オレンジ・リベンジ   作:妖魔夜行@

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第十七話「壱の太刀」

「おっ、やってるやってる。間に合ってよかったぜ」

「うわ、席すげぇ埋まってますね。上で見ればよかったかなー」

 

 A級1位の太刀川隊が現れたことで場がざわついた。突然騒がしくなった観客席に、何事かと東が振り返ればのほほんと笑う太刀川が片手を挙げていたため「ああ……」と納得した。

 

『悪い氷見、太刀川達に変に注目が行ってるから、場の空気を切り替えるために試合の振り返りを勧めてくれ』

「さて、チラホラと防衛任務上がりの観客の方も増えてきたので試合を少し振り返ってみましょう」

 

 東からの内部通信を受けて氷見が説明を始める。今画面に映し出されている試合映像が隅に移動して中央に要所のリプレイが映し出された。

 

「まず最初に戦闘に入ったのは若村隊員と村上隊員でしたね。開始数分で片腕を斬られてしまいました」

「転送位置の運もありますが……連携重視の若村隊員に比べて、村上隊員は一人で点を取れる隊員です。銃手有利の屋内とはいえ、相手はマスタークラスの攻撃手。土俵違いの村上隊員相手によく片腕だけで済ませたと褒めるべきだと思います」

「腕を落とされてからも粘り、三浦隊員が来るまで持たせていますからね。ここで香取隊長も来ていれば戦況は変わっていたでしょう」

 

 東の回答を蔵内が補足する。ランク戦を見ていたC級隊員から関心の声が上がった。

 

「その香取隊長ですが虎龍隊員に奇襲をかけられて戦闘が始まりました」

 

 場面が切り替わり、ミカンが三浦に奇襲をかけるシーンから映像が始まる。

 

「虎龍隊員が狙っていたのは三浦隊員だったようですが、香取隊長がいち早く気づき奇襲に対応しています。その上で三浦隊員を若村隊員のもとへ急がせていますね。その辺の判断をすぐに出していたのは流石ですね」

「虎龍隊員も奇襲を防がれても気落ちした様子を見せず、冷静に標的を香取隊長に変更しているところがいいと思います」

 

 まあその時のミカンの心境は「あ、逃げられた。まいっかこの人倒せば」だったりする。

 そのままミカンと香取の戦闘シーンが流れ、香取が両断されて緊急脱出(ベイルアウト)した。

 

「凄まじい剣戟で香取隊長を圧倒し、先制点を李隊が取ります。攻撃手ランキング5位は伊達ではないというところを見せつけましたね。そして若村隊員と合流した三浦隊員が村上隊員と相対します」

「この時点で李隊長と漣隊員はそれぞれ移動して狙撃位置を変えていますね。東さん、この移動はどう言った意味があるのでしょうか?」

 

 蔵内の振り(・・)に頷いて東は答える。

 

「そうですね。李隊長は単純に最初の位置だと狙うことが出来そうになかったので移動したのでしょうが、漣隊員は上階へ上がってくる敵部隊を監視しているのでしょう。報告と同時に狙撃も出来ますからね」

「なるほど……では次の場面へ。三浦隊員と若村隊員が離脱しようとしたところを村上隊員が追撃を仕掛けますが、虎龍隊員が背後から強襲、追撃をやめて虎龍隊員に向き合います。

 そして無事離脱できたかと思われた三浦、若村両隊員ですが、意識外からの李隊長の狙撃を受け、若村隊員が緊急脱出。李隊に2点目が入りました」

「流石は李隊長ですね。暗闇も雨も物ともしない完璧な狙撃でした」

 

 それから別役の床抜き狙撃と村上の猛攻をしのぎきって今に至る。

 

「虎龍隊員の背後に回り村上隊員との挟み撃ちを狙う来馬隊長ですが……漣隊員の狙撃がさく裂! 来馬隊長も緊急脱出!」

 

 狙撃は警戒していたようだがアイビスまでは予想できなかったらしい。集中シールドを突き破り、来馬の胴体を吹き飛ばした。

 

