オレンジ・リベンジ   作:妖魔夜行@

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第二十二話「弍の太刀」

「(とは言ったものの、どうするか)」

 

 出水と烏丸を分散させるのは成功したが、これから1対1で出水を倒さなければならない。

 加えて李の本職は狙撃手(スナイパー)で、銃手(ガンナー)ではない。勿論実戦で使えるレベルになってはいるが、それでも狙撃手(スナイパー)の経験と比べればプロとアマ程の差がある。今までの李ならこんな博打地味た戦い方をするはずもなかっただろう。

 

 しかし、今回ばかりはその博打を使ってでも勝たなければならない。プライドなんぞは二の次を示すように両手のアステロイド拳銃で出水の動きを制限するように撃つ。

 次にトリオンキューブを出現させようとした右腕の肘関節部を、弾幕から逃れようとした足の動きだしを、狙撃時よりも正確に、かつ繊細にサイドエフェクトを駆使して出水に防戦を強いらせる。

 攻めに転じられた瞬間、手数の差であっという間に立場が逆転してしまうからだ。

 

 銃手(ガンナー)用トリガーの弾は射手(シューター)用の弾と比べて威力が高い。対して射手(シューター)用は威力こそ劣るが弾速、射程、威力を自由自在に設定出来る上に発射位置を好きなように決めることが出来る。いくら李が弾を見切っても、散らされては何れ防ぎ切れない箇所が出る。

 

「(いくら出水のトリオン量が多いとは言え、流石に銃手(ガンナー)トリガーの通常弾を防ぎ続けるのは不可能だ。勝負に出るのは出水が痺れを切らし、攻撃に移ろうとした一瞬……)」

 

 シールドが開いたタイミングを見計らい、弾幕をそこに集中させようとして気づく。出水の片手にはトリオンキューブが浮かべられていた。李が両攻撃(フルアタック)しているシールドを張れない時を狙い、開けた場所ではなく遮蔽物のある場所に戦場を移動させたいのだろう。

 恐らくあれは変化弾(バイパー)だと予想出来る。通常弾では李を縫い付けることは出来ても追い出すように移動させることが出来ないからだ。

 つまり、あの開けたシールドは釣り(フェイク)。狙うべきはトリオンキューブを浮かべている片手。

 

「うおっ!?」

 

 慌てて両防御に徹する出水。手数で攻める出水が防戦一方になっている現実、優勢なのは圧倒的に李……だが李は慢心しない。冷静に、着実に、堅実に出水の()を潰していく。何度も戦った経験から油断すれば足元を掬われることを知っているから。

 誰相手でもそうだが、その中でも出水は特に注意しなければならない。故に李が逸ることは絶対にない。

 

「(持久戦を望むならそれはそれで好都合だしな)」

 

 こちらの戦闘が長引けばその分ミカンと太刀川の1対1の時間が作れるということ。それは李にとっても悪い話では無い。

 

 この試合の鍵を握っているのは間違いなくエース対決であるのだから。

 

 

 

■□■□■□■

 

 

 

 閑静な住宅街、沿うように舗装された道路の真ん中。二人の剣士が向かい合っていた。

 

「よおコタツ」

 

 二刀の弧月を引き抜き、太刀川は獰猛に笑う。

 

「とことん斬りあおうぜ」

「望むところ」

 

 です。とまで言い切ることは出来なかった。弧月を鞘走らせて二刀を受け止める。

 太刀川との個人ランク戦の対戦成績は0勝6敗。剣に特化したミカンでも未だに勝ち越すことは出来ていない。最強の剣士だ。

 

「最後に戦った時は確か4本取られたんだっけか」

 

 鍔迫り合いの最中、太刀川がふと呟く。最後に行った個人ランク戦は李隊が指導する直前だったので記憶に新しい。6戦した中で最も惜しかった試合なのでより濃く残っている。

 何を隠そう村上や生駒に見せたミカンの中での最速の居合、『壱の太刀』を初めて受けたのがこの男、太刀川なのである。流石の太刀川も初見で防ぐことは出来ずに腕を斬り飛ばされ、そのまま勢いに乗ったミカンがトリオン供給器官を両断してみせた。

