おしゃべりな"個性"   作:非単一三角形

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 (ポジション)青山くん最大の見せ場。



C5-8 本音

 

 ―――雄英高校からおよそ30キロ地点、『仮設要塞トロイア』。

 迫る決戦を前に、敷地内へと避難した人々とヒーロー達を遠ざけるべく建造された仮の棲家。

 

 終の棲家にならなければいいが―――誰かが苦笑混じりにそんなことを溢しもしたその建物の、付近に存在する打ち捨てられた駐車場。

 そこに彼、緑谷出久は()()()()に呼び出される形で姿を見せていた。

 

 

「―――来てくれたんですね、デクさん」

「……干河さん、こんな所で何を……」

 

 軽い疑問を顔に浮かべながら、彼は立ち尽くすクラスメイトと対峙する。

 彼女もまた、仮設要塞に()()()()()()()()()()のだから、自分に用事があるのならばその内部で行えば良い筈だろう、とでも()()()()()表情で。

 

「今日はデクさんに、大事なお話があったんですよ」

「大事な話……?」

 

「そうです。滅多な人に話すわけにいかない、大事な大事なお話が」

 

 青髪黒目に柔らかな表情を浮かべた彼女は、どこか()()()()()()()素振りを見せつつそう囁く。

 その言葉に頬を引き締めた緑谷に対し、彼女は静かに語り始めた。

 

「いつだったか、お話しましたよね。わたしがヒーローを目指すようになった理由」

「……うん。ご両親を(たす)けてくれた人に憧れたんだった、よね?」

 

「あのときわたし、一つ嘘を吐いていたんです」

「嘘……?」

 

「その人の名前や何処のヒーローかは知らない、というのは本当だったんですけどね? その人の持つ"個性"―――どんな"力"の持ち主かだけなら、ずっと昔から知っていたんですよ」

 

 一度小首を傾げ小さく謝った後で、彼女は言葉を続ける。

 

 

「その人は……『叔父様』は、わたし達母娘(おやこ)にとってのヒーローでした」

 

「だから、叔父様からの頼み事と聞いて、わたしは特に疑問も持たずに協力していたんです」

 

「その想いは今も……今でもわたしにとっては、変わらないんですよ」

 

 

「干河、さん……?」

 

 不意に彼女の視線が、周囲に見える住宅地へと向けられる。

 小高い丘の上に建設されたこの場所からは、人通りの無くなった町の一角が一望できた。

 

 

「叔父様は、すごい人なんです」

 

「この国が……世界中がこんな風になったとしても、叔父様ならきっと立て直せます」

 

「叔父様が世界を統べるようになったなら、きっとそれは素晴らしい世界になると思うんです」

 

 

「な……にを、言って……ッ!?」

 

 級友の口から語られた異様な言葉に、緑谷が開こうとした口が、更なる驚愕に閉じられる。

 彼の視界に入ってきたからだ。―――彼女の背後に悠然と浮かぶ、頭部を特徴的な黒いマスクで覆った一人の男の姿が。

 

 

「オール・フォー・ワン……!!」

 

「よくやってくれたね、干河歩君」

 

 

 パチ、パチと緩く拍手の音を立てながら、『彼』は眼下の彼女へと労いの言葉を掛ける。

 その声音には年の離れた姪にでも接するかのような、親しみすら込められていた。

 

「……しかし正直言って僕も驚かされたよ? まさか君がここに至って、未だ彼らに一縷の疑いも持たせていなかったとはね」

「ありがとうございます。そして、お久し振りです、叔父様」

「干河さん……っ、どういう……何で……っ!?」

 

「……そうだなあ。何も知らないままというのは、あまりにも哀れだ。折角の機会、彼に説明してあげたらどうだい?」

「いいのですか? では……」

 

 言の葉に明らかな『笑い』を乗せて、『魔王』は演目を楽しむかのように彼女を促す。

 一言、その指示に微笑んで頷いた彼女は、動揺に瞳を揺らす緑谷へと一歩近付き―――

 

 

「わたしと一緒にみんなに謝りましょう、叔父様!」

 

 

 くるりと振り返り、快活な声でそう宣った。

 

「…………は?」

「…………へ?」

 

 漏らされた二つの声は奇しくも同じ響きを宿していた。

 『魔王(AFO)』と『勇者(緑谷)』、双方の意識を遥か彼方へと置き去りにしたまま、彼女の独演は続く。

 

 

「わたしは叔父様を尊敬しています。とってもすごい力を持った、とっても親切な人なんだって」

 

「だからきっと皆、叔父様の事を誤解してるんだと思うんです」

 

「叔父様は良かれと思ってやったことが、誰かを怒らせてしまったんじゃないですか? わたしもつい最近いっぱい怒られて、やっとそれに気付けたところなんです」

 

 

「「…………」」

 

 停止、という意味で彼らの思考は一致していた。

 明後日どころか数十年先へと飛ばされた理論に、彼らの身体は大きな隙を晒したまま動かない。

 

