オレンジ・リベンジ   作:妖魔夜行@

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第十四話「駆け上がる」

 隊員が一斉に一定以上の距離を置いて転送され市街地に降り立った。

 

「各部隊転送完了しました!」 

「転送と同時に狙撃手三人がバッグワームを着たな」

「初手としては当然ですね」

 

 李、陽菜、日浦はバッグワームを起動させレーダー上から姿を消した。そしてそれぞれルートは違うが高台を目指し走り出す。

 

「日浦隊員の転送位置が良いですね。あのルートで行けば誰ともエンカウントせずに高台へ辿り着けそうです」

「逆に李さんの転送位置はそんなに良くないな。しかもあのルートだとそのうち笹森か熊谷とかち当たる……と、思ったけど笹森の動きが変わったな?」

 

 まっすぐ高台を目指していた笹森だったが、進路を変更して迂回するルートを選んだ。

 

「どうやら諏訪隊は合流を優先したようですね。那須隊も熊谷隊員と那須隊長のみ合流する動きのようです」

「成程。おっと、ここで虎龍隊員もバッグワームを起動しました」

 

 レーダー上から虎龍の姿も消える。出水はフム、と一拍置いて解説する。

 

「李隊は逆に合流する気は全く無いみたいだな。全員がバラバラに動いている。しかも虎龍のあのルートだと……」

「おおっと! 虎龍隊員が堤隊員を視認しました!」

「しかも堤隊員はまだ虎龍隊員に気づいていないようですね。これは……」

 

 ミカンはバッグワームを着た状態でグラスホッパーを起動し、踏みつける。距離を詰め、弧月を起動させたところで堤がミカンに気づいた。

 

「慌てて銃を構える堤隊員! しかし……!」

 

 堤が散弾銃(ショットガン)を放つが、ミカンはグラスホッパーを使い射線ギリギリで躱す。避けた先に銃口を向ける堤だったが、既にそこにはミカンは居らず──

 

「速い……!」

「な、なんという速さでしょう!? 堤隊員、緊急脱出! 李隊に1点が入ります!」

「あの距離はもう無理だわ。銃手(ガンナー)に凌げっていう方が無茶だ」

 

 ミカンは次の相手を見つけ、グラスホッパーで空を駆ける。

 

 先制点をもぎ取ったのは李隊だった。

 

 

 

■□■□■□■

 

 

 

 オペレーターから敵の位置情報が送られて、視界に映し出される。と、同時に次に狙おうとしていた相手の姿が消えた。

 

「バッグワームか。でもアレくらいの距離ならそんなに遠くへは行けないはず……」

『トリオン反応! 変化弾(バイパー)注意!』

 

 リンゴの警戒(アラート)と同時に、地面スレスレを滑るように放たれた変化弾の弾道が跳ね上がり、ミカンに襲いかかる。

 

「グラスホッパー」

 

 弾が当たる寸前でグラスホッパーを起動させ急降下することでバイパーを避ける。

 

「おっと、避けた先を予測してたのか」

 

 避けたはずのバイパーがミカンが着地した位置の前方と後方に分岐して道路を抉った。それを確認してミカンは再び走り出すと、陽菜から通信が入る。

 

『狙撃地点に到着しました!』

『よし、そのまま陽菜は待機だ。すまないが俺の方はもう少しかかりそうだ。虎龍はそのまま那須隊を叩け』

「分かりました」

『陽菜は虎龍が零した敵に照準を合わせておけ。いいな?』

『了解です!』

 

 通信している間に那須が曲がり角へ消えていく姿を捉え追跡するが、入れ違うようにバイパーが迫る。咄嗟にシールドを展開しようとして──サイドエフェクトが発動した。

 

【散らばった弾道はミカンに接近すると螺旋を描いてひとつの大弾となり、シールドを砕いて左腕を吹き飛ばした】

 

「っと!」

 

 地面をスライディングしてわざとバイパーに当たりに行こうとすると、寸前で起動を変えて先程までミカンが走っていた胸元辺りを通過していく。

 

記録(ログ)でも見た攻撃。今ちょっと気を抜いてたでしょ! サイドエフェクトがあるからって油断しちゃダメだよお兄ちゃん!』

「わるいわるい。切り替えるよ」

 

 グラスホッパーを使い空を跳び、那須の頭上を飛び越え向かい合う。納刀した状態の弧月に右手を添え、那須を睨みつける。相対する那須の表情も険しい。

 互いに間合いを測りながらジリジリと距離を取る。虎龍が一歩踏み出せば、那須は一歩後ろに下がる。このまま時間を取られるのも惜しい、そう考えたミカンがグッと足に力を込めた時、那須が口を開いた。

 

「もう追いつかれちゃった、早いのね」

「……はっ」

「っ、不意打ちも失敗。変化弾」

 