 しかし、いややはりと言うべきか、村上も生駒も一刀のもとに斬り伏せてみせた『壱の太刀』。本来ならば太刀川も同じようには緊急脱出(ベイルアウト)に追い込めるはずだったが、彼は防御が間に合わないとさとるや否や片腕を犠牲にする判断を下し、致命傷を避けた。そこから片腕で粘って見せたのだから最早笑ってしまうレベルだ。

 

「旋空弧月」

 

 鋭く速い二振りの旋空がミカンの首を狩り落とさんと襲いかかる。サイドエフェクトによって予め見えていた斬撃を逸らし、弾く。

 

「ちっ」

 

 左腕の小さなかすり傷を見て舌打ちをする。ミカンも旋空を使いたいが、生憎こちらはノーマルな旋空弧月は扱えない。なら壱の太刀の旋空ならばと思うが太刀川がそれを許してくれない。攻め込もうとすれば阻まれ、距離を取ろうとすれば縫い止められる。

 ミカンの攻撃を届かせるには旋空弧月の嵐を潜り抜けて太刀川の懐に潜り込まなければならない。

 サイドエフェクトを駆使して隙を伺う。その間にもミカンの体には少しずつ、小さな傷が刻まれていく。

 

「っ、ここだ……!」

「おっと」

 

 膝をアスファルトに擦らせるほどの低姿勢で斬撃をくぐり抜け、太刀川を両断せんと納刀された弧月を引き抜く。並の相手ならそのまま両断してもおかしくない剣速だ。

 だが目の前の男には効かない。簡単に受け止められ、反撃の弧月が振るわれる。

 それを紙一重で躱して半歩下がり、ジリジリと間合いを図る。息をもつかせぬとはこのことを言うのだろう。

 

 ジッと睨み合っていた二人だったが、太刀川がフッと口元を緩めた。

 

「これじゃ埒が明かないな。おいコタツ」

「……なんですか」

 

 不敵に笑う太刀川を睨め付けるミカン。そんなミカンの目線を受けても太刀川は笑みを浮かべたまま続ける。

 

「あの本気の居合、見せてみろよ。そうすりゃ白黒ハッキリする」

 

 挑戦、と言うよりは挑発だろう。しかし太刀川の言う通りこのままではジリ貧なのは間違いない。口車に乗るのは悔しいが、居合を抜かせてくれるならば願ってもない話だ。

 

「後悔させてあげますよ」

 

 太刀川からは目を離さず、弧月を納刀して神経を研ぎ澄ます。視界に映るのは太刀川のみ。触れる感覚は掌に伝わる弧月だけに。息を吐いて身体の中をまっさらの状態にする。

 

 いつでも『壱の太刀』を繰り出せる状態になったミカンを見て、太刀川の笑みが深くなる。両の手に握った弧月を振り下ろし、ミカンの居合を誘発させた。

 ミカンが出せる最速の剣、緊急脱出(ベイルアウト)までとは行かずとも前回と同じように腕一本は飛ばしてみせる自信があった。

 しかし、その自信は呆気なく打ち砕かれた。

 

「悪いなコタツ」

 

 渾身の一振りを止められて一瞬思考が真っ白になる。不味い、そう思った時には既に遅く、太刀川は薄く笑いながら言い放つ。

 

「『居合(それ)』はもう見切った」

 

 その言葉と同時にミカンの身体は切り裂かれた。

 

「っ……ぶねぇ……!」

「おお、よく今のを防いだな」

 

