実はプロットを練っていた時点で作者の手元にあったのは単行本35巻までだったりします。
そしてジャンプ本誌の情報は殆ど見てません。辛うじて二代目の"個性"名を知ってるぐらい。
ついでに36巻を読んだのは、実際に今話を書き始める直前です。
そんなわけで作者は原作がここから先どうなるかを9割知らない状態で書いてきました。
―――『コピー』した"転移系個性"による敵戦力の分断。
伝播する『崩壊』による超広範囲破壊手段を所持する、敵最大戦力と目される死柄木弔を、雄英上空に建設された天空の棺に。
狂気じみた出力の『蒼炎』により戦域を大きく制限し得る荼毘を、かつての戦いにより建造物の大半が更地となったままの現場、神野区に。
最も動向の読めない渡我被身子を、太平洋沖合約200km地点のリゾート島、奥渡島に。
そして―――
「群牙山荘……なるほど」
その身の内に存在する"個性"『転送』の射程範囲外へと隔離し、敵戦力合流の可能性を断つ。
さらに現ヒーローNo.1およびNo.2。最小かつ最高戦力による連携攻撃。
"個性"強奪の可能性を加味されたそれは、ヒーロー側が現状打つことの出来る最大限の策。
「―――しかしホークスよ……微妙にタイミングが合っていない。エンデヴァーが精彩を欠いているんじゃないか?」
『炎』と『剛翼』、反撃の機会を潰し続ける連携に生じる綻び。
別の戦場にて相打つ息子達を意識し、悲鳴を上げるNo.1の心に『魔王』の
「燈矢君の身体……見つからなかったろ」
「……ッ、オール・フォー・ワ―――!!」
怒りから晒された一瞬の隙が、エンデヴァーの胸部に深手を刻む。
共に戦うホークスが、落下していく彼の
「エンデヴァ―――」
「君は、この距離で避けられるのかな? ナガンの代替品よ」
エンデヴァーの身を抉った手指を変形させ、『魔王』が構えたのはかつて神野区を更地に変えた衝撃波の予備動作。
回避の目が消えた事を悟ったホークスが、その思考に
「【
「ピクシーボブリスペクト……【
音波の壁が衝撃波を、噴き上げた土石流が『魔王』の進行を妨げる。
驚愕と共に仰ぎ見たホークスの視界に映るのは、この戦場に居合わせた三人の学生。
「ちょ待っ、あんま揺れないで!! ウチ飛ぶのそんな慣れてないから!! けっこー今、必死だから!!」
「こらえろイヤホンジャック!!」
「多少はフォローするけど気を付けなさいよ!? 二人とも"私"の対象外なんだから!」
「……あと出来ればあまりアレだ! お尻を動かさないでドギマギする」
「純情!?」
「バカじゃん!!」
それぞれの"個性"により空を駆ける干河と常闇、そして後者の背に跨る耳郎。
守るべき学生達に救われた事実と、そんな彼らを死地に踏み込ませてしまった焦燥に晒されたホークスが、目を見開き必死に叫ぶ。
「とこ……
「『イヤホンジャック』よ、ホークス!」
「……! ダメだ!! 君らの出る幕じゃない!! 死ぬぞ!!」
「エンデヴァーの代わりにはなれんが! あなたとの連携なら我々が取れる!!」
「いやはや……参るね」
何らかの"個性"により防いだ土石及び舞い散った土煙を払いながら、『魔王』は言葉こそ軽く、しかし重い響きを込めてそう呟く。
その視線……
『魔王』と共にこの地に送られた、無数の
対峙するのは同様に『ゲート』を潜り駆けつけた数十名のヒーロー達。
トップ2による『魔王』迎撃のもう一つの狙い―――広範囲衝撃波の封殺に成功してなお、戦力を忌憚なく計れば前者に傾くだろうその戦いは、されど今―――
『―――ッ!?』
「聞いていた通りだ! 動きが鈍いぞ、肉人形め!」
「パワーもな! "増強系"や"防御系"なら受け止められねぇ威力じゃねぇ!」
「頭部を破壊すればそれ以上再生はしない! 押し込めぇ!!」
「―――あァ!? てめぇ今俺を狙っ……ガッ!?」
「違ェよ!? 急に"個性"が逸れ……ぐぁっ!?」
「仲間割れ……じゃないんだよな!?」
「体育祭以来だがやっぱとんでもないな!」
「ははっ……学生にここまでされてちゃ、
凡百のヒーローを容易く蹴散らす力と"個性"を与えられた筈の脳無達が、その力量の六割程度も発揮できないまま抑え込まれる。
名うての
有り得べからざるその光景を、音も気配も無く作り出すは、『魔王』の眼前に佇む
「君がここまで僕を苛立たせてくれるとは夢にも思わなかったよ……干河歩」
「ありがとうございます、叔父様! ―――過分な評価痛み入りますわ、叔父様?」
快活な返答、直後に放たれる極寒の囁き。
狂ったとしか思えない
(……やはり『嘘』は無く『害意』の有無も乱高下……まるで人格が……しかしそれにしては切り替わりがあまりにも……うん?)
