「B級ランク戦最終ROUND! 実況は私、武富桜子がお送りします! 解説にはA級1位太刀川隊から太刀川隊長に、A級3位風間隊から風間隊長にお越しいただいています!」
「どうぞよろしく」
「よろしく頼む」
武富の溌剌とした声が響き渡るランク戦室は多くの隊員で溢れかえっていた。中には席に座れず立ち見をしている者が居るほどだ。
「さて、最終戦ということで順位を振り返ってみましょう」
モニターに各部隊が上から順に映し出される。
「現在1位の李隊の得点が38点、それを追う3位の生駒隊が34点。4位の王子隊が32点、6位の東隊が29点となっています」
「昼の部が終わって上位の他部隊は既に得点が決定している。現在2位の弓場隊が36点、つまり生駒隊が2位以上を狙うには最低2点は取らなければならないということになる」
風間の言葉に合わせてモニターの映像に必要点数が表示される。
「同得点だった場合、前期の順位が高かった方が優先されるのでそうなりますね!
おっと、どうやらMAPが決められたようです。東隊が選んだMAPは『展示場』!」
「展示場は東隊が得意とするMAPだ。東隊に流れを掴まれるより先に動けるかが重要になってくるな」
「デカいホールがいくつかあって、それに並ぶ形で中庭や駐車場があるんだけど、狙撃をするにはあんまり向いていないMAPなんだよな。だけど選んだってことは何か策があるのか、それともコアラか奥寺が選んだのか」
東隊は東が隊長を務めているがその実は小荒井、奥寺の両隊員を育成している部隊である。なので東隊では基本的な戦術やMAP選択などは二人の自主性に任せていることが多い。
「最終戦だから点が欲しいってことで取り敢えず勝率の高い展示場にしておくかー、みたいな感じでコアラが選んでそうな気がするな」
「そんな理由で東さんが頷くとはあまり思わないが、どうだろうな。シンプルに李や漣、隠岐といった狙撃手達を制限する狙いもあるんじゃないか」
「なるほど! おっと、そろそろスタートするようです!」
各隊室で支度を整えた隊員達が武富の言葉を聞いて気を引きしめる。
「全部隊転送!」
ランク戦最終戦が今始まった。
転送され、まず視界に飛び込んできたのは特徴的な形をした巨大な建物。そしてその建物に繋がる複数のホール。それらを照らす街灯群。
「展示場で夜か。中で戦えって意味かな」
『気をつけろよ虎龍、ひな。このMAPは東隊得意のMAPだ。何が来てもいいように気を引き締めろ。リンゴも即座に警戒できるようMAPに変化があれば逐一報告してくれ』
「了解」
『了解でーす!』
『了解しました!』
すでにバッグワームを着て指示を出す李に余念は無い。今回は四つ巴、それに加えて相手に自分の師がいると来たものだ。微塵も気は抜けない。
『虎龍、展示場のMAPは把握しているか?』
「大体は」
各ポジションごとの有利不利地形や狙撃ポイント、大まかなMAP構造は頭に入っている。どこなら戦い安いか、どこに集まりやすいのか、それくらいは分かる。通信越しに頷く姿が見える。
『よし。俺はこのまま隠密に徹する。虎龍は目についた敵を全員斬り飛ばせ』
「了解」
かなりいい加減な注文だが動じることなく了解した。実際、細かい指示を出さなくてもミカンは動く。それに狙撃手二人、攻撃手一人の李隊では基本的に攻撃手であるミカンから戦闘が始まる。二人はそれを援護、もしくは浮いた駒を狙撃するのが仕事だ。
「オレの仕事は片っ端から斬ること、それだけだ」
正面口ホールに到着して丁度、階段を駆け上がる標的を発見した。
「東隊の小荒井先輩を発見。戦闘に入ります」
弧月を引っ提げ、獲物を追う。最終ROUND最初の戦闘が始まった。
東隊と戦うにあたって、まず何においても優先しなければならないのは試合の主導権を握ることだ。
東は場を掌握することに長けている。隠密も狙撃の腕も戦術も、上げればきりがないのだが。東春秋という男を敵としたとき、何よりも警戒しなければならないのは意表を突かれることだ。
序盤は仕込みに集中し、試合が進み、中盤に差し掛かったあたりで場をかき乱しに動く。あっという間に流れは変わり、気づいたときにはもう盤面はグチャグチャだ。
策を練らせる前に落とせれば一番いいが、そう簡単に落とせないのが東だ。転送運がかなり良くなければ無理だろう。
