オレンジ・リベンジ   作:妖魔夜行@

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第二十一話「昇格試験」

「李隊と生駒隊、全員集まったな? それではこれよりA級昇格試験についての説明を始めたいと思う」

 

 会議室に集められた李、生駒の両部隊を見回すと忍田は試験について話し始めた。

 

「生駒隊は前回も説明を受けたと思うが、今回は李隊もいるのでもう一度確認の意味も込めて聞いてくれ。……君たちはこれから、我々上層部が推薦したA級部隊とランク戦形式で試合をしてもらう」

「えっ!? A級部隊と!?」

「ひな」

「あっ、す、すみません……!」

 

 思わず口からこぼれてしまったのだろう。李が注意の意味も込めて名前を呼ぶと慌て謝罪をして自分の口を両手で塞いだ。それを見て忍田は苦笑しながら続ける。

 

「質問は後でまとめて答えよう。それまでは聞いていてほしい。いいかな?」

「は、はい……」

「あかん漣ちゃんかわいすぎへん? あれ狙ってないとか可愛さの化身やろ」

「しっ、可愛いのが事実なんはみんな気づいとるから静かにしぃや」

 

 何やら小動物が好きな偉丈夫(生駒達人)が胸を押さえて呻いていたが、隣に座っている真織の肘鉄を貰ったことで解消されたようだ。普通逆効果では? ミカンは訝しんだ。

 

「では続けよう。試合の結果を我々上層部と対峙してもらったA級部隊で話を交えてA級に昇格するかどうかの合否を決める。過去生駒隊が落ちていることから分かる通り、A級への壁は高く、そして厚いものだ。それでもやるか?」

 

 忍田の問いに首を横に振る者はおらず、力強い眼差しが肯定の意を示しているのが分かる。

 

「よし、では今回の試験の担当を紹介する。まず李隊から、君たちには──」

「俺たちとバトってもらう」

 

 忍田の言葉を遮って現れたのは黒コートの隊服を纏った太刀川。その後ろに付き従う出水と国近の二人。つまりはそういうことだ。

 

「慶、人の話を遮るんじゃない」

「まーまー、堅いこと言わないでよ忍田さん。ちなみに李隊の相手は俺らがする」

「太刀川隊か……相手にとって不足はない……おい、もう一人はどうした」

「あー? 唯我なら今日は休みだな……何で休みなんだっけ?」

 

 太刀川隊の三人目、A級最弱の唯我尊がいないことを李が指摘する。太刀川は首を傾げて国近に聞いた。

 

「唯我君ならお熱が出て休みだよー。朝連絡あったでしょー?」

「そうだっけか? まあ、つーことで俺たちは二人だ」

「……もしかしてオレたち舐められてます?」

 

 これから試験だと言うのにまるで緊張感の欠片も無い空気に思わずミカンの口から疑問が零れる。怒りというよりは呆れの感情の方が強い。 

 

「いやいや、いくら唯我とはいえアイツもアイツで役に立つときがある。例えば……今みたいに普通に数で負けてるときとか」

「弾避けじゃないすか」

チームメイト(数合わせ)だ」

 

 まだ会ったことのない唯我に憐憫の情を覚えた。しかし、いくら彼でも正隊員の実力は持ち合わせているはずだ。まさか本当に数合わせのために入っているわけじゃないだろう。

 そんなことを思っていたミカンだが、現実は親のコネで無理やりA級部隊に入れてもらったお坊ちゃんが唯我だ。A級ランク戦で揉まれてることからギリギリ正隊員並みの実力はあるが、それでも下から数えた方が早いことを知らない。

 

「まあ確かにりーさんの言う通り、李隊相手に二人じゃ若干キツイ。というわけで今日限りの助っ人として、元太刀川隊の京介に来てもらった」

「どうも」

 

 もっさりとしたイケメンが片手を上げて入室してきた。

 彼の名前は烏丸京介。元太刀川隊、現玉狛第一(木崎隊)のA級万能手(オールラウンダー)だ。ミカンも何度か玉狛支部で顔を合わせたことがあるのでお互いに面識はある。目が合ったので軽く会釈すると烏丸も手を挙げて返してくれた。

 

「なんだ? 京介と虎龍、知り合いだったのか?」

「まあ、それなりに。たまに迅さんが玉狛に虎龍を連れて来るんで、その縁ですね」

「ほお〜。コタツが玉狛にね」

 

