オレンジ・リベンジ   作:妖魔夜行@

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誤字報告ありがとうございます…めちゃくちゃ助かってます…気をつけてるんですけど…ねぇ…?


第十五話「これからのこと」

 ボーダー内施設のラウンジの休憩スペースではぐったりとした修とその隣で紙パックのジュースを飲むミカンの姿があった。

 

「また一段と堅くなったな。そろそろC級の攻撃手じゃ崩せないんじゃないか?」

「虎龍と寺島さんのお陰だよ。まだ虎龍の攻撃は防ぎきれないけど」

「そらそうだ。簡単に防がれてたまるか」

 

 カラカラと笑うミカン。修が何故こんなに疲労しているかと言うと、つい先程までミカンと模擬戦30本をしていたからだ*1

 ミカンと修はお互いに時間が空いた時は模擬戦をするようにしている。これは修に頼み込まれて戦い方の師匠をやることになり、自分が何を教えられるかと考えた時、やはり体で戦い方を覚えてもらうしかないなとミカンが提案したものだった。

 寺島にレイガストの師匠となってもらい、教えてもらった動きをミカンとの模擬戦で試し、悪かったところと良かったところを上げて治していくというのが大まかな流れだ。

 但しミカンとだけ戦いすぎて変な癖がついては仕方がないので、一日30本の模擬戦を終えたら他の訓練生相手にランク戦を仕掛けるようにしている。

 

「で、今ポイントは?」

「ええっと……3480だな」

「おお。上手く行けば今週くらいには正隊員に上がれそうだな」

「これも虎龍と寺島さんのおかげだよ。ありがとう」

「お前の努力の結果だよ。オレは手助けしてるだけ。あ、寺島さんにはマジで感謝しとけよ」

 

 寺島は五人しかいない本部開発室所属のチーフエンジニアの一人だ。チーフともなればめちゃくちゃめちゃくちゃめちゃくちゃ忙しい。その忙しい時間の中でどうにか隙間を見つけて修の相手をしてくれているのだ。ミカンもトリガーの調整などをよく対応してもらっているので寺島には感謝してもしきれない。

 勿論それは他のエンジニアの人たちにも言えることで、ミカンは感謝の気持ちを示すためによく差し入れを持って行ったりしている。

 

「分かってるって。あと同じくらい虎龍にも感謝してるからな」

「オレろくに教えてないけどな……」

「模擬戦の後に色々教えてくれるじゃないか」

「いやあれはただ気になったところとかいい動きをしたところを言ってるだけだから」

「あっ、ミカンせんぱーい!」

 

 二人がやいのやいのと話をしていると聞き覚えのある元気な声が背中側からかけられた。振り返ると手を振りながらこちらへ駆け寄ってくる緑川とそれに付き添う双葉がいた。

 

「緑川、それに双葉も。どうしたんだ?」

「いやあミカン先輩がいるの見えたからランク戦の相手してもらおうと思って」

「私もね」

 

 双葉はB級ランク戦ROUND2の前にB級に上がり、そのまま加古隊の一員となりA級になった。緑川は双葉より早く正隊員になり同じようにA級の草壁隊にスカウトされた。

 

 修が歳下なのに自分より早く正隊員になり、A級にスカウトされた二人に畏敬の念を向けていると緑川が修の存在に気づいた。

 

「あれっ、メガネ先輩。ミカン先輩の友達だったの?」

「知らなかったの駿?」

「双葉は知ってたんだ」

「だってミカンからよく話聞くし」

「あの、緑川、君」

「あ、呼び捨てでいいよー。メガネ先輩名前なんだっけ?」

「え? ああ、三雲修だけど……」

 

 二人の話を遮り緑川を呼ぶと思っていたよりフランクな返事が帰ってきた。緑川は「じゃあ三雲先輩って呼ぶね!」と笑顔で頷いた。

 

「緑川は僕のこと覚えていたのか? てっきり記憶に残っていないと思ってたんだけど」

「え〜!!? 三雲先輩がそれ言う!?」

「すみません三雲先輩、こればっかりは私も駿に同意です」

「ええ……?」

 

 ドン引きした様子の緑川と苦々しい表情を浮かべる双葉に揃って言われ冷や汗を流して困惑する修。

 

「どういうことだ?」

「いやだって、C級の時に三雲先輩とランク戦したけど……めちゃくちゃ守りが堅くてぜんっぜん崩せなかったんだもん! しかも反撃の仕方もいやらしいし、あの時はなんとか勝てたけど……時間かかって凄い疲れたのにポイントあんまり美味しくなかったから後半はレイガストの人とはランク戦しないようにしたんだよ」

