おしゃべりな"個性"   作:非単一三角形

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 先の話になりますが、マスターピース死柄木戦を本作で描写する予定はありません。
 まだ世に出されていない原作様に投げる形でカット予定です。
 AFO本体戦に参加した面子がここからそちらに関わるとも思えませんし。
 ……無いよね?



C5-10 共感

 

(―――『次の僕』同様に意志を持ち、意識の表層に現れた"個性")

 

(ああ、興味は尽きないよ。直ちに隅々まで調べ尽くしたいほどさ)

 

(とはいえ今は少々立て込んでいる。……いやはや、もどかしいな)

 

 

(出来る事なら今すぐ、じっくりと『話し合い』たいところなんだが―――)

 

 

 

 

「…………おや?」

 

 何年も前に失くした筈の『視界』に映る、黒い空。

 荒野のような場所に立ち尽くす自分を、いつしか『彼』は知覚していた。

 

「……これは、まるで―――」

「OFAのようだ。……かしら、叔父様?」

 

 聞こえた声に視線を向ければ、小さな人影が二つ。

 半分を残して崩壊した部屋、とでも形容すべき白い壁を背後に、『彼』を見据える二人の少女。

 

「貴方が"私"に興味を持ったから」

「こんな機会があれば良いなと望んだから、この場は生まれたんですよ」

 

 朽ちかけた白い椅子に座る、青髪黒目の少女が。

 ひび割れた机に腰掛ける、金髪黒目の少女が。

 柔らかな微笑みと、寒々しい薄笑いで、声を揃える。

 

 

「「ようこそ、叔父様」」

 

「……へえ? こうなっていたんだね、君達の中は」

 

 

 どこか純粋な驚きを込めてそう呟いた『魔王』は、しかしすぐさま口角を吊り上げる。

 その『視線』を向ける先は、今も彼に対する敵意を隠さない"個性"。

 

「酷いじゃないか。『君』がこんな特異性を持っていたなんて知らなかったぜ? そうと分かっていれば、あんな()()()()()を受けさせやしなかったのに」

「……生憎と私の意思が『始まった』のは、あの日より後よ。それに"私"と歩、どちらに拠るものだったのかも、今となっては私にすら分からない」

 

「……そうかい。それなら仕方な―――」

 

 

「『干渉』と会わせてくれてありがとうございました! 叔父様!」

 

 

 『魔王』と『干渉』、双方の視線が形容しがたい熱を宿して『彼女』へと向けられた。

 それらに気付いているのかいないのか、『彼女』は長年の『恩人』へと自らの想いを言い募る。

 

 

「ずっとお礼を言いそびれていたんです。直接お会いできる機会が無かったので」

 

「ああ、でもその時のこと、『干渉』は凄く怒っているみたいなんです」

 

「きっと叔父様も悪気があったわけじゃないんですよね? まずはその事を謝って―――」

 

 

「君は。……後にしてくれないかな?」

 

 徐に、鷹揚に、『魔王』は孔の開いた掌を彼女らへと向ける。

 瞬間、ただ静かに凪いでいた荒野の中に、引き込むような風が吹き荒れた。

 

「っ!」

「『干渉』!」

 

 『奪い与える』"個性"『AFO』―――その複製品ではあるが―――による"個性"の吸引。

 『魔王』の足元から続く荒野が、彼女らの世界を侵食するように、その背後に残る白の調度品を徐々に崩壊させていく。

 迫るひび割れに崩れた椅子から、机から、風に髪を揺らす少女達が立ち上がり―――

 

「……っ、ハハハハハッ!? 抵抗(ソレ)まで出来るのかい!? 参ったなあ! 本当にあの強情な(OFA)のようじゃないか!」

「うう……お、叔父様……!?」

「っ、ぐ……原理は異なるんじゃない? "私"のはそちらの"力"に対する"干渉"と相殺だもの!」

 

「そうか! そういうことも出来たね! ああ、よくよく『君』は興味深い!」

 

 対抗するように片手をかざし、風に煽られながら荒野を踏みしめる"個性"。

 そんな彼女の空いた腕を掴み、風を堪えるように相方の身を引き寄せる宿主。

 手応えはあれど、彼の持つ"個性"への『権力』に抗うその様に、『魔王』は再度哄笑を上げた。

 

「しかしこんな『綱引き』に興じるつもりは無くってね……そうだなあ―――」

 

 嵐に揺れる木の枝にそうするかのように、『魔王』は抗う少女達を眺める。

 思考に割かれた時間は僅か、ふと気付いたといった調子でその口は開かれた。

 

 

「随分仲良くしているんだね? その娘と」

「……!」

 

 

 微かに、されど確かに目を伏せた金髪の少女へと、『魔王』は問い掛けを続ける。

 

「『君』が。()()なったのが誰のせいか、知らないわけじゃないんだろう?」

「…………」

 

「それとも『君』にとって、元の宿主やその家族の事は、忘れてしまえるほどに()()()()()()ことだったのかな?」

「……っ」

 

 伏せられた顔に浮かんだ感情の動きを、『魔王』は決して見逃さない。

 

「……憎い仇の娘の中で、その明確な意識に『君』は何を映してきたのかな?」

 

「それとも本当に仲良しこよしでその娘の"個性"をしていたと? いやいやそれこそ冗談だろ?」

 

「幾度となく思ったはずさ。その娘が手にした全ては、自分達から奪われたモノなんだ、とね?」

 

 

 そこにある種の『確信』を見出し、尚も火種を煽るように。

 

