歩ちゃん's ソフトボール投げ記録計算式
射出開始地点:水平座標 30 cos45° ≒ 21.2m、垂直座標 30 sin45° ≒ 21.2m
重力加速度:9.8m/s^2
射出速度:180km/h = 50m/s
垂直成分 50 sin30° = 25m/s、水平成分 50 cos30° ≒ 43.3m/s
頂点までの時間:25 / 9.8 ≒ 2.55秒
頂点:25×2.55 - 9.8×2.55^2 / 2 + 21.2 ≒ 53.1m
落下時間:sqrt(2×53.1 / 9.8) ≒ 3.29秒
総滞空時間:2.55 + 3.29 ≒ 5.84秒
記録:21.2 + 43.3×5.84 ≒ 274.2m
同様の計算で爆豪くんの記録700m近くを出そうとすると、必要な初速は320km/h少々。
ちなみにソフトボール世界最高球速が135km/h(下投げ)です。
なお他種目の記録は割と適当です。
―――入学初日、放課後。
初日とは思えない濃密な一日に、気怠く座っていたわたしに掛かる声が一つ。
「歩ちゃん、駅まで一緒に帰らへん?」
「勿論です、行きましょう、お茶子ちゃん!」
《急に元気》
今日の体験について話し合ったり、住んでいる場所の話になって、「アパートに下宿中です」「一緒やん!」と他愛のない会話をしながら校舎を出て正門前。
前方に見えた人影に、ツッテケテーと走り出したお茶子ちゃんを追いかける。
「お二人さーん! 駅まで? 待ってー!」
「あ、緑谷さんに飯田さん。わたし達も御一緒して良いですか?」
「君達は……
《W∞女子》
「干河歩です」
「麗日お茶子です! 飯田天哉くんに緑谷……デクくん! だよね!!」
「デク!!?」
先の"個性"把握テストの途中、同じ中学出身だったらしい爆豪さんが口にしていた名前を使ったお茶子ちゃんに対して、何だか慌てた様子の緑谷さん曰く、彼に付けられた蔑称だったとのこと。
「でも『デク』って……『頑張れ!!』って感じで、なんか好きだ私。響きが」
「お茶子ちゃん!?」
じゃあ呼び方を改めた方がいいかなと考えていたわたしの横で、お茶子ちゃんが輝く笑顔で斜め六十度彼方のコメントをかっ飛ばす。
「デクです」
「緑谷くん!! 浅いぞ!! 蔑称なんだろ!?」
《ちょっろ》
そして気の毒なくらい真っ赤になって「コペルニクス的転回……」などとよく分からないことを呟く緑谷くんに、本当によく分かってない様子のお茶子ちゃん。
わたしの友達は意外と悪い女になるかもしれない。わたしは『干渉』と共にそう思った。
―――駅にて、男子二人と別れ。
あ、乗る電車同じなんだー、と盛り上がり。
あ、降りる駅も同じなんだ、と喜び合い。
あ、向かう方向も同じなんだ……と顔を見合わせて。
「―――いや、同じアパートやん!?」
「……何となくそうかなって、途中から思ってました」
果ては部屋が隣同士と発覚した際には、一周回って変な笑いが出た。
ここまで来ると逆によく今まで出会わなかったなあと、二人で首を傾げる。
それぞれ入学式の数週間前には入居していて、生活圏も当然被っていたのに。
「スーパーの特売とかですれ違ったりもしてへんよね……?」
「あ、その……あまり安い食材は口にするなとお母様に言われていて……」
「お母様!? あれ、ひょっとして歩ちゃんってお嬢様!?」
「そ、そこまでではない、と思いますよ?」
「…………ご実家でお料理されてたのは?」
「え、家政婦の方ですが」
「セレブやないかい」
《キレのある突っ込み》
その後、お互いの実家の経済状況を知り、ちょっぴり友情に亀裂が入りかけたりもしたものの、そんな世間知らずを解消するための下宿なんやな、と納得され。
セレブっぷりを確認したる、と部屋に乗り込んできたお茶子ちゃんに、『干渉』も知らなかった生活の知恵を教わっているうちに、外はすっかり暗くなっていた。
「……なんか思ったより絵に描いたようなお嬢様、って感じやなかったなあ」
「それは、えっと……ありがとうございます?」
褒められてるのか貶されてるのかよく分からない感想に小首を傾げる。
尚も部屋のあちこちを見回すお茶子ちゃんもまた、不思議そうに続けた。
「色々知らんことはあったけど、でも誰かに助言されてたみたいな感じがして……誰かもう一人とルームシェアでもしてたみたいに感じたんよ。……でも洗い物とか間違いなくひとり分やし……」
「あ……」
《……へえ》
お茶子ちゃんが何に引っかかったのか、その疑問の源に気付いて驚愕した。
頭の奥からも驚いて、でもどこか嬉しそうな呟きが聞こえる。
(……良いよね、『干渉』?)
