(ポジション)青山くん最大の見せ場。
―――雄英高校からおよそ30キロ地点、『仮設要塞トロイア』。
迫る決戦を前に、敷地内へと避難した人々とヒーロー達を遠ざけるべく建造された仮の棲家。
終の棲家にならなければいいが―――誰かが苦笑混じりにそんなことを溢しもしたその建物の、付近に存在する打ち捨てられた駐車場。
そこに彼、緑谷出久は
「―――来てくれたんですね、デクさん」
「……干河さん、こんな所で何を……」
軽い疑問を顔に浮かべながら、彼は立ち尽くすクラスメイトと対峙する。
彼女もまた、仮設要塞に
「今日はデクさんに、大事なお話があったんですよ」
「大事な話……?」
「そうです。滅多な人に話すわけにいかない、大事な大事なお話が」
青髪黒目に柔らかな表情を浮かべた彼女は、どこか
その言葉に頬を引き締めた緑谷に対し、彼女は静かに語り始めた。
「いつだったか、お話しましたよね。わたしがヒーローを目指すようになった理由」
「……うん。ご両親を
「あのときわたし、一つ嘘を吐いていたんです」
「嘘……?」
「その人の名前や何処のヒーローかは知らない、というのは本当だったんですけどね? その人の持つ"個性"―――どんな"力"の持ち主かだけなら、ずっと昔から知っていたんですよ」
一度小首を傾げ小さく謝った後で、彼女は言葉を続ける。
「その人は……『叔父様』は、わたし達
「だから、叔父様からの頼み事と聞いて、わたしは特に疑問も持たずに協力していたんです」
「その想いは今も……今でもわたしにとっては、変わらないんですよ」
「干河、さん……?」
不意に彼女の視線が、周囲に見える住宅地へと向けられる。
小高い丘の上に建設されたこの場所からは、人通りの無くなった町の一角が一望できた。
「叔父様は、すごい人なんです」
「この国が……世界中がこんな風になったとしても、叔父様ならきっと立て直せます」
「叔父様が世界を統べるようになったなら、きっとそれは素晴らしい世界になると思うんです」
「な……にを、言って……ッ!?」
級友の口から語られた異様な言葉に、緑谷が開こうとした口が、更なる驚愕に閉じられる。
彼の視界に入ってきたからだ。―――彼女の背後に悠然と浮かぶ、頭部を特徴的な黒いマスクで覆った一人の男の姿が。
「オール・フォー・ワン……!!」
「よくやってくれたね、干河歩君」
パチ、パチと緩く拍手の音を立てながら、『彼』は眼下の彼女へと労いの言葉を掛ける。
その声音には年の離れた姪にでも接するかのような、親しみすら込められていた。
「……しかし正直言って僕も驚かされたよ? まさか君がここに至って、未だ彼らに一縷の疑いも持たせていなかったとはね」
「ありがとうございます。そして、お久し振りです、叔父様」
「干河さん……っ、どういう……何で……っ!?」
「……そうだなあ。何も知らないままというのは、あまりにも哀れだ。折角の機会、彼に説明してあげたらどうだい?」
「いいのですか? では……」
言の葉に明らかな『笑い』を乗せて、『魔王』は演目を楽しむかのように彼女を促す。
一言、その指示に微笑んで頷いた彼女は、動揺に瞳を揺らす緑谷へと一歩近付き―――
「わたしと一緒にみんなに謝りましょう、叔父様!」
くるりと振り返り、快活な声でそう宣った。
「…………は?」
「…………へ?」
漏らされた二つの声は奇しくも同じ響きを宿していた。
『
「わたしは叔父様を尊敬しています。とってもすごい力を持った、とっても親切な人なんだって」
「だからきっと皆、叔父様の事を誤解してるんだと思うんです」
「叔父様は良かれと思ってやったことが、誰かを怒らせてしまったんじゃないですか? わたしもつい最近いっぱい怒られて、やっとそれに気付けたところなんです」
「「…………」」
停止、という意味で彼らの思考は一致していた。
明後日どころか数十年先へと飛ばされた理論に、彼らの身体は大きな隙を晒したまま動かない。