「へえ、緑川がそこまで言うくらいか。凄いじゃないか」

「いや過大評価じゃないか……?」

「いえ、私もB級に上がる直前に当たりましたけど本当に堅かったです。正直二度と一対一で戦いたくないくらいには」

「やっぱり凄いじゃないか」

「いや訓練用のトリガーは一種類しかないし……」

 

 緑川だけでなく双葉にもこれだけ言われて尚も認めようとしない修。認めようとしないと言うよりはそんなことはありえないと思っている顔だ。

 

「もしかして三雲先輩知らないの?」

「ええっと、何を?」

「三雲先輩がC級の間でなんて呼ばれてるのか」

「…………え?」

「なんて呼ばれてるんだ?」

 

 まさか自分に異名や二つ名がついているとは思っておらず固まってしまった修の代わりにミカンが聞いた。

 

「堅すぎるメガネ」

「ぶふっ」

 

 予想の斜め上の呼ばれ方に思わず吹いてしまったミカン。フリーズから戻った修が半眼でミカンに視線を向けると肩を震わせながら手の平を合わせた。

 

「ごっ、ごめん……くっ、ふ、不意打ちで……くくっ……!」

「そう思うなら笑うのをやめてくれ」

「悪い悪い」

 

 そう言いながらもくつくつと笑うミカンにため息をつく。そう言えば、と双葉が口を開いた。

 

「三雲先輩は正隊員になったら本部所属になるんですか?」

「ああうん。今のところ部隊に入る予定も作る予定もないから、多分本部所属のフリー隊員って扱いになるんじゃないかな」

「えー、もったいないし草壁隊(うち)来なよ三雲先輩!」

「あんたのところはもういっぱいでしょ」

「ちぇー……あっ! だったらミカン先輩のところは!」

「無理だな、時期が悪い。ランク戦の真っ最中だし、リンゴが今のオペレートに慣れてきたばかりなんだ。ここで人数増やして負担をかけるようなことはしたくない……って李さんも言うと思う」

 

 自分たちが訓練をしている時間、リンゴもオペレートのスキルを上げるために勉強している。中学生になったばかりで歴も浅いというのにランク戦や防衛任務でしっかりオペレーターを務められているのはそういった努力の積み重ねがあるからだ。

 ようやく形になってきた今の隊を崩したくはないと思うのは自然なことだった。

 

「あ、別に三雲が悪いとかじゃなくてだな」

「分かってるから。まあ、部隊のことはとりあえず正隊員に上がってから考えるよ」

「というか三雲先輩の話になって忘れてたけどランク戦! ミカン先輩やろーよー!」

「うおっ、引っ張るなって、分かった分かったから」

 

 ぐいぐいと緑川に腕を引っ張られながらブースへ連行にされそうになっていると、ぼんち揚片手に歩いていた迅に声をかけられた。

 

「随分賑やかだなー。よっ、虎龍。ぼんち揚げ食う?」

「迅さん? どうしたんですか? あといりません」

 

 軽く会釈をして挨拶を返し、進められたぼんち揚げを突き返す。ここ最近見かけなかったのでつい驚いてしまった。

 と、ミカンがリアクションしている横で緑川が迅の周りを小躍りしながら回り始めた。

 

「迅さんだー!」

「おっ、緑川。今日も元気いいなー」

「ミカン、この人は?」

「ああ、双葉は会ったことないか。この人は玉狛支部所属の迅さん。ボーダーに二人しかいないS級隊員だ」

「S級!? そんなすごい人だったの……!?」

「どうも、実力派エリートです」

 

 軽い挨拶をする迅がまさかS級だとは思わなかったのだろう。目を見開きそれなりに大きな声を出して驚いていた。

 その隣で修も冷や汗を流しながら驚いていた。迅は修がボーダーにまだ入隊していなかった頃、危ないところを助けてくれた恩人なのだ。迅は修に気付くと片手を上げて挨拶をした。

 

「メガネくんも久しぶり」

「覚えててくれたんですか……?」

「まあね。どう? 調子は。なんか話してたっぽいけど」

「えっと、実は──」

 

 先程離していた内容をそのまま迅に説明した。それを聞いた迅は少し唸ったあと頷き、修に話しかけた。

 

「メガネくん、家ってどこら辺?」

「え? あ、えっと、蓮乃辺の方ですけど……」

「ふんふん、なら通えなくはないな。メガネくん」

「はい」

玉狛(うち)来る?」

「はい?」

 

