オレンジ・リベンジ   作:妖魔夜行@

12 / 25
第十二話「李隊始動」

ランク戦室には大勢の隊員達が集まっていた。今か今かと心待ちにしている心境を代弁するように実況席に座るツインテールの少女が高らかに声を上げた。

 

「ボーダーのみなさんこんばんは!海老名隊オペレーター、武富桜子です!」

 

スピーカー越しでも変わらない元気な声がランク戦に響く。

 

「B級ランク戦新シーズン開幕!初日・夜の部を実況していきます!本日の解説者は『と、思うじゃん?』でおなじみ!三輪隊の米屋先輩と同じく三輪隊から、No.2狙撃手(スナイパー)の奈良坂先輩です!」

「よろしくー」

「どうぞよろしく」

 

 前髪をカチューシャで上げておでこを晒す切れ長の瞳の男が米屋陽介、ボーダーで唯一の弧月:槍というトリガーを使用する槍使いだ。その隣に座るピアノやベースが引けそうな顔をした男が奈良坂透。先程桜子が話したように狙撃手ランキング2位という地位に着く凄腕の狙撃手だ。

 

実況席ではヘッドセットを装着した米屋と奈良坂が桜子の隣に座っている。

 

「ランク戦も初日ということなので先輩方、簡単にB級ランク戦の説明をお願いします!」

「OK。B級って上位、中位、下位の三つにグループ分けされてんだよな。今18部隊だから丁度6部隊ずつだな」

「その三つのグループの中で三つ巴、または四つ巴のチーム戦を行って点を取り合うわけだ」

「点を取る方法は簡単だぜー。敵を倒せば1点生き残れば2点だ」

「説明が雑だ。敵の隊員を一人倒せば1点入り、最後まで生き残った部隊には生存点として2点入る」

 

 スクリーンに奈良坂や米屋が話した内容が分かりやすく図解され表示されている。

 

「まとめると点を取りまくって上を目指せって訳だ。B級の1位と2位になるとA級に上がるための挑戦権が得られるから頑張れよ」

「補足だが、前シーズンの順位に応じて初期ボーナスがつく。前回上位だった部隊はその分のアドバンテージをどう活かすかが重要になってくる…説明としてはこんな所だな」

「あとはー、ああそうそう。この前ちょっとしたことでB級に落っちまった二宮隊と影浦隊は今シーズンは参加しないで来シーズンからの参加になるらしいぜ」

「そこら辺の情報はおいおい本部の方から発表されるはずだ。今日のところは、ランク戦に集中してくれ」

 

 奈良坂の言葉が会場に響き、ザワついていたランク戦室も静かになる。落ち着いたのを見計らって桜子が口を開いた。

 

「お二人共ありがとうございます!今回の組み合わせはモニターにも表示されている通りB級15位早川隊、17位間宮隊、そして本日がデビュー戦の18位李隊です!折角ですので今回は李隊の試合に集中してお届けしたいと思います!」

 

モニターにはそれぞれの隊の名前と順位が映し出されている。李隊は初参加なので最下位の18位からスタートだ。

 

「今回初参戦の李隊ですが……お二人から見て李隊とはどういった部隊なのでしょうか?」

「そうだなー。防衛任務とかの様子になるけど、リーさんとちびっ子の狙撃支援をバックに虎龍が暴れるって感じだな」

「李さんのポイントは俺や当真さんよりも低いが、狙撃技術は俺たちよりも上だ」

「そ、そこまでですか!ではその李隊長の弟子である漣隊員はどうでしょうか?」

「あの子も李さんの弟子なだけあって狙撃技術は高いだろう。だがまだムラもあるし、その日の調子に左右されやすいらしい」

 

 李隊の隊室では『にゃははー』と困ったようにひなが笑っていた。

 

「なんだよ詳しいな奈良坂」

「以前李さんがそう言ってたんだ。まあ、それでも油断出来ない実力を持っているはずだ」

「なるほど……ではでは!皆さんが注目しているであろう虎龍隊員はどうでしょうか!」

「それは、多分これから分かると思うぜ。皆も待ちかねてるだろうよ」

 

 米屋の言葉に桜子はハッとなり咳払いをして実況に戻った。

 

「それもそうですね!失礼しました!おっと、選択マップは『市街地A』!」

「可もなく不可もなくって感じだな。マジで普通のマップだ。ま、李隊の実力を図るには丁度いいんじゃないか?」

「そうこうしているうちに転送されたな」

 

