オレンジ・リベンジ   作:妖魔夜行@

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第二十五話「雨取千佳」

 珍しく修が『ちょっと付き合ってほしい』と言ってきたので呼ばれた場所に行ってみると、黒髪おかっぱの可愛らしい女の子がいた。

 

「は、はじめまして。雨取千佳です」

「虎龍ミカンだ。よろしく」

 

 手を差し出すとおずおずと握り返してくれた。第一印象は悪くなさそうで安堵する。予め聞いてた話では千佳がよく近界民に狙われるらしく、何故狙われるのかを検査したいとのことらしいが……。

 

「なんでオレは呼ばれたんだ? その子の……雨取さんについて検査してもらう話だったろ?」

「いや、それが僕も聞かされてなくて」

「聞かされてなくて? ……まーた迅さんか」

「休日に付き合って貰って悪いとは思ってる」

「気にすんな。どうせランク戦に潜るだけだったし」

 

 スマホを取り出して時刻を確認、現在9時10分。玉狛には9時半ごろ来るように言われているのでそろそろ移動しなければ間に合わない。

 

「んじゃ顔合わせも済んだし、行こうぜ」

「ああ」

「はい」

 

 ちら、と気づかれないように雨取の顔を見る。

 いつだったか、幼なじみの家族が不幸にあったと修が言っていたのを思い出す。

 

「(さっきも幼なじみって言ってたしこの子のことだよな。たまに話に出てくるし……あんまり突っ込まない方がいいよな)」

 

 自分から話そうとしない限りはこちらからも話題を振らない方がいいだろう。身内が居なくなる辛さを話すのもまた辛いことをミカンは知っている。

 

 特にトラブルなく玉狛に到着したミカンたちは修に促されて中へ入る。鍵がかかっていない玄関の扉を開けて修は慣れた様子で靴を脱ぎ、スリッパを用意する。

 

「靴はそっち側に寄せておいてくれ」

「お、おう」

 

 リビングに通されて雨取と二人、ソファに座る。修は「お茶を入れてくる」と言ってキッチンの方へ行ってしまった。

 今日初対面の男女二人、お互い話題を振るといったことを得意としていないため気まずい沈黙が場を支配する。

 

「……」

「……」

 

 流石に耐え切れなくなったミカンが話しかける。

 

「なあ雨取さん」

「はっ、はい」

「あー、そうだ。三雲とはどれくらい長い付き合いなの?」

「え、えっと、修くんとは子供のころから……幼稚園に入るくらいから家族ぐるみで仲良くしてます」

「へえ。そんなに」

 

 幼少の頃の修を想像しようとして首を傾げる。

 

「三雲っていつくらいからメガネかけてたんだ?」

「え? うーん……小学校に上がる頃にはかけてたと思うなあ……あ、思います」

「ああ、別に敬語なんか気にしなくていいよ。オレも三雲と同い年だし、一個しか違わないだろ?」

「それじゃあ、うん。そうするね」

「おう」

 

 リンゴとそう変わらぬ背丈なのでミカンのお兄ちゃん系庇護欲がそそられつい頭を撫でそうになるが寸ででこらえる。今日会ったばかりの女子の頭を撫でるのは流石に変人が過ぎる。ミカンは千佳の妹力に戦慄しながら額の汗をぬぐう。そこにお茶を淹れたコップを三つ、トレイに乗せた三雲が戻って来た。

 

「……何しているんだ虎龍」

「いやちょっと雨取さんの妹力が高すぎて……」

「妹力……?」

 

 なんだそれはとミカン以外の二人が首を傾げていると玄関が開く音がした。それからすぐにリビングにメガネをかけた女性……玉狛第一のオペレーターである宇佐美と迅が入って来た。

 

「おっ、三人とも早いな」

「あれれ? 修くんと幼なじみちゃんだけじゃなくて虎龍くんもいる?」

「どうも宇佐美先輩。オレもなんで呼ばれたのかまだわかってないんすよ」

「いやあ悪いね虎龍。お前に来てもらった方がいい感じに話が進むらしくてさ」

 