 急な誘いに素っ頓狂な声を上げる修。まさか迅が玉狛に勧誘するなんて思ってもいなかったミカンも目を丸くしている。

 

「いやーメガネくんがうち来てくれると未来がいい感じに動くんだよねー。だから来てくれると嬉しいんだけど、どう?」

「み、未来……?」

「迅さんは未来視の副作用(サイドエフェクト)を持っているんだ」

「さ、サイドエフェクト?」

「……あとで説明するわ。まあ迅さんがこう言うくらいだから玉狛行っても全然いいと思うぞ。別に支部所属になったからと言って本部に来れないってワケじゃないし」

「そうなのか」

 

 都度都度ミカンの補足説明を聞きながら修は考える。ミカンが肯定するくらいだし、迅も悪い男には見えない。それに本部でどの部隊に入るわけでもなくフラフラしているよりは支部に所属した方が体裁はいいはずだ。

 

「……分かりました。正隊員になったら玉狛支部に所属させてもらいます」

「おっけー。いやあそう言ってもらえて嬉しいよ」

「三雲先輩いいなー! おれも玉狛行こっかなー!」

「バカ、あんた草壁隊どうすんのよ。せっかくスカウトしてもらったのに」

「掛け持ちって出来ないかな?」

「バカ」

 

 双葉はそれはもう深くため息をついた。「ちぇー」と口を尖らせていた緑川だったが直ぐに表情を切り替えてにぱーっと笑みを浮かべた。

 

「じゃあミカン先輩ランク戦しよー! 迅さんもする!?」

「いや、おれは出来ないよ。あ、それと緑川には悪いんだけどさ。虎龍にちょっと話があるんだ」

 

 にこりと胡散臭い笑みを浮かべて迅はそう言った。

 

「着いてきてくれるか?」

 

 

 

■□■□■□■

 

 

 

 ボーダー本部屋上。強めの風が吹く中、迅とミカンは横並びで地上の景色を見渡していた。

 

「急に悪かったな」

「双葉と緑川にもう一回謝っといて下さいね」

「わかってるって」

 

 ランク戦の予定が急になくなってしまい緑川はぶーたれる程度だったが、双葉は大変ご立腹だった。宥めるのはかなり苦労した。

 手のひらを合わせて軽く謝っていた迅がミカンの右手首に嵌められた腕輪に気付く。

 

「おっ、その腕輪のデザイン変わったな。前のはもっとゴツくなかったっけ?」

「ああ。漣さんが目立たないようにってシンプルなデザインにしてくれたんです。あと機能も改良されたんですよ」

「へえ」

 

 今までは副作用の発動に合わせてトリオンを吸収して分解し、頭痛を抑えてくれるだけだったが、今はトリオンを溜め込む機能が着いた。ライトが着いており、蓄えたトリオンを電力に変換して懐中電灯のように使うことも出来るのだとか。

 

「トリオンを電気にねぇ……でもその機能いる?」

「たまに使いますよ? 部屋の電気付けるのめんどくさい時とか」

「使うんだ……」

 

 「ライト機能云々は寺島さんの趣味だろうなー」と続けた。その通りであるのでミカンは何も言わない。

 

「で、なんの話ですか?」

「あ、やっぱりわかっちゃう?」

 

 二ヘラと笑う迅に溜息で返す。

 

「そりゃまあ。迅さんが二人きりで話したいなんて言ってくるんだからそれなりに大事になことなんでしょう?」

「そこまでわかるかー。成長したなー虎龍」

 

 ほろりと涙をこぼす真似をする迅。何目線なんだあんたは、と半眼で訴えようと試みると、迅は表情を引き締めて口を真一文字に結んだ。

 

「……?」

「来年、もしかしたら再来年頃、あっち側から大量の近界民(ネイバー)が攻めてくる」

「…………は」

 

 突然告げられたその内容に蜜柑の口から発せられたのは辛うじて絞り出せた一文字だけだった。

 冗談? このタイミングで、自分相手にその類の? ありえない。そんなことをする性格ではない。

 そこまで長い付き合いでもなければ親しい間柄でもないけど、迅はそういうことをする人間ではないことをは理解しているつもりだ。

 

「規模は3年前の大規模侵攻よりもデカイ」

「ちょ、ちょっと待ってください! いきなり言われても」

「分かってる。そのうえで聞いてほしい。質問は後で聞くから」

 

 そういって真剣な眼差しを向けられれば押黙るしかない。迅は「ありがとう」と言って話を続けた。

 

