何やらスピンオフで第三戦以降も描かれたそうですが、作者は未読ゆえよく知りません。
単行本から分かるのは芦戸さんが青山くんのマントを溶かしたことと、耳郎さんが相手の位置を探知していたらしいぐらいですね。
―――続く第二戦。
開幕と同時にヒーロー側の片割れ、轟さんの"個性"により、なんとビル丸ごと氷漬け。
爆豪さんといいデクさんといい、モニタールームにまで影響するような攻撃をしないでほしい。
寒さで一同震えているうちに、足が凍り付いて動けなくなったヴィラン側二名の脇をヒーロー側が悠々と通り過ぎ、核兵器に触れてあっけなく決着。
この氷をどうするのかというところで、驚いたことに轟さんは先の"個性"と相反する炎を放ってビルを解凍。
その強力過ぎる"個性"にただただ戦慄させられるばかりの一戦となった。
……なお、結局水浸しになったビルは次戦に使えないので再度別のビルに移動することに。
無残に破壊した先の二人とは違うといえ、後で同じ舞台を使う人間の事も少しは考えて欲しい。
(―――ついに、出番ですね)
《残ってるのがもう四人二組だけだから、当然だけども》
第三戦、第四戦を経て、わたしの所属するEチームが選ばれたのは、第五戦ヴィラン側。
コンビの相方である芦戸さん―――黒目に鮮やかなピンクの肌が眩しい―――と共に、核兵器のハリボテの元へと向かう。
ヒーロー側の二人、上鳴さんと耳郎さんの侵攻が始まるのが今から5分後。
ヴィラン側のわたし達は、それまでに核兵器防衛の準備と作戦会議をしなければならない。
「……さて、まずお互いの出来ることを確認したいんですが、芦戸さんはわたしの"個性"について何か聞きたいことはありますか?」
「ああ、これまで結構色々見せてたもんね。干河の"個性"って何でもああやって操れるの?」
「いえ、自分自身を除く生物は動きを阻害するのが限度です。小鳥や鼠ぐらいなら別ですけど」
「あー、そこまで無敵じゃないかあ……じゃあ、これは?」
そう言った芦戸さんの手から、ドロリと粘性のある液体が溢れ落ちる。
床に落ちたその紫の雫は、ジュウ、と音と湯気を立ててコンクリートをへこませた。
《……さしずめ"個性"『酸』ってところね》
「動かせ……ますけど、芦戸さん自身は大丈夫なんですか、これ?」
「おっ、浮いた! あ、私の皮膚には耐性あるから大丈夫!」
芦戸さんの"個性"について詳しく聞けば、ある程度粘性と溶解性に強弱も付けられるとのこと。
それならということで、粘性を高めに、溶解性は対戦相手とはいえクラスメイトに当てることを踏まえてそこそこに抑えたものを、拳程度の大きさで幾つか出してもらう。
「これを、板状に伸ばして……よし、これで階段を塞げば素通りはできないはずです」
「おお、凄い! でもこんなに一杯大丈夫なの!?」
「滞空させるだけなら……問題はどこに設置するかですが……」
《……はいはい》
ビルの見取り図を片手に、『干渉』が見繕ってくれた地点に酸の板を順次移動。
また設置地点にABCで簡単に名前を付けることで、芦戸さんとも位置情報を共有する。
わたしの"個性"は操作範囲である半径三十メートル圏を無条件で探知できるわけではないけど、操作している対象物の大きな状態変化ぐらいなら感じ取れる。
相手方の二人が道を塞ぐ酸をどうやって突破するかは分からないけど、何かの手段で除去する、あるいは突き破ろうとしたならその変化を感知できるはずだ。
「……というわけで、どこかの酸板が突破されればヒーロー側の位置と経路が分かるはずです」
「わあ、成程! それじゃ、場所が分かり次第襲撃?」
