おしゃべりな"個性"   作:非単一三角形

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 完結後のifだからこそ許される(?)無茶なシーン集。

 整合性さんはぶん投げて飛距離を競う方向にシフトしてみました。



A-k ありえなかった場面集

 

Case1:『ありえなかった接触』 at 体育祭第二種目、騎馬戦中(C2-3頃)

 

 

 

 

《―――ねえ》

 

 声が、聞こえた。

 

 

《―――ねえったら、聞こえてる?》

 

 気のせいだと、思った。

 

 

《―――そうじゃないよ》

 

 今は、それどころじゃないから。

 

 

《―――そうじゃないんだって》

 

 目の前の状況に、使える筈の"力"に集中していて。

 

 

《―――全く、仕方ないなあ》

 

 想定通りに動かせない身体に、焦っていた僕は。

 

 

 

 

《―――ボクが代わりにやってあげるよ。感謝してよね、()()()?》

 

 突然周囲から集まってきた()()()()()()()を、呆然と眺めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――物間ぁ!? あの1000万の騎馬(緑谷チーム)みたく飛ぶんじゃなか……っ、イヤ、ハチマキ取るのは良いけどこんな一気に集めちまったら―――」

 

 

「んだてめぇコラ返せ殺すぞ!!」

「あの"個性"……放置はできねぇな」

「そーくるならB組同士でも容赦しねぇぞ! 物間ァ!!」

 

 

「ほらぁ!? 超狙われてる!! 作戦どこいったんだよ、お前!?」

「ぅ、あ……ゆ、揺らさないでくれ、円場(つぶらば)……!? 今、頭が……おぇ―――」

 

「うわあぁ!? お前、人の頭の上で……!? ギ、棄権(ギブ)! ギブアップさせてくださぁい!?」

 

 

 

 

「……何が起きてるん、アレ?」

「干河に触れた途端に苦しみ出したようにみえたが……」

「え、わ、わたしは何も……?」

「周りの騎馬からハチマキが……周囲の物体を引き寄せる"個性"? でもそれにしては……」

 

《…………さっきの感覚、ひょっとして……そんな"個性"もあるのねえ……》

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

Case2:『ありえなかった下世話(げせわ)(ばなし)』 at 緑谷くん連れ戻し直後(C5-4頃)

 

 

 

 

「―――ずばり女性陣に、お聞きしたい!」

「……上鳴? 何さ、また唐突に」

 

「麗日は寮に戻ってきてすぐ自室で眠ってしまっている。これに間違いはないですか!」

「……まあ、そうだね」

 

「対する緑谷もまたこの通り、一連の話が終わってすぐ、ソファーの上で爆睡中です!」

「……見ての通りだね、うん」

 

 

「彼の連れ戻しに、避難民との軋轢解消の叫び……あれは麗日の『(LOVE)』が為せる奇跡だというのが男性陣大半の認識ですが如何(いかが)か!」

「……丁度、飯田が通子ちゃんを連れて外に出てるのと、同じく峰田が隔離されてるタイミングで話題に出した事との関連性は?」

 

「ノーコメントで!」

「ハイハイ……で、本題は?」

 

 

 

 

「この眠っている緑谷を、麗日のベッドに放り込むという案―――アリですかナシですか!?」

 

「…………イヤ、バカなの? 幾ら何でも悪ノリが過ぎ―――」

 

 

 

 

「詳しく聞こうじゃないか、上鳴くん」

「え、ちょ、芦戸? あんた何言って―――」

 

「エビデンス次第では検討に値するよ、上鳴くん」

「葉隠も!? ……いやいやそれはマジで冗談で済まないから!?」

 

 

「……三奈ちゃん、透ちゃん、上鳴ちゃん。響香ちゃんの言う通りよ。それは流石にいけないわ」

「いやまあ、本気でやる気はねーよ? けどもうそんぐらいの荒療治も辞さない勢いで背中押してやんねえと、こいつら進展しないんじゃないかって……」

「……分からなくはないけど、そっとしといてやりなよ。そのうち二人のペースで進み出すって、きっと」

 

「そうよ、それに……大事にしまっているものを暴かれるなんて、いたたまれないもの」

「そうだね、梅雨ちゃん。他人が隠してるものを勝手に曝け出すってのは人としてよろしくない。だけどその前に一つ、考えてみて欲しいんだ―――」

 

 

 

 

「そもそも麗日の恋心って、隠れてた?」

 