「まだ幼かったから理解出来ずとも仕方なかった? 恨むのは筋違い? いやいや考えてみなよ。当時の『君』だって同じようなものだろう? 『君』と同じ理解を、その娘に求めて何が悪い?」

 

「『君』を、君達家族を、踏みにじって得たモノで! その娘は能天気に笑っていたんだろう!? その幸福も、誉れも、本来は自分達のモノだったのだと叫びたかった筈さ!」

 

「誰にも聞かせられない怨嗟を抱きながら! その娘の笑顔を誰より特等席で見せつけられて!! ハハハ……聞かせてくれよ! どれ程の怨毒の日々だったか! いやはや想像も出来ないぜ!?」

 

 

「…………っ」

 

 下げられた視線、食いしばられる歯の根。

 投げかけた言葉のもたらした結果を『愉しみ』ながらも、しかし『魔王』は内心で首を傾げる。

 

(……動揺が薄い。まさか本当に恨みを飲み下して? やれやれ全くこれだから……)

 

 効果が無かったわけではないが、期待した程には弱まらない抵抗。

 僅かの思考の後、『魔王』はそれを散々辟易させられてきた()()と同種に位置付けた。

 

 

「―――干河歩。君にも良い事を教えてあげるよ」

「……叔父、様?」

 

 そうして『魔王』は、『次』に矛先を向ける。

 先の問いかけに、当人以上に()()()()()()()()『彼女』へと。

 

「当時幼かった君には理解出来なかったのだろうけどね? 君の父親に、その心にトドメを刺したのは他ならぬ君なんだぜ?」

「……!」

 

「おまけに君の母親は、そこに居る彼女の家族を丸ごと『間違い』と断じたんだ。あれには流石の僕も失笑を禁じ得なかったよ」

「あ……」

 

「そんな君に彼女がどんな思いを抱いていたか……僕が予想してあげるよ。違うと思ったなら後で彼女に聞いてごらん?」

「…………」

 

 "個性"の腕を掴む『彼女』の手から力が緩み、その表情に戸惑いが広がる。

 その姿に確かな『笑み』を刻んだ『魔王』は、あくまで親切心という声音を崩さずに呟いた。

 

「そうだなあ……きっと君が何かを得る度、同じだけの何かを失う心地だったんじゃないかな?」

 

「君の、君達母娘の幸福な姿を見る度に、何もかもズタズタに引き裂いてやりたい気持ちで一杯になっただろうね!」

 

「その幸せそうな目玉を抉り取って! 四肢を砕いて! 奈落の底まで叩き落としてやりたい! そんなドス黒い感情を抱いていなかったという方がおかしいぜ!?」

 

 

「…………『干渉』?」

 

 か細く呼んだその声に、"個性"の少女は押し黙ったまま反応を返さない。

 その沈黙こそが何よりの答えであり―――至高の味わいに『魔王』は舌鼓を打つ。

 

 

「さあ、その手を放しなさい、干河歩君。そんな恐ろしい"個性"に君が傷付けられないよう、僕がしっかりと仕舞っておいてあげるよ。……これは君の慕う優しい『叔父様』からの気遣いさ」

 

 

「……良いの? (あゆみ)

「っ、『干渉』?」

 

 

 『魔王』の言葉に瞳を揺らす『彼女』へと、彼女は振り向かないまま問いかける。

 

「自分に殺意を抱いた"個性"だなんて悪霊じみた存在を祓ってもらえる、またとない機会よ?」

「……っ!?」

 

「ああ……何で今まで、気付けなかったのかしら」

 

 息を呑む青髪の少女に、金髪の少女は自嘲を含んだ呟きを溢した。

 

 

「―――(あなた)の立場に立ってみれば。……どこまでも『親切な叔父様』でしかないじゃない」

 

 

 堪える力が弱まり、引き込む力が一際、強まる。

 少女達の背後で、既に残骸のようだった白い壁がベキリと崩れ去った。

 

「…………で、も……っ、違うん、でしょ?」

「っ、歩?」

 

 耳に届いたその言葉に、金髪の少女が振り返る。

 青髪の少女は迷いと焦りをその顔に同居させながらも、向けられた視線に胸の裡を返した。

 

 

「―――『干渉(あなた)』の立場に立ってみたら。悪いのは叔父様で……お母様、なんだよね?」

 

 

 金髪の少女が、目を見開いて。

 呆然と、口を開けて。

 二度、三度、瞬きを経た後で……歯を食いしばる。

 

「ああ……もう、本っ当にあなたは―――」

 

 青髪の少女―――現在()の半身へと、彼女が浮かべたのは()()()()

 

 

「スットロいんだから……っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――お別れは済んだかな?」

 

「っ!」

「ひゃうっ!?」

 

 "個性"の少女が、今や浮かび上がらんとばかりに引き寄せられる。

 宿主の少女が必死にその腕を手繰り寄せようとするも、じりじりとその足を滑らせつつあった。

 

「頑張っていたようだが、悪いね、年季が違う。どうやら"個性"の『支配力』は僕が上のようだ」

「ぐ……っ」

 

「だが嘆くことはないさ! さっきも言ったが粗雑な扱いはもうしないよ。何より"個性"の吸引にさえ抗うその力、OFAの奪取にも大いに役に立ってくれそうだ」

「お、叔父様……っ」

 

「僕には難しくとも、今の弔(次の僕)なら問題無く『君』を活かし切れるはずさ! さあ―――」

 

 その懸命な抵抗さえも愉しむように。

 少女達の歪む顔を睥睨しながら、『魔王』は悠然と声を上げる。

 

 

「僕に、従え」

 





 相手の立場で考える。

 簡単なようで、難しい。
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