住宅が並ぶ市街地に隊員達が転送される。比較的間宮隊の三人の位置が近いこと以外には変わったところはない。

 

「そのようですね!ではではB級ランク戦、スタートです!」

 

 

 

□■□■□■□

 

 

 

ミカンが転送されたのは住宅街のど真ん中。マップ上でも比較的中心の位置だった。

 

『李さん、ひなちゃん、お兄ちゃん、全員バラバラの位置だね』

『いや、丁度いい。虎龍、俺とひなはそれぞれ別れて狙撃ポイントに着く。お前は暴れて来い』

「虎龍了解」

『ひなりょーかいです!』

 

 住宅街を駆け回る。今回の部隊の中で狙撃手が居るのは李隊だけ、ということは心置き無く空中を闊歩することが出来る。

 

「グラスホッパー」

 

正方形の板が射出されジャンプ台を作り出す。それを踏みつけると住宅を軽々と飛び越えた。空中に設置することで足場となり、高速移動することが出来るのがグラスホッパーだ。

 目を凝らし人影を探すがミカンの視界にはまだ映らない。と、リンゴから通信が入った。

 

『お兄ちゃん。そこから1キロ先にあったトリオン反応が消えたよ。もうふたつ反応があったけど今向かってる先に近づきながら消えてってたから、多分同じ隊の人たちだと思う』

「了解。そんでもってビンゴだ、間宮隊発見」

「アイツは…!」

「李隊の虎龍だ!」

「迎え撃とう!」

 

 間宮隊の三人もミカンを発見し、両手にトリオンキューブを浮かべ迎撃態勢に入る。

 

「鯉沼、秦、行くぞ!『追尾弾嵐(ハウンドストーム)』だ!」

「分かった!『追尾弾(ハウンド)』!」

「了解!『追尾弾(ハウンド)』!」

 

 三人同時の両攻撃から繰り出される無数の追尾弾が左右正面から襲いかかる。しかしミカンはその光景に慌てることなくグラスホッパーで上に逃げる。

 

「無駄だ!この『追尾弾嵐』からは逃れられないぞ!!」

「僕達とまともに当たったのがよくなかったね」

「運の尽きだよ」

 

勝利を確信した間宮隊の面々は口の端を釣り上げて笑みを浮かべている。

 

『今だひな』

『はい!』

 

炸裂音と共に間宮の頭と秦の胸に風穴が空いた。

 

「なっ!?」

「がっ」

『戦闘体活動限界、緊急脱出(ベイルアウト)

「……はっ!?」

「ふっ!」

 

突然二人のチームメイトが緊急脱出したことに驚きを隠せない鯉沼に、ミカンの弧月が振り下ろされる。気を逸らしてしまった鯉沼はシールドを張ることも出来ずにその刃を体で受け止めることになった。

 

「がはっ……!」

『戦闘体活動限界、緊急脱出』

 

鯉沼も緊急脱出したことで間宮隊は全滅した。ミカンはグラスホッパーを起動させてその場から離れる。追尾機能が途切れた追尾弾が力なく地面にぶつかった。

 

「ナイス狙撃(スナイプ)です」

『ああ。あとは早川隊だが、リンゴ』

『はい。バッグワームをつけられる前の位置から予測した地点にマーカーを付けます!』

「そこら辺か…オレは上から索敵します」

『撃ち落とされるなよ』

「了解です」

 

グラスホッパーを再び起動させて上空へ跳ぶ。ぐるりと住宅街を見回す。視界の右端に固まって動く部隊を見つけた。

 

「見つけた。リンゴ、情報共有!」

『うん!李さん、ひなちゃん。ここです』

『うええ〜?ちょっと遠いよ〜』

『そうだな……虎龍、後は任せた』

 

 李の声には投げやりな態度は感じなく、純粋にミカンの実力を信頼しての一言だった。

 

「はい」

 

 その期待に答えるためにミカンは弧月を握りしめる。

 

「っ警戒!李隊の虎龍だ!」

「遅い」

 

 空からの強襲に若干怯んだ早川だったが、すぐさま指示を出して自身も突撃銃を構えて銃口を向ける。しかしグラスホッパーで視界を揺さぶった後、丸井の背後を取り弧月を一閃、丸井のトリオン体は真っ二つになった。

 

