たったひとつ、掛け違えられたボタンを正したならば。
※整合性さんがお亡くなりになられていますが、ifルートということで一つ。
A-n おしゃべりな"個性"とあるかもしれなかった物語
《―――ねえ》
声が、聞こえた。
《―――ねえったら》
気のせいだと、思った。
《―――そうじゃないよ》
あの時は、夢中だったから。
《―――そうじゃないったら》
目の前に浮かぶボールに。それを浮かばせられる"力"に。
《―――使うなら、ちゃんと使いなさいよ》
使えるようになったばかりの"個性"に、目を輝かせていて。
《―――仕方ないから、教えてあげる》
これで自分もヒーローになれると、喜んでいた幼い私は。
《―――"私"はこうやって使うのよ》
突然
―――これは私が、ちょっとおしゃべりで……素直じゃない"個性"と一緒に、最高のヒーローを目指す物語。
《ヒーローになりたいのは、あなたであって私じゃあないからね》
《まあ、応援だけは、してあげるわよ?》
《…………
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「―――ハイ スタート!」
「…………えっ?」
《……スタート、したみたいよ?》
場所は雄英高校、入学実技試験。
その会場となる模擬市街地へと集められ、どんな形で試験が始まるのだろうと身構えていた耳に届いたのは、あまりにも簡素な開始の合図。
「え、ま、【
《早速って次元じゃないわね……そりゃまあ、現実の事件に開始の号令があるわけないんだけど》
慌てて自分自身に向けて"個性"を発動、私にかかる重力の向きをちょいと捻じ曲げ、増幅する。
そうして浮かび上がった私の身体は、同時に動き出した受験生達の頭上をふわりと追い越した。
「え、うわ、あの女子、飛んでる!?」
「しかもどんどん加速してるぞ!」
そんな声を背中に飛び出した私の視界に飛び込んできたのは、ぞわぞわと動く説明された通りの姿をした無数の仮想
その光景を前に、ついさっきまで頭に描いていた筈のシミュレーションを現実にしようとして、ふと思い立った。
(……他の受験生が全くポイント取れなくなっちゃうけど良いのかなあ?)
《……学校側が何か考えるでしょ。そんなの》
「それもそっか。……半径三十メートル、【
「「「え……っ!?」」」
感知範囲、射程範囲にぎっしり詰まった仮想敵をまとめて"個性"の対象化。
それぞれに掛かっている重力を逆方向に【反射】すれば、全員中空へと浮き上がる。
とはいえ流石にこの数この重量を長く滞空させるのは無理なので―――
「ロボ同士をぶつけて壊す! 【加速】ぅ!」
「ええぇぇっ!?」
「おい何かすげぇ数一気に倒されたぞ!?」
「同じ会場にあんなの居たらポイント取れねーよ!?」
そんな私の頭の中に《お姉ちゃんが気にすることないわ》と冷たい声が響いた。
《さっきも言ったけど、今のヒーロー業界は手柄の取り合い。後れを取る方が悪いのよ》
(う、うーん……確かにそうなんだけど……)
《それより射程圏外にもまだ仮想敵は残ってるはず。ここまできたら全滅を狙いましょ》
(うわーい容赦無い。まあヒーローとしてはそれが正しいよね。了解了解)
この試験の想定も、受験生に求められるものとしてもその姿勢が最適解だとは思うけど、ドライ過ぎる妹がちょっとだけ心配だよ、お姉ちゃん。
「《……えっ》」
―――そうして模擬市街地を飛び回り、打ち漏らしを見付けては撃破すること数分後。
耳に感じた轟音、よろける受験生と空気の振動で察した地震。
彼方へ集まる視線に釣られ、振り返った先には、天を衝かんばかりの巨大な影。
「……0P
《……雄英ってひょっとしてバカしかいないのかしら》
「「「う、うわああああっっ!!?」」」
ゆっくりとした前進。緩慢な動作で振られる腕。
たったそれだけで模擬市街地に巻き起こされる絶望的な破壊。
あまりに分かりやすい暴威に、一斉に逃げ出す受験生達が眼下に見えて。
《あーあーもう……仮にもヒーロー志望が揃って逃げ出すんじゃないわよ》
(いやあ……敵わないと思った相手から逃げるのは必ずしも間違ってはないんじゃないかなぁ)
《……それもそっか。現場においては『無能な働き者』が一番迷惑だもの》
