誤字報告ありがとうございます……いやほんと助かります。
絶対に前線に出てこないであろう人間が大盾を引っさげてやってきた。しかも中心も中心に。生駒はあんぐりと口を開けて仲間に解説を求めた。
「ちょいちょいちょい、どういうことなん。あの子狙撃手やろ? なんでレイガスト持ってんねん」
誰か説明してくれ、その意味を込めて指をさすとにぱーっとした笑みを浮かべた本人が答えてくれた。
「秘密兵器です! えっと、まずはこの包囲から抜けないとですね」
「逃がすと思うかい?」
「せやなあ」
王子が接近しながら、水上がトリオンキューブを浮かべながら言い放つ。が、ひなはまだ笑っている。
「はい、逃げれます。エスクード!」
カタパルトの要領でひなとミカンの二人は空中へと跳びあがった。しかしそこは障害物が何もない、狙撃手にとってまさに絶好の狙い目の場所。このままでは狙撃され緊急脱出してしまうだろう。
「先輩!」
「任せろ」
しかしそんなことをミカンが許すわけがない。
【駐車場から狙撃されひな共々撃ち抜かれる】
レイガストをOFFにしてアイビスを精製中のひなの腹部に左腕を通してがっちりと固定する。そしてサイドエフェクトで視えた通りに撃ってくれた狙撃を防ぎ、その方向に体を回した。
『弾道解析、補正完了。ひなちゃん!』
「狙い撃ちます!」
スコープを覗いたひながアイビスの引き金を絞る。
「嘘やん……あの態勢で防げるん……!?」
隠岐が覗いていたスコープから目を離そうとした瞬間、スコープ越しにひなと目が合った気がした。その場から離れようとした時にはもう遅く、隠岐の胸部を吹き飛ばす。
「あかんわー……なんも出来んかった。すんません」
『戦闘体活動限界、
隠岐が光の帯となって消え、李隊に1点が入る。この試合の先制点はひなだった。
「ナイス狙撃。さてと、ひな。しっかり捕まってろよ」
「はい!」
「グラスホッパー」
飛来する
「東隊に1点か……いや、生駒隊もか」
生駒旋空が小荒井の首を斬り飛ばした。奥寺はかろうじて逃れたようだが樫尾が張り付いているため、落とされるのも時間の問題だろう。
半壊したホールのかろうじて無事だったギャラリーに着地して、抱えていたひなを降ろす。
「まだ追って来てるな……ひな、逃げれるか?」
「はい。この通路は無事ですし、反対側に逃げま──」
ひなの言葉を遮るように
「通路がっ!」
「さっきも言っただろう? 逃がすと思うかい?」
「王子先輩……生駒隊とやりあってたんじゃないんですか」
「流石に僕もみずかみんぐもあの状況で君をみすみす見逃すなんてことはしないよ」
その言葉を裏付けるように水上が放った炸裂弾がギャラリーに着弾する。無事だった足場も半分以上削られてしまった。また、ホールだった瓦礫から少し離れた位置から緊急脱出の光が2本伸びるのが見えた。
「カシオがやられちゃったか。でもおっくんと刺し違えてくれたのは大きいね。生駒隊の点数にならなくてよかった」
「随分と、おしゃべりなんですね」
「そんなつもりはないけど、楽しいとつい言葉が零れちゃうんだよね」
雑談するように弧月を振るいながらもその顔に油断の文字は無い。王子自体、弧月にスコーピオン、追尾弾と使い分ける変則的な攻撃手なのでミカンも戦い辛く感じる。
実際に先程から
埒が明かない。生駒隊も詰めてきている以上、ひなを守りながら戦闘を継続するのは厳しい。そう思っていたミカンにひなから通信が入る。
『ミカン先輩! 躱してください!』
『何を──』
聞き返すより早くサイドエフェクトが発揮した。
【後ろでアイビスを構えたひなが引き金を引く。自分の体ごと王子を撃ち抜いた】
「うおおおお!!?」
慌てて体をねじって横に逸れる。それとほぼ同時にアイビスの引き金が引かれた。
「本当に、面白いことをするね。ひーなんは……」
