オレンジ・リベンジ   作:妖魔夜行@

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第二十四話「試作トリガー」

「A級にあがったことでトリガーの改造が出来るようになったと聞いて来ました」

「そうかい。ちなみに、そのことを聞いたのはいつだい?」

「ついさっきですね。迅さんが教えてくれました」

「相変わらず思い立ったが吉日を体現しているね、キミは」

 

 やれやれと肩をすくめる美月だがその目元には濃いクマが出来ている。心なしかいつもの彼女特有のテンションも低いように見えた。

 

「徹夜ですか?」

「ちょっと調べ物があってね……ひなに頼まれた試作トリガーも並行して開発しているから寝ていると時間が足りないんだ」

「……最後に寝たのはいつですか?」

「まだ二日目さ」

 

 微妙に返答になっていないのだが、美月も忙しいのなら仕方がない。ミカンはトリガーを改造するやり方を教えて貰い、自分でやれるところまでやってみることにした。

 とはいえ元々トリガーに関する知識がそれなりにあり、機材の扱い方も心得ているミカン。思ったよりもスムーズに作業に移ることが出来た。カタカタとキーボードを叩き、首を傾げながら暫く画面と睨めっこ。たまに近くにいたエンジニアや美月に教えて貰い、開発を続ける。

 どれくらいの時間が経ったか、開発室の入り口が開き、紙パックのジュースを片手に寺島が入って来た。

 

「おつかれー。って、虎龍? ……なんか面白そうなことやってるね」

「お疲れ様です。丁度良かった、ここのプログラムなんですけど」

「そこら辺の分野は専門ではないんだけど……んー、ここが崩れてるから……こうかな」

 

 パックジュースをデスクの横に置いてミカンの隣にキャスターイスを転がす。流石は本職、ミカンがつっかえていた部分を簡単に解消して見せた。手際の良さに感嘆の息を漏らす。

 

「めちゃくちゃ進んだ……凄いっすね寺島さん」

「まあこれで食ってるわけだからね。伊達にチーフやってないよ……しかし中々凄いこと考えるね。弧月のブレードを電気に変換するなんて」

「オレの腕輪についている懐中電灯の機能ってトリオンを電気に変換してるって聞いてたんで、それならブレードとか弾トリガーを電気に変換することも出来るのかなって思ったんですよ。弾トリガーは弾体を電気に変えるとカバーと噴進材に回すトリオンが無くなっちゃうんで無理なんですけどね」

 

 なんとなしに行っているが、トリオンを他のエネルギーに転用する技術は何気に革新的な開発だったりする。各国が抱えているエネルギー不足の問題を個人差はあれ、人で代用できるのだからかなり重要だ。

 

 開発を続けること半日、寺島の助力もありなんとか試作にこぎつけることが出来た。

 

「で、できた……めっちゃ疲れた……」

「凄いな虎龍。ベースがあるとはいえ、まさか半日で形にするとは思わなかったよ」

「寺島さんのおかげですよ。ありがとうございます」

「俺はちょっと手伝っただけだよ。教えてて思ったけどキミ、呑み込みが早いよね。電子系にも強いし、今ランク戦に費やしている時間をトリガー工学につぎ込めばすぐにエンジニアになれると思うよ」

 

 本職の、しかもチーフからの絶賛の言葉を貰って驚く。確かにトリガーやトリオンの知識は好きだ。謎だらけだけど解明されている部分を見れば納得できる。こうして自分でオプショントリガーを試作するくらいには詳しくなったと言える自負はある。

 

「でもオレまだ中学生ですよ?」

「年齢なんて関係ないさ。ポジションの違いみたいなもんだよ。攻撃手(アタッカー)銃手(ガンナー)か、オペレーターかエンジニアか、ただそれだけだ」

「そうすか……でもオレはまだ李隊にいたいんでエンジニアを目指すとしたら当分先になりそうです」

「まあ頭の片隅に置いといてよ。進路相談の時にボーダーのエンジニアって選択肢が増えたくらいに考えて貰えればいいさ」

「なるほど」

 

 夢らしい夢も持ち合わせていなかったのでそれは地味に有難いな、とミカンは一人納得した。

 

「さて、試作トリガーの試運転でもしてみようか。時間ある?」

「ありますけど、いいんですか?」

「いいも何も、対人戦で試す前に仮想近界民に試さないといけない決まりだからね。相手はモールモッドでいいかな」

「はい。お願いします」

 

 トリガーに試作オプショントリガー……仮称『シデン』を組み込み、トリオン体へ変身して仮想戦闘訓練室へ入る。殺風景な白い部屋が市街地へと姿を変えて一体のモールモッドが出現するが動く気配は無い。弧月を抜刀して構えたところで寺島のアナウンスが響いた。