(言い方ぁ)
0P敵が振るった腕が仮想ビルを破壊する様が遠目に見える。
破片が周囲にもたらす二次被害を避ける為、撒き散らされたそれらを一斉に【減速】。
被害を抑えつつ、逃げていく人の流れを上空から遡って、荒れ狂う暴威に対峙した。
「この質量じゃ飛ばすのは無理。【減速】させて抑え込むのも難しい。……しょうがないよね」
《それでなくとも、市街地で暴れ回るヴィランに遠慮は無用でしょ》
「いやいや人間には使わないからね! ……右」
《まあ、使えないものね、出力的に。……左》
イメージするのは一本の腕に一台のピアノ。
使う指を二人で分けて、二つの曲を同時に爪弾く。
「《―――【反射断裂】っ!》」
巨大な猛威が、聳え立つ絶望が、パカンと左右に割れた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『―――来いよ、
「……良かったわね、通子ちゃん」
「……うん、お母さん」
《……ま、当然ね》
「そっかあ……通子もヒーロー科かぁ……そっかぁ……」
「うふふ……家庭内のヒエラルキーが大変なことになったわね、
「勘弁してくれよ、
悪戯っぽく笑うお母さんに、遠い目をして苦笑いを浮かべるお父さん。
今日も仲がよろしいようで何よりです。
「それじゃ、なるべく雄英に近いアパートでも契約しなくちゃね」
「……えっ?」
「あ、そうだね。高校生になったら一人……二人? 暮らしをするって決めてたし」
「え、えっ、聞いてないぞ、射子? 通子?」
「「《そりゃあ、言ったら面倒くさいことになるし?》」」
「そ、そんな声を揃えて……年頃の女の子が一人暮らしだなんて危ないだろう?」
「そんなこと言ったって、いつまでも実家暮らしのヒーローなんて様にならないよ」
「娘が可愛いのは全面的に心の底からこれ以上なく同意するけど、過保護なのも良くないわ」
《……この人の説得もまあまあ苦労したわよね》
(一度納得してくれたら早いんだけどね……)
笑顔でお父さんに詰め寄るお母さんを見ながら、頭の中で苦労の軌跡を呟き合う。
情と正論の両方でどうにか説き伏せたけど、正直面ど……愛されているなあと実感したものだ。
「何よりこの子達は私の……元プロヒーロー『リフレクション』の娘なのよ? ちょっと親元から離れるくらいでどうにかなるような、やわな娘じゃないわ」
「そりゃまあ君に似て逞しく育ってくれたことは分かってるが……父親としてはそういう問題じゃなくてだなあ……」
《……これは、長引きそうね》
(今の内に部屋の整理でもしてよっか)
「―――あっ、ちょっと待って、通子ちゃん」
今は口論のようになっているけど、気付けばキスの一つもしてくっついてるんだ。知ってる。
流石にその現場にはそろそろ巻き込まれたくないと、部屋に引っ込もうとしたところでお母さんに呼び止められた。
「《……何ですか? ちょっと両親のイチャイチャをこれ以上見守りたくないんですけど》」
「あらもうこの子ったら……ごめんね、忘れていたことがあったの」
そう言って、お母さんは私をぎゅっと抱き寄せた。
……こんな風に抱きしめられるのはちょっと久し振りで、何だか心が浮ついてしまう。
「よく頑張ったわね。……えらいわ、通子ちゃん、『干渉』ちゃん」
「……うん、ありがとう。お母さん」
《……お母、さん》
「これからも二人で仲良く、ね? あなた達二人ならきっと、何だって出来るわ」
「うん。……これからもよろしくね、『干渉』?」
《…………うん。よろしく……通子お姉ちゃん》
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「―――机に足をかけるな! 雄英の先輩方や机の製作者方に申し訳ないと思わないか!?」
「思わねーよ! てめーどこ
《わぁお》
「ヒーロー志望も色々だなあ」
入学式のその日、教室で繰り広げられたのは、これから級友になる男子生徒同士の言い争い。
《ああいう男には近付いちゃダメよ、お姉ちゃん》
「うん、まあ、言われなくても近付かないよ」
幸い
……とはいえヒーローには他人と協力する場面なんて幾らでもあるだろうし、授業の中で関わる分には仕方ない―――
(……あれ?)