「これで李隊は3点目ですね。全員が1点ずつ取っています」

「ほかの部隊は追い上げることが出来るのでしょうか。それでは実況に戻ります」

『ありがとうございました東さん、蔵内君』

『ああ、気にしなくていいぞ』

『はい。お礼を言われるほどではないので』

『いえ、お二人のおかげで注目も戻りましたし……まあ原因がのほほんと笑っているのは少し気になりますけど』

 

 まあほぼほぼ太刀川が悪いな、と東は苦笑を浮かべて同意した。

 

 

 

■□■□■□■

 

 

 

「太刀川さんどっちが勝つと思います? 村上先輩と虎龍」

「ん? そりゃ虎龍だろ」

 

 即答だった。もう少し考えるものだと思っていた出水は目をパチクリさせ冷や汗を垂らす。

 

「そ、即答っすか。でも村上先輩の方が攻撃手ランクは高いですよ」

「ポイントだけで強さが決まるならカゲはどうなんだよ」

 

 そう言って「はっはっはっ」と笑い、話を続ける。

 

「村上も強いけどそれ以上にコタツが強いだけだ」

「でも村上先輩にはサイドエフェクトがあるじゃないですか、その上虎龍と何度も戦ってるわけですし、剣も見切られてるんじゃないっすか? 実際にさっき居合斬りも止められてましたし」

「出水、お前が言ってるのは普通の居合のことだろ? 村上はあいつの本当の剣を知らない」

 

 困惑する出水ににやりと笑みを返した。

 

「まあ見とけって、すぐにわかるぞ」

 

 

 

 

□■□■□■□

 

 

 

 

 時間は少し戻り──

 

 弧月を滑らすように振りぬいた居合斬りを、いとも容易くレイガストの大楯で受け止める村上。香取の腕は飛ばせたというのに、流石は村上だ。とミカンは一人で納得した。

 

それ(・・)はもう俺には通用しない」

「くっ……!」

 

 大楯を持っているというのに村上の剣は鈍る様子を見せない。鋭い太刀筋を受け止め、距離を取ろうとその場から飛び退くが──

 

「逃がすと思うか」

 

 村上がそれを許さない。離れた分だけ距離を詰めてミカンの脚をその場に縫い留める。傍から見れば村上が攻めているように見えるだろうが、ミカンは一抹の違和感を感じていた。

 と言うのも、踏み込んだ攻撃をしてこないのだ。攻撃を防ぎ、反撃もしてくるが、自分を落とそうにしては動きが消極的すぎる。まるで消耗するのを避けているような……。

 そこまで考えて、カチリとピースがはまった気がした。

 

『ひな! 来馬隊長と別役隊員は!?』

『え? 二人とも通ってませんよ?』

 

 ひなは上階で階段とエスカレーターを見張っており、敵が来たら伝達する作戦だった。上階へ上がってくるならば見落とさないはずだ。つまり。

 その時、危険予知が働く。

 

【真下から放たれた弾丸がミカンの左腕を吹き飛ばした。意識外からの突然の攻撃に動揺したミカンは村上の刃から一瞬視線を外してしまい、気づいたときには遅く、両断されていた】

 

 即座にグラスホッパーを起動、村上のすね辺りに展開して蹴り抜いた。遅れて直径10cm程の光の柱が床を貫通して天井に穴を空ける。息もつかせぬまま、村上が突貫してきた。どうやら長引かせる気はないらしい。

 

「上等」

『あっ! 来馬さんを発見! どうしましょう? 撃ちますか?』

 

 ひなからの報告に来馬隊の狙いに気づく。村上と来馬で挟撃をしてミカンを落とす算段らしい。ミカンが一人納得していると、李がひなに許可を出した。

 

『ああ、いいぞ』

『わっかりましたー!』

『……いいんですか? 別役先輩にカウンター狙撃されるかもしれませんよ?』

『それは無い。別役は恐らく三浦が取りに行ってるだろうからな』

『三浦先輩が?』

 

 通信を続けているが、この最中もミカンは村上と斬り合っていることを忘れてはならない。村上の刃を受け止めて弾き、一旦距離を取る。

 