「…………」

「……いや、そこで目ぇ逸らしちゃ駄目でしょ、梅雨ちゃん……」

 

 

 

 

「ぶっちゃけ男性陣は、コレ隠す気無いだろ……早く応えてやれよ、緑谷……って思ってました。本人含めた素で気付いてないごく一部(飯田・轟)と、あと峰田以外は」

女性陣(こっち)も大体同じような感じだったよ……言質は取れてなかったけど」

「そんなんじゃないーって否定するんだよね。……真っ赤になって。そうかと思ったら、ぽーっとした目で緑谷くんのこと追ってるし……もう、ワザとやってない!? って感じだったよねえ」

「…………そ、それでも外野が口を出して良い理由にはならないわ。本人は隠しているつもり……いえ、隠していたんだから」

「……まあ、皆にもバレまくってて全然隠せてないよって話したことはあったけど」

 

 

「「「えっ」」」

「えっ? ……あっ」

 

 

「まさかの言及済み!? そ、それで麗日はそのとき何て言ってたの!?」

「い、いやほら、お互い大事な時期だし邪魔したくないって……」

 

「もう否定はしなくなってたんじゃん!? ……で、それに対して耳郎ちゃんは!?」

「あ、ああ、えっと……青春捨てることはないじゃん、ぐらいの軽い発破を……」

 

「……響香ちゃん。それ、いつ頃の話なの?」

「梅雨ちゃんまで!? あー……文化祭のちょい前ぐらい……?」

 

 

「文化祭前……」

「……そういえばそのぐらいの頃から、何となく二人で行動してることが多かったような……」

「そういやあ、訓練用の教室があの二人……と爆豪の名前で予約されてんの見た事あるぜ?」

「「「マジで!?」」」

 

「そん時は爆豪も居るならそういうのとは違うよなーって流してたけど……え、マジでか?」

「そ、そういえばその時期にどこかコソコソと出掛けていくことがあったような……」

「……えっ、もしかしてそういうこと!? そういうことなの!?」

 

「実は水面下でこっそり進展していたの!? で、でもお茶子ちゃんにそんな素振りは……」

「待て待て落ち着け! まずは爆豪に確認を―――アレ、居ねえ!? いつの間に!?」

「さっきまでそこに居たよね!? えっ、逃げた!?」

「ここにきて協力者発覚!? これは緊急事態だよ!? メーデー、メーデー!?」

 

 

 

 

「…………取り敢えず全員まとめて馬に蹴られろ」

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

Case3:『ありえなかった嘆願成就』 at 二年A組文化祭(本編終了から約一年後)

 

 

 

 

「―――正気ですか?」

 

 一枚の冷たいガラスを越えて、そんな呟きが溢された。

 

「……教師に向かって開口一番それとは、良い度胸だな」

「いやいやそうもなりますよ……ご自分が何を仰ってるか分かってるんですか? ……相澤先生」

 

 以前のような拘束や機銃の備えは無くとも、それなりの警戒態勢を敷かれた部屋の中。

 囚人服に身を包んだ干河歩―――に宿りし"個性"『干渉』は面会に訪れたかつての担任教師へと胡乱な眼差しを向け、今一度言い放つ。

 

 

「―――『干河歩(私達)』を保護観察扱いで雄英文化祭に連れ出す? 正気の沙汰とは思えませんよ」

 

「俺も似たような台詞が怒号混じりに漏れてくるのを飽きる程聞いたよ。……校長室の前でな」

 

 

 返された言葉に息を呑んだ彼女に対し、相澤はただ事実を陳列するとばかりに言葉を続ける。

 

「前年にも()()はあったが、あの時は(ヴィラン)隆盛により、そもそも開催自体が危ぶまれていた状況。来場者制限を掛けての強行以上に無理を通せる余地など残されていなかった」

 

「対して今年は大きな事件も無く、校舎の安全性もこれ以上なく周知されてる。回復したヒーローへの信頼、ひいては社会への信頼は今、雄英を拠り所にしているのが実情だ」

 

「その辺りの事情で、今年は逆に校長の方が()()()()()()()立場にあるらしい。……俺の勘違いじゃなければ去年の鬱憤晴らしを兼ねてたな、あれは」

 

 

「……いち高校の校長が持ってて良い権力なんですか、それは……?」

 

 互いの脳裏に同じ哄笑の声を浮かべ、ガラスを挟んで遠い目になる二人。

 一度の咳払いを挟み、当初の問い掛けへと話題は戻された。

 

