おしゃべりな"個性"   作:非単一三角形

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 作者的に本作において書きたかったシーントップ3、最後の一つです。……僅差で。

 仕方ないね。



C5-11 成就

 

 ―――太平洋沖合約200km、奥渡島。

 リゾート開発された、美しい水平線を描くその遠浅の海岸は、厄介な(ヴィラン)の隔離を目的として、『ワープ(コピー)』による決戦場に選ばれた場所の一つ。

 

 海岸を埋める無数の敵、そこに含まれるは数体の脳無およびタルタロス出のダツゴク達。

 迎撃に用意されたヒーロー側戦力の中にはしかし、予定と異なる人物が紛れてしまっていた。

 

「―――デクくん、先生は何て!?」

「自力で来いって! 『ワープ』が使えないってことは予断を許さないってことだ!」

 

 OFA九代目継承者、緑谷出久。

 超常社会の始まり以来、暗躍を続けてきた宿敵AFOが唯一執着する力の器であり、この戦いにおける最重要戦力。

 敵最大戦力である死柄木弔と同じ戦場に送られる筈だった彼は、転送の際に行われた一瞬の妨害により、この場所へと送られてしまっていた。

 

 とはいえ彼のOFAならば、本来の戦場である雄英上空へと向かうことは不可能ではない。

 遅れはそれだけ他への負担とはなるが、致命傷ではないはずである。

 ―――そんな祈るような想いで動き出そうとした彼へと、風を切る様に接近する人影が一つ。

 

 

「行かないでよ、出久くん!」

「うわっ」

 

「大好きだよ、ねぇだから行かないで!」

 

 その口から純粋な『好意』を叫びながら、手に握るナイフで彼を切りつけるは、渡我被身子。

 "個性"『変身』の厄介さ、当人の持つ対峙した相手を惑わす技術から、作戦の立案時点でも強く警戒されていた(ヴィラン)の一人。

 

「僕に、どうして欲しいんだよ……」

 

 焦燥の中、足を止めざるを得なくなった緑谷の口から、苛立ち混じりの問い掛けが漏れた。

 そんな彼に、渡我は朱く染めた頬で、はにかみながら返答する。

 

 

「私の恋人になって」

 

 

 

 

 

 

 

 

「何を言っているんだ!!」

 

 予想の遥か斜め上をいく返答に、緑谷もまた赤面と共にそう叫ぶ。

 

「私、君になりたいの。チウチウさせて?」

「こここ恋人っていうのは二人で遊園地に行って手をつないでクレープを半分こする事だろ!!」

 

 極度の動揺と混乱から飛び出したのは、戦場にそぐわぬ互いの恋愛観の暴露。

 俄かに緩みかけた空気はしかし、彼女の凄絶な想いを込めた独白に塗り潰される。

 

「私にとっては"同じ"になることが、()()なの」

 

「それでしか、満たされないの」

 

「ねぇヒーロー……君は私をどうしたい?」

 

 

「……僕は、好きな人を傷付けたいとは思わないよ」

 

 波立つ海に気配を隠し、瞬く間に視界から消える渡我へと、緑谷は静かに呼びかける。

 そうして視線を正面に向けていた彼は、徐に背中から十数の『黒鞭』を伸ばした。

 

「え……わっ」

 

 緑谷の死角でたたらを踏んだ渡我の足が、ざぱりと水音を立てた。

 瞬間、彼は目標を定めずに伸ばした『黒鞭』に、その音で見当付けた空間を掻き回させる。

 

 それは緑谷がつい先日味わった、()()()()()()()()への『慣れ』がもたらした選択。

 また彼が目的としたのは、常に死角を取り回り込む渡我に一瞬の躊躇を与えること。

 物理的に姿を消しているわけではない彼女の技術は、直接対峙していない人間になら見破れると分かっていたが故の判断であり―――

 

 

「トガヒミコ!」

「お茶子、ちゃん……?」

 

 

 自分は一人で戦っているわけではない、という意識の表れ。

 

「遅れてごめんなさい!」

「梅雨ちゃ……んッ!?」

 

 この場では致命の一撃となる麗日の手の平を避けるべく、体勢を崩した渡我を『黒鞭』が襲い。

 胴に巻かれた『黒鞭』に機動力を削がれた彼女を、『蛙』由来の脚力を活かした蹴撃が捉える。

 