「それも良いですけど……わたしの"個性"は核兵器の防衛に使いたいですね。わたしなら同じ部屋に居れば衝撃も与えずに逃がせますし」
「あ、そっか……あれ、それってひょっとして干河と同じ速度で動かせる?」
「このハリボテの重さなら十分に。むしろ視界とか考えなくて済むのでさらに、でしょうか」
「うひゃあ……」
おそらく昨日見せた姿を思い出し、部屋の広さを確認した芦戸さんが苦笑いを浮かべる。
勿論、わたし自身が倒されてしまったらアウトだけれど、負け筋の一つは相当遠くなるはずだ。
《……相手側の"個性"の想定が出来てないわよ》
「あっ……後は上鳴さんと耳郎さんの"個性"がどんなものかですけど……」
「うーん? 二人とも昨日の"個性"把握テストではそれっぽいことしてないよね? 耳郎はあの耳が"個性"なんだろうけど」
《聴覚、音……"
「……聴覚による探索と、音波あたりでしょうか。上鳴さんは手掛かりがありませんね」
「むむ……動き回ると位置を特定されちゃうかな? ますます待機戦法が良さそうだね」
「それでしたら―――」
その後も"個性"を使いつつ芦戸さんと話し合い、防衛の準備を進めていくこと暫し。
ヒーロー側の侵攻が始まってからも待機を続けていたわたしの頭に、
「っ、来ました! 三階B地点!」
「よっしゃ、行くぞー!!」
核兵器を配置した部屋から勢いよく飛び出していく芦戸さんと、それを追う十個の酸の球。
……見取り図を参考に移動させているだけで、彼女に追従させられるわけではないのだけど。
「……即興連携【
《下らないこと言ってないで集中なさい。相手が連れ立って行動しているかは不明なんだから》
(あ、はい)
『彼女』に戒められ、黙って対象化した無数の酸に集中する。
時折無線越しに芦戸さんから届く【酸弾】の移動・停止の指示を聞きつつ、先の地点から繋がる酸板が数枚散らされたところで、状況は動き出した。
『フフフ……来たね、お二人さん! ここを通りたくば私を倒してからにするんだね!』
『出たな芦戸……って、何だその立ち姿!? カッケェ!!』
『酸が周りに浮かんで……干河だよね? どんだけ遠くから"個性"届くのさ……っ』
無線越しに何やら楽しそうな声音とやり取りが聞こえてくる。
……まさかと思いますけど、さっき細かく【酸弾】の位置を指定したのは格好良さの追求だったわけじゃないですよね、芦戸さん?
『これまでの酸板が近付いても動かなかった以上、干河もこの状況が見えてるわけじゃないはず。そんなの単なるハッタリでしょ!』
『それはどうかなあ! 二番、十二時、三メートル!』
「【加速】」
『うおわぁ!? 飛んできた! そんなんアリかよ!?』
あらかじめ【酸弾】に番号を振っておき、番号・方角・移動距離を無線越しに指示してもらう。
これがわたしが核兵器前に陣取ったまま連携出来るように考えた方法だ。
提案したときに《有効に機能させるには相当な修練が必要よ?》と言われたものの、芦戸さんがびっくりするほど乗り気だったことで、時間もないことだしと採用になった。
『もちろん私だって攻撃するよ! それえっ!』
『うわ、酸ブッパかよ! じ、耳郎さん?』
『ああもう、上鳴あんた……ふっ!』
『わっ、音波攻撃!? やっぱり!』
『ここまで酸の突破に使ってきたし、そりゃ知られてるか……というか、上鳴!』
『しょうがねえだろ!? 俺のはブッパしたら巻き込んじまうんだから!?』
聞く限りでは優位に戦えているように思えたけれど、流石に二対一ではどちらかを確保するまでにはなかなか至れないようで。
数回の攻撃指示と、音波を受けた【酸弾】が"個性"対象から外れていく感覚を何度か覚えながら時間は過ぎていく。