『俺もモール内に入る。もう外にいても意味がないしな』

『あたしも狙撃地点変えますね! ほかの人たちは下にいますし気楽に動けます〜』

 

 二人の通信に耳を傾けながら迫りくる刃を反らし、弾き、また受け止める。堅い守りに防がれて、ミカンはいまだに傷一つ付けられないでいた。一方村上もミカンの巧みな刀捌きに攻撃を全ていなされていた。

 

『っトリオン反応! カメレオンに注意して……ってあれ? 離れていく……?』

 

 リンゴから警戒(アラート)が入り、一瞬周囲に視線をやるがどこにも違和感は感じない。それどころか反応が遠ざかっていくとリンゴは話した。

 

『言った通りになっただろう。香取隊が点を取れるとしたらもうそこしかないだろうからな』

『そうみたいです。今、別役隊員が緊急脱出しました』

 

 これで3対1対1。俄然李隊が有利な状況だ。あとはミカンが村上を倒せば勝利は決まったようなものなのだが……やはりこの男、一筋縄ではいかない。

 

『……ちょっと予定より早いけど、すみません隊長。使います』

 

 

 

■□■□■□■

 

 

 

 納刀した弧月の柄に手を添えて居合の姿勢をとる。その姿に圧され、村上は無意識に一歩下がった。

 

(なんだ、この雰囲気……まるで太刀川さんと斬りあってるみたいだ……)

 

 レイガストの盾を構え、間合いを調整しながら攻めるタイミングを計る。

 

(攻めるなら(シールド)モードでスラスターを起動、虎龍の剣に合わせるように弾き飛ばす。空いた胸元に弧月を突き刺して……いけるはずだ。虎龍の居合の速さはもう見切っている。さっき実証できた。可能なはずだ……だというのに、ざわつきが収まらない)

 

 ミカンを中心に円を描くように歩き、少しずつ間合いを詰めていく。その間、ミカンは一時たりとも村上から目を離さず、捉え続けていた。

 しかしいつまでもこうしているわけにはいかない。動悸を抑え、タイミングを決める。

 村上に合わせて追うように動かしていた右足が小石を蹴った。

 

「スラスター起動(オン)

 

 大盾に身を隠しながら距離を詰める。ミカンがどこを斬りつけようが、すぐに反応して弾き返すことが出来る。

 

 いつ斬る、まだか、まだか、まだか、

 

 

 

 

 

 まだか、

 

 

 まだか、

 

 

 

 まだ──なのか? 

 

 

 

 

 その距離僅か30cm、村上の知っているミカンの剣速じゃ間に合わない。だというのに防御するわけでもなく、ただジッと弧月に手を添えていた。

 

 そして、気づく。

 

 突撃していたハズのレイガストが自分の腕ごと押し返されていたことに。

 

「──なっ!?」

「遅い」

 

 弧月で受け止めようにも既に遅く、村上はトリオン供給器官諸共斬り捨てられた。

 

 

 

□■□■□■□

 

 

 

「三浦隊員のトリオン体が活動限界になり……緊急脱出! そしてここで試合終了! 最終スコアは6対1対1。李隊の勝利です!」

 

 観戦ブースに響く氷見の声を聴きながら太刀川はにやりと笑った。

 

「な、言った通りだっただろ?」

「いやぁ~……マジで勝つとは。つか、あんな強かったんすか虎龍って」

「前やった時よりも強くなってるだろうな。多分今10本したら3本は確実に取られるな」

 

 その言葉に出水は目を剥いた。A級1位、総合1位、攻撃手ランキング1位の男が10本中3本は必ず負けると言ったのだから無理もない。

 

「マジっすか……」

「おお。大マジだぞ」

 

 それでも楽しそうに、愉しそうに太刀川は笑う。

 

「楽しみだ」




自分自身でQ&A

Q・数字を1と一で使い分けてる理由って?
A・基本的に順位や得点、個数などを表す時は1/2/3……などで人数などは一、二、三……としています。数時は半角と全角を使い分けてますがローマ字は基本全角にするように心がけています。なので半角のものは誤字です。いつも報告&修正ありがとうございます……
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