蛙吹(あす)っ、()、『フロッピー』!!」

「行きなさい、デクちゃん。あなたがすべきは今ここで恋愛話じゃないでしょう」

 

 海面に叩きつけられ水飛沫を上げつつも、『黒鞭』の拘束をナイフで切り離し立ち上がる渡我。

 蛙吹と麗日は緑谷を庇うようにその間に立ち、彼の取るべき行動を促す。

 

「作戦通りトガヒミコは、接触数の多い麗日(ウラビティ)を中心に私たちで片を付けます」

「……っ」

「デクくん」

 

 未だ迷いを僅かに残す緑谷へと、振り向いた麗日は微笑みと共に呟いた。

 

 

 

 

「クレープ半分こ、しよね?」

 

「…………ぅん」

 

 

 

 

 彼女らに背中を向け、緑谷は征くべき戦場へとOFAを駆使し駆け出していく。

 その遠ざかっていく姿に、真っ赤に染まった耳に、麗日はうららかな笑みで彼を見送った。

 

 

「……お茶子ちゃんは、それでいいの?」

「デクくんは、あれでええのっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

《―――緑谷くん》

「……ハイっ!? 初代!? ななななな何でしょう!?」

 

《う、うん、なんかゴメンよ? ……僕の勘でしかないんだけどね》

 

 

《朗報だよ。……因縁がまた一つ、()()()()()()()らしい》

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「―――何を、した?」

 

 真黒の空の下、笑みを消した『魔王』の呟きが荒野に溢れ落ちた。

 その掌は未だ掲げられたまま、しかし吹き荒れていた風は、今や幻のように凪いでいる。

 

「……私達は、何も?」

 

 金髪の少女が、微かに息を切らしながらも悠然と立ち上がり、傍らへと手を差し出す。

 ぺたんと尻餅を付いていた青髪の少女は、やや惑いながらも彼女の手を引いて立ち上がった。

 

「けれどそうねえ……ひとつ、お話にお付き合い下さる?」

「……っ、何かな?」

 

 薄い笑みを浮かべ、一本の指を立てて鷹揚に問いかける『干渉』に、『魔王』は微かな苛立ちを隠し切れないまま相槌を打つ。

 そんな心中を見透かすように口端を上げた彼女は、殊更ゆっくりと言葉を紡いだ。

 

「この戦いに挑むにあたって……私は、緑谷さんと爆豪さん、両方から三月に起きた決戦について話を聞いておいたのよ」

「……それで?」

 

「そこで二人の話を擦り合わせたところ、ある面白い事が分かったのだけどね」

 

 立てた指を口元に添え、今一度笑みを深くした彼女は、静かに()()を告げた。

 

 

「AFOの吸引に対するOFAの抵抗―――傍からは()()()()()()()()()()そうよ?」

 

「…………ッ!?」

 

 

「いやはや羨ましいわ。何せ"私"の【面会(この技)】に、そんな便()()()()()()()()のだもの」

 

 

 告げられた言葉に、『魔王』が理解に要した時間は数秒。

 次の瞬間からその脳内に、焦燥に塗れた思考が駆け巡る。

 

 

 ―――彼女の言葉が()()()()意味だとすれば、現実の自分の身体は今どうなっている?

 ―――この空間での問答を何秒……否、何分続けた?

 ―――未だに致命傷には至っていなかったホークスが、エンデヴァーが……いや、それどころか無数のヒーローがまだ周囲に……

 

 

「ア……が、ぁ……ッ!?」

「……ああ、始まったみたいね?」

 

 されど思考が行動へ変わるより一手早く、事態は『致命的』から『手遅れ』へと進行していた。

 掲げた手が苦悶の声と共に下がっていくその姿に、尚も『干渉』は言葉を続ける。

 

「き、さま―――」

「あら、勘違いしないでくださいな。……強制力も無いのよ? 貴方の強奪と違って」

 

「っ!? ……ならば、何故……」

「何故って……()()()()()()()からに決まっているじゃない」

 

 肩を竦めた金髪の少女が、傍らの少女と目を合わせる。

 青髪の少女は頷きを返し、呆然と佇む『魔王』へと声を揃えた。

 

 

「願ったのでしょう? "私"と『話し合い』たいと」

「わたしも言いましたよ? 叔父様が望んだから、この場は生まれたんだ、って」

 

「な……ぁ……!?」

 

 

 ()()()を引き起こした最大の要因は、他ならぬ当人の成功体験(経験)

