おしゃべりな"個性"   作:非単一三角形

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 本日中の更新はここまで。
 書き溜めが続く内は一日一本更新かなあ。

 作者も生粋の関西人だし、麗日さんをメインに据えても問題ないな!
 →関西弁をそのまま文字に書き起こすと意外に読みづらいことに気付く。
 標準語が標準とされる理由がよく分かる……



C1-6 善意の提案

 

「―――っ! 今日の『ヒーロー基礎学』、担当がオールマイト先生ですよ!」

《これから珍しくなくなるんだから、いちいち騒がないの》

 

 初日に配られて見忘れていた、数日先までの授業予定表。

 そこに並んでいる憧れの名前に興奮するわたしに、呆れた声が降り注ぐ。

 

《……こう見ると教室から離れる授業も多いわね。念のため、敷地の地図で大体の場所は把握しておきなさいよ? あの先生ならいきなり、何処其処に集合だ、情報は前もって渡しているのだから把握しているはずだろう? なんて言いそうだし》

「うわあ、言いそう……あ、こっちのプリントには施設概要も……『USJ』?」

 

《え、何それ? あ、ほんとにUSJって書いてある……》

「演習場の一つみたいですけど……というか校舎から遠いなあ」

 

 

「―――(あゆみ)ちゃーん、起きとるー?」

「《あ》」

 

 

 玄関の向こうからお茶子ちゃんに呼ばれ、身支度の途中だったことを思い出した。

 慌てて鞄に必要な文具を詰め込み、"個性"で身支度を整えながら部屋を飛び出す。

 

「お、お待たせ、お茶子ちゃん!」

《……これから遅刻の心配だけはなさそうね》

「おはよ……わぁ、髪とか服とか勝手に整えられていっとる。便利やなあ」

 

 

 

 

「あ、居た居た。デクくーん!」

「デクさーん!」

「う、麗日さん!? 干河さん!?」

 

 昨日の反省を活かし、一緒に登校したお茶子ちゃんと教室へ。

 すぐに姿を見つけたデクさんに、二人揃って手を挙げて呼ぶ。

 

「ちょっと内緒で話したいことあるんやけど、ええかな?」

「始業前ですし、そう時間は取りませんので……」

「え」

 

 カチン、と固まったところに返答を促すと、カクカクと人形のような首肯。

 「ほな待っとるなー」とお茶子ちゃんが返して、二人で廊下に戻り、一拍。

 

 

「―――み・ど・り・やお前えぇっ!? 昨日の今日で女子二人からお呼び出しとか何しやがったテメエエェェッ!!?」

 

 

 ……確か、峰田とかいう人の、蛙を引き潰したような鳴き声が聞こえてきた。

 昨日の持久走の折、頭の上を通り過ぎる度に「最高のアングル」等と呟かれて悪寒を感じたのでよく覚えている。

 

「しかも巨乳貧乳両取りとはイイご身分だなあ!? ええオイィッ!?」

「飛躍させ過ぎだ落ち着けって……まあ、ちょっと分かるけどな」

「羨ましいシチュではあったよな……ほら早く行ってこい、緑谷」

「う、うん……」

 

「「…………」」

《わぁお》

 

 二人で能面のようになった顔を見合わせて、何も聞かなかったことにした。

 

 

 

 

「―――"個性"との、対話……っ!!?」

「そうそう。それで私も"個性"の欠点改善の糸口が見えてきたんよ」

 

 お茶子ちゃんにも説明した【面会(ディグアウト)】についてと、それによる欠点克服の可能性。

 それを含む"個性"への理解向上その他を聞いたデクさんは、再び呆然とした表情で硬直した。

 やはりすぐには信じてもらえないかな、と考えていたわたしを余所に、突如口元に手を当て視線を下げたデクさんが、何やら猛烈な勢いで呟き始める。

 