 意外だ、と言いたげな視線を向けてくる太刀川に「別にいいでしょ」の意思を込めてこちらも視線を返す。

 

「……言っときますけどオレは別に玉狛の人たちを嫌ってるわけじゃないですからね」

「お? そうなのか? てっきり」

「私語はそこまでにしろ、慶。他も静かに」

「うおーい、俺だけ名指しなんだけど」

「生駒隊の相手は冬島隊だ」

「うぉーす」

 

 不満の声を上げる太刀川を無視して、忍田は生駒隊の試験部隊である冬島隊を招き入れた。ゆるりとした雰囲気で入室してきた冬島と当真、真木を見て生駒隊は露骨に肩を落とす。

 

「んげっ!?」

「まじかぁ~……冬島隊かー」

「お? なんだなんだ、テンション低いなおい」

 

 李隊の戦意が高まるのとは反対に生駒隊のテンションはダダ下がりだ。

 

「いやだって、なあ?」

「前回は三輪隊、今回は冬島隊。なんやウチら相性悪い部隊とばっか戦わされてません?」

「そりゃあそういう試験だからなあ。まあまあ、そんな難しく考えずに気軽に来いよ」

 

 年長者らしい冬島の大人の余裕に渋めていた顔を元に戻す生駒隊の面々。しかし後から入室してきた真木が口を開くと再び表情が渋いものになった。

 

「生駒隊は勿論だけど、アンタたちも真面目にやりなよ。忍田本部長が話した通り、これはA級に昇格させてもいいのかを見極める試験なんだから。相手する私たちも本気で……すり潰すつもりでいかないと審査に不足が出る」

「すり潰すて」

「真木さんこえぇ〜……」

 

 容赦ない言い方に頬をヒクつかせる水上と南沢の二人。他の三人も同様に引いてるように見える。どちらかと言えば怯えていると言った方が正しいだろうか。

 ごほんと忍田が咳払いをして意識を向けさせる。

 

「試験ではこちらが指定したMAPでランク戦形式で行ってもらう。開始は30分後を予定しているが、質問はあるか?」

「はい!」

 

 元気よく手を挙げたひなを指名する。ひなの顔は挙手の時の元気とは裏腹に、自信なさげに眉をハの字にしている。

 

「あの、これって負けたらA級にはなれないんですか?」

「いや、我々上層部はその試合内容を見て判断する。勿論結果も加味するが、それが全てではない」

「逆に言えば試合に勝ったとしても内容が不甲斐なければ落ちるかもしれない……ってことですか」

「その通りだ。他に質問はあるかな?」

「いえ、大丈夫です! ようは完璧に勝てばいいんですよね!」

 

 メラメラと闘志を燃やし手をグッと握るひな。そのひなの頭を撫でながら李と薄く笑った。

 

「その意気だ。太刀川なんぞ恐るるに足らん。あいつは高校の頃、期末テストで全教科一桁を叩きだし、担任と学年主任、教頭と忍田さんを泣かせる程に頭が悪いからな。多分、現時点でもひなの方が賢い」

「あはは。隊長さんも冗談なんか言うんだね、お兄ちゃん。だってA級1位の隊長さんなのに、そんなこと、あるわけ……」

 

 普段仏頂面の隊長が笑って、珍しく冗談を言ったと思ったのだろう。初めはクスクス、小さく笑っていたリンゴだったが、横に座る兄の表情が固いことに気づき、次第に口はしりすぼみになった。

 

「……いや、違うんだリンゴ。オレも否定したい。そんなはずはない、って言ってやりたいんだ。だってオレ、未だにあの人を勝ち越したことないんだぜ? 目標なんだぜ? だから否定したい、したいんだけど……有り得るんだよ……! だって、あの人この前Dangerのことダンゲアって言ってたし……」

「いやいや、虎龍。それはふかしすぎやろ。いくら太刀川さんやからってバカにしすぎや。今日日小学生でもそんな間違えせえへんで」

「……と言われてるが、どうなんだ太刀川?」

 

 鷹のように細められた視線を向けられれば、太刀川は肩を跳ねさせ目をあっちこっちに散らしている。その姿を見て、この場にいる全員が「あっ、これは……」と察した。

 

「俺たちの試験の相手をする前に大学の試験の相手をしたらどうだ?」

「同感ですね。ボーダーの攻撃手No1がこれなんだ、情けない」

「全くだ」

「李、真木ちゃん、オーバーキルだから。その辺にしとこうぜ、な?」

 

