オレンジ・リベンジ   作:妖魔夜行@

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第十三話「ROUND2、開始」

「隊長はなんで冬島隊を抜けちゃったんですか?」

 

 防衛任務が終わり、報告書も書き終わり、解散の流れになった隊室でミカンが唐突にそう聞いてきた。先程のことを聞きたかったため、ひなとリンゴは先に帰らせた。今隊室には二人だけだ。

 

「どうした藪から棒に」

「いや、純粋な疑問というか。A級を辞める意味ってよっぽどのことがない限りありえないじゃないですか」

「まあA級はB級と違って固定給だし、トリガーもある程度好きなようにカスタマイズ出来るからな」

「はい。だから気になって」

「さっきお前が言った『よっぽどのこと』が気軽に人に話せない内容だとは思わなかったのか?」

「あっ──すっ、すいません!」

 

 慌てて頭を下げるミカンを見て李はフッと笑い、手を横に振る。

 

「冗談だ。別にそこまで深い理由はない」

「えっ? 何だ、ビックリさせないでくださいよ……」

「他の奴に聞く時は気をつけろ、ということだ。俺が抜けた理由は簡単だ。単純に、遠征に行けないからだ」

「遠征?」

 

 聞き覚えのないワードに首を傾げる。ふと李が考え込む仕草を見せるが、直ぐに頷き話を続ける。

 

「あまり吹聴するなよ。ボーダーはA級部隊の中から更に部隊を選抜し、近界へ遠征に行く。目的は未知なるトリガー、トリオンの解明探求と攫われた人達の救出、情報を得るためにだ」

「…………それ、オレ聞いてもよかったやつですか?」

「吹聴しなければ大丈夫だ……言うなよ? まあどっちみちA級部隊になれば上から教えられることだしな。俺達もA級を目指しているし、遅かれ早かれいずれは知ることになっていた」

 

 書類をバインダーに止めながら李は淡々と話す。

 

「話を戻すぞ。知っての通り冬島隊はA級2位。遠征部隊にも勿論選ばれた。けど、俺は行けなかったから仕方なく抜けることにした」

「それは……なんで?」

「前回の大規模侵攻で母が足を悪くしたんだ」

 

 バチン、とバインダーを止める音がやけに大きく聞こえた。

 

「父は海外を飛びまわる営業マンだから家に長くいることは出来ない。昼間はハウスキーパーを雇っているが、朝夜は俺が世話をしている。ボーダーよりも家族を取ったんだよ、俺は」

「オレは──良いと思います。少なくともオレは否定しません」

「ありがとな、俺もそう思っている。けど、俺のせいで冬島隊が遠征に行けなくなるのは戦力的にも惜しい。だから抜けたんだ。俺がいなくても冬島隊は充分強いしな」

 

「今みたいにな」そう言って軽く笑う。

 

「そろそろ書類渡しに行こう。沢村さんも首を長くして待っている」

「はい」

 

 李に促され、隊室を出る。遅い時間だからか人気のない廊下を歩きながらミカンはおずおずと尋ねた。

 

「あの、隊長」

「なんだ?」

「隊長が冬島隊を抜けたのは遠征に行けなくなるからなんですよね? でも、オレたちもA級を目指してるじゃないですか? それは、その……大丈夫なんですか?」

「ああそのことなら大丈夫だ。最近は母の足の調子も良くなってきてな。杖を持てば一人で歩けるくらいにまで回復してきたんだ」

「そうなんですか。それなら……ん?」

 

 良かった、と言おうとして気づく。

 

「それなら、冬島隊に戻っても良かったんじゃないですか? A級に戻れますし」

「ああ……俺も最初はそう考えてたんだが、その」

「その?」

 

 頬を掻きとても言いづらそうに、と言うよりは言いたくなさそうに唸った後、李は口を開いた。

 

「……ひなに頼まれたんだ」

「ひなに?」

「ああ。『師匠と一緒の部隊じゃなきゃ嫌です』って泣かれてな。俺自身A級の立場にそこまで未練があった訳ではなかったし、部隊を作ることにした」

「へえー……隊長でも弟子の涙には弱いんですね」

「お前だって似たようなものだろう?」

「ははっ。そうですね」

 

