決戦前の真意表明回。
《―――正直に言うと、まだよく分からないんです》
《お母様が、本当に間違っていたのか。わたしが……何を間違えていたのかって》
《でも……わたしが見ていたモノが、どこかズレていたんだなって》
《わたしがずっと、『干渉』を怒らせていたんだって》
《『干渉』が……ずっと、苦しんでいたんだってことだけは……分かった、気がします》
《だから…………もう少しこうして、後ろで見ていても良いかな?》
《わたしの、何がおかしかったのか。どうするべきだったのか……ゆっくり考えていたいから》
《これから当分は……わたしが『干渉』の"個性"だよ? なんて……えへへ》
「…………分かった、わ」
「あなたが……それで良いなら、もう暫くは……」
「…………何よ、その目は?」
「可愛かった? あ、あのねぇ……」
「……う、うるさいわね!? そう簡単に剥がれる外面じゃないんだから!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「―――今、時間あるかしら? 緑谷さん」
『かんっ……干河さん? じ、時間ならあるけど……』
雄英敷地内の一角、各種カメラ類の死角となる林の中。
携帯電話を片手に、同じ敷地内にいる級友へと通話を掛ける『干渉』の姿がそこにあった。
「ああ、周りに……まあいいわ。そこに耳郎さんや爆豪さんが居るならついでに伝えてもらえる? 私達の全部、お茶子さんには聞いてもらったって」
『っ!? う、麗日さん、は……』
「……特に口止めはしていないわ。お茶子さんが話してもいいと思った相手には……とだけ。言うまでも無いだろうけど、無理矢理は聞かないであげてよね」
『…………』
電話の向こうで絶句する緑谷に対し、彼女が初めに浮かべたのはその憂いを払拭する一言。
しかしそれを伝える直前になって、ふと思い立った彼女は薄い笑みと共に別の言葉を口にした。
「……勿論相当に衝撃を受けていたわ。時間があるなら、お茶子さんの部屋に向かってもらえる? 今、彼女を支えられるのは緑谷さんだけだと思うのよ」
『え!? そ、それは……』
「女子棟に踏み入るのが不味いというなら、耳郎さんに事情を話せばきっと協力してもらえるわ。あなたが辛いときに手を引いてもらった分を返せるいい機会よ」
『い、いやそれは……ええっと……!?』
「……何よ? 煮え切らないわね。まさかあなた、この期に及んで―――」
先日までの行動力は何処へやら、迷うような呟きを漏らす緑谷に、『干渉』が眉を吊り上げる。
今一度、発破の一つもかけようかと彼女が口を開きかけた瞬間、彼の返答は届いた。
『干河さんは、大丈夫なの……? その、さっきからずっと声が震えて……』
「……っ」
『もしかして今、泣いて―――』
驚きと共に視線を上げた『干渉』の頬から、幾筋もの雫がほろほろと落ちる。
羞恥に近い感情から口元を一度歪めた彼女が、眦を上げて選んだのは―――
「そういうことは気付いても口にはしないものでしょうが! 男なら!!」
『うえぇ!?』
泣きギレであった。
そして割と理不尽な八つ当たりであった。
「この際、言ってしまうけどね! あれから半年も経ってるのに何で一ミリも進展してないの!? お茶子さんに何か不満でもあるって言うの!? あんな分かり易い矢印をどうして見逃せるのよ、この鈍感! 朴念仁っ! クソナードッ!!」
『ク……!? な、何で干河さんまでそれを……!?』
「やっぱり他からも言われてるんじゃない!? 爆豪さんだろうけど! そんなんじゃ、いつまで経ってもお茶子さんを……ええい、いいからさっさと行ってきなさい!」
『ちょ、ちょっと干河さ―――』
ブツン、と。彼女の指で通話が切られる。
目元を拭いながら荒れた息を整える彼女を、
《……『干渉』?》
「……待ってごめん違う、これは参考にしちゃダメ」
《あはは……難しいなあ》
ばつの悪い表情で目元を覆う彼女を、その『内』から苦笑いでつつく『
実に賑やかなその『内面』を隠すが如く、彼女は林の中に蹲った。
「……っ」
《! 何の音?》
「秘匿通信デバイスによる連絡よ。……根津校長から、ね」
《えぇ……何でそんなもの……》
携帯電話を仕舞い込み、代わりに取り出された無骨な端末に目を剥く『彼女』。
そんな『彼女』を余所に、彼女は
「何か進展がありましたか? 根津校長」
『あぁ、
根津の口から語られたのは、全てが彼の描いた通りになったという報告。
例によって指令は、同じく機能しているはずの内通者へと向けたものであり。
万全を期すべく、と銘打ってその当人の連絡先を所望され。
結果として何の違和感を持たせる事も無く、
『―――そんなわけで君には、急ぎ指定した場所で心操君と合流してもらいたいのさ!』
「心操……確か体育祭で……成程、タネはそういうことでしたか」
最後の『詰め』に関する打ち合わせを言葉少なに行い、『干渉』は了承を返す。
それで要件は終わりかと彼女が思っていたところで、根津の呟きがその耳朶を叩いた。
『……時に質問なんだが、君に復学の意思はあるかい?』