 サイドエフェクトの予兆を感じ取ったミカンは一か八かで右肩から供給器官にかけてシールドを伸ばした。

 何とか致命傷は避けれたが手痛い傷を負ってしまった。腕もまだ動くが、それも辛うじてといった言葉が似あう。これでは『壱の太刀』はおろか、普通の居合も抜けるかどうか怪しい。

 太刀川は何も言わないが、恐らく気づかれているだろう。あの男は学業方面に関してはとことん鈍いが、戦闘になると恐ろしく聡い。

 

「けどその腕じゃもう無理だろ。諦めるか?」

 

 へらりとこちらを小馬鹿にする笑みを浮かべる。ネガティブな思考が一瞬で霧散し、怒りがこみ上げてきた。剣を握っていなければ顔に出ていただろう。

 

「冗談は学力だけにしてください」

「言うな」

「……どっちの意味で?」

「両方だ」

 

 意識をフラットにして三度斬り結ぶ。こちらが利き腕を負傷しているのに対して、太刀川はほぼ無傷の二刀である。たかが一振り、されど一振り。手負いの分その差は尚大きい。

 トリオン体の発汗機能は限りなく低く設定されているはずなのに、握りしめた弧月がじっとりと汗ばんでいる気がした。そう考え、自分の集中力が切れかけていることに気づく。

 剣を握っているのに他のことを気にする余裕があるのか? ミカンは自分自身に問う。

 

 思い出せ、太刀川との闘いを。

 

 再現しろ、勝ち越した時のテンションを。

 

 乗り越えるんだ、この高く、分厚い『攻撃手の頂点()』を。

 

「おっ、なんか雰囲気変わったな」

 

 ミカンの気迫を肌で感じ取ったのだろう。その面構えからヒリヒリと伝わってくる。

 

「あんたを『越え()る』」

 

 牙を見せる獣のように笑う。もう二人に言葉はいらない。

 

 必要なのは勝利への貪欲さ、それだけだ。

 

 

 

□■□■□■□

 

 

 

「はああああ!!!」

 

 正眼の構えからの振り下ろし。スラスターを使ったそれを片腕の弧月で受けるのは流石の烏丸でも厳しい。烏丸は自身とブレードの間にシールドを挟むことでひなの動きを一瞬硬直させる。その隙に側面に回り込み弧月を斬りつける。

 

「くう、ああっ!!」

「っと」

 

 再びスラスターを使い無理やりシールドを外してブレードを滑り込ませる。これ以上手傷を受けるわけにはいかない烏丸は後ろに跳んで距離を取った。

 

「はあ……はあ……(わかってはいたけど、烏丸さんは強い)」

 

 元太刀川隊だったことは知らなかったが

 

 A級隊員ということは元から知っていた。自分より強いことも勿論理解していたつもりだ。だからこそ狙撃手(スナイパー)を誤認させて釣りだし、不意打ちによる奇襲で仕留める予定だった。だがそれも烏丸の腕を一本飛ばしただけで終わってしまった。

 

「(あたしの狙撃技術が師匠と同じくらいだったら、こんな戦法を取らなくてもよかった)」

 

 奇襲で仕留めることも出来ない自身の詰めの甘さを憎み、狙撃のプランを取れなかった実力のなさを恨む。悔しさからレイガストを握る手に力が入る。ギチギチと絞るような音が出ている、生身のひなの柔らかい掌だったら皮が裂けて血が滲んでいたことだろう。

 

 烏丸の傷は奇襲で与えた一撃なのに対し、ひなは五体満足ではあるが小さく細かい傷が腕や胴体、脚についている。会敵してからひなが与えられた攻撃は一度だけだというのに烏丸はひなに無数の傷をつけている。それも片腕で。

 今はまだ食らいついているが、それも辛うじてという言葉が頭につく。烏丸は基本防御中心で立ち回っており、ひなの攻撃をいなした時に攻撃が狙えそうなら仕掛けると言った感じで動いている。当然ひなが迂闊に大振りを狙えば先程のように鋭い一撃を狙ってくる。