 

『それじゃ、始めるよ』

「はい。シデン、起動(オン)

 

 ワードを認証した弧月の刀身が光り、硬質化していたトリオンが崩れる。蜂が飛ぶような音と共に刀身が揺らぐ。起動には成功したようだ。

 

『……うん。刀身の硬質化は消えたけど形状は崩れていない。そのまま軽く振ってみて』

「はい」

 

 まだモールモッドには向けずにその場で弧月を振るう。振るうたびに切っ先が綻ぶように形を変える弧月を見て、ミカンは眉をしかめた。

 

「……あまり速く振ると切っ先が若干ブレますね。刀身の重さも無くなりましたし」

『ああそっか。硬質化が消えたことで重量が刀身分引かれて軽くなったのか。それは誤算だったね』

「うーん……シデン、OFF」

 

 停止のワードを唱えると弧月の刀身が元に戻る。ON/OFFは問題なく出来ているので取りあえず第一段階はクリアした。

 

『とりあえず動きながらやってみたら? 他にも問題点が見つかるかもしれないし』

「そうですね、お願いします」

『よしきた』

 

 モールモッドの瞳に光が灯る。カシャカシャとブレードがついたアームを動かしながら接近してきた。

 右上段からのブレードの振り下ろしを捌いてモールモッドのアームを斬り飛ばす。そのまま跳躍して背後へ回ると起動ワードを唱えた。

 

「シデン、起動(オン)

 

 刀身が揺らぎ、ブレードが切れ味の機能を失う。が、気にすることなく弧月を横なぎに一閃。通常なら真っ二つに切り裂かれるはずだが、斬撃を受けたにも関わらずモールモッドの身体にその傷は無い。ミカンはシデンを停止させて弧月を納刀して寺島に話しかける。

 

「寺島さん、どうですか?」

『……うん、モールモッドの操作駆動回路がショートして動けなくなってる。成功だね」

「本当ですか?」

『嘘なんかつかないよ。けどアレだね、後部に比べて前頭部の方は影響少ないね。ブレードも前足も多少は動かしづらくなってると思うけど』

 

 寺島の言葉通り、モールモッドは後ろ足を引きずりながらミカンの方へ向こうと前足を動かしている。その前足の動きも鈍いことには鈍いがそこまで影響は受けて無さそうだ。振り向く前に叩き斬り動きを止める。

 

「ですね。頭にブレードぶっさして直接電気流した方が効果あるかな?」

『頭に刺した時点で倒してると思うけど』

「確かに」

 

 どうやっても過剰火力にしかならないシデンの使い道は現状無さそうだ。折角上手くいったのにと肩を落とすミカンに寺島が慰めの言葉をかける。

 

『まあまあ、一発成功するなんて中々ないんだしそこを誇りなよ。どうする? まだなんか試したいことはある?』

「うーん……」

 

 起動の確認、動作運用の確認は終わったので特になさそうだが、考えてみる。

 

「あ、ひとつあった。寺島さん、適当な的とシールドを張ってもらってもいいですか?」

『いいけど、なにするの?』

 

 いつの間にかモールモッドは消えており、同じ位置にマネキンのようなトリオン体が生えてきた。そのマネキンの頭と胸部を守るようにシールドが現れる。

 

「シデン起動。よし」

 

 切っ先に意識を集中させる。するとグン、と刀身が伸びた。

 

「よしっ、成功だ!!」

『ほー、旋空みたいにも出来るんだね』

「でもけっこうコントロール難しいんで、旋空みたいに大幅に伸ばすことも幻踊みたいに形を変えることも無理そうです。精々数m伸ばすのが限界ですね」

 

 そう言いながら弧月の刀身を伸ばしていく。目測で3m程だろうか、これ以上はブレードの形が崩れてしまうのでこの辺りが限界だろう。

 

『その長さで振れるの?』

「刀身の重さはないので大丈夫ですね。ただ安定性はギリギリで、集中しないとすぐ崩れそうになります」

 

 その言葉通り先ほどまでは切っ先だけが綻んでいたのに対し、今は中間部分にも揺らぎが見える。

 

「よっと」

 

 仮想トリオン体にシデンを振り下ろす。太刀筋に合わせてシールドが動くが、シデンはシールドをすり抜けてトリオン体を切り裂く……こともなくするりと通過した。

 

「予想通り、トリオン体の反応ってどうなってますか?」

『これは……虎龍、ちょっとおいで』

「え? あ、はい」

 