ミカンのリアクションを見て察したのだろう。咄嗟に体を反らした王子だったが完全に避けきることは出来ず、左腕が吹き飛ばされていた。
「ミカン先輩!」
ひなの声を背に弧月を思い切り振り抜く。片腕で体勢の悪い状態では踏ん張り切れなかったようで、下階へと落ちて行った。
落下しながらも体勢を直している王子に、水上の通常弾が降り注ぐ。シールドで防いでいるが、防ぎきれない足下が削られる。
「くっ……『蔵内、みずかみんぐよりもイコさんだ』」
「『了解』通常弾」
旋空弧月を振るおうとしていた生駒を見つけていた王子の指示に答え、通常弾を放つ。旋空を中断してシールドで防ぎながら生駒は通信で不満を表す。
『さっきから気持ちよく旋空させてもらえへんのやけど。モテすぎちゃう俺? はっ──もしかして、ついにモテ期来たんかな』
『嫌なモテ期すぎませんそれ?』
『アホなこと言っとらんで狙撃警戒しい。東さんと李さん消えたままなんやから。ん……? もう一人消えたな。これは多分漣ちゃんやな』
生駒隊オペレーター真織が生駒のボケと水上のツッコミを一蹴して狙撃の警戒を呼び掛ける。しょんぼりと『真織ちゃん冷たい……』と呟く生駒を無視してレーダー上から消えたひなの存在も伝える。
『漣ちゃんかー……あの子斬りずらいんやけど、俺が斬ったらあかん子やろ』
『隠岐以外の狙撃手全員が残ってるの辛いなあ』
『いやあ、すんませんって、ホンマ。堪忍してください』
隠岐の謝罪を聞き流しながら水上は周囲を見回す。ギャラリーから飛び降りたミカンと王子を前衛に、蔵内を後衛においた王子隊、それに生駒と
「狙撃手三人が見えへんのがおっかないなあ……でもやらんわけにはいかんし、イコさん。虎龍任せてもええですか?」
「『虎龍』了解」
『それだとイコさんが虎龍みたいになっとりますよ』
『ツッコミ入れるだけなら退いてくれへん?』
『四面楚歌やん』
『おれは味方っすよ隠岐先輩!』
『ああもう海も隠岐も離れぇや!!』
真織の叫びを聞き流して掌にトリオンキューブを浮かべる。生駒にあんなことを言ってみたが、実のところ水上一人で王子、蔵内を相手取るのは厳しいものがある。せめて隠岐か南沢が生存していれば話は違ったが、いないものはしょうがない。
幸いにもひなが王子の左腕を削ってくれている。蔵内もこう開けていては両攻撃は出来ないはずだ。
「(まあそれは俺も一緒なんやけど)……イコさんが虎龍倒すまでの間、粘れるだけ粘ってみよか」
「みずかみんぐに出来るかな?」
「何事もやってみんと分からんよなあ。あとその呼び方やめえや」
第一印象は『綺麗な太刀筋』だった。
繰り出される斬撃を搔い潜り、納刀した弧月を居合で振り抜く。
「おうっ、
牽制程度とはいえ簡単に受け止めながらよく言う、心の中でミカンはボヤいた。やはり10000ポイントを超える相手には本気の居合でなければ通じなさそうだ。
「鋼に使ったマジ居合は使わないんか? それとも使えないんか?」
「どうですかね」
使える状態だが、使えない状況なのだ。本気の居合……祖父から教えて貰った名前は『壱の太刀』と言うのだが、あれは最高速度を出すために普通の居合よりも集中力が必要になる。
そのため壱の太刀を使うためにはサイドエフェクトが発揮されない1VS1が望ましい。今は生駒とミカンはその状態だが、東が隠れているのが問題だ。
狙撃が飛んできた場合、壱の太刀の影響でサイドエフェクトの反応が遅れて無防備な姿を晒してしまう。ましてや相手は狙撃の名手である東だ。致命傷になるのは明らかだろう。
使えるが使えないというのはそういう事だ。
「まあどっちでもええわ」
ゴーグル越しに生駒の目が光る。
「使っても使わんでも俺が先に斬ればええだけの話や」
「それより速くオレが斬ります」
「言うやんけ。やれるもんなら──」