 話しかけてきた那須の言葉に被さるタイミングで、彼女が予め放っていた変化弾が頭上から降り注ぐ。それを会話ごと一刀両断してミカンは一気に距離を詰める。迎撃しようと変化弾の両攻撃を放つ──が。

 

「嘘……!?」

 

 避けなければ当たる弾道、避けた先を予測して置かれた弾道、それを隠すためのフェイクの弾道、全てを見切り那須の懐に入った。

 

「シー──」

「遅い」

 

 那須がシールドを出そうとした時には既に、弧月が振り抜かれていた。

 

『戦闘体活動限界、緊急脱出(ベイルアウト)

 

【高台から狙撃され右腕が撃ち抜かれる】

 

「シールド」

 

 那須が緊急脱出したと同時に放たれた狙撃をサイドエフェクトで把握し、集中シールドで防いだ。そして高台に見える三階建ての家を睨みつける。

 

「あそこか」

『弾道解析! 狙撃地点予測、ここです!』

『よくやった』

 

 

 

□■□■□■□

 

 

 

 イーグレットのスコープを覗き込み、1キロ先の日浦を捉える。

 

「この距離は外さん」

 

 引き金をひき、放たれた弾丸は寸分狂わず日浦のトリオン供給器官を撃ち抜いた。日浦が緊急脱出するのを確認して李はその場を後にしようと屋上から飛び降りる。

 

「これで3点目……さて、あと何点取れるか……」

「取り敢えずテメェは、もう取れねぇよ!」

「そのダミ声、ちっ……!」

 

 背後からの諏訪の強襲に咄嗟にシールドを出すが庇いきれずに足を削られる。機動力が削がれたことに舌打ちしつつ諏訪を睨む。

 

「居場所を掴まれるにして早すぎる。いつの間にそんな計算強くなったんだ、諏訪」

「ああ? 計算なんてしてねぇよ。多少は小佐野に絞ってもらったけどな」

「だとしても、ここだと決めつけるにはある程度情報が必要なはずだと思うが……まさかお前」

 

 イーグレットを腰だめに構える。削れた足では逃げきれないことを悟った李は諏訪が銃を構えると同時に引き金をひいた。

 

「そんなもん、勘だ!!」

「だと思ったぞ、畜生」

『戦闘体活動限界、緊急脱出』

 

 李のトリオン体が蜂の巣にされ、諏訪隊に1点が入る。が、諏訪の右足も吹き飛ばされた。

 

「ちっ、李のヤロー。タダでは死なねぇってか」

『諏訪さん、大丈夫ですか?』

「機動力は落っちまうがまだイけるだろ。日佐人、こっちに来れるか?」

『はい、今向かってる最中です!』

 

 バッグワームをつけて走りながら通信に答える笹森。小佐野に指定されたルートを通りながら諏訪の元へ向かっている。

 

「うお、っと」

 

 坂を昇った先で熊谷とミカンが睨み合っているのを視界にとらえ、一旦身を隠す。

 

「す、諏訪さん。虎龍と熊谷さんが戦ってます。どうしましょう?」

『ああ? だったら迂回して……いや、俺がそっちに向かう。お前は熊谷の動きに合わせて虎龍を縫い付けとけ』

 

 ニヤリと笑いバッグワームを纏った。

 

「俺が後ろからすり潰してやる」

 

 

 

■□■□■□■

 

 

 

 アスファルトを蹴り熊谷に迫る。弧月を振り抜き首を飛ばそうとしたが、既のところで熊谷が弧月を滑り込ませた。

 

「ぐっ……!」

「はああっ!!」

「きゃあっ!?」

 

 しかしそれで止まるほどミカンの一撃は柔くない。防御ごと熊谷を吹っ飛ばして体勢を崩させる。よろけたところを叩き斬ろうと弧月を振りかぶり──

 

『お兄ちゃん隠密(ステルス)注意! すぐ後ろに迫って来てる!』

 

 リンゴの警戒を聞いて方向転換し、背後に向かって横凪に弧月を振るった。

 

「ぐうっ!」

 

 奇襲に対して反撃をされ、攻撃が防御に変わってしまった笹森だったが、当初の目的は果たせている。この間に熊谷は体勢を建て直して弧月を構えていた。

 

「やあああ!!」

「グラスホッパー」

 

 グラスホッパーを起動させて踏みつける。目標(ミカン)が消失しても、その奥にはもう一人いる。刃を押し返された笹森は飛びかかって奇襲をかけていたこともあり、バランスを崩している。

 熊谷は一歩踏み込んで弧月を振り下ろす。咄嗟にシールドを展開して急所を守る笹森だったが、右腕を斬り飛ばされてしまった。断面から多量のトリオンが煙となって漏れ出す。

 

「もう、一歩!!」

 

 更に密着されてしまい避けることも防ぐことも不可能になってしまった。熊谷の刃を受け入れ胴体を真っ二つにされる。悔しげに顔を歪めて笹森は緊急脱出した。

 

