おしゃべりな"個性"   作:非単一三角形

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 答え合わせ、その三。



C5-6 まちがい

 

「―――これが、私から見た、全てよ」

 

「……何もかも事実よ。少なくとも、私にとっては」

 

「…………」

 

「……ええ、少し時間を置きましょう、お茶子さん」

 

「それから『無重力(ゼログラビティ)』さんは……そう、分かったわ」

 

 

 

 

「―――ねえ、お茶子さん。本当に、聞くつもりなの?」

 

「……ええ、まあ……そうなのだけど……」

 

「…………」

 

「……もう、良いんじゃないかしら? お茶子さんだって、そんな顔で……」

 

「…………そう。そっか……」

 

 

 

 

「―――私は……諦めて、見限ったわ」

 

「それに、変わらないと思うわよ? たとえあなたの言葉であっても」

 

「…………」

 

「……それでも? ……分かったわ」

 

「それじゃ、少し待っていて」

 

 

 

 

「―――今、(あゆみ)を起こすから」

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「ぁ……?」

 

 ゆっくりと、開かれた瞳に映し出される真っ白な部屋。

 パチパチと繰り返された瞬きの後、眼前でその顔を覗き込む人物に、黒い瞳が見開かれる。

 

 

「お……お茶子ちゃぁぁんッ!?」

「……歩、ちゃん」

 

 

 縋るように飛びついて来た親友を、麗日は支えるように受け止める。

 数秒、そのまま親友に縋りついていた彼女は、ふと何かに気付いたように辺りを見渡した。

 

「ここ……【面会(ディグアウト)】の……それじゃ―――ひぅ!?」

「…………」

 

 そうして視界に入った『干渉』の姿に、彼女は悲鳴と共に身を強張らせる。

 その様子を冷めた瞳で一瞥した『彼女』は、何を喋ることもなく視線を背けた。

 

 

「……歩ちゃん」

「お、お茶子ちゃん! 聞いてください! 『干渉』がひどいんです!」

 

「歩ちゃん」

「お母様の事とか、おじ……お父様や、わたしの……それに、相澤先生も―――」

 

「歩ちゃん!」

「っ!?」

 

 

 肩を掴み、揺さぶる様な呼び掛けを受けて、彼女は驚いたように口を閉ざす。

 そうして向けられた不思議そうな顔へと、麗日は痛みすら感じさせる表情で問いかけた。

 

 

「『干渉』さんが……お義姉(ねえ)さんの"個性"やったっていうのは……本当なん?」

「…………え」

 

 

 激情を必死に抑え込む麗日の瞳を、彼女はどこかぼんやりと見つめ返した。

 眼前に露わになったそんな様子に、やがて麗日の口から堰を切ったような叫びが溢れ出す。

 

 

「助けてくれた『叔父様』いうんが、オール……っ、"個性"をくれたっていうのは本当なん!?」

「お、お茶子ちゃ……」

 

「お父さんが、"個性"を使ってる姿を見て倒れたって……それを……っ!!」

「え、あの……」

 

「お義姉さん、が……生まれたのを間違いやなんて……本当に、そんなこと言うたん!?」

「…………」

 

 

 降り注ぐ問い掛けに返されるのは、()()()()()()()()()

 数度、答えを求めるように彷徨った視線が、再び『彼女』の姿をそこに映す。

 

 

「…………『干渉』!? お茶子ちゃんに何を―――」

「ッ! 私は! 歩ちゃんに聞いてるんよっ!!」

 

 

 

 

「―――だから、無駄だって言ったのよ」

「っ!」

 

 小さく、小さく、口の中で溢された呟きを聞いたのは、傍らに座るもう一人の"個性"。

 

「私だって……最初から恨んでいたわけじゃない。憎んでいた、わけじゃない」

「『干渉』ちゃん……?」

 

 持ち主とよく似たうららかな眉を下げ、『無重力』は『干渉』の声をただ受け止める。

 

「歩は……何も知らなかった。何も、悪いと思えるはずがなかった。分かっては、いたの」

「…………」

 

「でも……それでも……っ!」

 

 

 

 

「……なあ、歩ちゃん……? 嘘やって、言うてぇな……」

「お茶子、ちゃん?」

 

 瞳に涙を滲ませながら、麗日は諦められない思いで尚も問いかける。

 絵に描いたような無理解を宿す表情には、嘆く親友への困惑ばかりが浮かんでいた。

 

「本当に……ほんまに歩ちゃんは、分からへんの……?」

「分か、る……? 何を……」

 

「『干渉』さんが! 怒ってる理由が! ほんまに分からへんのって聞いてるんよぉ!?」

 

 

 

 

「……歩の中で、『お母様』は絶対なのよ。どこまでも」

 

「『お母様』から教えられたことこそ、世界の真理。世界の真実」

 

「どんな価値観に触れさせようとも……自尊心を傷付けて、歩の中の私の優先順位を上げさせようともしたけれど、そこだけは変えられなかった」

 

「だから…………だから、私は―――」

 

 

 

 

他人(ひと)の命を、意思を! 踏み付けにしてたお母さんが! それでも正しいって思ってたん!? 一度でも間違ってるんじゃないかって、歩ちゃんが思ったことは、ほんまに無かったんッ!?」

 

 

 

 

「…………お母様は、間違ってなんか、いないです」

 

 

「ッ!?」

「! おちゃこっ!」

「…………」

 

 一歩、二歩。

 後退り、へたりこむように崩れ落ちた麗日の元へ、『無重力』が駆け寄っていく。

 双方にそれぞれ一度だけ目を向けた『干渉』は、ただ黙って顔を背けた。

 