言葉を遮って弧月を抜刀、居合を見せる。
「あら」
返す刀で肩を狙い振り下ろす、防がれるが流して斬りあげる。
「ちょっ」
斬り下し、納刀。そして再び居合で振り抜く。
「まっ」
そして袈裟斬り──をしようとしたところで生駒が堪らずと言った様子で飛び退く。
「あかん、さっきより速くなってるやん。進化でもしたん?」
「……さっきのは牽制、今のが本来の居合です」
「怖すぎやろ。剣鬼なんか?」
それも捌いているのだからやはり生駒は強い。このままではただ時間が過ぎていくだけだ。
考える。東は自分か生駒を確実に落とせる状態でなければ狙撃しないはずだ。
考える。東が狙撃したいタイミングを。
考える。自分が隙を晒してしまう瞬間を。
『…………隊長』
『どうした』
『オレが東さんに狙撃させます。だから、狙ってください』
『任せろ。大体の目星は着いている……次は逃がさん』
頼もしい返事が聞けたことに頬が緩まる。了解して通信を閉じる。
まずは生駒の旋空の射程圏内から離れる。生駒との距離はおおよそ60mといったところか。
『リンゴ、生駒さんとオレの距離、どんくらい?』
『えと……55m、かな』
『よし』
弧月を納刀して神経を研ぎ澄ます。視界に映るのは生駒のみ。触れる感覚は掌に伝わる弧月だけに。息を吐いて身体の中をまっさらの状態にする。
「……?」
身構えてた生駒が首を傾げる。いつになっても動かないミカンを不思議に思い──視界がズレた。
『戦闘体活動限界』
「…………は?」
トリオン体に亀裂が広がったところで生駒は何が起きたか理解……する間もなく爆散した。
『緊急脱出』
「──壱の太刀、旋空弧月」
生駒が緊急脱出した後、少し遅れて北ホールの屋根でアイビスが光った。と、同時に狙撃の光が東を貫いた。
『言ったはずだ、目星は付けている、と』
東の狙撃地点から距離にして3km。李は緊急脱出の光を見ながら呟く。
しかし東を落としても東の狙撃は既に撃たれた後だ。ミカンはどうにかシールドを広げるが1枚だけではアイビスは防げない。
緊急脱出を覚悟した時、迫り来る凶弾が別の狙撃によって弾かれた。
『良くやった、ひな』
『やった……やったあ!!』
噛み締めるように喜び飛び跳ねるひなを今回ばかりは注意せず李は褒めた。
狙撃に狙撃を当てるなどという高等すぎる技術を弟子が成し遂げたのが嬉しいのだろう。彼もまた通信の向こうで口角を上げていた。
『さて、残っているのは……王子だけのようだな』
緊急脱出の光の帯が2本延びるを見て李が呟く。
『こっちに来ますかね?』
『いや……俺たちに生存点を与えないように隠密に徹しそうだが、どうだろうな。王子もトリオンをかなり消費しているはずだ。バッグワームをつけた状態で
『てことは奇襲を仕掛けてくるかもしれないってことですか?』
『恐らくな。虎龍のサイドエフェクトが完全に割れていないとはいえ、大まかな内容は察しているだろうし、奇襲を仕掛けてくるとしたらひなか俺だろうな。ひな、お前は虎龍と合流しろ。バッグワームも解いていい』
『分かりました!』
先程の狙撃で位置が割れた上に、新しいトリガーを積み込み、エスクードの使用、武器の再構成を何度も行ったひなのトリオンにあまり余裕はない。だったら不意打ちの効かないミカンと共に行動した方がいい。そう判断しての指示だ。
『虎龍、お前は旋空で王子を炙り出せ』
『了解』
狙撃も奇襲の心配もないこの状況なら壱の太刀で旋空の打ち放題だ。ばっさばっさとホールや通路を切り崩していく。ミカンのトリオン量はかなり多いのでトリオン切れになるにはまだまだかかる。この調子でいけばタイムアップより先に王子を見つけることが出来るだろう。
「しかしそれくらいのことは王子自身も分かっているはずだ……となるとやつの狙いは……」
視界の端で一瞬、影がチラついたのを李は見逃さなかった。飛来する追尾弾をシールドで捌きつつ、敵を睨みつける。