 接近戦で倒すのは無理なのではないかとひなの頭に浮かび始めるが頭を振ってすぐに霧散させる。離れて撃ち合いになっても連射出来ない狙撃銃では不利だ。まだこの距離の方が望みがある。

 またスラスターで攻めるべきかどうか逡巡していると、烏丸の表情が少し変わった。

 

「……炸裂弾(メテオラ)

「っ足元に!?」

 

 分割せずに投げられた炸裂弾(メテオラ)は開けた屋上のコンクリートを破壊する。不安定だった足場が完全に崩壊し、ひなの身体は階下へと落ちていく。それは烏丸も同様だが、彼は瓦礫と煙に姿を隠し紛れるつもりだ。

 このまま出水か太刀川の元へ向かわれては作戦が瓦解してしまう。それだけは何としてでも避けなければならない。

 

「イーグレットッッ!!」

 

 レイガストOFFにしてホルダーにしまい込み、イーグレットを出現させる。この間にも烏丸は距離を取っているハズだ。『はやく出ろ!はやく出ろ!』と普段のひなとはかけ離れた形相で焦る。2秒にも満たない時間があまりにも長く感じてしまう。イーグレットが現れるや否や見据えていた方向に銃口を向け、引き金をひく。

 

 ズガン!と音だけが響く。手ごたえはない。もう一発、そう思ったが背中に強い衝撃を受けたことで思考が止まる。構えていたイーグレットを離さなかったのは狙撃手(スナイパー)の意地か根性か、数秒遅れて床に叩きつけられたことに気付いた。すぐに体勢を直さなければと手足に力を込めて、弾丸が飛んでくる。

 

「っ、シールド!」

 

 体勢は不十分、レイガストも構えていない。咄嗟の判断でのシールドだったが甘かった。

 弾丸がシールドにぶつかる直前で折れ曲がりひなの身体を貫いた。

 

「かっは、こ……れ、変化(バイ)(パー)……!」

 

 辛うじて急所は避けたがトリオンの漏出は激しい。だが右手も左手も動く。足は……左足がダメそうだが右足は生きている。つまり、まだ戦える。

 よろめく身体を奮い立たせてレイガストを取り出して盾モードで構える。緊急脱出(ベイルアウト)まで至らなかったのを見た烏丸が突撃銃(アサルトライフル)を連射した。

 

「くうううぅ……!」

 

 通常弾の雨に晒されながらもレイガストを壁にして支柱の陰へと滑り込む。しかし烏丸に変化弾(バイパー)炸裂弾(メテオラ)があるかぎり、このまま悠長に考えている時間はない。必死に頭を回して考える。残されたトリオンと今のトリガーセット、なにが出来るか、どう戦えるか、そして、勝てるかどうか──

 

 そういえば「迷った時は身近な人ならどう考えるかを想像してみるといい」と美月(あね)が言っていたのを思い出した。

 

「(師匠なら……!)」

 

 思い浮かぶのは頼れる憧れの李の姿。いつも通りのクールな表情のまま、口を開いた。

 

『頭が出てれば簡単だ。狙い撃て』

 

「撃てません!!」

「っ!? ……炸裂弾(メテオラ)

「わあー!?」

 

 隠れていた支柱に炸裂弾(メテオラ)がぶつけられ爆風で転がるひな。転がった先には運よくまた支柱があったため、同じように身を隠した。

 

「(師匠じゃだめだ。次、ミカン先輩!)」

 

 思い浮かぶのは怖いけど頼もしいミカンの姿。笑みを浮かべて彼は口を開いた。

 

『飛んでくる弾を斬って近づいて斬ればいい』

 

「出来るわけないでしょ!!」

「えっ……炸裂弾(メテオラ)

「わあー!?」

 

 再び支柱に炸裂弾(メテオラ)がぶつけられて吹き飛ばされるひな。またしても運のいいことに、支柱の陰に隠れることが出来た。

 