「間違って、ないです。だって、間違いなのは、お義姉様で、だって、だから、だって―――」

 

「歩、ちゃん……」

「……ここまで、ね」

 

 今一度、瞳を揺らし彼女を見上げる麗日の様子を見遣り、『干渉』はゆっくりと席を立つ。

 諦観、侮蔑、憎悪を混ぜ込んだ表情のまま、『彼女』は呟き続ける彼女に手を伸ばし―――

 

「だって、お母様が、間違いなら。お義姉様が、間違いじゃない、なら」

 

「「っ!? 待って!」」

「……っ」

 

 麗日と『無重力』、声を揃えた制止の言葉に、『干渉』の足が止まる。

 『彼女』もまた、その口から漏れた聞いた覚えのない思考の流れに疑問を抱き―――

 

 

 

 

「それじゃあ…………わたしが生まれてきたことが、()()()()()()じゃないですか」

 

 

 

 

「…………ぁ」

 

 金髪の少女が、その黒い瞳を見開く。

 

「あ゛、あぁ……」

 

 何も知らず、何の咎も無かった少女へと、突き付けていた事実に。

 

「なんで、わた、し……きづ、ぁな……!?」

 

 

 受け入れろ、気付けと、その心の臓に宛がい続けていた絶死の刃に。

 

 

「これ、じゃ……わたし……あのおんなと、おな、じ……っ」

「か……『干渉』さ―――」

 

 

「ねえ、お茶子ちゃん?」

 

 

 糸の切れた人形の如く椅子に崩れ落ちた『彼女』に、麗日が駆け寄ろうとしたその瞬間。

 温度の一切が排された呟きが、彼女の口からも溢れ出す。

 

 

「わたしが、生まれたこと……わたしの何もかも全部……間違い、だったの……?」

 

「ぜんぶ……わたし、さいしょからぜんぶ、まちがえ、て……!?」

 

 

 擦り硝子の如き瞳から、滂沱の涙を流す青髪の少女。

 覆った瞳の下から、呆然と嗚咽を漏らす金髪の少女。

 二人の友人の、砕け散る寸前のような姿に、麗日の思考は真っ白に染まる。

 

(あ、歩ちゃん……! 『干渉』さん……!)

 

 二人それぞれに対して、掛けたい言葉は自身の中に確かにある。

 されど今、どちらかに対して自分が動けば、残された方は()()すると直感は彼女に訴える。

 

(ど、どうしたら……どっちも、見捨てるなんて出来るわけ―――)

 

 

「おちゃこ!!」

 

 

 掛けられた声に振り向けば、そこには強く光を放つ眼差しを向ける己が半身。

 大きく目を見開いた麗日は、しかし迷いを断ち切るように口を開く。

 

「……お願い!」

「まかせて!」

 

 駆け出した二人それぞれが、涙を流す二人の肩を掴む。

 微かに顔を上げた友人へと、麗日は、『無重力』は、声を張り上げた。

 

 

 

 

「―――私は、歩ちゃんに会えて良かった!」

「―――『干渉』ちゃんが、おちゃこと出会ってくれて良かった!」

 

 

 

 

「一緒に雄英に通えて楽しかった! 同じ悩みを話し合えて嬉しかった!」

「おちゃことお話出来て嬉しかった! 一緒に頑張れるようになって楽しかった!」

 

「歩ちゃんと一緒やったから! どんな苦労をするんも、辛くなかった!」

「『干渉』ちゃんがいてくれたから! わたしがおちゃこを苦しませてたの、なくなった!」

 

「いつも一緒に笑い合って! 一緒に泣いて……! 一緒に頑張れるんが幸せやった!」

「今までよりずっとおちゃこの役に立てるようになって……ずっとずっと幸せだった!」

 

「歩ちゃんが生まれてきたこと、全部が―――」

「『干渉』ちゃんが頑張ってきたこと、全部が―――」

 

 

 

 

「「間違いやったわけ、あらへんよッ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………『干渉』」

「……歩…………?」

 

 

 ポツリ、と。

 溢された呼び掛けに、『彼女』もまた呆然と応える。

 歩と『干渉』、双方の()()宿()()()瞳が視線を重ね―――

 

 

 

 

「…………ごめん、ね?」

 

「っ、ぁ」

 

 

 

 

 金髪の少女の姿が、靄を纏うように崩れ始める。

 

「わた、し、は…………」

 

 開かれた黒瞳は微かに震え、冷めていた声音は一段高く。

 

「ずっと……私は、ずっと…………っ」

 

 

 響き渡ったのは、血を吐かんばかりの叫び。

 

 

「謝り、たかった……ずっとあなたに謝りたかった! あなたが悪いんだって言い訳して……先に謝るもんかって、意地張って!!」

 

「気付いて欲しくて……わたしにこれだけひどい事したんだって、あなたに気付いて欲しくて!! 始めはただそれだけだったのに……なのに、わたしは……っ!」

 

「あなたの人生をグチャグチャにした!! あなたが気付かないのを良いことに、見えないところばかり傷付けた! 全部、何もかも……取り返しが付かなくなるまで!!」

 

 

 靄が晴れたそこに座り込んでいたのは、傍らで寄り添う"個性"にも似た一人の幼女。

 

 

「わたしがまちがえてた……はじめから、なにもかも……! ……ごめんなさい……ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……っ」

 

 

 

 

「ごめんなさい…………あゆみ、おねえちゃん」

 





 求めたのは、ただ一言。




 伏線的なヤツのコーナー……は、要らないですね。

 それでは皆様、良いお年を。
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