ならばどうすればいいのか。答えは簡単、使える駒を減らせばいい。
小荒井も奥寺も、東から師事を受けているだけあって基本に忠実な戦い方をする。
一人ならば無理をせず手堅く動き、二人揃えば息の合ったコンビネーションで敵を追い詰める厄介な相手だ。
だからこそ今一人の小荒井を落とせれば東隊はかなり動きずらくなる。
「何としても仕留めろ虎龍──っと、あれは水上と南沢。もう合流していたのか」
通路脇の死角から中央ホールへ移動する生駒隊の二人を捕捉する。
「あの方向だと虎龍と小荒井がかち合うな……虎龍、西ホールに向かうなら気をつけろ、水上と南沢が既に合流済みで西ホールに向かっている。小荒井が迷いなく逃げたのを見るに、奥寺も合流するかもしれない」
『2対2対1になるかもしれないってことですね』
「ああ。もしかしたら乱戦を見て王子隊も加わるかもしれん。どちらにせよホールは狙撃で援護がしづらい場所だ。きつくなったらすぐに中庭の方に……いや、駐車場の方に飛び出してこい」
『了解』
通信を切り自身も狙撃地点に移動する。展示場のMAPには屋上が無い為、高所から中庭を狙える位置は各ホールの屋根の上となる。
しかし本来登ることを想定されていないため、柵もなければ姿を隠せる遮蔽物もない。一度狙撃すればカウンター狙撃をされやすい位置になってしまう。
となると反対側の駐車場に逃げてもらった方が援護しやすい。西ホールの駐車場側を高所から狙撃するには同じようにホールの屋根の上に登るか、立体駐車場から狙うかどちらかになるだろう。普通ならば。
そう、李は普通の枠には収まらない。彼には『強化視覚』というサイドエフェクトがある。
「ひな、屋内での狙撃はお前に任せる。頼んだぞ」
『……! ハイっ! 任されました!!』
「虎龍、戦闘に入ったら必ず駐車場側に背を向けるように戦え」
『了解です。じゃあ、戦闘に入ります』
『お兄ちゃんが南ホールで戦闘開始します! 視認できる相手は生駒隊から水上隊員、南沢隊員。東隊から小荒井隊員です!』
「バッグワームによる奇襲にも注意しておけ」
『了解! ひな、通路の敵は任せたぞ!』
『分かりました!』
三人の通信を聞きながら李は頬を緩める。自分の弟子の、部隊の成長に親心のようなものが感応した。
「……成長したな。さて、俺も急ぐか」
地面を蹴って暗闇に紛れながら街路を走り、頭の中にある作戦を反芻させる。師を欺くためには徹底しなければ。
納刀した弧月に手をかけて集中、しようとしたところで降り注いだ
体制が崩れた南沢を斬ろうと一歩踏み込む。しかし今度は横から伸びてきた旋空に邪魔され、床を蹴って空中に退避する。
「アースーテー、ロイドッ」
そんな掛け声で投げられた弾はどこか胡散臭く、それを裏付けるようにサイドエフェクトが働く。
【被弾する直前で出したシールドにぶつかるとそれは爆発した】
「
距離を離して出したシールドに炸裂弾がぶつかり炸裂する。煙が上がり水上の姿とミカンの前方の視界を隠した。煙幕に紛れて散らされた通常弾が降ってくる。
当たることはないが水上に向けていた意識が乱されてしまう。グラスホッパーを起動させて正面入り口の方へと跳んだ。切り結んでいた小荒井と南沢も互いに距離を取っており、膠着状態が続いていた。
「……? (水上先輩がいない?)」
ギャラリーを陣取っていたハズの水上の姿が忽然と消えていた。何処へ──目だけを左右に向けるが見当たらない。バッグワームを着て最前列に身を潜めているのかもしれない。
何度かのランク戦を経て分かったことだが、あの男は曲者だ。自分では想像もつかないようなことをしてくるに違いない。ミカンは姿が見えない水上にも意識を割きつつ、南沢、小荒井を見据えた。
小荒井はチラリと南沢に視線をやると、ミカンの方へ駆け出した。何の狙いが──
【背後からバッグワームを纏った奥寺が強襲を仕掛けてきた】
「なるほど」
予知で視えた光景に合わせ、奥寺が居た位置に振り向き弧月を振るう。驚愕する奥寺の顔が見えた。斬りかかっていたはずの奥寺が防ぐ形となり、奥寺の冷や汗が頬を伝う。
「やっぱり今のも反応するのか……」
「眼がいいもんで」
冗談っぽく言って余裕を見せてみるが、ハッタリにすぎない。この状況はミカンとって劣勢であるからだ。