《どうしたの?》
(いや、人数足りなくない? 私達を一人と数えたら十九人しか来てないよ?)
《……いや、流石に二人カウントはしないでしょうよ。でも確かにそうね。そろそろ時間―――》
「―――間に合いましたぁ!」
教室の大きな扉をガラッと開けて、時間ギリギリに滑り込んできたのは青髪の女子生徒。
既に中に居た十九人の視線が集まる中、彼女は何かを見付けたようにハッと息を呑む。
次の瞬間、彼女は目当ての人物に向けて駆け出して。
その相手もまた、気持ちは同じだったのか手を伸ばして。
「干河歩!」
「麗日お茶子!」
最低限の自己紹介と共に、がっちりと両手を取り合った。
「受かってたんや!」
「同じクラスですね!」
手を繋いだまま、その場でぴょんぴょんと跳ねて互いの合格を祝い合う二人。
そこに、先の言い争いに参加していた眼鏡の男子生徒が声を掛けにいく。
「その様子……同じ中学の出身なのかい?」
「ううん、入試の日が初対面」
「実技試験の会場が同じだったんです」
「そ、そうなのか……」
「その時に気付いたんよ、ねっ?」
「はい、わたし達は―――」
そこで二人は顔を見合わせて、にっこりと笑い。
「「魂で通じ合った仲間だと!」」
声を揃えてそう宣言した。
「あの十分で何があったらそうなるんだい!?」
《それはそう》
「賑やかなクラスになりそうだなあ」
「お友達ごっこがしたいなら余所へ行け。ここは……ヒーロー科だぞ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「―――入学式もガイダンスも無しにジャージに着替えてグラウンドに集合って……」
《流石ヒーロー科。普通の学校とは比較にもならないわね》
女子生徒全員で急かされるように飛び込んだ更衣室。
用意されていた学校指定のジャージに着替えている途中、ふとさっきの二人が目に入った。
「しっかしまあ、ギリギリやったね……その後すぐここまで走らされたし……大丈夫?」
「ぜぇ……はぁ……な、何とか……」
「…………」
《……お姉ちゃん? あの二人がどうかしたの?》
「いや、何となく気になるというか……」
既視感というか、違和感というか……あの二人が並んでいる姿に何か感じるものがあった。
もやもやした気分を抱えたまま着替え終えた後で、思い切って二人に話しかけてみる。
「ねえ、えっと……干河さんに麗日さん、だよね?」
「え、うん、そうやけど……」
「えっと……」
「あ、ごめん、一方的に名前を知ってるのも良くないよね」
振り返った二人を前に、こほんと咳払いを一つ。
「私の名前は
「ん……麗日お茶子。"個性"は『
「最後はわたしですね。
―――おしゃべりな"個性"と、共にヒーローを目指す女の子。
「『ネビルレーザー』です!」
それは、あるかもしれなかった物語。
それでは、またいつか。
※本編よりは早くハッピーエンドフラグを踏めます。多分。
あと流石に女の子が下は不味いので上です。念のため。