 冬島が止めに入った頃には既に遅く、周囲の太刀川を見る目はそれはもう凄まじいものになっていた。特に忍田。

 

「……慶には後でたっぷり話を聞くとして、他に質問はないか? ないならば試験に移ってもらうが……無さそうだな。よし、では各部隊、それぞれ隊室で準備を始めてくれ。開始五分前にまた連絡をする」

 

 そう言うと忍田は両の手のひらを叩き退出を促す。なんとも締まらぬ流れになった。各々微妙そうな顔をして隊室へ戻った。

 

 

 

■□■□■□■

 

 

 

「さて、いよいよだが……おい、大丈夫か、お前たち?」

 

 トリガーをホルダーに戻しては出して、戻しては出してを繰り返しているミカン。デスクトップパソコンのモニターに映るトリガーセットの表示を見ながらブツブツと呟いているひな。腹を壊すんじゃないかと思うくらい手のひらに書いた人の字を飲み込んでいるリンゴ。

 いつにも増して緊張している己の部下を見て思わずため息が出てしまう。

 

「全く……おい、お前ら。全員こっちを見ろ」

 

 李の呼びかけに三人とも肩を跳ねさせて油の切れたブリキ人形のようにゆっくりと振り向く。

 

「さっきまで普通だったのになんで今になってそんなに緊張してるんだ。虎龍に関しては今までそんな素振り見せていなかっただろ」

「いや、さっきは太刀川さんのなんやかんやで紛れてたんですけど……なんか直前になって冷静に考えてみたらちょっと。刀さえ握れるなら落ち着くんですけど」

「武士かお前は。……まあいい、それで落ち着くのならトリオン体に換装して弧月を握っていろ」

「了解」

 

 言うや否やトリガーを起動させると流れるように居合の構えを取る。そわついていたのが嘘のように静かになった。

 

「それでいいのかお前は……で、ひな。いまえはなにをしている」

「ししししし師匠! これで、こぅっれっであってますぅ!? トリガーセットあってますかぁ!?」

「まず落ち着け。深呼吸しろ」

 

 動揺しまくり噛みまくりのひなの肩を抑え深呼吸を促す。ひなは「ひっひっふー」と呼吸を始めて李からチョップをくらった。

 

「ラマーズ法してどうするんだ。トリガーセットは昨日調整しただろう。変えなくていい」

「でででも! やっぱり普段通りに戻した方が……」

 

 人差し指をツンツンと突き合わせて口を尖らせるひなの頭に手を乗せて優しく撫でる。次第に緊張で強ばっていた顔が緩んでいき、喉をゴロゴロと鳴らし始める。猫である。

 

「2、3日練習しただけの付け焼き刃ならそうしたかもな。だが俺たちはこの時を、今を見据えて今まで牙を研ぎ、隠してきたんだ。これは付け焼き刃なんかじゃない、立派な武器だ。胸を張れ、自信を持て。ひななら出来る」

「……はい!」

 

 ふんす! と息を吐き、両手をグッと握りしめて鼓舞する姿を見て頷く。最後はリンゴの番だ。

 

「人……人……人を飲む……人を……飲まねば」

「飲まねば」

「飲まねばならない」

「ならない」

 

 緊張の極限にいるのだろうか、口調がおかしい。思わず復唱してしまった自分に苦笑しながらリンゴの頭を撫でた。ひなを撫ですぎたせいか、撫でテク及び撫で癖が着いてしまったのかもしれないことに危惧しつつ、リンゴと目を合わせる。

 

「ほわっ。た、隊長さん?」

「落ち着け。お前はひなと違ってアホじゃない」

「思わぬ飛び火!?」

「緊張するのは分かるが、そんな状態じゃまともにオペレートなんか出来ないだろ」

 

 オペレーターはランク戦、防衛任務を行う上で欠かせない存在だ。オペレートの内容は多岐に渡り、通信の媒介や戦闘の記録を初め、データ収集や解析、戦闘員のトリオン体のチェック。加えて戦闘中ならばレーダーに映った敵のタグ付け、部隊合流までの道筋、逃走経路、背面・側面の敵や狙撃手(スナイパー)への警戒情報、敵の移動予想、戦術展開図などを演算しなければならない。

 簡単にこなしているように見えるが、決して一夕一朝で出来るものでは無い。たゆまぬ努力と研鑽の結果である。

 