「……で、後はお前達の意思確認だけだ。……どうする?」

「…………」

 

 

《……ねえ、『干渉』?》

(……ええ、分かってるわ、歩)

 

 

「予想だにしていませんでしたが、可能だというならば」

「……そうか」

 

 その言葉に頷きを返した相澤は、面会を切り上げるべく動き出す。

 この場を見守っていた職員と二言三言交わした後で、彼は不意に呟きを落とした。

 

「そもそもAFO亡き今になって、未だにお前の拘留が続いていること自体が非合理なんだ」

「……それは仕方ないでしょう。どれだけ酌量を重ねたとしても元が元ですし……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――文化祭当日、舞台裏。開演三十分前。

 上がる時を待つ幕の裏、()()A()()の面々は今、観客より一足早く互いの衣装姿を披露していた。

 

 

「……どーお、デクくん? 似合っとる?」

「う、麗日さん!? う、うん、その……か、可愛い、よ?」

 

 

「……オイオイ、緑谷ぁ? もう一言ぐらいなんか無いの、『彼氏』としてさぁ?」

「こらこら、当の『彼女』が満足げにしてるんだから、つついてやるなっての」

「今年は衣装作りにも時間かけたからねー」

「タンスの角に小指ぶつけて爪割れろ……! そんで剥げろ……!」

「……峰田お前、言いたかねぇけどそういうとこだぞ」

 

 

「……お前ら去年から、あのヒーロー科の授業の合間にこんなことやってたんだよな……」

「まぁな! C組は去年は確か……お化け屋敷だったっけ?」

 

「ああ……それっぽいメイクして裏でスタンバイしてたぐらいさ。バンドの話は人づてに……足、引っ張らねぇように頑張るよ」

「そんな気負うなって! 大丈夫さ、心操!」

 

 

「今年は来場者制限が無いぶん、観客すっごいねぇ……会場も一回り大きいし」

「去年と大筋の演出は同じだけど……瀬呂くん轟くんの仕事量が増えてんだよね。大丈夫そう?」

「ああ、そこは問題ねぇ……けど良いのか?」

「ん? 何が?」

 

「打ち合わせ通りだと、()()()()()()()()()()()()と思うんだが……」

「ああ、それについては―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――『Aバンド・リターンズ』……?」

「関係者以外の立ち入りを禁止した去年の舞台の評判が口コミで広がったのを理由に、盛況の声に応えて……ってのが、あいつらが用意した表向きの説明だな」

 

《みんな……》

「……バカばっかりなんだから、もう……」

 

 開演間近の薄闇の中、座席は中央最後尾。

 パンフレットを片手に目を伏せる彼女の隣で、相澤は気怠げに周囲の観客を見渡す。

 

「内外から熱望する声があったのも事実……期待は天井知らずなわけだが、さて、どうかな」

「……それぐらい軽く越えていくでしょう。彼らなら」

 

 去年とは方向性の異なる『品定め』の意思を抱く観客の存在を確認しつつ、そんな呟きを返した彼女の横顔を、相澤は一瞬見下ろす。

 意識の内にあるのか否か、()()に共通する黒の瞳に滲む寂しげな光に、彼は黙って息を吐いた。

 

 

 

 

「……お」

「おお、始まるぞ」

「去年見れなかったからなー」

「噂は聞いてたけど、どんなモンだぁ」

 

 開演時間を告げるブザーと共に、ステージを仕切る幕が左右に開く。

 微かな期待(ガヤ)と拍手の中、浮かび上がるのはズラリと整列した黒い影。

 

 

「―――いくぞゴラアアア!!」

 

 火蓋を切るは、掛け声と共に爆豪(ドラマー)が鳴らした文字通りの『爆音』。

 ベース、ギター、シンセサイザーの音色がそれに続き、暗闇から一転、眩く照らされたステージの上を並んだ人影が一斉に動き出す。

 

「―――よろしくお願いしまァス!!」

 

 耳郎(ボーカル)の一声を合図に、始まったのは一糸乱れぬラインダンス。

 曲の歌い出しと同時にそこから前面に躍り出るは、揃いのポーズを決めた男女の二人組(緑谷と葉隠)

 

 自身に向かって軽やかに跳ねた葉隠の足を、組んだ手で受け止めた緑谷が、その腕に緑の閃光を走らせ、天井高くまで跳び上がらせる。

 俄かに空を舞う彼女を追うのは、数羽の鳥に操作される一基のスポットライト。

 