「(ミカン先輩は無理だって最初に気付くべきだった! 次、リンゴちゃん!)」

 

 思い浮かぶのはほんわかとした笑顔を浮かべるリンゴの姿。彼女は両手の握りこぶしを胸の前に掲げて照れながら笑った。

 

『が、頑張れ♡頑張れ♡』

 

「がんばりゅ!!」

炸裂弾(メテオラ)

「わあー!?」

 

 気のせいか先程より発射のタイミングが早かったように思える。三度支柱に炸裂弾(メテオラ)がぶつけられてひなは転がり、別の支柱の陰に隠れる。三度目ともなればもう慣れたものだ。

 

「(リンゴちゃんは可愛かった……けど、誰か有効な策を。起死回生の一手を下さい!)」

 

 思い浮かんだのはいつも頼りになる何でも知っている姉、美月と自分にレイガストの指導を付けてくれたふくよかエンジニアの寺島の二人の姿が思い浮かんだ。

 

『いいかい、ひな。今脅威なのは炸裂弾(メテオラ)変化弾(バイパー)だ。さっきから炸裂弾(メテオラ)を投げられまくっているが、恐らく彼は支柱を壊して建物の崩壊を狙うつもりだろうねえ』

炸裂弾(メテオラ)はレイガストで防げばいいけど、そうしたら烏丸は変化弾(バイパー)に切り替えてくるはずだ』

『そんなときのためのエスクードだよひな。トリオンをここで使い切るつもりで戦うんだ』

『レイガストの堅さは信じてもらっていい。変化弾(バイパー)にはエスクード、炸裂弾(メテオラ)にはレイガストで対応するんだ』

『ひななら出来るさ。なんたってこの私の可愛い可愛い妹なのだから』

『レイガストは発展途上中って感じだけどそれでもいいと思うとよ。キミの本業は狙撃手(スナイパー)なんだからさ、無理して攻撃手になりきろうとしなくていいんだ』

『ひとりでも戦えるってところ、みんなに見せて上げなさい』

 

「うん。頑張る」

 

 炸裂弾(メテオラ)を打たれるより速く、ひなはエスクードを展開させた。

 

「これは……」

 

 瓦礫を押し退け、所狭しと生えてくるエスクードに烏丸は眉をしかめる。これでは変化弾(バイパー)の射線が通らない。エスクード自体は薄く小さいため炸裂弾(メテオラ)で壊れるので問題はないが、銃の射線が通らなくなるのはどうにもいただけない。

 

炸裂弾(メテオラ)

「エスクード!」

 

 今度は大きめの、それなりに厚さのある(エスクード)炸裂弾(メテオラ)を拒む。爆発による煙とエスクードによりひなの姿は隠される。小柄な彼女の体躯ならエスクードの陰に屈めば見えなくなるだろう。まとめて焼き払うべきか考えるが、姿を視認出来ていない状態で下手に炸裂弾(メテオラ)を打てばイーグレットが飛んで来た時に対処が出来ない。

 

 だからここで烏丸が打つ手は──

 

「私と同じ」

「「エスクード」」

 

 視界を隔てる文字通りの壁を構築するのを読んだ上でのエスクード同時発動。今、烏丸の前方と後方には今出せるギリギリのエスクードが並んでおり、ちょうど挟まれている状態だ。

 エスクードで防御しつつ後ろの窓から脱出する烏丸の考えを見透かすように退路を塞ぐエスクードの使い方に、思わず称賛の念を覚える。

 

 そしてこれで烏丸の逃げ場は炸裂弾(メテオラ)を使って階下におりるか、エスクードを使って上空へ逃げるかの二択になる。

 上へ行くなら狙撃が火を噴くので脱出するなら下の方が可能性がある。どちらにせよ炸裂弾(メテオラ)とエスクードの連発でこのフロアもボロボロだ。持って数分と言ったところだろう。

 

 故に烏丸は攻める。

 