 李に言われてハッとするリンゴ。それを見て李は微笑む。

 

「俺たちをサポート出来るのはお前しかいないんだ。頼むぞ」

「…………はいっ!!」

 

 兄と同じ真剣な表情になったのを見て、もう大丈夫だろうと小さく息を吐く。三人を見回して、頷く。

 

「よし……最後に作戦の確認だ」

 

 この日のために何度もシミュレーションしてきた作戦の流れを確認する。各自頭に叩き込まれているようだった。そうしているうちに開始5分前になる。

 

「いいか、太刀川隊は確かに強い」

 

 李が話し始めたことで自然と視線が李の元へ集められる。

 

「だが俺たちも強い」

 

 ニッ、と口角を上げ白い歯を見せる。

 

「勝つぞ」

「「「了解!!!」」」

 

 李隊のA級昇格戦が始まった。

 

 

 

□■□■□■□

 

 

 

 転送され、視界に密集した住宅街が映る。バックワームを起動し、MAPで位置を確認する。指定されたMAPは市街地B。遮蔽物の多いこのMAPではただでさえ斜線が通りにくいというのに、転送位置が悪く高所を陣取ることが出来ないでいた。

 

「……高台はあっちか。想定の範囲内だな」

 

 今回ばかりは自身の転送運に感謝し、隊員に指示を出す。

 

『ひな、烏丸と出水を太刀川に合流させるな。あの二人が揃う分にはいいが、太刀川のところへ向かいそうなら位置がバレてもいい、狙撃で注意を引け』

『分かりました!』

 

 自分とは反対に絶好の位置に転送されたひなにはスコープを索敵を行ってもらう。

 

『虎龍は太刀川を任せる。代わりに俺たちはお前の戦いに横やりをいれさせない』

『了解です。オレは太刀川さんにだけ集中します』

 

 太刀川はにミカンをぶつけるしかない。狙撃をしてもいいが、今回の試験では個人個人の能力を測られているように思える。ミカンの実力をフラットな状態で測るには太刀川との1対1はうってつけだ。

 自分やひなのような狙撃手には防御能力の高い出水や烏丸といったサポート役をぶつけ、どちらが先にエースの援護に回れるかを観られている……と、思われる。

 試験に乗っ取りつつ、太刀川隊と全員倒す。そうすれば文句なしでA級に上がれるだろう。

 

 ……少し思考に耽りすぎた。

 

 足を早める。兎にも角にも高台へ向かわなければ。十字路を横切る時はクリアリングを忘れずに、物陰に潜み持ち前の強化視力(サイドエフェクト)を駆使して行う。

 

「……あれは、烏丸か」

 

 一瞬だったが黒髪が見えた。恐らく烏丸は出水との合流を目指しているはず。

 

「予定通りだな。『虎龍、太刀川を釘付けにしておいてくれよ』」

『はい。絶対に合流させません』

『よし、俺たちもお前の邪魔はさせないように動く。だから勝てよ』

『……はい!』

 

 力強い返事を貰って通信を切る。唯我ではなく烏丸になったのは予定外だが、作戦に問題は無い。

 

「ひな、出水と烏丸をつり出すぞ」

 

 うちのエースの戦いに水を差したりなんかさせない。外套(バッグワーム)をはためかせ、足を早めた。

 

 

 

■□■□■□■

 

 

 

 十字路の影、道路標識を背にして烏丸は口を開いた。

 

「案外普通に合流出来ましたね」

 

 いつも通り、感情が出にくい顔でなんでもないように話す元チームメイトの後輩に同意する。

 

「ああ。李さんなら俺たちの合流を防ぐために動いてくると思ったんだけどな」

「まあ、冬島隊の時はそう動きそうですよね」

 

 三人の合流を許すと個人個人が強い太刀川隊に連携が加わり手がつけられなくなってしまうため、太刀川隊と戦う時はまず第一に合流させない、第二に各個撃破を心掛けなければならなかった。

 現太刀川隊では烏丸ではなく唯我なのでそこまで過剰に対応しなくてもよくなったが。それは置いておく。

 

「でも、李さんも今は隊長ですからね」

「俺たちが知っているりーさんとは違うか。よし、んじゃまあ取りあえず太刀川さんの援護に行くか。あっちもそれを一番やられたくないだろうしな」

「ですね」

 

