Q. 峰田くんの叫びでは格差に意識はいかなかったの?
A. あれは鳴き声です。
―――二人一組でヒーロー側、ヴィラン側に分かれての屋内対人戦闘訓練。
舞台となるビル内には、核兵器を想定したハリボテが一つ。
ヒーロー側の勝利条件は、15分の制限時間以内に核兵器に触れる、もしくはヴィラン側二人に支給された確保テープを巻き付けての捕獲。
ヴィラン側も同様にヒーロー側をテープで捕獲するか、制限時間まで核兵器を守り切る。
また訓練中同陣営間では小型無線による会話が可能。
なお、それぞれのコンビ及び対戦相手は、くじを引いて決定。
またいずれか二組による訓練を行われている間、残りの十六名は地下のモニタールームからビル各地に設置された定点カメラの映像越しにその様子を観戦する。
筋骨隆々、大木のような手に摘まんだカンペにちょくちょく目をやりつつ、それらの説明を行うオールマイトに、一同思わぬギャップを見せつけられる一幕を経て。
中身を見えなくした箱からそれぞれくじを引き、コンビ相手の確認をすること暫し。
「私はAやな」
「わたしはEでした」
「「「そこ揃わないの!?」」」
「そらまあ流石に―――あ、デクくんAやん! すごい! 縁があるね! よろしくね!」
「……っ! ……!!」
《喋れてないわよ、頑張れ男の子》
「あ、Eって私だよー、干河ー」
「芦戸さんでしたか、よろしくお願いしますね」
最後にオールマイトが対戦する二組及び役割を決定するくじを引くことで、『ヒーロー基礎学』最初の授業の本格的な幕開けとなった。
第一戦、ヒーローチームは緑谷さんとお茶子ちゃん。ヴィランチームは爆豪さんと飯田さん。
(……どうなると思います?)
《……緑谷さんが"個性"をそう簡単に使えない状況は変わらず。お茶子さんも昨日見て、話して、観察した限りでは近接戦闘の心得を磨いてきたようには思えない》
そんなところを見ていたのか、という思いを抱くわたしを余所に『干渉』の分析は続く。
《対して爆豪さんは見るからに
(……じゃあ、お茶子ちゃん達に勝ち目は無いんですか?)
《真っ向から戦えば、と言ったわよ?》
(それは―――)
「いきなり奇襲!!」
峰田の叫び声に、はっとモニターを見上げれば、ビル内に侵入した二人が爆破の一撃から辛くも逃れる瞬間が映っていた。
爆豪さんの右手が追撃に振りかぶられた瞬間、その正面へと飛び出す影が一つ。
「え、デクさ……わぁ」
《背負い投げ、かしら。彼もその手の訓練をしているようではなかったのに……》
その後もデクさんは、そのハイリスク過ぎる"個性"を使用しないまま爆豪さんと交戦、隙を見てお茶子ちゃんを核兵器の探索に進ませることに成功。
自分もまた地形を駆使して相手の視界から逃れ、息を整える姿がカメラに映る。
遭遇戦を突破したお茶子ちゃんはと言えば、五階まで進んだところで核を守る飯田さんに遭遇。
何事か言葉を交わしたらしき停滞の後で、間合いを図るように対峙していた。
《……一対一、二対二では勝ち目が薄いと察して、二対一を二回仕掛ける心積もりかしら》
(成程、それなら有利不利を覆せますね)
《ただ、残り時間でそれが実現できるかは怪しいわ。今はお茶子さんが自分一人での核兵器確保に切り替えるべきか、選択を迫られているところね》
(お茶子ちゃん……っ)
核兵器と、その傍で対峙する二人が映るモニターに、わたしが注視していたそのときだった。
この場でただ一人、訓練中の四人の会話を聞いているオールマイトが不意に口を開く。
「爆豪少年、ストップだ―――殺す気か」
次に起きたのは、地下のモニター室にまで届く轟音と振動。
そして幾つもの、一瞬だけ真っ白に染まり、映像の切れてしまったモニター群。
「授業だぞコレ!」
「……!! 緑谷少年!!」
《今はヴィラン役とはいえ、これは……っと、お茶子さんが動いたわよ》
「人に向けて良い威力じゃ……え、あっ」
地下の面々同様、大きく揺れるビルに飯田さんが気を逸らされた隙を狙い、お茶子ちゃんがその頭上を跳躍していた。
まだまだリスクは高いままであるはずの、自分自身を重力から解き放つ『超必』を使って。
ただしそう安易に出し抜かれるような飯田さんではなかったらしく、両脚に着いた『エンジン』の"個性"を使った高速機動で核兵器を抱え上げ、お茶子ちゃんの軌道上から退避。
既に核兵器回収の為に"個性"を解除し落下軌道に入っていたお茶子ちゃんは、着地点の急な変化に対応できずにゴロンゴロンと盛大に転がって壁に激突した。
「うわあぁ、だ、大丈夫かな、お茶子ちゃん……っ」
《動揺からくる着地ミスだなんて、随分練度が不足してるわね》
「え? うわ、麗日ひっくり返ってるじゃん。何があったの?」