「(炸裂弾(メテオラ)に銃の切替、そしてエスクード……トリオンを使いすぎた。ここで決めるしかない)」

 

 片腕では通常弾と変化弾(バイパー)の切替もままならない。極力使い分けはしないようにしていたがどうしても通常弾、ないしは変化弾(バイパー)でないと攻めれない場面があった。その度に突撃銃(アサルトライフル)を再構築し、炸裂弾(メテオラ)、エスクードの使用、トリオンが底をつくのも時間の問題だった。

 ここを逃せば一点も取れずに相手をフリーにしてしまう。それだけは避けなければならない。

 炸裂弾(メテオラ)の煙幕に紛れ、変化弾(バイパー)で仕留めるプランに決定した。

 

「スラスター、起動(オン)!」

 

 どうやら行動に移すのが一歩遅かったらしい。その策も眼前のエスクードのごとくあっけなく砕かれた。

 

 咄嗟に展開したシールドで辛うじてレイガストを防ぐことは出来た。が、エスクードを貫いた穴から見えたひなが視界に入り、自分が『詰み』の状況であることを察した。

 

「この距離なら、外さない」

 

 寸分の狂いもなく烏丸のトリオン供給器官を撃ち抜いた。

 

 

 

■□■□■□■

 

 

 

 まだ弧月は振れる。足も動く。戦意もある。なら戦わない理由なんてない。

 太刀川が振るう旋空が切り刻まんと迫りくる。サイドエフェクトを最大限引き出し、瞬間瞬間の未来を読む。太刀筋を見切り、最小の動きで、最小の傷で済むように躱しながら前へ前へと進む。

 

「おいおい、いいのか? 近づいて来て」

 

 自身の剣が防がれ近づかれていると言うのに、太刀川は笑う。

 

 太刀川の言う通り、現状のミカンが迂闊に近づいても好転することは無いに等しい。

 そもそもの話、ミカンの得意とする形は待ちからの居合によるカウンターだ。だがそれも片腕を負傷していなければの話になる。

 それに距離を取って攻撃できる手段を相手が持っていればいくら待っていても攻撃に転じることは出来ない。加えて太刀川には旋空があり、いくらミカンでも太刀川級の旋空を負傷した状態でしのぎ続けるのは無理だ。

 

 では旋空同士の斬りあいになればどうだろうか、それもまたミカンの不利になる。ミカンは壱の太刀で旋空を繰り出すことで生駒旋空をも超える速さと長さをもつ一撃を繰り出せるが、それをするための前提条件が今は揃っていない。

 しかも生駒旋空とは違いミカンの旋空は連続で放つことは出来ない。そしてミカンは普通の旋空を繰り出すことが出来ない。よってこれも不可能となる。

 

 だからこそ(・・・・・)前進あるのみ、いや、それしかミカンの勝機はないのだ。接近に持ち込んで、叩き斬るしか。

 

「(勝機は、ある)」

 

 ミカンの眼は死んでいなかった。自身の身体が傷ついているように、太刀川の身体もまた、傷がある。斬りあいの中で防ぎ切れなかった傷が。

 旋空を潜り抜け、太刀川の懐に潜り込むまであと一歩というところでサイドエフェクトが反応し、反射的に弧月を振るう。いや、振るってしまった。

 死角から弧月を振るうことで危険予知を発揮させ、あえてミカンに防がせることで先に攻撃の芽を潰したのだ。そして太刀川は二刀、もう一振りの弧月がミカンに迫っていた。

 

 シールドを出すか──いやギリギリ間に合わない。よしんば間に合ったとしても体勢が悪い。

 

 振るった弧月で──それもタッチの差で間に合わない。せめて両腕が無事ならまだ分からなかったが。

 

 太刀川と刺し違える──それならまだ可能性はある。相打ちにならなくとも痛手にはなるはずだ。

 