「……そもそも籍が残っていたことこそ予想外だったんですが?」
投げられた問いに『干渉』が返したのは、やや胡乱な響きを含んだ応答。
心外とまでは言わないものの、想定と異なる立場を与えられていたことに対する懐疑を、彼女はこの機にとばかりに吐露していく。
「今は緊急時だからと目溢しされていますが、事が済めば私は再び監獄行きでしょう。おそらくは崩壊したタルタロスに代わって建造される新たな牢獄に。そんな人間が復学など可能だと?」
『だとしても、そう長い期間にはならないと思うよ?』
対して根津は例によってHAHAHAの笑い混じりに、己が見解を述べていく。
『そもそも
「……ええ、ですが……」
『そして、二回目以降は取り調べが成立しなかったと聞いているのさ。肉体が覚醒状態であるにも関わらず意識が確認出来ない、と。……これは君が彼女の意識を封じていたからなのだろう?』
《……!》
「……ええ、そうです」
『当時の彼女の答弁によって、それ以上の罪過が確定する事を防ぐ為。君の操り人形という印象を強化する事による心証回復。加えて牢獄における
《あ……っ》
「……買い被り過ぎですよ。それに、結局は……」
『脱獄向きな"個性"の持ち主であること、奴の残党にも近い扱いだった
「…………それでも、私は……」
『意思持つ"個性"の反逆……それこそ立証など不可能さ。君が背負おうとした十字架は、そもそも君にしか見ることも触れることも出来ない代物だったんだよ』
「…………」
《『干渉』……》
『それに、だ。……和解出来たんだろう? 干河歩君と』
《……わぁ》
「……幾ら何でもそれが分かるのはおかしくありません……?」
『そうでもないさ! 私にとってはね!』
耳に響くHAHAHAの哄笑に、いよいよ『干渉』は頭を抱える。
再度、《わぁ……》と呆気に取られたような呟きが、抱えたその頭の中で響いた。
『―――さて、質問に戻るが、どうだい? 復学の予定はあるのかな?』
「…………いえ、少なくともヒーロー科に戻る意思はありません」
投げられた問いを改めて思案し、『干渉』はゆるく首を振る。
一瞬、頭の中へと思考を飛ばした後で、やはり
「《―――私達に
『では、普通科への転科希望ということだね!』
《えっ》
「…………そう、なります?」
『まあ、どのみち出席日数が足りないから再び一年生からだけどね! HAHAHA―――』
《……切って良かったの?》
「今のは大丈夫よ」
《……難しいなあ》
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『―――お姉ちゃン?』
《!? この声……》
「ああ、歩にも聞こえるのね。……どうかした? 通子ちゃん」
『ンーン。ドうしてるかなっテ。……今の声ガ、歩ちゃン?』
《通子……お義姉様?》
「…………ええ、そうよ、歩? 彼女が……」
『お姉ちゃン? ワタシが
「そう、ね。……そうだったのよ。……そうだった、のにね」
《『干渉』……》
『それよりモ、聞いテ? オ姉ちゃん。ワタシ、A組の皆に、遊んでもらっテたんダよ?』
「そっか……楽しかった?」
『ウン、楽しかったヨ! エっとね―――』
『芦戸お姉ちゃンと葉隠お姉ちゃンはネ? プニプニしてて面白いッテ、代わり番こに抱き上げてクれたの。寮の中に水が散っちゃッテ、チョっと怒られてタよ』
『デも梅雨お姉ちゃんは……ア、そう呼んでッテ言われたんだケドね? 湿気が肌に合うわっテ、喜ンデくれたノ』
『それカラ飯田お兄ちゃんが肩に乗せテ寮の周りを走ってくレタの。景色がビュンビュン変わってトッテモ楽しかったなァ』
『尾白オ兄ちゃんには、尻尾を触らセテってお願いしたンダけど……びしょびしょにしちゃっテ。でもゴメンなさいしたラ笑って許してくれたんダよ』
『上鳴お兄チャンは大きくナッたらなんとか……って言って耳郎お姉ちゃんニ叩かれテタの。アトでんかいはんのう? したら危ないかラ近付かない方がイイって八百万お姉ちゃンが』
『峰田? って人は取り敢エズ危ないから近付くなって……瀬呂お兄ちゃンがグルグル巻きにして持っていっチャッタ。……ドういう意味だっタンだろ?』
『爆豪って人もヤメタ方がいいぞッテ、切島お兄ちゃんが……そう言った途端、ドカンってされてたケド、全然平気だぞって笑っテタの』
『そシタら砂藤お兄チャんが、オいしそうなケーキを持ってきてくれたノ。ワタシ、食べられるのカナって思ったけド……』
『……おいシかった、気がする。味なんてモウ感じないんだケド、ね』
『…………ネえ、お姉ちゃン』
『ワタシ、生きてタラ……あの人達と同い年ダッたんだよね』
『アのままヒーローを目指しテたら、ワタシ……この学校に居たかモ、しれないよネ』
『ワタシも、あの人達と……クラスメイト、だったかも―――』
「そう、ね」
「他よりちょっと、おしゃべりな"個性"と一緒にヒーローを……そんな
《…………ねえ、『干渉』? 一つだけ、お願いしても良いかな?》
《わたし……一度で良いの》
《『叔父様』と、話がしてみたい》
共にヒーローを目指す『女の子』。