「しまっ──」

『戦闘体活動限界、緊急脱出』

「丸井!?くそっ、船橋!お前は追尾弾で牽制!」

「了解っ、おわぁ!!?」

 

 船橋の足元に設置しておいたグラスホッパーで彼の体を空中に飛ばしたミカンは、自身もグラスホッパーを踏みつけると弧月の鋒を船橋の供給器官に向けて突き刺した。

 

「すみま、ぐわあ!?」

『戦闘体活動限界、緊急脱出』

「船橋!?くそっ!!」

 

 二人の隊員が緊急脱出したのを見て早川は銃身を構えるが、銃口を向けた先には既にミカンの姿はなく、気づけば首が宙を待っていた。

 

「なっ──」

『戦闘体活動限界、緊急脱出』

 

 最後の1人が緊急脱出したのを見て、ミカンは息を吐いた。

 

「ふう」

『お疲れ様、お兄ちゃん。私たちの勝ちだよ!』

 

通信からリンゴが自分達の勝利を教えてくれた。その声は喜色に染まっており、初勝利にいてもたってもいられないと言った感じだった。

 

『やりましたよししょー!ミカン先輩!!リンゴちゃんもありがとー!!』

『私は何もしてないよ!皆が頑張ったから…!』

『とりあえず落ち着け。そろそろ転送されるぞ』

 

 李の言葉通りミカン達の身体は市街地から隊室へと転送された。

 

 

 

■□■□■□■

 

 

 

「決着ぅう!!なんということでしょう!!李隊、あっという間に間宮隊と早川隊を倒し、生存点含めてなんと8得点!!?強すぎるぞこのチーム!!」

「うっひゃー、派手にやったなー」

「李さんの隊なんだ。弱いわけが無い。それに李さんと虎龍自体の実力はもうB級上位にも引けを取らない、当然の結果だ」

 

驚く桜子と対照的に米屋と奈良坂は落ち着いて解説していた。

 

「これで李隊は暫定順位を一気に10位までアップ!!たった一戦で早くも中位グループに!!次回第2戦、水曜日に当たる相手は暫定順位9位、那須隊!そして同じく7位、諏訪隊です!これは次回も目が離せません!!」

 

興奮冷めやらぬ様子で実況を締めくくり、その日のランク戦は終了した。それを確認して李はモニターの電源を落とす。

 

「次回は諏訪隊と那須隊ですか。そう言えば、諏訪隊長と隊長は同い年なんでしたっけ?」

「ああ。よくつるむ相手だ。しかしそうか、中々厄介だな」

「と、言うと?」

 

 こてん、と首を傾げて可愛らしく意味を聞くひな。李は頷き、話を続ける。

 

「諏訪隊は近距離の制圧に秀でた隊だ。アタッカーの笹森が相手を押さえ込んでいるところを諏訪と堤が散弾銃で狙い撃つ。単純に火力が高い。

 が、その反面単体での対応力は低い。対策としては集まる前に一人一人蹴散らしていくのがいいだろう」

「那須隊は逆にバランスの取れた部隊です。隊長である那須先輩が点取り屋として動き、その那須先輩を熊谷先輩が守りながら戦うのが基本戦術のようですね。

 スナイパーの日浦先輩も状況に応じて的確にトリガーを切り替えて対応してくるので狙撃位置が掴めたからと言って油断は出来ません」

 

 李の話を次いでリンゴが詳しく那須隊の強みを説明する。妹が話している姿を見てミカンは呆気に取られたように口を開いた。

 

「……凄いなリンゴ。いつの間にそんな調べたんだ?」

「え?えっと、空いた時間にちょくちょく調べてて。最初は対策のつもりだったんだけど、調べていくうちに段々楽しくなってきちゃって」

「ほえー、リンゴちゃん凄いや……」

「ひなも見習ってくれ」

「あたしは体を動かして覚えるので!ランク戦をして覚えていきます!」

「終わったあとに対策してどうする……」

「あのあの、なんでみんな私の頭を撫でるんですか?」

「それはリンゴが可愛いからだよ」

 

 ほんわかした空気が流れ、頑張ったリンゴの頭を全員が撫でる。リンゴ自身も満更ではなかったため、李の腕時計からアラームが鳴るまで続いた。

 

 

 

□■□■□■□

 

 

 

 翌日、防衛任務の関係上初日のランク戦を見ることが出来なかった二部隊は、それぞれランク戦に向けて対策を練っていた。

 