 一瞬の思考の末、導き出した答えは骨を断たせて肉を切る、そんな答えだった。

 仕方がない。せめて片腕だけでも持って行ってやる。ここで自分が落ちても二人が何とかしてくれるはず。時間にしてみれば数秒にも満たないほんの僅かな瞬間、ミカンの脳内にはそんな言い訳染みた言葉が並んでいた。

 

 弧月が迫り、同時に右腕に力が入る。

 

エースは簡単に落ちちゃダメなんだぜ(太刀川の太刀筋が、ハッキリと見えた)

 

 ふと誰かの言葉が頭によぎった。

 

「──」

 

 極限状態、所謂『ゾーン』と呼ばれる中、ミカンの行動は無意識か、はたまたま本能か、ミカンの首を斬り落とさんと振るわれた弧月を首元から生えたスコーピオンが受け止めていた。

 

 反射、本能、執念、そしてサイドエフェクト──全てが噛み合った結果の白羽取り。

 太刀川の弧月を受け止めた時には既にミカンは弧月を振り抜いていた。

 

 壱の太刀の速度での一閃、鋭い斬撃が太刀川の腹部を切り裂く。が、まだ緊急脱出(ベイルアウト)には至らず、太刀川も体勢を整えている。

 

「惜しかっ──」

 

 その言葉は二の太刀によって遮られた。いや、違う。遮られたも何も、初めから太刀川が受けた太刀は『壱』ではなく『弍』。極限まで集中したミカンは壱の太刀の速度で二度弧月を振るったのだ。

 

 自分でさえ見切ることが出来なかった太刀筋に数秒フリーズするが、トリオン体に入る亀裂の音を耳にして我に変える。放心気味のミカンを見て笑いをこぼしながらも声をかける。

 

「今回はお前の勝ちだな」

『戦闘体活動限界、緊急脱出(ベイルアウト)

 

 光の帯となって消えた太刀川を見て、ミカンはようやく正気を取り戻した。

 

「……勝った? オレが……?」

 

 実感が湧かない。右手に握られた弧月をまじまじと見つめるが未だに信じられない。と、まだ戦闘中だったことを思い出す。

 

「隊長とひなのところに行かないと」

 

 腕はひとつないが、それでもトリオン残量にはまだ余裕がある。グラスホッパーとバッグワームを起動させて二人の元へ向かった。

 

 

 

□■□■□■□

 

 

 

 そして李と出水の対面に戻る。

 

 二人は続けざまに上がった緊急脱出(ベイルアウト)の光に目を見開いた。ほんの数秒、思考と体が硬直する。

 

『隊長』

『師匠』

『『勝ちました!』』

 

 自身の仲間が勝利したか、敗北したか、認識の違いが勝敗を分けた。

 

 出水の思考が止まった一瞬を狙い、接近して引き金を引く。コンマ遅れてシールドを張り、変化弾(バイパー)の弾道を引いて反撃を試みる。

 しかし弾丸はシールドを容易く打ち破り、出水の戦闘体に風穴を開けた。ひび割れていく音を聞きながら出水は悔し気に笑う。

 

「あー、クソ……最後の最後で徹甲弾(ギムレット)かよ……!!」

『戦闘体活動限界、緊急脱出(ベイルアウト)

 

 最後に放たれた変化弾(バイパー)もシールドで防ぎ、李も無事勝利をもぎ取ることが出来た。

 

「俺たちの勝ちだ」

『試験終了、李隊の勝利です』

 

 

 

■□■□■□■

 

 

 

 試験終了後、李隊と生駒隊の面々は再び会議室に集められた。これから合否の発表を行うらしい。

 沢村女史からファイルを受け取り、忍田がそれを確認する。書類に目を通す時間は数秒、忍田の視線が前を向いたことで全員が理解した。

 

「では、これより試験の合否を発表させてもらう」

 

 ごくりと誰かが生唾を呑み込む音が聞こえる。一拍置いて、忍田は続けた。

 