「すみません、諏訪さん……!」

『戦闘体活動限界、緊急脱出』

 

 熊谷の攻撃を躱しながら空中で諏訪の姿を探すが、上手く身を潜めているのか視界には映らない。しかし李によって右足を吹き飛ばされているので近くにいるはずだ。

 それでも見当たらないのなら仕方がない。空中で体を反転させ、グラスホッパーを起動、踏みつけて熊谷へと迫る。

 

「くっ……!」

 

 ミカンを見上げ、弧月を構えようとする熊谷。このまま降下しながらすれ違いざまに斬れる、そう思ったミカンは弧月を納刀して柄に右手を添える。

 

【横から撃たれた散弾銃に対して反応が遅れ、躱しきれず蜂の巣にされた】

 

「っ、グラスホッパー!」

 

 サイドエフェクトが反応した瞬間にグラスホッパーを展開させて添えていた右手をそのまま振り抜く。ミカンがその場を離脱すると同時に家屋の中から飛び出してきた諏訪が二丁の散弾銃を撃ち放つ。

 

「はっはあー!!」

「なっ!? ぐうっ……!」

『戦闘体活動限界』

 

 弾丸が通り抜けて穴だらけになったトリオン体にヒビが入る。

 

「ごめん、みんな……」

『緊急脱出』

 

 熊谷が緊急脱出。その爆発に便乗し、ミカンは地面を蹴って離していた距離を詰める。

 

「ちっ、なんで一緒にぶち抜かれてねぇんだよ! (確か記録じゃ虎龍は旋空を入れてなかったはずだ。この距離なら俺の装填が間に合う。つまり──)」

 

 地を這うような前傾姿勢で諏訪に迫るミカン。諏訪は装填が完了した散弾銃を向け、照準を合わせた。

 

「俺の方が一手速ぇ!」

 

 二つの銃口が火を噴きミカンに襲いかかる。そして──

 

「がっ──」

『トリオン供給器官破損』

 

 諏訪の供給器官をアイビスが貫いた。

 

「んだ、とぉ……!?」

『緊急脱出』

 

 諏訪が緊急脱出して煙が晴れる。二重シールドでしっかり急所を防いだミカンが姿を表した。

 

「陽菜、ナイス狙撃」

『えへへ、ありがとうございます!』

 

 李隊が生存点獲得し、ROUND2は幕を閉じた。

 

 

 

□■□■□■□

 

 

 

 場面は実況席に戻り、綾辻が試合の決着を伝える。

 

「試合終了! 最終スコア6対2対1! 李隊の勝利です!」

「前回も確か8点とかだろ? すげぇな」

 

 余りの得点力に冷や汗を浮かべながら引きつった笑みを浮かべる出水。

 

「今回の試合を振り返って、出水隊員、どうでしたか?」

 

 綾辻に話を振られて試合の展開を思い返す。

 

「そうだなー、全体的に李隊に荒らされた試合だったな。諏訪隊は二枚看板の堤さんが早々にやられちまったし、那須隊は点取り屋の那須が喰われたから両方のチームの火力が大幅にダウンしちまった。

 日浦の狙撃も完璧に防がれて逆に落とされたから、むしろ熊谷はよく点を取ったと思うぜ。虎龍にも食らいついていたしな」

「諏訪隊は諏訪隊長が李隊長を取ったことが大きかったですね。あのまま李隊長を逃してしまっていたら熊谷隊員と笹森隊員も取られていたと思います」

「なるほど……では李隊に関してはどうでしょうか?」

 

 視線を受けて歌川が頷いて答える。

 

「そうですね……まず虎龍隊員。エース対決でも危なげなく那須隊長を倒しましたし、その後の日浦隊員への釣りも上手かったと思います。

 それに李隊長の長距離狙撃は勿論ですが、漣隊員の最後の狙撃も素晴らしかったですね。しっかりと仕事をこなしていました」

「焦って外してもおかしくない場面だったからな。よく当てたと思うぜホント」

 

 二人の解説を聞いて区切りがついたところで綾辻が締めに入る。

 

「お二人共、ありがとうございました。今回の得点で李隊は14点。夜の部の試合結果にもよりますが、上位グループ入りはほぼ間違いないかと思います。

 A級予備軍とも呼ばれているB級上位陣相手にどう戦っていくのか、次の試合も目が離せませんね!」

 

 一拍置いて続ける。

 

「以上をもちまして、B級ランク戦ROUND2。昼の部を終了します。お疲れ様でした! 

 出水隊員と歌川隊員も、解説ありがとうございました!」

「「ありがとうございました」」

 

 二人の挨拶によりランク戦ROUND2は締められた。




自分自身でQ&A

Q・ミカンは「学業成就」のお守りを作って貰ったと言っていたが、リンゴやユズは作って貰ってないの?
A・リンゴは将棋の駒の形で、ユズはサッカーボールの形で「必勝!」と刺繍の入ったお守りを作って貰ってました。
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