『―――あ、やばっ……ごめん干河! 上鳴に突破された!』
「大丈夫です、芦戸さん。時間は十分稼げましたし……こちらは任せてください」
焦りを含んだ芦戸さんの声に、問題ないと返して視線を上げる。
この部屋唯一の入り口である扉を見据えて、わたしはその時を待った。
「―――五階の……ここか! よし、待ってろよ、耳郎!!」
《扉の前まで来たようね。迷いの無さからして、芦戸さんのスタート位置を探知したのかしら》
やがて、扉の裏に迫った足音に、今一度『備え』の状態を確認。
程良いとさえ感じる緊張感の中、勢いよく扉が開けられる。
「よっしゃあ! タイマンだ、干か、わ…………」
飛び込んできた上鳴さんは、視線を少しばかり上にあげて、硬直した。
そこにあるのは、部屋内を所狭しと浮かんだ大量の【酸弾】。その数およそ三十個。
「…………タイム!」
「【加速】」
「ですよねぇっ!?」
どこか悟ったような顔になり、両手でTの字を作った上鳴さんに【酸弾】を余さず投下。
粘性高めの弱酸に埋もれた彼を『確保』しつつ救出する頃には、わたしたちヴィラン側の勝利で第五戦も閉幕となっていた。
「―――さて、今日最後となる講評の時間だが、今回のMVPは言わずもがな、干河少女だよ!」
「やろなあ」
「ですよね」
「知ってた」
満場一致の賞賛に、少々気恥ずかしくなって顔を背ける。
直後、《これで自力で立てた作戦だったらねえ》という声で冷静になり、視線を戻した。
「ただモニターで見ていた諸君には、彼女が核兵器前で待ち構えていた理由に疑問もあるだろう! 遠隔での共闘も発想は素晴らしかったが、即興ゆえのぎこちなさの方が目立ったからね!」
「……確かに、あの場で芦戸の後ろにでも干河が居たらもっとやばかったよな」
「ミスって芦戸に酸が当たったとしてもノーダメだもんね」
「というわけで私は知っているが、理由を説明してくれるかな!?」
「はい、オールマイト先生」
わたしは開戦前に芦戸さんにした説明を再び口にする。
まず"個性"がその制約から近接戦闘には案外向いていないこと。
そのため負け筋を潰すことを優先し、核兵器の前に陣取ったこと。
さらにヒーロー側に一気に空中へ上がる手段がなさそうなら、核兵器に天井付近を逃げるように飛行させるつもりだったことを加えて。
「エッグイ!? 見た目の可憐さに反して考えることがえぐい!」
「干河以上の速度で天井逃げ回るとか飯田や爆豪でも無理だろ……」
「本人をどうにかしようにも同じような速度で逃げられるだろうしなあ」
「相手を直接操作することはできないのか……」
「いや出来たら無敵過ぎるからな? ちゃんと弱点あってほっとしたよ……」
その後はヒーロー側の耳郎さんが向かってくる芦戸さんの位置を足音で察知、またそれまで動きがなかったことから核兵器の場所まで推測、特定していたことが明かされ、改めて高評価を貰い。
芦戸さんがほぼ二対一の中で優位に戦っていたことを評価されるも、やはり少々遊びが多かったと釘を刺されて苦笑い。
評価される前から良いところなしだったと自覚し肩を落とす上鳴さんに、これから学んでいけばいいのさ少年! というオールマイトの慰めを添えて、最初の『ヒーロー基礎学』は締められた。
《向いてないだけで戦えないとは言ってないんだけどねえ》
(……戦えないのを許してくれなかったですもんね)
芦戸さんの酸弾背負った立ち姿は各自想像してください。歩ちゃんは見てませんので。
それにしても、こういうオリキャラ無双の回を投稿するときが一番精神に来ますね。
書く側になって初めて知りました。書きたい話の展開上しょうがないんですが。