 リンゴ()に泣いて頼まれては断れないのが兄というものだ。李とひなは兄妹という関係ではないが、気持ちはよく分かる。

 

「おっと、すまない……なんだ諏訪か。謝って損をした」

「顔合わせて罵倒たぁいい度胸してんな李コノヤロウ」

 

 話に意識を割いていたことで曲がり角から出てきた諏訪に気づかず肩をぶつけてしまった。李はぶつかった相手が諏訪だと分かった途端、ため息をついて眉をしかめた。諏訪はこめかみに青筋を立てている。

 

「次のランク戦でボコボコにぶち抜いてやるから覚悟しとけ」

「悪いが俺がお前のトサカを撃ち抜くのが先だ」

「誰が鶏頭だコラ」

「仲良いですね……」

「「仲良くはない」」

 

 息ぴったりに声を揃えられても説得力はない。指摘しても否定されるのは目に見えているのでミカンは苦笑いするだけに留めた。

 

 

 

□■□■□■□

 

 

 

「虎龍たちの次のランク戦って明日だったっけ?」

「ああ、明日の夜だな。諏訪隊と那須隊が相手だ」

 

 日付は変わり平日の昼休み。三門市立第三中学校の屋上では修とミカンがそれぞれ弁当を広げて昼食をとっていた。

 

「那須隊……確か変化弾の弾道をリアルタイムで引いてるんだよな」

「そうそう。控えめに言って化け物、変態だよ」

 

 一般的な射手は変化弾の弾道を予め数パターン決めておき、状況に応じて使い分けるのが基本的な使い方だ。

 しかし那須や太刀川隊の出水などといった一部の変態はその時その場の戦闘状況に合わせてた弾道を想定、設定している。これを化け物と呼ばずなんというのか。

 

「へ、変態って……」

「話は変わるけど三雲のポイント、今いくつだ?」

「え? えっと……2800くらいかな。最近は連勝出来るようにもなったんだ」

「おおー、順調だな」

「寺島さんのおかげだよ。自分でも驚くくらい上手く戦えるようになってきたんだ」

 

 あれからも修は寺島の時間が空いた時にレイガストの使い方を実戦形式で見てもらっていた。体を動かすことが得意ではない修だったが、飲み込みが悪い訳では無い。

 

「このまま行けば、そうだな……あと半年もあればB級に上がれるんじゃないか」

「半年か……頑張るよ」

「おう。俺も模擬戦の相手くらいなら全然手伝うからさ。気軽に頼ってくれよ……まあ、それくらいしか出来ないんだけどな」

「何言ってるんだ。凄い助かるよ」

 

 修の言う通り、格上の相手との戦いは例え負けたとしても経験になる。訓練生である修なら尚更だろう。その証拠に修は同レベルの相手には負けないようになってきている。

 

「もちろん寺島さんや漣さんにもお世話になってるし、感謝の気持ちは忘れてないけど」

「そらそうだ。俺も寺島さん……というか開発室の人たちにはお世話になりっぱなしだしなー」

 

 寺島には訓練生の頃にトリオン体の性別を変更したのを初めに、B級に上がってからのトリガーセットの対応、訓練室の設定、サイドエフェクトの抑制道具の開発、etc……。

 必然的に開発室に入り浸ることになったミカンはチーフ補佐である美月に目をかけられるようになり、トリガーについて教えられる時間が増えた。

 トリガーは奥が深く、学んでも学んでもまた分からないことが出てくる。しまいには開発室長である鬼怒田に話を聞きに行った程だ。鬼怒田が怒らず丁寧に対応している珍しい光景だったと寺島は言っていた。

 

「──とまあ色々世話になったんだ」

「へえ、今度僕も教えて貰おうかな」

「それもいいけど、それよりもB級に上がるのが先だな」

「うっ……そうだな」

 

 修の苦い顔を見てミカンは面白そうに笑った。

 

 

 

■□■□■□■

 

 

 