 吸引に抵抗する"個性"という前例(OFA)によりもたらされた、先入観。

 "個性"への干渉という、彼にとって呼吸にも等しい感覚へと忍ばされた、絶死の猛毒。

 

「こ……、ぉ……」

 

 激情から何事かを叫ぼうとした『魔王』は、しかし自らの喉元を押さえて膝を突く。

 

 

「……貴方と"個性"の『支配力』を競う? どうして私がそんな博打を打たなきゃいけないのよ」

 

 端から狭まっていく視界の中で。

 

 

「私は負ける戦いをする気はないの。いつだって、ね」

 

 降り注ぐ声すら、次第に遠く。

 

 

「……あなたも何か言う?」

「え、良いの? それじゃあ―――」

 

 己にすら届かぬ叫びを上げながら。

 

 

「これから頑張って罪を償ってくださいね、叔父様!」

 

 

 それが『魔王』と呼ばれた男が『聞いた』、最後の言葉だった。

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「―――干河!?」

「っ……耳郎、さん」

 

「ああ、えっと…………ごめん、今どっち!?」

「……私よ。"個性"の方。……お茶子さんならすぐ見分けてくれるのだけど」

 

「イヤ麗日と一緒にすんなって……でもそっか、()()()()()んだ―――じゃなくて!」

 

 

「自分が『()()()()()()()()()()()()()って、まさか強奪使わせた隙とは思わないじゃん!! 一歩遅れてたらアンタも一緒に『破壊』されてたんじゃないの!?」

「……まあ、そうね」

 

「ッ!? ヒーローは命捨てる仕事じゃないって、ウチに言ったじゃんか!?」

「生憎、私はヒーロー志望でもなければ生きた人間でもないもの。嘘にはならないわ」

 

「…………」

「それに……()()なったとしても残るのは"私"から解放された歩よ。歩にとってもその方が都合が良いし、誰も困らない―――」

 

 

「ざっけんな」

「っ、……耳郎、さん?」

 

 

「……決めた。アンタにゃ今から説教だ。……常闇、手伝って」

「ああ……是非も無い」

「え、ちょ……耳郎さん? 常闇さんまで、何を―――」

 

「「いいから黙ってついてこい」」

「あ、はい」

 

 

 

 

「ははは……本当に、大人の立つ瀬が無いなぁ」

 

「俺とエンデヴァーさんが()()()()時の次善策、の筈が……全く、情けなか」

 

「…………」

 

 

「一介のヤクザから奪った物を殻木球大(ドクター)が複製、増産。脳無達のカプセル同様に『崩壊』対象から外されて……けど数が数だけにか、回収しきれずに病院跡に残ってました」

 

「後から回収する気だったんなら、思わぬダメージに余裕が無くなったってところですかね。まあ要は身から出たサビっすよ、AFO。……聞こえてないでしょうけど」

 

「目と耳、ついでに寿命も"個性"に肩代わりさせてたんですっけ? 刑が確定するまでは生きててもらえると面倒が少ないんですけどねえ」

 

 

「…………『自分はヒーローから程遠い』、か」

 

 

「俺はそれでも待ってるよ、『アクセラ』」

 





 本作における対AFO作戦。

1. "個性"『干渉』の特異性、有用性を意識させ、興味を煽る。
2. 関心を持たせた上で"個性"強奪を実行させ、OFA同様の抵抗に偽装した【面会】を仕掛ける。
3. 意識を【面会】空間に隔離している内に『個性破壊弾』(死柄木起床時の状況が変わったことで破壊されずに残っており、病院跡から回収されていた)を起きないように注意しつつ固め打ち。

4. たとえ失敗しても歩を解放出来るし、相手が"個性"『干渉』を扱いきれないことも知っている。ほら、無問題でしょ?(『干渉』さん談)

 ただし本編でも完璧に嵌められていた訳ではありません。部屋が侵食されていたのがその証左。
 なお作戦の仔細を知っていた&『個性破壊弾』を持っていたのはホークスだけでした。
 結果、耳郎ちゃん及び常闇くん檄おこ。そらそうよ。

 原作がどうなるかは分かりませんが、これなら『捨て身』も封殺出来るやろの精神。
 だから、死柄木の起床関連に改変を入れる必要があったんですね。


 その他の戦場には関わりませんし、死柄木戦他は原作様に投げる形で全カット。
 というわけで次回エピローグです。
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