 那須隊では──

 

「うわ……相変わらずえげつないわねーミカン」

『とんでもないですね、あの男の子』

 

 隊長である那須の自室で那須、熊谷、日浦が集まり、机の上には通話中のタブレットが置かれている。

 

「くまちゃんがよく話す男の子だよね、このミカンくん」

 

 ベッドの上で微笑みながら話す儚げな少女が那須玲。那須隊の隊長兼エースの役割を担っており、病弱な体もトリオン体になれば非常にアクティブになる。

 

「ひなちゃんも凄かったですねー!」

 

 那須とは対照的に元気いっぱいに笑っている少女は日浦茜。那須隊最年少の狙撃手で、A級三輪隊奈良坂の弟子でもある。

 

『あの…李隊長ですが、昔のランク戦(・・・・・・)のログを見返してみましたが……まず、李隊長の狙撃を躱すことは出来ません。狙われたら必ず一撃を貰います』

 

 タブレットからボイスチャットで会話に参加しているのは那須隊オペレーターの志岐小夜子。ある事情により引きこもりがちになってしまったため、今回だけでなく大半自宅から作戦会議に参加している。

 志岐の言葉に「ん?」と首を捻った熊谷が冗談めかして聞き返す。

 

「それって何?狙った弾は外さないってやつ?」

『はい。マンガやアニメのキャラクターみたいですけど、本当です。あの人の狙撃は絶対に外れません』

「そう言えば奈良坂先輩も『李さんが外したところは見たことない』って言ってましたね」

 

 勢いよく手を挙げて自身の師匠が話していたことを伝える日浦。日浦により──と言うよりは奈良坂の発言により裏付けが取れてしまった事実に思わず熊谷の口の端が引き攣る。

 

「さ、流石に冗談でしょ?」

『いえ、外さない理由があります』

「理由?」

 

 那須が聞き返すと、志岐は画面の向こうで頷いた。

 

『はい、それは──』

 

 

 

■□■□■□■

 

 

 

「アイツには『強化視覚』っつーサイドエフェクトがあるんだよ」

「強化視覚、ですか?」

 

 ところ変わって諏訪隊の隊室では那須隊と同じように次戦に向けた作戦会議をしていた。金髪ツーブロックの目つきの悪い青年が諏訪隊の隊長である諏訪洸太郎。諏訪の言葉を復習するように尋ねたそばかすの少年は笹森日佐人。諏訪隊のアタッカーだ。

 

「簡単に言やあ菊地原の目バージョンだ。あれでアタッカーならただ視力が良すぎるだけの酒強くて女にモテるクソ男なんだが……」

「諏訪さん、私怨混ざってます」

 

 糸目の青年、堤大地がツッコミを入れる。それを諏訪はスルーして話を続けた。

 

「けどムカつくことにアイツはスナイパーだ。風間んとこの隠密戦法と菊地原のサイドエフェクトの相性がやべぇように、アイツのサイドエフェクトとスナイパーの相性もやべぇ。喋りすぎたら喉乾いたな……おサノ、なんかねぇか?」

「ほいほーい。コーヒーならあるよー」

「悪ぃな」

 

 今諏訪に缶コーヒーを渡したショートヘアの少女は諏訪隊オペレーターの小佐野瑠衣。李隊の戦闘の記録をまとめるのに集中している為、会話にはあまり参加出来ていなかった。

 諏訪の話を引き継ぐ形で堤が当時の李のことを説明する。

 

「李さんが冬島隊にいた時はホント凄かったですもんね。こっちから攻撃を仕掛けることは出来ないのにあっちからは延々と即死攻撃が飛んでくるんだから」

「俺が諏訪隊入る前の話なんすね……って、冬島隊?」

「あ?言ってなかったか?」

 

 缶コーヒーのプルタブを開け、何でもないように諏訪は話した。

 

「アイツは冬島隊がA級2位になるまであの隊にいたんだぞ?」

「えっ」

「あと当真の師匠でもある」

「えっ」

「ついでに東のおっさんの弟子だ」

「えっ」

 

 

 

「えええええー!!!?」

 

 笹森の驚愕の声が隊室を貫通してラウンジにまで響いたという。




自分自身でQ&A

Q・ミーティングの最中リンゴちゃんの頭を撫でていましたが李さんも撫でていたんですか?
A・撫でていました。無表情です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。