空転の果てに辿り着いたのは、ひどく奇矯な可能性。
しかし瞬間、当人にも説明できない『納得』を介して、
「君は…………
「……問いを返すようですが、お答え願いましょう」
場にそぐわぬ笑顔を排し、薄笑いに表情を定めて彼女は囁く。
「死柄木弔、"個性"『AFO』…………貴方は『彼』をどちらとお呼びに?」
「…………は」
返されたのは、一見して関連性の見えない問いかけ。
しかし『魔王』の頭の中では、直前に浮かんだ謎の理解から一本の糸が
「―――ハ、ハハハハハッ!? そうか! そういうことかっ!? 成程やっと合点がいったよ、そうだなあ!
マスクの下、呆けたように開いた口を吊り上げ、『魔王』は高く哄笑を上げる。
それはまるで、バラバラに散ったパズルが突如ピタリと嵌った感覚に酔うかのように。
「ああ覚えているよ、その"個性"……そうか、『君』かあ!!
「ええ本当に……出来の悪い冗談よッ!」
その言葉を最後に、再度地面から吹き上げた土石が『魔王』へと襲い掛かる。
やはり容易く防がれるそれは、されど確かに『魔王』から防御に割く時間をもぎ取っていた。
「……ツクヨミ! アクセラ! こっちは―――」
「無駄だぞホークス! 俺がここに配置されたのは"上がこう着した場合の更なるサポート"! そうだろう!?」
「手出し不要と言うなら結果で見せてくれないかしら、
「……ごもっとも! また助けてくれ、ヒーロー」
戦場全体における最大の懸念、『
すなわち己の失態を指摘されたホークスは、苦笑いでそれに応えた。
「……昔読んだコミックにあったな。魔王の引き立て役に充てられる脇役の話」
「そーゆーの倒してから言った方が良くない? AFO! ……なんつって」
「フゥム……」
冷や汗を流しながらも己を奮い立たせ、うそぶいてみせる耳郎。
そんな彼女に『魔王』から返ったのは、思案を示す微かな呟き。
「え―――?」
瞬間、耳郎は自身の浮かぶ身体を意識して。
その浮力の源、衣服の脇下に添えられた
(干河、の……『
数秒にも満たぬ飛行を経て、再び耳郎の身体は常闇の背へと跨った。
視界の端、亡者の顔が如く変形した『魔王の手指』が虚空を喰い破っていく様を呆然と見つめるその頭の中で、直前の一瞬に対する反芻が始まる。
「自由に動けツクヨミ!! 合わせる!!」
『ジロ! 大丈夫カ!?』
「……ん!」
『黒影』の呼び掛けに答えた耳郎を遅れて襲ったのは、毛筋一本まで迫っていた死への恐怖。
向けられていた殺意にすら遅れて総毛立ち、鳥肌を浮かべる我が身を彼女は掻き抱く。
(今、ウチ、死ん……っ!? 緑谷……!! あんた、これに晒され続けてきたんだね……!)
震える身体を抑え、耳郎が仰ぎ見たのは、すぐ傍に浮かぶ
耳郎の視線に気付いたのか、それとも偶然か、彼女の視線はほんの一瞬、耳郎へと向けられる。
(あ……!)
―――無事で良かった。
薄く、しかし温かな微笑みを浮かべた眼差しから、耳郎は確かにそんな声を聞いた。
(また助けられ……やっぱりあんたは、いつだって……!)