「"個性"に会話できるほどの意識が存在する? いや確かにそういう学説は個性科学の一分野として一昔前に発表されてたはずだ。でも誰にも立証できなくて与太話に近い形で片付けられていたような。ああでもそうか干河さんが自分の"個性"の制約についてあそこまで細かく把握していたのは"個性"そのものと話し合った結果だったのか。家族親戚に似た"個性"を持っている人が居たとしても個々人で違いはあるはずだしどうやって検証したのかと思っていたけど、"個性"のことを"個性"に直接聞くことができるっていうなら話はまるっきり変わってくるぞ。これが立証できれば"個性"に対する世の中の認識を大きく変えることにも……いや待て待て落ち着け、干河さんはさっき家族と信用できる友人にしか話す気は無いって言ったじゃないか。他人の好意を踏みにじるようなことを考えるだなんて最低だぞ僕。何より僕の現状を危ぶんでこんな秘密を打ち明けてくれたんだ。ここはお言葉に甘えてでも現状の改善を急いで……あれでもさっきの話を聞く限り干河さんとその"個性"が同席した四者面談になるわけで、そうなると僕の隣に現れるのは―――」

 

 ……突然、糸が切れたように呟きを止めて、青ざめていくデクさん。

 その様子がちょっと尋常なものだとは思えず、不思議に思いながら声を掛ける。

 

「その……やるなら時間も掛かりますし、今すぐというわけにもいきませんから」

「……えっ、あ、ウ、ウン、ソウダヨネ……」

「……もう時間あれやし、教室入ろか」

 

 明らかに挙動不審になったデクさんに、首を傾げながら三人で教室に戻った。

 デクさんの顔色を見たクラスメイトから「カツアゲ?」「美人局?」と失礼な言葉が飛んでくるのを苦笑と共に否定しつつ、彼の異様な反応について『干渉』に問いかける。

 

(……どう思います?)

《思考の途中で何かの危険性に行きついたように見えたけれど……》

 

 頭の中で『干渉』が悩む声を聞きながら、わたしも考えてみる。

 これが昨日の下校時のような真っ赤になっての遠慮なら、女性に免疫の無いデクさんがわたしと長時間手を繋ぐというところに過剰反応した《いや、それはどうかしら……》可能性もなくはないけれど、そんな雰囲気ではなかった。

 

《……身体を破壊してくる"個性"との話し合いを想像して気が引けた?》

(ああ、それなら……)

 

 例の白い部屋の中で、相手の"個性"が暴れようとしたという経験はなくもない。

 けれどその"個性"の意思を『干渉』が増幅して対話が成立しているわけで、即ちあの部屋の中で『彼女』以上の力を発揮できるはずもない。

 万が一、が起こりそうなら『彼女』が【減速】させれば抑えられる。

 

《さっきの話の中で、それは説明していないわね》

(それじゃもう一度、お昼休みにでも話をしてみましょうか)

 

 

 ―――そんなわたしの考えは、当のデクさんが終鈴が鳴った瞬間、携帯電話片手に教室から駆け出していったことで流れてしまい。

 仕方なくお茶子ちゃんに先に聞いてもらったところ、「あー……」と納得の声。

 しかし彼本人と話す時間は取れないまま、()()()()がやってきた。

 

 

 科目『ヒーロー基礎学』。担当教員―――オールマイト!

 

 

「わーたーしーがー!! 普通にドアから来た!!」

 

 

「すごい……近くで見ると本当に画風が違う……っ」

《え、そこ?》

 

 『干渉』の入れてくる茶々を耳の奥に流し、授業の把握に専念する。

 ……とはいえ与えられた指示は非常に簡潔なもので。

 

 入学前に送った『個性届』と『要望』に沿って製作された"戦闘服(コスチューム)"に着替え、所定の場所(入試に使われた演習場の一つ)に集合。

 

 ただそれだけの指示を受けたクラスメイト達の気分は、わたしも含めて最高潮に高揚していた。

 

《今日から自分はヒーローなんだ、か。流石に煽りも上手いわね》

(またそんなこと言って。『干渉』だって結構興奮してたくせに)

 

 更衣室への移動中、『彼女』の斜に構えたコメントに返答する。

 素直じゃないんだから、と意識を送れば、煩わしそうな溜息が聞こえた。

 

(要望については『干渉』の言う通り書きましたけど、どんな"戦闘服"になったんでしょうね)

《プロヒーローの"戦闘服"も作ってるサポート会社製のそれを、授業初日の一年生が着られるって本当に凄い学校よね》

 

 デザインも併記すれば要望と矛盾しない程度に実現してくれる、と説明にあったけれど、あまり明確なイメージが湧かなかったわたしは条件の箇条書きに留めた。

 なのでどんな"戦闘服"になっているかは、実際に目にするまで分からない。

 

《奇抜な恰好にならなければいいわね》

(流石にないですよ……ないですよね?)