まず純粋な数の差。生駒隊は水上と南沢の二人、東隊は小荒井と奥寺の二人と互いにカバーしあえる味方がいるが、ミカンは一人である。加えてこの天井と壁がある広いホールという地形、グラスホッパーで撤退しようにも遮蔽物がなにもないここでは水上に邪魔されてしまう。
居合の間合いにも入らないだろうし、出来たとしても対処されるだろう。村上に見せた必殺の居合なら落とせるだろうが、あの技を使うには如何せん敵が多すぎる。
離れた距離からの攻撃手段を持たないミカンにとって、この戦況はかなり不利だった。
(合流されたか……地味にきついな)
そのことを理解している小荒井は奥寺に内部通信でどうするか問う。
『どうする、生駒隊と王子隊が揃う前に虎龍を落としに行くか? 水上先輩が見えないのがちょっと怖いけど』
『いや、虎龍のサイドエフェクトを考えるに乱戦じゃなきゃ落としきれないだろ。さっきのも完璧な奇襲だったのにブレードの位置まで完全に把握されていた』
『かぁ~~やっぱチートだろ予知系のサイドエフェクト。前のランク戦でも東さんの狙撃も避けられたしなあ』
『だから東さんが言ってたみたいに予知に負荷をかけて読み逃させるのが一番いいんじゃないか? 王子隊か生駒さんが来るまで虎龍を縫い付けて最後に漁夫ればいい』
『ん~……東さんはどう思います?』
『そうだな。奥寺の言ったやり方でいいんじゃないか?』
二人の通信を黙って聞いていた東は話を振られ奥寺の考えに同意する。
『まあ縫い付けるって言っても落とせそうなら落としてもいいと思うけどな。水上の存在は注意しておけよ』
『了解です。小荒井、南沢と挟みうちする形で行くぞ』
『オーケー』
隊長からの確認も取り、あとは作戦通り王子隊か生駒が来るまでミカンをここに縛るだけ。
『虎龍は旋空は無いけどグラスホッパーがある。距離を詰められないようにしろよ』
『お前もな』
そう、ミカンは何故か旋空を使わない。一時期はただ隠しているだけかと思われていたが、結局最終戦まで個人ランク戦でもB級ランク戦でも一切使用していなかったため使わないのではなく使えないのだと周りは判断した。
旋空は使い勝手のいい便利なオプショントリガーだと思われがちだがその実、実戦で使えるかと言われればそれは難しい。
一見斬撃が飛んでいるように見える旋空だが実際は瞬間的にブレードを伸ばしているから錯覚してそう見えるだけだ。しかも同じようにブレードを伸ばせるスコーピオンと違い、弧月には重さがある。
単純な話、ブレードを伸ばせば伸ばすほど重くなり、弧月を振るう動作も難しくなるのだ。そのため使用者はそれほど多くなかったりする。
ミカンの剣技は居合に限らず全てに洗練された『型』のような美しさがあるため、猶更旋空と組み合わせるのはシビアなのだろうとボーダーの大多数がそう思っていた。
「旋空弧月」
唐突にホールが横一文字、文字通り真っ二つに切り裂かれた。
横に斬られた建物がズレ、滑り、半壊する。あっという間に瓦礫と化したホールから濛々と土煙が上がる。
「けほっ……無茶苦茶するな、まったく」
瓦礫をどかしてミカンが這い出て来た。そしてその無茶苦茶をした張本人を見つけ、睥睨する。
「あれ、もしかして誰も斬れてへん?」
「おれは斬られそうになったっス!」
『いやアンタは斬られたらあかんろ』
生駒隊の隊長、生駒達人。ボーダーで唯一の技、40mの距離を両断する『生駒旋空』の使い手であるNo.7攻撃手だ。
「げほっ、イコさんやべー!」
「まさか建物ごとぶった斬るとは思わないだろ……」
遅れて小荒井と奥寺も瓦礫から飛び出す。ホールが半壊したことにより、電気系統がやられたのだろう。ホールを照らしていた電灯は全て消えており、今この場を照らしているのは月明かりと街灯のみだ。
『お兄ちゃん、視覚支援入れる?』
『いや……いい。トリオンの光で武器の所在は分かるし、月のおかげで相手の姿も十分見れる』
『リンゴ、俺には頼む』
『了解です。ひなちゃんは?』
『あたしはー……うん、まだいいよ。大丈夫』
『いざという時は頼むぞ、ひな』
『はい、任せてください!』
通信を切って立ち位置を確認する。やはり水上の姿は見えない。それに王子隊が一人もいないのが不気味だ。
【
頭に流れた映像を断ち、距離を離してシールドを展開。同時にグラスホッパーを起動させて飛び退く。不意打ちを防がれたというのに相変わらず余裕の表情の王子が姿を現した。
「当然、躱されるよね」