「みんな爆豪と緑谷のほう見てたからなー」
「ぶれないのね、干河ちゃん」
お茶子ちゃんにまで辛口になりだした『彼女』の声を意識から追い出して《ちょっと?》、奮闘を続ける姿に心の中でエールを送る。
それから暫く飯田さんと『超必』を混ぜた追いかけ合いをしていたお茶子ちゃんが、不意に彼と距離を保ったままビルの柱の一つにしがみついた。
「……? お茶子ちゃん、何して……うえっ!?」
「緑谷コレ、マジかよ!?」
「麗日達が居る階までブチ抜いて……!」
二度目の大爆音と地響きの中、お茶子ちゃんの眼前にあった床が膨らむように破裂した。
前方に浮かんだ無数の瓦礫に、"個性"を使ったらしい柱で流れるようなフルスイング。
核兵器を抱える飯田さんへと、柱に打たれた瓦礫が流星群の如く降り注ぐ。
ビル全体が未だ衝撃に揺れる中では、飯田さんもこれまでのような核を抱えた移動は選べず。
飛来する瓦礫への防御に転じた瞬間を、再度の『超必』を仕掛けたお茶子ちゃんが突破に成功、核兵器への
《…………は?》
「うわあ、凄い連携……連携? で、良いんですよね、これ」
「割と脳筋気味な解決……いやでも爆豪が先にビルぶっ壊してるしなあ……」
気分が悪そうに核のハリボテに寄りかかるお茶子ちゃんに、飯田さんが気遣わしげに声を掛けているらしい様子が見える。
デクさんの方はと目を向けると、不味い方向に曲がった左腕を抱えて倒れこんだところだった。
「―――お茶子ちゃん!」
「あ、歩ちゃーん!」
「ぼ……俺も居るんだが……まあいいか」
終了宣言からその場に立ち尽くしている爆豪さんを、オールマイトが迎えに出ていって暫し。
先にモニタールームへと戻って来たお茶子ちゃんを笑顔で迎え、いつかのように手を取り合う。
「成功したんですね、『超必』完全版!」
「うん、まだ半分……いや、三割くらいやけど。目に見えて耐えれるようになったわ。歩ちゃんのおかげやね」
「何々、お二人さん。何の話ー?」
「ああ、えっと……私の"個性"のデメリットがな。昨日歩ちゃんと相談して色々試してたら改善の糸口が見つかったんよ」
「デメリットとは……さっき訓練終了後に、顔色を悪くしていたあれかい?」
「ええ。あの様子なら今後の選択肢が大きく広がりますね、お茶子ちゃん」
「いうてもかなり難しいんやけど……方法が見つかったからには頑張らへんとな」
顔を寄せて、ボソっと溢された「乙女の尊厳も守れたし……ほんまありがとうな」という呟きがわたしの耳を叩く。
笑みを返そうとしたところに『干渉』からの思念が伝わって、わたしの笑みは苦笑に変わった。
「あー……ただ自分の技で着地ミスからの横転は、ちょっと」
「え……あっ、あー………せやね」
自分の頭をトントンと叩きながら、伝えるようにいわれた苦言を口に出せば、一瞬驚いたようにわたしを見たお茶子ちゃんは、すぐに『誰』の伝言か気付いたらしく、苦笑いを浮かべた。
「あと核兵器想定のハリボテにも当たりかねない軌道で瓦礫打ち込んでましたよね」
「…………あっ」
「……割と容赦なく駄目出しするんだな」
「仲良いだけじゃないのね」
それから爆豪さんを伴って戻って来たオールマイト曰く、緑谷さんは現在搬送用のロボに担架で運ばれ、保健室へと送られている最中とのこと。
爆豪さんから"個性"による爆破を含めた猛攻を受け、また己の"個性"により左腕を骨折しているものの、受け答えは可能な状態なので心配は要らない、ということらしい。
「さて今の一戦の講評……の前に配布品の回収か。では確保テープと小型無線機を……あっ」
「オールマイト先生?」
「緑谷少年から小型無線機の回収を忘れていた……麗日少女、まだ通信は繋がっているかい?」
「え……は、はい! デクくん、聞こえる? ……繋がってました!」
「では後で回収するので保健室に着いたらリカバリーガールに渡すよう頼んでおいてくれるかな。さてすっかり長くなってしまったが今の一戦の講評に移ろうか!」
その後、八百万さんに『干渉』のソレに輪をかけて厳しい講評をされたお茶子ちゃんから助けを求めるような目を向けられたものの、いずれも正論でしかなかったために首を横に振るしかなく。
縦横に大きく穴が貫通したビルで次戦を行うわけにもいかないからと隣のビルに移動する間に、しょんぼりするお茶子ちゃんを慰めることになるのだった。
爆豪緑谷が派手な戦闘をしている中、頑なに麗日さんから目を離さない歩ちゃん。
原作では講評前に気絶、搬送されてしまう緑谷くんですが、聞いてほしいやり取りがあったので少しばかり根性を盛ることに。
無線越しに麗日さんがPlusUltraしてる声が聞こえてたので食いしばり発動したということで。