 

 

 

「「…………パツパツスーツになった」」

「「「二人で揃えたわけではなく!?」」」

 

 流石にちょっと信じられない思いで、お茶子ちゃんと顔を見合わせる。

 一応お互いが出した『要望』を確認するも、被っている要素は特になかった。

 

「昨日もお見せした例の移動技は衣服の重さが一定以上になると多大な影響が出てしまうんです。ただ手足あるいは足だけでも打撃に使える装備が欲しかったので、指定した重量を越えない範囲で可能な限り強度のあるものを、と頼んだんですが……」

「……結果がそのメタリックなブーツにパツパツスーツと」

「そう聞くと理解はできますけど……」

 

 鈍く金属光沢を放つ、見た目よりも遥かに軽量な、それでいてしっかりした硬さを感じる銀色のブーツに、首から下をぴっちりと覆う黒いスーツ。

 水色のラインがスーツの手首足首にあしらわれているのは、デザイナーの趣味だろうか。

 重量の都合で余計な装飾を付けられない中で、デザイン性を追求した結果なのかもしれない。

 

「……たまたまデザイナーが一緒やったんかな」

「……そっちのピンクのラインを見るとそんな感じしますよね」

「完全にペアコーデじゃんよ」

「偶然って怖いわ」

 

 一方、お茶子ちゃんの出した『要望』は、首や手首の酔いを抑えるツボを押してくれる装飾を、程度のものだったらしい。

 なのに何故かわたしと同様、体型がくっきり出るスーツにされたことにお茶子ちゃんは「もっとしっかり書けば良かった……」と苦笑を浮かべた。

 

「……何度か耳に入ってきてたけど、入試の日が初対面って本当なの?」

「うん、本当に偶然同じ会場だったんよ?」

「で、偶然同じクラスになりまして」

 

「偶然、同じような"個性"のデメリットを抱えとって」

「偶然、よく似たデザインの"戦闘服"になって」

 

「「偶然、下宿先のアパートも同じでした」」

「「「もう怖いよ、その一致具合!?」」」

 

 慄く一同を前に「入試まで本当に全く縁はなかったんですけどねー」「なー」と頷き合う。

 そんなわたし達に"個性"なのだろうイヤホンのような耳をしたクラスメイト―――耳郎さんが、ボソリと呟いた。

 

「…………(ここ)は一致してないんだ」

 

 …………。

 

「……あ、あれ? 歩ちゃん?」

《あー……》

 

 ……………………。

 

「……か」

「か?」

 

 

「考えないように、してたのに……友情を、折角出来た友情を捨てたくなくて……必死に、見ないように……っ!」

「そうやったん!?」

「耳郎ちゃん!」

「ごめん! 干河、マジでごめん!?」

 

 

《胸の大きさぐらいで何だってこう大騒ぎ出来るんだか》

「……着替えたなら早く行きましょう、みんな」

 





 単行本一巻の幕間にてクラスメイトそれぞれが出した『要望』はある程度確認できます。
 峰田くんあたりはほぼそのままのデザインを書いていたりしますが、麗日さんは本当に首と手首部分の簡素な図解のみ。
 あれで体型ばっちりパツパツスーツにされたのは、お年頃の女の子としてキレていいレベル。

 初授業直前に緑谷くんから爆弾を落とされる新米教師オールマイト。
 歩ちゃんの視界外の出来事を今後どのように書くかは悩みどころですね。

 個性に意思があるという学説……一体どこの医者が提唱したんだ(棒)。
 なお常闇くん。緑谷くんも歩ちゃんもまだ彼の"個性"は見ていませんので。
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