「やはりこっちに来たか」
「僕たちも点は欲しいからね」
『お兄ちゃん、ひなちゃん、王子先輩が李さんのところにいるみたい!』
リンゴの通信を聞いて二人は顔を見合わせる。
『すぐ行きます!』
『あたしのエスクードカタパルトで一気に飛べば早く着きますよ!』
最初聞いたときは冗談かと思ったが、いざ試してみるとグラスホッパーより飛距離が出てしまったではないか。勿論精度は劣るし、複数個出して飛ぶことなどは出来ないので使い勝手はグラスホッパーの方が断然いいが、今の状況のように長距離移動を行うにはエスクードの方が適している。これもロボットアニメオタクであるひなならではの発想だろう。
『距離から考えるに……大体30秒くらいです!』
『30秒か……いや、それを見せるな。こっちにも向かうふりをするだけでいい。スピードは出すな』
『え? でもそれじゃあ隊長が落とされちゃいますよ?』
『それでいい。俺たちが次に見据えているのはA級だ。こんなところで俺もお前たちも必要以上に手札を見せる意味はない』
ライトニングに換装して打ち合おうとしたが、やはり距離を詰められれば狙撃手は弱い。王子の追尾弾と弧月の前にあっけなく緊急脱出した。
「……さて、隠密しようにもトラゴンの旋空で炙り出されちゃうし、追いつかれる前に緊急脱出しちゃおうか」
ミカンがたどり着く前に王子も自発的に緊急脱出する。ランク戦最終戦はこうして李隊の勝利で幕を閉じた。
「王子隊長が自発的に緊急脱出したことで試合終了! 最終スコア5/3/2/1! 李隊の勝利です! そして1位の李隊と2位の生駒隊にはA級昇格試験が受けれるようになります!」
「それでは試合を振り返って、お二人とも。今日の試合の注目点などはありましたか?」
「そうだな。試合が一気に動いたのは生駒の旋空……ではなく漣の狙撃からだな」
え、俺ちゃうん? どこかからそんな声が聞こえた気がした。
「恐らく誰もが予想出来なかったことだろう。まさか狙撃手が空中へ飛び上がるなどな……隠岐も反撃されるとは思わなかっただろうな。隠岐が落とされたことで生駒隊は狙撃の援護を受けられなくなった」
狙撃手がいるというだけでその部隊は動きやすく、他の部隊は動きにくくなる。事実、隠岐が緊急脱出すると王子隊、東隊の両部隊の攻めが積極的になった。
「虎龍にはサイドエフェクトもあるから尚更だろうな」
「……そう言えば虎龍隊員はサイドエフェクトを持っているという情報はありましたが、結局どんな名前なのか分からないまま今期が終わってしまいましたね」
「今のとこ分かってんのはカゲみたいに不意打ちが効かないってことくらいか。前リーさんに聞いてみたけど教えてくれなかったんだよな」
「あいつは秘匿主義なところがあるからな。聞くだけ無駄だ」
心外な、そんな声が聞こえた気がした。
それにしても、と風間は続ける。
「李隊は今期に結成されたばかりなのにもうここまで来たか」
「そりゃそうだ。リーさんがいてコタツもいるんだ。それに漣の妹も中々面白い。いやあ楽しみで仕方がないな」
「逸るな太刀川。まだあいつらはA級に上がったわけではないぞ。挑戦権を得ただけだ」
「いや来るよ。必ず来る」
風間の言葉を否定で両断して、太刀川は笑う。
「そうでなきゃ、俺がこんなにワクワクするわけがない」
笑って零れて見えた犬歯がまるで牙をみせる獣のようだった。
「……おっかないですね、太刀川さん」
「戦闘馬鹿が……」
「いいね、そうこなくっちゃ」
「お兄ちゃんが燃えてる……!」
ミカンもまた、犬歯を見せて笑っていた。
自分自身でQ&A
Q・エスクードカタパルトってみんな知らないの?
A・この時点ではエスクードをアグレッシブに使う隊員も少なかったということで認知度もあまりありませんでした。