「一月八日付けで李隊をA級10位へ昇格することとする。おめでとう」

 

 A級10位、A級、昇格。この言葉を嚙みしめて、ミカンは机の下で小さくガッツポーズをした。対して最年長であり隊長である李は落ち着いた様子で頭を下げた。

 

「ありがとうございます。この順位で満足せずに精進します」

「ああ。期待しているぞ」

 

 李の返答に満足そうに頷く忍田。これで自分たちもA級かと思うと感慨深いものがある。

 しかし一番騒ぎそうなひなが先程から静かなのが気になる。チラリと視線を向けてみれば試合と合否の緊張感から解放されたからか、アルカイックスマイルを浮かべながら気絶していた。リンゴはひなを起こそうと肩をゆすっている。

 

「なにやってんだお前ら……」

「どうしよお兄ちゃん……! ひなちゃんが起きないの……!」

「ああ、うん。静かでいいな、寝かせとけ」

「いいの……!?」

「下手に起こしてうるさくなるよりはマシだろ……」

 

 その言葉を聞いて納得したリンゴは起こすのをやめて姿勢を直した。わが妹ながら太い神経をしているな、とミカンは一人思った。

 

「続いて生駒隊だが……」

「何となく察してますけども、どうぞ。あ、ドラムロールとかいります? やりましょか?」

「やらなくていいぞ……残念だが、生駒隊は不合格とさせてもらう」

「いやー、やっぱそうなるわな」

「俺らボコボコにされましたもんね!」

「笑顔で言うことちゃうやろ」

 

 生駒隊の面々はがっくりと肩を落とすもそこまで凹んでいる様子には見えない。試験の結果がよほど大差だったのだろうか。

 

「まあまあ、相性っつーもんもあるからな。今回は冬島隊(うち)の方が良かったってことだ。また次頑張れや」

「次言うたってなあ、来期からは二宮隊と影浦隊がB級に降りてくるやないですか。きつすぎますて」

 

 冬島の慰めも空振りに終わってしまった。そう、来期からは二宮、影浦の両部隊がB級1位、2位としてランク戦に復帰するのだ。今まで上位であった生駒隊も元A級相手ともなればうかうかしていられない。

 

「各自反省する点、評価する点、多々あると思われる。今回A級に昇格したからと言って慢心せず自己研鑽を怠らないように、逆に今回昇格できなかったからと言って腐らないように、どちらもより一層レベルアップすることを期待している」

 

 忍田の言葉を聞き、ミカンは心の中で頷く。そう、A級になったがそれはようやくスタート地点に立っただけ。父と弟を取り返すためには遠征試験に合格しなければならない。ランク戦もこれまで以上に手ごわいものになっていくことだろう。

 

 それでも、やらなければならない。

 

 握られた拳には未だ、憎悪が込められていた。




自分自身でQ&A

Q・今回の3人のトリガーセットってどうなってるの?
A・ミカンがメインに弧月、旋空、シールド、グラスホッパー。サブにスコーピオン、シールド、グラスホッパー、バッグワーム。
李がメインにアイビス、アステロイド拳銃、ギムレット拳銃、シールド。サブにアステロイド拳銃、シールド、バッグワーム。
ひながメインにイーグレット、シールド、バッグワーム。サブにレイガスト、スラスター、エスクード、バッグワームです。
ひながバッグワームをメインとサブ両方につけているのはわざとです。(イーグレットでもレイガストでも奇襲出来るようにするため)

自分自身でQ&A

Q・なんで烏丸がメテオラ使ってるの?
A・太刀川隊の時はガイストはないからその枠には何か入っていたのかなと思ってメテオラを入れました。
出水に指導受けていて欲しいって言う私と願望、玉狛に転属したら「小南先輩もレイジさんも入れてるし俺は入れなくていいかな」みたいな理由で抜いてて欲しい。

今回ルビ振りまくってるんですけど鬱陶しかったら修正します。
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