「B級ランク戦ROUND2・夜の部。実況を務めます嵐山隊オペレーター、綾辻です。解説席には太刀川隊の出水隊員と風間隊の歌川隊員にお越し頂きました!」

「どうぞよろしく」

「よろしくお願いします」

 

 解説席に座る二人の隊員が頭を軽く下げる。話すタイミングを見計らい、綾辻が今回のランク戦の説明を始める。

 

「今回、李隊が選んだステージは『市街地C』。坂道と高低差のある住宅地です。狙撃手が二人いる李隊に有利なステージですね」

「そうだな。市街地Cは上に登るためにどこかの道路を横切らないといけないんだけど……一度狙撃手が高い位置を取ると簡単に登れなくなる。下から攻撃しようにも建物が邪魔で反撃しづらいしな」

「那須隊にも日浦隊員がいますが、諏訪隊には狙撃手がいませんからね。諏訪隊はかなり苦しい戦いになりそうです」

「なるほど……お二人共、ありがとうございます!」

 

 出水は話しながら頭の中で諏訪がキレ散らかしている様子をイメージしていた。

 そのイメージ通り、諏訪隊の作戦室では──

 

「ざっけんなあの透かしヤロー!! クソMAP選びやがって!! ROUND1の時みてーに素直にA選んどけ!!!」

「まあまあ、他の狙撃手が少なければそりゃC選びますよ。にしてもきついな……」

 

 キレる諏訪を宥める堤、その横で飴を舐めながらモニターに向かう小佐野が口を開いた。

 

「李さんが高所を取ったら手が付けられなくなるから、その前にうちが陣取るしかないね〜」

「かなり転送運だよりになりそうですね……」

 

 冷や汗を流して苦笑する笹森の肩を、激励の意味を込めて諏訪が叩いた。

 

「運だろうがなんだろーが、勝ちゃいいんだよ勝ちゃ! 日佐人、お前は虎龍しっかり抑えてろよ! そしたら俺たちがぶち抜いてやる!」

「諏訪さん、それ俺もぶち抜かれるやつですよね?」

「よっしゃ行くぞ!」

「諏訪さん!?」

 

 どうやらこの一瞬で諏訪の耳に笹森の声は届かない仕様になったらしい。ドンマイ笹森。

 

 一方、那須隊の作戦室では──

 

「市街地Cですか……確かに選ばれても不思議ではありませんね」

 

 自分専用のデスクでMAPの確認をしている志岐が李隊のデータをモニターに映す。それを他の三人が覗き込みながら会話を続ける。

 

「まあ諏訪隊には狙撃手いないしね。うちには茜が居るけど……そう言えばあんたとあっちの狙撃手の子、どっちの方がポイント高いの?」

「わたしですよ! だってわたしの方が先輩なんですから!」

「そりゃそっか。じゃあどっちの方が上手いの?」

 

 熊谷の質問に樋浦は両手を頭に当てて考え込む。その姿に熊谷が首を傾げる。

 

「そんな考えることなの?」

「ええっとですね……ライトニングならわたしの方が上手いと思います。でもアイビスならひなちゃんの方が上手いですね」

「アイビス?」

「はい。ひなちゃん、ロボットアニメが大好きで……それに出てくるような大きい銃に憧れてボーダーに入ったらしいんですよ」

「面白い子ですね、その子」

「ふふ……でも可愛いと思うわ」

 

 可愛らしい理由に志岐と那須は微笑みを浮かべる。熊谷は思っても見なかった理由に目をぱちくりとさせ、気が抜けたように半目になる。

 

「なるほどねぇ……ありがと茜。はい、じゃあサラッと対策見直しましょうか」

 

 

 

□■□■□■□

 

 

 

「さて、各自地形は頭に叩き込んであるな」

「はい」

「大丈夫です」

「まっかせてください!」

 

 李の言葉に全員が頷き返す。

 

「初戦は楽勝だったが、今回は分からない。全員、気を抜くなよ」

 

『B級ランク戦 転送開始』

 

 B級ランク戦ROUND2が始まった。

 




自分自身でQ&A

Q・ひなちゃんが一番好きなロボットアニメはなんですか?
A・Zガンダムによく似たアニメです。

Q・クソMAPって言わせたかったの?
A・はい
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