 

「お、きたきた!」

「開幕人間ミラーボール!」

 

 透明な四肢に照射された光は、あたかも回転する鏡面に当てられたかのように乱反射。

 人々の頭上に光の花を咲かせつつ徐々に高度を落としていく彼女を、同じくステージから尻尾で跳び上がった尾白が受け止める。

 

 観客の目がそちらに誘導される中、緑谷が舞台袖へと捌けると同時に、次に動くは峰田と障子。

 峰田当人はそのまま、障子は彼のグローブを用いて、"個性"『もぎもぎ』による球を観客頭上の空間へと広くばら撒いた。

 

 

「今度は何?」

「一発芸?」

「いやいや、上見ろって!」

 

 続いてフライギャラリーから放たれた瀬呂の『テープ』がそれらを繋ぎ、轟の氷が即座に覆う。

 そうして即席で作り上げられたのは、天井を所狭しと張り巡らされた氷のレール。

 

 去年の演出を記憶に残した人間が隣の誰かに掛ける声が聞こえる中で、ダンスの中で一度両手を合わせた麗日が、徐に観客席の方向へと跳躍する。

 直後、氷のレールから伸ばされた『黒鞭』が彼女の胴に巻きつき、その身体を吊り下げた。

 

「―――楽しみたい方ァア!! ハイタッチー!」

 

 

「きた! ウラビティタッチ!」

「え、何々!?」

「去年コレ楽しかったんだぁ!」

 

 知っている観客は笑顔で、知らない者もそれにつられて、空を滑る彼女へと諸手を上げた。

 そうして彼女の手に触れた者から順に、引力の軛を離れて客席から浮かび上がる。

 驚きと喜色に溢れた歓声が、演奏と歌声に紛れるその中で―――

 

 

《……お茶子ちゃんが、こっちに……!》

「っ……相澤先生?」

「さァな。俺はあいつらから渡された整理券に従っただけだ」

 

 澄まし顔でそう宣った相澤へと続けようとした彼女の言葉は、距離が埋められハッキリと見えた麗日の表情に、形を作らないまま喉奥へと落ちていく。

 明らかに自分達へと向けられた、差し伸べられた肉球付きの掌に、彼女は今一度目を見開いた。

 

 

《……か、『干渉』?》

「分か……ってるわよ!」

 

 半ば以上ヤケを起こした心持ちで伸ばされた『干河歩』の手が、麗日の手にぺしっと叩かれる。

 そうして浮かび上がる彼女の身体を、テープを手に駆け付けた芦戸が一瞬の驚きを見せつつも、微笑みながら他の観客同様に氷のレールへと固定した。

 

 

(観客の反応からして去年と同じ演出なんでしょうけど、全く無茶苦茶な…………ん?)

《……ね、ねえ『干渉』? お茶子ちゃん達が何か……》

 

 

 未だ吊り下げられたままの麗日が、吊り下げた緑谷が、何かを言いたげに指差しを見せる。

 片方が差す先は天井の梁の上、『硬化』した身体で抱えた氷を削り、客席に幻想的かつ涼し気な景色を提供している切島の姿。

 そしてもう一人が誘導する先は、不自然に演出から漏れたような空間を残す、演奏者達の頭上。

 

 

《……え、まさか、お茶子ちゃん……》

「ば…………っかじゃないの……!?」

 

 

 意図の理解、否、()()を終えた彼女が呆然と開けた口に、返されたのはどこか挑戦的な微笑み。

 緑谷が、切島が、確認出来た限りの全員が、同じ色の視線を彼女に向けていた。

 

 

《……『干渉』》

(……歩?)

 

 微かな戸惑いを残した彼女に、頭の中から届いたのは最後の一押し。

 

《……やっちゃって!》

(……了、解……っ!)

 

 

 

 

「……え、あれ、氷が……」

「形を……うっわ……!」

「氷の……竜!?」

 

 客席へと降り注いでいた氷の粒が、突如意志を持ったように捩れ集まり、形を造る。

 その予兆を見た切島が一層激しく、荒く砕いた氷が()()に加わり、やがて確かな威容を形作った氷竜が、一際大きな歓声の中で無音の咆哮を上げた。

 

「―――轟くん!」

「ああ、了解だ。……持ってけ!」

 

 

「うぉ、今度は炎も!?」

「演出レベルアップしてる!? そりゃそっかぁ!」

 

 

(っ、即興で要求することじゃないでしょうが!?)