「王子隊まで来たやん。あかんあかん、蔵っちの誘導炸裂弾はあかんて。海ー」
「はいはい、
「よし、ほな行くで」
「させません!」
2発目の誘導炸裂弾を防ぎ、生駒は王子へ詰め寄ろうとする。しかしそこに樫尾が割って入り、近づくことを許さない。
「いいね、でもイコさんはカシオ一人じゃ重いから──協力してもらおうか」
「旋空──」
「──弧月」
王子の言葉通り、左右を挟み込む形に移動していた小荒井、奥寺の二人がそれぞれ旋空弧月を振り抜く。生駒だけでなく樫尾もまとめて斬り伏せようとしているが、樫尾もそれには気づいている。跳躍して躱しつつ、生駒の足を縫い付けるために追尾弾を放つ。
「海」
「おいっスー!」
名前を呼ばれた南沢が生駒の足元にグラスホッパーを出す。それを踏みつけて空中で旋空を放とうと試みる。
「ナイスや海。旋──」
「誘導炸裂弾」
「3発目やん。打ちすぎやろ」
三度目の誘導炸裂弾。今度は8分割にして生駒隊と東隊両方に向けてのものだ。しかし合成弾を使ったということは防御ががら空きになるということだ。蔵内のような優秀な射手をこのままフリーにはしておけない。そう判断したミカンはグラスホッパーを起動させて無防備な蔵内へ突貫する。
「おっと、させないよトラゴン」
「ちっ、王子先ぱ──なんて?」
思わず素で聞き返してしまったのだろう。ミカンの顔は困惑で染まっている。
王子は他人のことを愛称で呼ぶことがあるのだが、それを知らないミカンはただただ首を傾げるばかりだ。
「蔵内」
「ああ。
王子の陰に隠れた蔵内が両攻撃で追尾弾を放つ。
「くっそ……!」
蔵内の追尾弾のせいで思うように動けない。それどころか逆に王子に詰められ防戦一方になっている。
シールドで追尾弾を防ぎながら、王子の弧月と鍔迫り合うミカンの後方で、樫尾に阻まれる生駒の姿があった。
「今まとめてぶった切るチャンスなんやけど、カシオそこ退いてくれん?」
「退きません」
追尾弾でけん制しながら弧月を打ち合う樫尾の動きを厄介に思いながら、生駒はどうするべきか考えていた。
純粋な斬りあいなら生駒に分があるのは明らかなのだが、樫尾もそれは理解しており、徹底的に生駒に攻めさせない立ち回りをしている。
時間をかければ倒せるだろうが、その間にポイントは奪われてしまうだろう。ならば──
「海」
「了解っスー! おれとやろーぜカシオ!」
「南沢先輩っ……!」
南沢が二人の間に割って入り、樫尾をマークを生駒から外した。その隙に生駒は旋空の射程圏まで歩を進め、斬りあっているミカンと王子、王子をサポートしている蔵内までを斬り飛ばそうと弧月に手をかけた。
「生駒旋空……!」
「打たせるとでも? 蔵内」
「させへんで、通常弾」
姿を隠していた水上がバッグワームを解除しながら飛び出し、トリオンキューブを蔵内達に向かって投げつける。通常弾と言われたそれは跳躍して躱そうとしていた蔵内達に覆いかぶさるように曲がった。
「追尾弾……!」
「ナイスや水上」
「(水上先輩の弾幕で緩んだ今のうちに……)グラス──」
【突如飛んできた狙撃がミカンの体を吹き飛ばす】
サイドエフェクトが発動し、反射的にシールドを出す。
「両防御!」
一枚目のシールドを突き破り、二枚目のシールドにひびが入ったがなんとか防ぐことが出来た。水上の通常弾を防ぎながら王子は東の居所に目線を向ける。
「東さんはそこか」
『でも防いだよ! お兄ちゃん!』
「違う……!
そう、アイビスを防ぐには両防御を使うしかない。予知でミカンは自分が集中シールドごと貫かれていたのを見たため二枚目を出すことで防ぐことが出来た。が、そうなるとミカンは今、がら空きの状態になる。
「もろたで虎龍」
『おっと! 奥寺!』
『分かってる!』
いち早く察知した小荒井、奥寺のコンビが離脱する。
「旋空弧──」
「『スラスター』オン!!」
「──月……おん?」
ミカンの前方に盾モードのレイガストが突き刺さり、生駒の旋空を阻む。ブレードと
「ひな、助かった。ありがとう」
「どういたしましてです! さあ行きましょう! ミカン先輩!」
「ああ」
レイガスト片手に笑うひなを見て、ミカンも笑って答えた。
自分自身でQ&A
Q・ミカンのサイドエフェクトはボーダー全体が知っているの?
A・対戦したことがある隊員、迅、木崎、開発室の職員、李隊、双葉などなど、大体知られていますね。