 正面から太刀川を倒せるのはミカンしかいない。つまりはミカンさえ落としてしまえば太刀川を落とすことは出来なくなる。

 勿論まともに狙撃を受ければ倒せるだろうが、そこはトリオン量の多い出水とエスクードを持つ烏丸がいる。一発目の狙撃を防いだ後は狙撃地点に向かって合成弾を撃ちつつ近づき、斬り倒せばいい。

 

「だからこそ、俺たちが太刀川さんのところへ行こうとするのは阻止しなきゃだよな」

 

 少し移動するそぶりを見せてみれば狙撃が飛んできた。出水に対してはイーグレット、烏丸に対してはアイビスでの狙撃が撃ち込まれるが、出水は両防御(フルガード)で、烏丸は頭部をシールドで守っていたが狙撃の方が逸れて道路標識を撃ち抜いていた。直ぐに建物の影に入り、射線から身を隠す。

 

「よーしよし、両方釣れたのはデカイな」

「李さんも撃ってましたね」

「大方ちびっ子のアイビスで俺のシールドを壊して空いた隙間を狙う算段だったんだろ。なんにせよ、これで位置は割れた」

 

 ニヤリ、と口角を上げて狙撃位置を睨む。

 

「各個撃破してくぞ。りーさんは京介、お前に任せる。ちびっ子の方は俺がやる」

「でも確か小さい子の方、レイガスト使ってましたよね? 大丈夫ですか?」

「狙撃も(ブレード)も使えない中距離で力を発揮するのが射手(シューター)だぜ。ま、りーさんを倒せとは言わねえよ。ただ抑えといてくれればいい」

「……了解です。じゃ、国近先輩、イーグレットの弾道解析お願いします」

『もうしてるよ〜、はい。こっちがイーグレットでこっちがアイビスね〜』

 

 国近から送られてきた視覚映像を確認し、二手に別れる。若干の違和感を抱きながら。

 

 建物の影を縫うようにして狙撃地点へ接近する。たまに狙撃が飛んでくるが、集中シールドとエスクードのおかげで被弾には至らない。

 正直この後の戦闘のことを考えるとあまりエスクードは使いたくなかったが、仕方がない。

 それに、どうやらあちらも逃げるつもりはないようだし、多少トリオンを贅沢に使っても大丈夫だろう。烏丸はそう判断した。

 

(けど、レイジさんじゃあるまいし、接近されても対応できる策があるのか?)

 

 そこまで考えて、首を横に振る。出水に通信を繋げつつ、頭の片隅に置いておくことにした。

 

『狙撃地点、到着しました』

『よーし、俺も着いた。パッパッと片付けてそっち行くから待ってろよ』

『了解です』

 

 簡単に言ってくれるが、耐えるだけならさして問題ないことは烏丸自身も理解している。いくら李がボーダーで五本の指に数えられる狙撃の名手でも、狙撃銃は近づけば役割を果たさない。

 距離さえ詰めればたとえ李だとしても狙撃銃で立ち回るのは厳しいだろう。それくらい近中距離戦において武器の重さというのは重要だ。

 どんなに素早い動きが出来ようとも、武器が重ければ鈍重になる。

 故に、狙撃手は近づかれれば終わり。ボーダーではそう言われている。中には例外もいるが、例外は稀にしかいないから例外なのだ。

 

 屋上へ続く階段を登りながらレーダーを確認する。反応がないのでバッグワームを纏っているのは瞭然だ。この状態で気を付けなければならないのは死角からの狙撃だ。

 何の気兼ねも無しに屋上へ飛び込めば即座に緊急脱出することになるに違いない。なので、烏丸は入口を壊すことにした。

 

炸裂弾(メテオラ)

 

 分割せずに飛んで行ったキューブがさく裂し、屋上への道が開かれた。

 

「スラスター起動(オン)!!」

 

 同時に自身の胴体めがけて飛んできたレイガストに辛うじて反応出来た。集中シールド2枚に阻まれながらも烏丸の左腕を切り裂いたレイガストはそのまま屋上を飛び出して、重力の法則に従って落ちていく。

 不意打ちを決めたはずのひなは一瞬顔を顰めたが、すぐに気持ちを引き締めてレイガストの再構成を行った。

 

『……出水先輩、一杯食わされましたね』

 

 突撃銃を片手で構え、通常弾をばらまきながら出水に通信を取る。通信に出た出水も顔は見えないが焦った様子で答えた。

 