《……任せるわ、
二人分の気配があって、一人分の生活痕しかない部屋。
そんな些細な違和感から、
「……お茶子ちゃん。道すがら話したわたしの"個性"についてなんですけどね」
「歩ちゃん?」
「物体、非物体……それ以外にもう一つ、『干渉』できるモノがあるんです」
「もう一つ……?」
パチパチと目を瞬くお茶子ちゃんに、わたしは手の平を上に右手を差し出す。
「お母様以外には特に親しい友達にしか話していないわたしの秘密、聞いてくれますか?」
「…………っ、うん!」
差し出した手を見て、それからわたしの顔をじっと見つめて。
ぐっと口角を上げたお茶子ちゃんは、その手をグッと握り返してくれて。
「《【
暗転した視界に、意識を委ねた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
目を開ければ、視界に映るのは真っ白な部屋の中。
そう広くない部屋の中央に置かれた白い机に、わたしが座ってるものを含めて白い椅子が四脚。
向かいの椅子に座っているのは、目を閉じた状態のお茶子ちゃん。
やがてその瞼が、ゆっくりと上げられて。
「―――え、ここどこ!?」
「「ようこそ、お茶子ちゃん」」
「あ、歩ちゃん……と、誰!?」
気持ちの良いリアクションしてくれるお茶子ちゃんに、隣の席を見るように指を差して促す。
顔中に疑問を貼り付けたまま、お茶子ちゃんは目を白黒させつつそちらに顔を向け―――硬直。
「おちゃこー! おちゃこー!」
「…………何コノかわええ生き物!? 何が起きたん!? 説明して!!」
自分を小さくしたような、満面の笑みを浮かべる女の子にじゃれつかれながら、お茶子ちゃんは腹の底から絞り出すような叫びを上げた。
「さて、何から説明しましょうか、『干渉』?」
「まあ、ゆっくり話をしましょう、お茶子さん。それと―――『
―――"個性"には、意思が宿る。
都市伝説に近い形で扱われるその説に、わたしは明確な解答を持っていた。
意思はあれど、持ち主と言葉を交わせるほど『強い』ものではない。
人の体内から"個性因子"なるものが発見され、その『動き』を測定できるようにはなれど、そこに意思があるかどうかを裏付ける証拠は無く。
しかし、わたしになら、わたしの"個性"にならば。
そこに『動き』が、『力』があるならば、『干渉』し【加速】させられる。
微弱な意思を、対話可能な『強さ』にまで。
「―――なんて言っておいてなんですけど、実の所はそれっぽい仮説ってだけです。わたし自身は"個性"が発現したその日から、『干渉』とこうしておしゃべりしているので」
「私に"私"を使っているのだという仮定の基にね。普段から歩の足りないところを手出し口出し補っているから、お茶子さんの覚えた違和感はそのせいよ」
「ほあー……」
お茶子ちゃんが驚きつつも、少しずつ顔に納得の色を広げていく。
その腕の中に、十歳前後の女の子に見える『無重力』を抱きしめて。
「えへへー……おちゃこー」
「……でも、それなら私の"個性"は何でこんなかわええの……? 『干渉』さんは同い年ぐらいに見えるし、歩ちゃんともそんな似てへんよね」
「これも仮説ですけど、基本的に本人より四年遅く生まれるからじゃないかなと。見た目については個人差が激しいみたいでなんとも……」
「これまで見てきた例だと"異形系"が特に似ても似つかなかったぐらいね。歩が先に言った通り、試した相手が少ないから確かなことは言えないわ」
わたしと『干渉』のように、見た目から性格まで共通点がほとんど見つからないこともあれば、お茶子ちゃんのような姉妹にすら見える例もある。
本人は穏やかな性格なのに"個性"はやたらと攻撃的というか、手の付けられないやんちゃ坊主だったことなども。
今まで見てきた小中学生時代の友達の"個性"を例に説明していくと、お茶子ちゃんはふむふむと頷いた後で小さく「この子で良かったわ……」と呟いた。
「……あ、そうだ。折角ですし『無重力』さんに聞きたいことがあるんです」
「この子に?」
「んー? なあにー?」
「―――"個性"『無重力』のデメリットについて、ね」
一瞬、言葉にはしにくいな、とわたしが思うや否や、察したらしい『干渉』が代弁してくれた。