「どこが攻めてくるとかどんな敵が来るのだとかは今もまだふんわりとしか見えないんだけど、結末はいくつも視えるんだ」

 

 結末──迅の表情から察するにあまりよくないものが多いのだろう。

 

「悪い未来ばかりじゃない。おれたちが勝つ未来だって視える。虎龍、お前にこの話をしたのは、お前が未来に大きく関わっているからなんだ」

「オレが……未来に……?」

「ああ。どの未来を視ても、その根底にも、過程にも、結果にも、虎龍の存在がある。実際、虎龍が三雲くんと関わったことで未来は大きく動いた」

「三雲と……? どういうことで」

 

 続けようとして手のひらを向けられ制される。まだ聞いていてくれ、そういう意味だ。

 

「初めはぼんやりとしか見えなかったんだ。そこに誰かがいるっていう事しか分からなかった。だけど虎龍と再会(・・)したとき、そこではっきりと見えるようになった。お前が未来を変えるカギになる存在だって分かったんだ」

「オレが……カギ?」

「そうだ。虎龍、あの時玉狛で話したこと覚えてるか?」

「玉狛……あ。『貸し』ですよね」

 

 迅は大きく頷いた。

 

「ああ。あの時の『貸し』を、今返してほしい。──頼む、おれに力を貸してくれ」

「ちょっ、そんな、やめてください!」

 

 そういって迅は、頭を下げた。慌てて辞めるように言う蜜柑だったが迅は頭を上げようとしない。

 

「顔上げてください! オレなんかの力でよければいくらでも貸しますから!」

「……悪い。ありがとう」

 

 頭を上げた迅の顔はひどく曇っていた。

 

 それから迅は最初に言った通り、ミカンの質問に答えることにした。

 

「まず、大規模侵攻のことってオレ以外は誰が知っているんですか?」

「城戸さんと忍田さん、それにうちの支部長(ボス)。あとは鬼怒田さんと根付さん、唐沢さん……まあボーダーの上層部だね」

「本部長や司令まで……オレがその未来について知ることは話してあるんですか?」

「いいや。でもこのことについておれは自由……って言ったらちょっと語弊があるけど、未来をよくするためなら割と好きに動いていいって言われてるから問題ないよ。あ、ただ虎龍は吹聴して回らないでくれよ」

「ええ。当たり前ですよ」

 

 まさか組織のトップからそれぞれの部門のトップまでかかわっていたとは、ことの重大さ的には当たり前なのだがそれでも驚きはする。

 

近界民(ネイバー)の攻めてくる数は」

「……まだはっきりと決まったわけじゃないけど、どの未来でも少なくとも前回の進行以上だな」

 

 そう告げられ、無意識に握りしめていた拳から血が滴る。どうやら手のひらの皮を破ってしまったようだ。

 

「おいおい、落ち着け。何も明日明後日に攻めてくるってわけじゃないんだ」

「落ち着けるわけないでしょ!? また人が死ぬかもしれないんだ! ユズや父さんみたいに連れ去られる人もいるかもしれないのに……!!」

 

 興奮のあまり、息を荒くして怒鳴るミカンに再び「落ち着け」となだめられる。今迅に当たっても仕方がない、それどころか迅は何も悪くないのに八つ当たり染みた行為をしてしまった。深呼吸をするよう言われ、数度繰り返す。頭が冷えていくがよく分かった。

 

「……すみませんでした」

「いいよ。おれこそごめん。無神経だった」

「そんなことは……あの、オレが三雲に関わったことで未来が動いたって言ってましたけど、それはどういう風に動いたんですか?」

「ああ。実は三雲くんは本来ボーダーに入れる素質がなかったんだ」

 

 「トリオンの関係でね」と続ける。確かに三雲はボーダーの平均を下回るトリオン量だった。補欠合格というのもおかしな話だと思ったし、三雲自身も不思議に思っていたのだが、まさか目の前に男が関わっていたとは考えようもなかった。

 

「言ってなかったけど、実はおれ、三雲くんを助けてるんだ。緑川と似たような感じでね」

「そうだったんですか」

「まあ緑川と違って三雲くんの方がぶっ飛んでたけど」

 

 話を聞くに、どうやら修はボーダーに受験したはいいがトリオン量の問題で落ちてしまったようで、その結果に納得がいかず、ボーダー本部に忍び込み直談判すれば何とかなるのではないかと思い、有刺鉄線が貼られていた柵をペンチで破り、警戒区域内に張り込んだところで運悪く近界民と出くわし潰されそうになったところを迅が助けたらしい。

 