 若干声が強張った寺島に呼ばれて開発室に戻る。ミカンが戻るとのめり込むようにモニターを除く寺島と美月の姿があった。

 

「どうかしました? 漣さんまで」

「ああ虎龍、ちょっとこれ見てほしいんだけど」

 

 手招きされたので寺島の横の席に座りモニターを除く。先ほどのトリオン体がシデンを受けたことによる反応がグラフとなって映し出されていた。ミカンは数十もの項目に分けられているグラフを順に目を通して、気づく。

 

「伝達系のショート及びエラー、それによる視覚、聴覚情報の遮断、意識レベルの低下……」

「うん。トリオン体の表面には傷一つないけど、さっき虎龍が言った伝達系、あとは頭に近かったからか伝達脳がやられている」

「電撃の出力が強すぎたみたいだね。伝達脳を焼き切るまでとはいかずともこの威力は危険すぎる。対人戦では絶対に使用してはいけないレベルだ」

 

 伝達脳はトリオン体を動かすために指示を出す脳で、伝達系は神経のようなものだ。そこがショートしてしまえばトリオン体を動かすことは勿論、緊急脱出も出来なくなる可能性がある。

 

「……虎龍、ひとまずシデンの開発は中止だ。一度俺の方から室長に話をしておく」

「アイビスとはまた違った意味で過剰火力だからね。お蔵入りかなこれは」

「そうですか……まあ仕方ないですよね」

 

 顔には出ていないが内心落ち込んでいるのは間違いない。順調に開発が進んでいたのも相まってショックは大きいだろう。肩を落とすミカンに二人は慰めの言葉をかける。

 

「こういうこともよくあるって。アイデア自体は良かったし、またなんか思いついたら来なよ」

「そうそう。むしろ私が仕事している間に試作までこぎつけていたことに驚いたよ。ミカン君、キミ李隊抜けて開発室に来ないかい? 掛け持ちでもいいんだけどねえ」

「あはは、ありがとうございます。また来ます」

 

 開発室を出て行ったミカンを見送り、二人は同時に息を吐く。

 

「いやあ~……珍しく落ち込んでいましたねえ彼。中々レアな姿なんじゃないかな」

「スムーズに開発勧めてたからね、起動も出来ていたし完成まであと一歩だった。落胆するのも分かるよ、俺自身よく味わったし」

「レイガストの時は荒れてたもんねえ寺島さん」

「憎しみを原動力に開発していたからね。俺のことはいいんだよ、それより虎龍だ。防衛任務とかに尾を引かなきゃいいけど。漣の言う通り、アイツがあんなに落ち込むの多分初めてだし」

 

 俺が知っている限りだけど、と付け足す。それを聞いて美月は笑った。

 

「私としては暫く落ち込んでいて欲しいと思いますけどね」

「なんでさ?」

「だって、その方が中学生っぽいでしょ?」

「……たしかに」

 

 ゲームで例えるならクリア目前でセーブデータが破損したようなものだろうか。そう考えるとミカンの落ち込み方は年相応に思えなくもない。

 

「あの子は太刀川君を倒せるくらい強くて、トリガーを開発できるくらい賢いけども、まだまだ子供なんですから」

 

 冷めきったマグカップに口を付けて美月は続ける。

 

「たまには立ち止まってもいいんじゃないかって、私は思うわけですよ」

「つまり……どういうこと?」

「んー……」

 

 言葉を選ぶように小さく唸り、目を閉じる。

 

「走り続けるのは疲れるってことですよ」

「……キミってたまに詩的な言い回しするよね」

「お褒めに預かり光栄ですねえ」

「いや、分かりずらいけど」

「ええーそんなー」

 

 二人の雑談は暫く続いた。




自分自身でQ&A

Q・シデンってどんなトリガー?
A・こんなやつです⬇

シデン(仮称)
電気変換7割 電気が散らないように固定化3割 
威力0 硬質化0
ベースは旋空だがイメージは鉛弾。ブレードの威力と硬質化を無くして電気とそれを形にする固定化にトリオンを回した。シデンは物質化していないので接触するまでトリオンによる実体のないもの、シールドやブレードトリガーには干渉しない。斬られ
た相手の動きを止めることを想定していたため、ブレード版鉛弾となる。
試作段階のため完全に電気を留めてはおけないので動作によって切っ先、伸ばせば刀身にもほころびが生じる。
また鉛弾とは違い、シデンを起動させている間はトリオンを消費し続ける。バッグワームとの併用も出来ないし、勿論シールドも使えない。
現時点では対人戦に置いて殺傷の危険性があるため一時開発中断。
起動時、刀身が薄紫色に光る。
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