 のほほんとした笑みを浮かべながらそう話す迅を見て、千佳以外の全員がサイドエフェクトで迅が何かを視たということを察した。

 

「ま、いいですけど」

「虎龍が物わかりのいい後輩で助かるよ。っと、そういえば自己紹介がまだだった。おれは迅悠一、でこっちが」

「宇佐美栞です。よろしくね!」

「雨取千佳です。よろしくお願いします」

 

 全員が自己紹介を終えたのでようやく本題に入れる。迅と宇佐美が正面のソファに座り、ミカン、三雲、千佳の順で向かいのソファに座る。修が追加で淹れてくれたお茶を口にして迅は口を開く。

 

「今日の本題は雨取ちゃんが近界民に襲われないためにはどうしたらいいか、だったね」

「はい。千佳は近界民が出現する位置を警報より早く察知することが出来ます。ボーダーに入って色々教えて貰って、それはサイドエフェクトだと知りました。そして、サイドエフェクトはトリオンが多い人ほど発現しやすいことも」

「なるほどな。雨取さんが近界民に狙われるのはトリオンが多いから……つまり狙われないようトリオンの感知を防ぐ道具をボーダーに作ってもらおうってことか」

 

 ボーダーはトリオン、ひいてはトリガーの研究のために医療分野にも力を入れている面がある。例を挙げるとするならば那須隊の隊長である那須玲がそうだ。彼女は『虚弱体質な人がトリオン体に換装した時、健康体と同等の運動が可能か』と言った研究の被験者である。もっとも彼女はトリオン体を動かす才能がずば抜けていたのでそのまま防衛隊員にまでなったが。

 それを除いても視覚や聴覚など五感を失った人でもトリオン体になれば換装している間だけという条件は付くが五感を取り戻すことが出来る。今回の千佳のような事案ならば、近界民に狙われやすい体質を改善すると言った名目でバッグワームに類似した機能を付けた器具を開発することになるだろう。

 

 ミカンの言葉に三雲は頷き肯定を示す。

 

「ああ。どうでしょうか、迅さん」

「んー……あんまりオススメはしないかな」

 

 乗り気ではない迅の様子に三雲は驚く。その三雲の代わりにミカンが尋ねる。

 

「珍しいですね。迅さんが渋るなんて」

「いや、おれとしては全然作ってあげていいと思うんだけど。多分上層部、特に根付さんが嫌がると思うんだよね」

「あー……アタシもなんとなくわかっちゃった」

 

 気まずそうに頬をかく宇佐美に三人の視線が集まったのを見て、理由を話し始めた。

 

「例えば、例えばだよ? 研究として千佳ちゃんに近界民に見つからなくなる装置をテスターしてもらうとするじゃない?

 そうしたらボーダー側は研究成果としてそのことをメディアに発表しないといけないのね。

 で、そうなると大多数の人は『自分にも作ってほしい!』って言うと思うの。大なり小なり、近界民に対する怖さは誰でもあると思うから……」

「そういうこと。勿論ボーダーの技術力なら作れないこともない。けど量産するとなると話は変わる。

 下手したら三門市民何万人だけじゃなく世界中から注文が殺到するかもしれないからな」

「もしかしたら装置を悪用して警戒区域に入ってくる人も出てくるかもしれないし、修くんと千佳ちゃんには申し訳ないけどちょっと難しいかも……」

 

 二人の話を聞いて三雲は肩を落とした。確かに、少し考えてみれば分かることだった。開発陣もトリガー開発そっちのけで装置を量産するわけにもいかないし、それに割くほど人員に余裕はない。

 意気消沈する三雲を気遣うミカンと千佳を見て、迅は本命の提案をする。

 