最凶最悪の『魔王』を前にした今でさえも、口の端を上げて見せるその姿。
都合三度目となるその衝撃に、羨望と憧憬が入り混じった呟きが耳郎の口から漏れる。
「怖く、ないの?」
「……恐怖なら置いてきたわ。ずっと昔に」
「え……?」
届くかどうか、期待もしていなかった呟きに返されたのは静かな言葉。
しかし常闇の背に乗る耳郎に問い返す暇は無く、『魔王』の『手』から逃れるべく飛行する彼によって彼我の距離は離されていった。
(―――私はあの日、ただ見ていた)
(お母さんが……『魔王』に立ち向かったヒーローが
《……『干渉』……?》
誰にも届かぬその呟きを聞いていたのは、
意識の内にあるのか否か、溢されるその心中を『彼女』は確かに耳にした。
(腕が潰れて、足がひしゃげて、胴を裂かれて……"個性"を剥がれても)
(最期まで『魔王』を睨み続けていた、
(あの日の記憶で……私と通子ちゃんは
《……!》
それは『彼女』が今まで尋ねたことの無かった、彼女の理由。
(あの記憶を
(けれど私には駄目だ、どうしても。……あれが真面な精神だとは思えない)
(私が……ああなれるとは、思えない)
《あ……》
『彼女』が今まで知る由も無かった、彼女の抱く己への認識。
(正しい『私』は、あの日の願いを持ったままの通子ちゃん)
("私"は所詮、歪んでしまった『反向通子』の残滓でしかない)
(……耳郎さん、恐怖というのはね?
「―――震えてるぞ、可哀想に。学生気分の延長で来てしまったんだね」
『魔王』の左手が増殖し、変形と共に噛み付き合う。
狙いを察して『剛翼』を飛ばしたホークスに対し、『鋲突』に変化した右手指が襲い掛かる。
瞬く間に物量を、質量を膨らませた『左手の貌』が見せるのは、二度目になる衝撃波の兆し。
「……【反射】!」
「っ、ああ、そんなことも出来たね。やはりこの戦場において『君』の存在は看過出来ないな!」
耳郎と常闇、二人を狙った一撃を再々度防いだのは、自身を守る『剛翼』をも用いて『
それ故に自身を襲った『鋲突』を捌き切れずに血飛沫に塗れるホークスを一瞥した『魔王』は、彼に背を向ける形で宙を滑るように動き出した。
「"投射系"、"放射系"は全滅、"変形系"も速度と質量が伴わなければ容易く逸らされる。いやはや実に厄介だよ。―――君が、一人だったらの話だがね?」
「っ、ツクヨミ! ウチらが狙われて、足引っ張ってる!!」
「分かっている! だが経路を塞がれて……アクセラから離れられん!」
伸ばされる無数の『手指』が『干渉』に逸らされつつも、逃れんとする常闇の進路を限定する。
焦燥に身を焼かれる学生達へと、『魔王』は薄笑いすら乗せて『悪意』を囁いた。
「そうだねぇ……『彼女』には確かに僕の前に立つ資格があるよ。脇役の君達とは違ってね」
「「……!!」」
「僕が敵と認めるに足る"力"。刻まれた因縁。相当に手を焼いただろう……
「う……っ!?」
「ぎ……ぃ!?」
眼前にまで迫った『魔王』に、向けられた『悪意』に、二人の身体は意志に反して凍り付く。
されどその瞬間、彼らの脳裏にあったのは自身の死への恐怖ではなく―――
「ああ……やはりこの手に限るよ―――
「ぐ、あ……っ」
「「干河ッ!?」」
彼らを背にしたまま、『魔王』の手に
「こうして彼女を捕まえることが出来たのは、君達が彼女に庇われてくれたお陰さ」
「自分も魔王に立ち向かって良い―――そんな錯覚をしてくれた君達のね」
「だから僕から君達に、この言葉を送らせてもらうよ」
「―――
真面な精神で目指す職じゃない。
命を捨てるのが仕事じゃない。
原作36巻を読んだのが今話を書き始める直前。
つまり何かと言いますと、この場に耳郎ちゃんが居るとかマジで予想外だったんよ。