『まさか狙撃の精度と武器で誤認させられるなんてなー。ちょっと考えればわかったことなのによ』

『冬島隊の時の李さんを知ってる隊員ほど引っかかるでしょ。俺もあの李さんが外れる弾を撃つなんて思いもしませんでしたし』

 

 そう。初めにアイビスで狙撃を外したのが李で、イーグレットがひなだったのだ。道中の烏丸に対しての狙撃もすべてひなによるもの。それを李の狙撃と間違えてしまうほどひなの狙撃は正確だった。

 

「……相当練習したんだろうな」

 

 恐らく何通りものケースを考えて練られた作戦なのだろう。烏丸と出水を釣り出す誘いといい、不意打ちで仕留めきれなかった後の切り替えといい、全ての動きがスムーズだ。

 

 あくまで自分は代役、そんな考えからどこかで油断していたのかもしれない。

 目の前の小さな少女を見据え、今一度、烏丸は気を引き締めた。

 

 

 

□■□■□■□

 

 

 

 時間は少し遡り、出水の視点へと移る。

 

 距離が開いていては狙撃の的になるだけなので接近し、ビルの中へ侵入したのだが、肝心の狙撃手の姿を見つけられずにいた。

 

「いねぇなあ……いっそのことここら辺全部爆発させてみるか?」

『そんなことしたら出水くんも生き埋めになるからね〜』

「わーってますよ。にしてもあのちびっ子隠れるの上手いなー」

『確かに〜。りーさんも隠密上手いし、習ったんじゃない?』

 

 東が師匠とだけあって李も隠密行動が優れている。気配を消すのが上手いだけでなく、そこにいたという痕跡を消すのが得意なのだ。

 その弟子であるひなも師事を受けているのであれば納得のいく隠密力だと言える。

 

「んー……しゃーない。埒が明かないし、やっぱり爆破するか」

 

 両の掌にトリオンキューブを浮かべ、物騒なことを言う出水。合成弾を練り合わせようと手を動かしたところで、止まる。

 

「……流石に2回目は釣られないか」

 

 どうやらこれもブラフだったようで、ため息をついて浮かべていたトリオンキューブを消した。

 

 ──そして狙撃の光が走る。

 

「っとお!!」

 

 それを見越していたかのようにシールドを張った出水の視線の先に、バッグワームを着た李の姿があった。

 

「ははっ、りーさん見っけ……ん……? りーさん……?」

 

 自分を狙っていたのはちびっ子(ひな)の方ではなかったのか、と思った時、烏丸から通信が入る。

 

『出水先輩、一杯食わされましたね』

「あー……そういうことか」

 

 釣られていたのは自分の方だった。そのことを理解した出水は頬をヒクつかせる。

 武器、それと狙撃の精度。加えて自分が知っている過去の李。それらの情報で勝手に決めつけていた。

 

「でも意外っすね。りーさん、狙撃をわざと外すなんて昔ならしなかったじゃないっすか」

 

 距離を取りながら声をかける。会話で少しでも時間を稼げれば他の戦闘にちょっかいをかけられずに済むからだ。

 意外にも李は会話に乗ってきた。

 

「昔ならな。だが今は冬島隊の隊員ではなく李隊の隊長だ」

「プライドは二の次、ってことっすか?」

「それもある、が……出水、俺は狙撃を外したつもりはないぞ」

 

 ニヤリと鉄仮面の口角が上がる。

 

「ど真ん中を撃ち抜いただろう?」

「………………あっ」

 

 確かに、李の狙撃は道路標識を撃ち抜いていた。枠内の真ん中を、しっかりと。

 してやったりと笑う李を見て尚更気づけなかった自分を責める出水。深くため息をついて、トリオンキューブを浮かべた。

 

「こうなったらしゃーない。倒させてもらいますよりーさん」

「やれるものならやってみろ」

「いやいや……流石にこの距離で狙撃手が射手と撃ち合いするのは無理でしょ」

 

 そう笑っていた出水だったが、李の掌に現れた武器を見て笑みが固まった。

 

「こっの……李隊の狙撃手は色物しかいないんすか!?」

 

 二丁の拳銃を構えた李は不敵に笑い応えた。

 

「さあ、お望み通り撃ち合いをしてやろう」




自分自身でQ&A

Q・太刀川の学力、悪すぎでは?
A・学力グラフでは仁礼や米屋より高い太刀川ですが、高校と大学でレベルが違うこともあり、現時点では太刀川の学力の方が低くなっています。
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