「三雲くん、雨取ちゃんの安全を確保する方法はあるぜ」

「ほ、本当ですか!?」

「ああ。雨取ちゃんがボーダーに入ればいい」

 

 まさかの提案に三雲はフリーズした。先ほどからあまり意味の分からない会話に入れずにいた迅の言葉を理解して千佳は目を見開く。

 

「ボーダーに、わたしが?」

「ま、待ってください! 千佳が戦うなんて……!」

「なにも戦うだけが全てじゃない、技術職もあるしオペレーターでもいい。ボーダーに入れば隊員に対してのテストってことでさっき言ってたやつも作れる。万事解決だろ?」

「でも……!」

 

 尚も食って掛かる三雲。ちらりと迅の視線が自身に向けられたことをミカンは気づいた。

 

「三雲、迅さんがここまで言うってことは雨取さんがボーダーに入ってくれると未来が良い方向に進むってことだ」

「流石虎龍。よくわかってる」

「未来が……じゃあ、千佳がボーダーに入ることでどう変化するのか。それを教えて下さい。最終的に決めるのは千佳ですが、僕は千佳が危ない目に合うのが分かってるのなら止めなきゃいけない」

 

 先程まで動揺していたのが嘘のように三雲は静かにそう言った。迅のサイドエフェクトがどれだけ重要か分かっているからこそ、自分の幼なじみがボーダーにどのような影響をもたらすのかを知りえなければ頷く気にはなれなかった。

 

「うん、話すよ。まず、雨取ちゃんがボーダーに入ってくれることでボーダー本部基地の強化がされる」

「基地の強化? それと千佳ちゃんがどう関係あるの?」

「雨取ちゃんはトリオンの量が引くほど多いんだよ。炸裂弾(メテオラ)なんか使えば基地の外壁をぶち抜けるくらいにはね」

 

 それを聞いてミカンは頬を引きつらせた。まさか隣に座るこの小さな女の子がそんなことが出来るなんて誰が思えるか。嘘つけと一蹴してやりたかったが、未来視持ちの迅が言うのだからそれも出来ない。

 

「……先に千佳ちゃんのトリオン量、測ってみようか」

 

 冷や汗をかいた宇佐美の声に反対するものは誰もいなかった。

 

 ボーダー隊員のトリオン量の平均は概ね5~7の間になっている。現在所属している隊員で1番トリオン量がおおいのが射手1位、個人総合2位の二宮の14と言う数値だ。ちなみに二位タイが出水とミカンの12だったりする。今あげた三人のように、トリオン量が10を超えればかなり多い部類に入る。

 では千佳のトリオン量は幾つなのか? 宇佐美が用意したトリオン量の測定器を千佳が触れる。十数秒後、計測器のモニターに映し出された数値は『異常』。それに尽きた。

 

「ヤッバいなこれ」

「すっごい千佳ちゃん!! これ黒トリガー級だよ!?」

 

 さっき迅が言ったことを実現できてしまう事実に引き気味にミカンが呟くと大興奮の宇佐美が千佳の手を取った。

 

「おお、予想以上にでかかったな。数値にすると……38くらい?」

「簡易機器だから誤差はあると思うけどねー。多分数値以上に多いよ!」

 

 38。ミカンの三倍以上の数値だ。このトリオン量から繰り出される炸裂弾などもはや隕石並の大きさになるのではないだろうか。迅の言う通り、千佳を逃すのは非常に惜しい。

 

「三雲、雨取さんはボーダーに入った方がいい」

「……それを決めるのは僕じゃない、千佳だ。それにまだ他の理由を聞いていない」

 

 スッと迅に目を向ける。視線を受け、話を再開する。

 

「じゃあさっきの続きだけど。なんで基地が強化されるのかっていうと、雨取ちゃんが訓練で基地の外壁をぶち抜く未来が見えたからだよ」

「ぶ、ぶち抜く……」

「まあ今おれが教えちゃったからそんなことは起こらないんだけど。虎龍の方から開発に話しといてくれればすぐにでも外壁の強化に乗り出すんじゃない? ボーダーの本部が隊員一人の手で半壊可能なんて笑い事じゃないしな」