 何でも迅は未来に関わる重要な人物と出くわす未来が見えていたのでその日の防衛任務に入っていたのだが、まさかペンチで柵を突破してくる中学生だとは思ってもみなかったようで面食らったようだ。

 

 それはそうだろう。ミカンもまさかあの真面目を体現してそうな修がそんなヤバいことをすると夢にも思わず、ペンチで云々の部分は何度も聞き返した。4、5回聞いてようやく飲み込めたようだった。が、納得はまだ出来かねているのか困惑顔で唸っていた。

 

「まあそうだよな。普通はそうなるよ」

「いや……なんかやっぱり信じられません。でも話の辻褄はあってるし……」

 

 尚も「うーん……」と唸るミカン。そんなミカンを見て迅は苦笑いを浮かべる。

 

「それと、三雲くんを玉狛(うち)に引き込んでごめんな。視えた未来の中じゃもっと遅い場合もあったんだけど、早ければ早いに越したことはないみたいだったからさ」

「それについては別にオレがどうこう言う問題ではないと思うんでそれはいいと思いますけど……ていうか、そのことについて若干の認識の相違があると思うんですよね。

 言っておきますけど、オレは三輪先輩みたいに玉狛の全部を嫌ってるわけじゃないですよ?」

「あれ? そうだったの?」

「確かに玉狛の掲げてる主義は理解できませんし、理解したいとも思いませんけど、迅さんや三雲の人間性は知ってるんで。主義は嫌いですけど玉狛にいる人たちは嫌いじゃないです」

 

 といっても玉狛所属の人員には迅と陽太郎の二人しか会ったことがないのだが。それでも支部の雰囲気を見た感じ、人間性に問題のある者はいなさそうだと思った。

 

「そうだったのか……でもいつかミカンにもちょっとでいいからわかってほしいな。おれたちのことをさ」

「近界民は殺す、憎むべき存在です。それは変わりません。今も、昔も、これからも」

 

 そう話すミカンの瞳には揺るがない意志とマグマのように煮えたぎる殺意があふれんばかりに滲み出ていた。

 そう、変わらない。ミカンは近界民(ネイバー)を殺すためにボーダーに入ったのだから。

 

 迅はどこか寂し気な視線を送っていたが、今のミカンには言っても徒労に終わると考えたようで首を横に振った。

 

「じゃあ今日は悪かったな。これから頼むよ」

「はい。また何かあったら支給端末に連絡ください。じゃあ、失礼します」

 

 ミカンが屋上から出ていくのを見送り、迅は大きなため息をつく。

 

「無事に二人ともコッチに引き込めて良かった……」

 

 迅が視えていた未来は大きく分けて四つ。一つは修が玉狛に来るのを断りミカンが協力を了承する未来。二つ目は修が了承するが、ミカンが断る未来。三つ目はどちらも断られる未来。そして四つ目の未来が今回のことだ。

 可能性は低かったとはいえ起こりえた未来だ。迅は自身の視界に映っていた映像が消えているのを確認して、今度は安堵の意味を込めたため息をついた。

 

「三雲くんを早い段階で引き込めたのはデカい。虎龍のおかげで彼自身が強くなっているのもプラスだ。このまま順調にいけば『最悪』の可能性はほぼつぶせる……」

 

 迅が視えていた未来、本来で言うところの『正史』での修の役割はこの時点では特にはなかった。だが、ミカンの影響で修は役割を持つことになった。今まで自分が視てきた未来の中で、ここまで大きく変わったことはなかった。それもこれも、虎龍ミカンという人間と出会ってからだ。

 

 ミカンが関わる未来は迅も予期せぬ事象を引き起こすことがある。それが良い方向に動くこともあれば、逆に悪い方向へ進んでしまうこともある。迅の『未来視』において、ミカンという存在はイレギュラーそのものなのだ。

 

 それでも仲間に引き込まない選択肢はない。ミカンと敵対する未来は、どれもこれも良くない方向へ進んでしまうから。

 

「……一歩一歩、着実に最善へと向かっていきますか」

 

 誰に言うでもなく、自身を鼓舞するように迅は呟いた。

*1
訓練生と正隊員の個人ランク戦ではポイントの移動が起こらない




自分自身でQ&A

Q・修の異名って他にもあるの?
A・「C級一のレイガスト使い」、「鉄壁のメガネ」、「レイガスト開発者の弟子」、「正統派レイガスト使い」などがあります(嘘)

Q・ミカンはないの?
A・「修羅」、「ランク戦中毒」、「太刀川と斬り合える男」、「負けイベ」などがあります(嘘)
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