 

「自分が悪い事をしたと思っていなくても、誰かを傷付けていることはあるんです」

 

「悪い事をしたら、ごめんなさい、ですよ、叔父様?」

 

「そうすればきっとみんな、叔父様の事を分かって―――」

 

 

「参ったなぁ」

 

 途切れない独白に割り込んだのは、極寒の響きを含んだ『魔王』の呟き。

 殺気が放たれるまでに数秒の間があったのは戯れか、はたまた本気の辟易だったのか。

 

「君、こんなに……気持ち悪い()だったのかい?」

「っ、干河さん!?」

 

 鷹揚に掲げられた『魔王』の指先が、無数の顔のような悍ましい姿へと変形した。

 致死をもたらす『何か』が放たれる気配に、身を乗り出さんとした緑谷の前で―――

 

「安心してください、叔父様」

 

 彼女は薄く微笑み、そう口にする。

 緑谷が、『魔王』が、その態度に微かな疑問を頭の端に上らせた時、()()は放たれた。

 

 

「―――"私"は、ちゃんと貴方を恨んでる」

 

 

「……っ!?」

 

 更なる困惑に止まったその手に襲い掛かったのは、彼方より降り注いだ巨大な瓦礫。

 視界に差した影に直前で気付いたか、抗うように腕を上げた姿勢で、その姿は瓦礫に隠される。

 

 所有する何らかの"個性"により直撃は防がれたのだろう。

 天より降り注いだ大質量が、辺りに粉塵を撒き散らし砕けていった。

 

 

「……根津校長の見立て通り嘘を判定する"個性"をお持ちのようね。いやはや見事な困惑振りよ」

「イヤ困惑したのは僕もだよ!? 誘き出す為とはいえ、あんな……!」

 

「歩にどうしてもと言われてねえ……まあ、ひきつけるには良いかと思ったのよ」

「それにしたって……!? 演技……だったんだよね、干河さん!?」

 

「生憎あれは歩の本音よ。……苦労したんだから、私だって」

 

 

(……どういうことだ)

 

 視界を包み込む粉塵の中、届く二人のやり取りを前に『魔王』の思考は空転する。

 

(直前の連絡、母親の返答、そしてこの場での言葉にも最後の一言を除けば一切の嘘や害意は……しかし周囲に他のヒーローの姿が無い以上、今の攻撃はおそらく彼女に与えた"個性"……)

 

 "個性"を与え、目を掛けてきた少女は、果たして罠を仕掛けた獅子身中の虫であったのか。

 それとも『嘘』を見抜く"個性"が示す通り、芯から花畑と呼ぶべき思考の持ち主だったのか。

 いやしかし、だとすれば今の攻撃は、いつから、()()―――

 

「……いや、どうでもいい。どのような思考からの行動だったにせよ、重要なのは今、この距離にOFAがある事実―――」

 

 無意義な思考を断ち切るように、『魔王』は応手を弾き出す。

 動作の要らぬ"個性"により現れたのは、虚空に広がる無数の『泥』。

 

「先の戦いで弔が『視た』ヒーローは散開し各地に居る。救援は間に合わない。今この状況こそが手遅れというやつさ、緑谷出久!」

 

 虚空を埋めた『泥』から現れたのは、脳無を含めた大量の(ヴィラン)

 タルタロスを含む各地刑務所の囚人、(ヴィラン)連合、そして『次なる彼』こと死柄木弔(マスターピース)

 

 明らかな多勢無勢。

 比較も馬鹿らしい戦力差。

 そんな絶望に晒された継承者(緑谷)の表情を拝もうとした『魔王』の動きが、再々度停止する。

 

 

「―――話を聞いてなかったんですか、叔父様?」

 

「わたしは、()()()()謝りましょうって、言ったじゃないですか」

 

「ちゃんと呼んでありますよ。……みんなを、ここに!」

 

 

 ふんわりと微笑んだ青髪の少女の背後で、黒の靄が渦を巻く。

 瞬く間に作り上げられた無数の『ゲート』から、姿を見せたのは散開していた筈のヒーロー達。

 

 

 ―――『魔王』は知らない。

 

 それが他者の"個性"を『コピー』する"個性"を持つ生徒によるものであること。

 『魔王』の保持する"個性"『サーチ』―――ヒーローの居場所を特定する"個性"の裏をかく為の行動であったこと。

 そして、結果的に彼をこの場に誘き出した青髪の少女の言動全てが―――

 

 

「これがわたしが用意した謝罪の場です! ―――処刑場よ」

 

「きっとみんな許してくれますよ! ―――貴方は決して許されない」

 

「だから今日、この場で! ―――故にこの日、この場で」

 

 

「《貴方を捕まえます(殺してやる)》!」

 

 

 心の底からの本音であることを。

 





 『(仮称)嘘感知』さん「 ( ゚д゚)」

 『(仮称)嘘感知』さん「 ( ゚д゚ )」
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