を止めさせたのは、失踪したクラスメイトの幼馴染たるもう一人の縁深き者(爆豪)

 呼び掛けの後、背後へと歩み寄ってきた彼に、麗日はその勢いのまま振り返る。

 

「連れ戻しに「当ては?」……っ」

 

 出しかけた叫びに首根を抑えるように問いを被せられ、麗日は黙り込む。

 そのまま意気消沈した彼女へと、爆豪は己の見解を淡々と告げた。

 

 

「―――今の雄英は入る人間だけじゃねえ、出る人間も厳しく監視してる」

 

「なのにどうやってデクが昨夜のうちにこんなモン仕込める? その足で出ていける?」

 

「100%教師が加担してんだよ。筆頭はオールマイト……そっから人数絞んならあのネズミ(校長)だ」

 

「そんでてめェは誰に、何を話して、どうやってこっから出てく気だ? なあ、丸顔」

 

 

「……それ、は……」

 

 燃え盛る火に水を被せられたかのように、言葉の雨に鎮火されて立ち尽くす麗日。

 しかしいつか彼と対峙した時のように、目の光だけは絶やさずにいた彼女は徐に顔を上げた。

 

「……それでもっ、私達にまで―――!?」

「……あ?」

 

 上げかけた麗日の気炎は再度、誰もが予期しない形で留められた。

 彼女の私服、ポケットの中から響く携帯電話の着信音という形で。

 

「……な、なあ、ケータイ鳴ってるぜ、麗日?」

「分かっとる! いったい誰やこんな時、に…………っ」

 

 苛立ちを全方位に放ちながら、携帯の画面に目を通した麗日が動きを止める。

 その急激な変化に顔を見合わせる級友達に見守られつつ、彼女は呆然とした面持ちで通話状態にした端末を耳元へと上げた。

 

 

「も……もしもし?」

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………久し振り』

 





 死柄木起床時の意識が原作より明瞭だったため、『崩壊』を免れた脳無の数が……
 原作ではこの時点で残り七体です。


 次回、新章開始……の前に幕間を一つ挟みます。
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