《わぁ……》

 

 呼び掛けに応え、フライギャラリーより放たれた炎が、先の氷をなぞるように実像を造る。

 数秒後、鏡合わせのように誂えられた二頭の竜が、ステージの真上にて相対していた。

 

「―――サビだ! ここで全員、ブッ殺せ!!」

 

 

 より激しく転調した曲に引かれるように、それぞれの演出が佳境を迎える。

 砂藤の握るロープに吊り下げられ、再び光を花開かせる葉隠。

 音響機器ごと空を舞い、雷光と共に爪弾く上鳴(ギタリスト)

 氷のレールの上へと舞台を変え、滑りながら踊るダンス隊。

 

 そして演奏者達の頭上、曲に合わせて相打つように絡み合う紅白の竜。

 

 

「うっはは! 聞いてたよりすっげぇ!」

「あいつ今回もずっとロボットダンスだけしてる!?」

「……あれ、なんかあの竜だんだん降りてきて……!?」

 

 

 曲の終わりに向け、盛り上がりの絶頂にあった観客の目に映ったのは、演奏者達を呑み込まんとばかりに鎌首をもたげ、悠然と咢を開く二頭の竜。

 一拍の停止を経て、勢い良く動き出したそれらの衝突予測地点は、ステージ中央―――

 

 

「―――ッ!!」

 

 

 高らかに響き渡った耳郎(ボーカル)のシャウトに、襲い掛かった紅白の竜の身体が弾け飛ぶ。

 二色の光粒へと変わったそれらは、微かな暖と涼を運びながら、観客席を吹き抜けていった。

 

 

《わあぁ……!》

(全く……二度はやれないわよ、こんなこと……っ)

 

 観客席最後尾、集中状態から人知れず息を吐いた彼女は、ふとした拍子に周囲に目を向ける。

 彼女の瞳に映ったのは、未だ冷めない興奮に両腕を振り上げ歓声を上げる無数の観客の笑顔。

 

 

(あ…………)

 

 

 それに次いで気付いたのは、自身の中に残る意識の外に置いていた高揚感。

 かつて焦がした激情の何れとも似ても似つかぬ興奮に、彼女は知れず頬を引き締めた。

 

 

「……っ!」

(! ……お茶子、さん)

 

 

 故の分からぬ混乱の中、向けた視線に言葉は無く。

 しかし返ってきたうららかな笑みに、彼女は暫し逡巡し―――心の内で呟いた。

 

 

(……ごめんなさい。……ありがとう。あなた達のおかげで、やっと分かったわ)

《『干渉』?》

 

 

 

 

(私…………生きていて、良いのね? あなた達と同じ、この世界で……)

 

 

 

 

 

 

 

 

「……"個性"の使用にまで許可出てましたっけ?」

「……監視に俺を付けろとしか指示を受けた覚えはありませんね」

 

「あっはは……悪いお人っすね。イレイザー先生?」

「そちらこそ、いち高校の文化祭なんかで油売ってて良いんですか、ホークス(No.2)

 

「あー……ま、あれからそれなりには平和になりましたからね」

 

 

「……流れはまだ緩やかですが、自首にやってくる人間が相次いでます。どうやって聞きつけたか知りませんけど、『裏切者』が元気に生きてるってのが彼らにとっては重要事(マスト)みたいで」

「…………」

 

「『魔王』の消失に誰より敏なのが、元信徒ってのは皮肉なもんですね。……あ、これオフレコで頼みますよ?」

「……それで、何の話をしに来たんです?」

 

「……小耳に挟んだんですけど彼女、復学してもヒーロー科に戻る気は無いんですって? 色々と思うところがあるのは分かりますけど……勿体無いと思いません?」

「……それが本人の意思であり、選択です。それに、俺は―――」

 

 

 

 

「自身を犠牲にして事の解決を図るヤツに、ヒーローを名乗らせる気はありません」

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――いつの間にか切り替わってるな? さっきまで表に出てた方はどうした」

「『後は(わたし)が楽しみなさい』って言って引っ込んじゃいました。……多分、泣き顔を見られたくなかったんですよ。……強情なんだから、もぉ」

 





 Case1:どうやって触ったんよ、物間くん。
 Case2:ヒーロー志望がここまで下世話な会話はせーへんやろ。
 Case3:もう色々とありえないのです。まともに考えれば。
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