「自分が悪い事をしたと思っていなくても、誰かを傷付けていることはあるんです」
「悪い事をしたら、ごめんなさい、ですよ、叔父様?」
「そうすればきっとみんな、叔父様の事を分かって―――」
「参ったなぁ」
途切れない独白に割り込んだのは、極寒の響きを含んだ『魔王』の呟き。
殺気が放たれるまでに数秒の間があったのは戯れか、はたまた本気の辟易だったのか。
「君、こんなに……気持ち悪い
「っ、干河さん!?」
鷹揚に掲げられた『魔王』の指先が、無数の顔のような悍ましい姿へと変形した。
致死をもたらす『何か』が放たれる気配に、身を乗り出さんとした緑谷の前で―――
「安心してください、叔父様」
彼女は薄く微笑み、そう口にする。
緑谷が、『魔王』が、その態度に微かな疑問を頭の端に上らせた時、
「―――"私"は、ちゃんと貴方を恨んでる」
「……っ!?」
更なる困惑に止まったその手に襲い掛かったのは、彼方より降り注いだ巨大な瓦礫。
視界に差した影に直前で気付いたか、抗うように腕を上げた姿勢で、その姿は瓦礫に隠される。
所有する何らかの"個性"により直撃は防がれたのだろう。
天より降り注いだ大質量が、辺りに粉塵を撒き散らし砕けていった。
「……根津校長の見立て通り嘘を判定する"個性"をお持ちのようね。いやはや見事な困惑振りよ」
「イヤ困惑したのは僕もだよ!? 誘き出す為とはいえ、あんな……!」
「歩にどうしてもと言われてねえ……まあ、ひきつけるには良いかと思ったのよ」
「それにしたって……!? 演技……だったんだよね、干河さん!?」
「生憎あれは歩の本音よ。……苦労したんだから、私だって」
(……どういうことだ)
視界を包み込む粉塵の中、届く二人のやり取りを前に『魔王』の思考は空転する。
(直前の連絡、母親の返答、そしてこの場での言葉にも最後の一言を除けば一切の嘘や害意は……しかし周囲に他のヒーローの姿が無い以上、今の攻撃はおそらく彼女に与えた"個性"……)
"個性"を与え、目を掛けてきた少女は、果たして罠を仕掛けた獅子身中の虫であったのか。
それとも『嘘』を見抜く"個性"が示す通り、芯から花畑と呼ぶべき思考の持ち主だったのか。
いやしかし、だとすれば今の攻撃は、いつから、
「……いや、どうでもいい。どのような思考からの行動だったにせよ、重要なのは今、この距離にOFAがある事実―――」
無意義な思考を断ち切るように、『魔王』は応手を弾き出す。
動作の要らぬ"個性"により現れたのは、虚空に広がる無数の『泥』。
「先の戦いで弔が『視た』ヒーローは散開し各地に居る。救援は間に合わない。今この状況こそが手遅れというやつさ、緑谷出久!」
虚空を埋めた『泥』から現れたのは、脳無を含めた大量の
タルタロスを含む各地刑務所の囚人、
明らかな多勢無勢。
比較も馬鹿らしい戦力差。
そんな絶望に晒された
「―――話を聞いてなかったんですか、叔父様?」
「わたしは、
「ちゃんと呼んでありますよ。……みんなを、ここに!」
ふんわりと微笑んだ青髪の少女の背後で、黒の靄が渦を巻く。
瞬く間に作り上げられた無数の『ゲート』から、姿を見せたのは散開していた筈のヒーロー達。
―――『魔王』は知らない。
それが他者の"個性"を『コピー』する"個性"を持つ生徒によるものであること。
『魔王』の保持する"個性"『サーチ』―――ヒーローの居場所を特定する"個性"の裏をかく為の行動であったこと。
そして、結果的に彼をこの場に誘き出した青髪の少女の言動全てが―――
「これがわたしが用意した謝罪の場です! ―――処刑場よ」
「きっとみんな許してくれますよ! ―――貴方は決して許されない」
「だから今日、この場で! ―――故にこの日、この場で」
「《貴方を
心の底からの本音であることを。
『(仮称)嘘感知』さん「 ( ゚д゚)」
『(仮称)嘘感知』さん「 ( ゚д゚ )」