案の定、その一言にお茶子ちゃんはムッと眉に皺を寄せ、『無重力』を強く抱きしめる。
「他の物体なら許容量は約3
「…………そう、なん?」
『干渉』の指摘に、思わぬことを言われたという顔で、呆然としていたお茶子ちゃんは、暫しの沈黙を経て腕の中の『無重力』に確認する。
暫しポカンとしていた『無重力』は、聞かれた内容を理解した途端ムッと眉間に皺を作った。
「……そう、そうなの! おちゃこ、使い方、悪い!」
「えっ!?」
「おちゃこ、わたしにまで"わたし"を使っちゃう。だから、ぐちゃぐちゃ!」
「うええぇっ!?」
あまりのショックに三度硬直するお茶子ちゃん。
わたし達の出会いの切っ掛けにもなったとはいえ、キラキラ(婉曲表現)を回避できる可能性があったと言われたら気持ちはとてもよく分かる。
同系統であっても、詳細まで全く同じ"個性"ということはまずあり得ない。
よく似た"個性"を参考には出来ても、自分で使い方を探る必要はどうしても出てくる。
その為、思い込みから非効率な使い方をしていたことが随分後になって判明したという体験談を持つプロヒーローも少なくない。
「つまり自分と"個性"を別々に認識して、自分だけに"個性"を使うことが出来れば、今後は急激なキラキラ(婉曲表現)に怯える必要もなくなる?」
「うん!」
「マジでか!?」
"個性"のことは"個性"に聞く。
他人に聞かれたら、それが出来れば苦労しない、と言われそうなことだけれど、わたしは四歳のあの日からそれをずっと実行してきた。
とはいえこれからも『干渉』の事を親しくもない相手に話すつもりはない。
……普通に精神疾患だと思われるだろうというのもあるし。
けれど、友達の役に立てるなら話は別。
わたしが話す前から
「さ、早速一回試してみる! ……えっと、歩ちゃん?」
「はい、戻りましょう。『干渉』?」
「ええ、やるわよ」
「「解除」」
―――ふわふわと、アパートの一室に浮かぶお茶子ちゃん。
ぎゅっと目をつぶって、緩やかに回転しながら、時々静かに息を吐き。
……三十秒。……一分。
すっと目を見開き、徐に両手の指先を合わせ、解除。
そのまますとんと着地したお茶子ちゃんが、ふっとわたしに微笑みを見せて。
「…………おぇ
※しばらくお待ちください
《……片方の腕だけを自分と認識するな、と急に言われたようなものよね》
「……体の一部からそう簡単に認識を外せるわけないですよね……」
「…………さき、いうてえな」
死んだ目でちゃぶ台に突っ伏すお茶子ちゃん。
色々と申し訳ない気持ちになりながら、
「その、えっと、ごめんなさい、お茶子ちゃん」
「ん、いや、歩ちゃんには感謝しとるんよ? もうすっかり諦めとった事が苦労はしそうでも無理やなかったって分かったし……」
そう言って、何か思いついたようにお茶子ちゃんが胸元に手を当てる。
「『無重力』と話せる日が来るなんて夢にも思ってへんかったし。……『干渉』さんは、今も?」
「はい。わたしの頭にいつでも口煩く呟きを溢してきますよ」
《あら、口煩くさせてるのは誰かしら?》
「あー……ああー……それでか」
「……あの、ひょっとして今何か失礼な事考えてませんでした?」
《意外と言うこと言うわよね、彼女》
『干渉』による補助が無くなれば、話が出来るほどの『動き』は失われる。
これは今まで【面会】を使ったどの"個性"でも共通していること。
それでもこの『四者面談』を経験した誰もが、"個性"との付き合い方が変わったと言っていた。
自分の中に居る、自分ではないもう一人を意識すると、自然とその使い方も深く考えられるようになるそうだ。
目を瞑って「そっかー……それで……」と何やら頷いていたお茶子ちゃんは、不意にはっとした顔になって呟いた。
「―――そうや、デクくん!」
「デクさん?」
《緑谷さん?》
「デクくんの"個性"も、私達みたいに話し合ったら何とかならへんかな?」
書きたかったシーンその一。
『無重力』ちゃんの見た目は原作の回想に出てくる幼女お茶子に近いイメージ。
『干渉』さんについては金髪黒目でぺったんなことぐらいしか決めてません。
『無重力』のデメリットについては独自解釈。許容量については原作22話扉絵から。
あと麗日さんが意外と口が悪いのは公式設定(単行本一巻より)。