 

 笑いながら話す迅にどの口が、と視線が突き刺さる。実際こんな少女が一人で基地を半壊できるなどとマスコミにでもバレたりしたらとんでもないことになるだろう。鬼怒田さんの胃が心配になるミカンだった。

 

「二つ目の理由は雨取ちゃん自身の安全が確保されることだな。正隊員に上がれば緊急脱出も着くし、そのトリオン量なら簡単に上がることが出来ると思う。ボーダーとしてもめちゃくちゃ貴重な存在になるから失うわけにもいかないしね」

「あー、確かに。あのトリオン量なら適当に通常弾(アステロイド)追尾弾(ハウンド)打ってればC級相手なら楽勝だろうな」

「……!」

「少なくとも、今みたいに逃げ回る心配はいらなくなると思うよ。他の人に被害がいかないよう危険区域に忍び込んだりもしなくていい」

「……えっ!!?」

「それは、どういう……千佳?」

 

 冷や汗をだらだらと流しながら視線を逸らす千佳。修はその様子と迅の言葉で察したようで、目を見開いて顔を青ざめさせた。

 

「おっ、お前、まさか……警報が鳴るたびにそんなことしてたのか!?」

「ち、ちがうよ!? その、警報が近かった時だけ、たまに……」

「駄目だよ千佳ちゃん! そんな危ないことしちゃ! 警戒区域にいる近界民は隊員がすぐに駆け付けて駆除してくれるし、万が一区域を出そうになってもボーダーの防衛システムがあるから民間人に危害が行くことなんてそうそうないんだから!」

「はい、ごめんなさい……」

 

 修と宇佐美という温厚なダブルメガネに叱られてしょんぼりと肩を落とす千佳。彼女は自分のせいで関係のない人が危険な目に合うのが許せなくてそうしたのだろう。

 しかしそれは自身の安全が計算に入れられておらず、二の次になっている。他人のことは案じられるのに自分のことになると無頓着になる、そんなアンバランスさをミカンは感じた。

 

「雨取さん。キミが傷つくことによって悲しむ人が、少なくともここに四人いる。次からは危険区域で近界民の注意を引こうとする前に、オレが今言った言葉を思い出してほしい」

「……うん、ごめんなさい」

「虎龍の言う通り、雨取ちゃんはもう少し自分も気遣った方がいいね。で、三つ目の理由なんだけど」

 

 空気を切り替えるために迅は少し大きめに話す。

 

「ボーダーに入って強くなれば、むこうの世界にキミの大切な人を探しに行くことが出来る」

「ちょっと迅さん。それ話していいんですか?」

 

 ボーダーの機密事項を簡単に話す自称エリートにミカンは目を見張る。当の本人は特に気にした様子も見せずにそのまま話を続けるようだ。

 

「大丈夫だよ。まあでも誤解の無いように説明しておくと、探しにいくには遠征部隊ってのに選ばれないといけなくて、それに選ばれるにはA級にならないといけないんだ。身近な例を挙げると嵐山隊とかがA級だな」

 

 嵐山隊は広報部隊であるため遠征部隊には選ばれないのだが、そこを説明するとまた長くなってしまうので省略する。だが千佳はそれよりも『探しに行ける』という言葉に対して非常に強い関心を抱いたようだ。

 

「たいせつな、ひと。お兄ちゃんと青葉ちゃんを……」

 

 今口からこぼれたのは兄と友人のことだろう。それを見てミカンも強く言えずにぐっと詰まる。

 しかしミカンが焦るのも仕方のないことだ。本来なら遠征の話はボーダーに入って正隊員になり、その中でも限られたものしか知らない機密情報だ。それをボーダーに二人しかいないS級の迅が話すのだから焦らないわけがない。

 

「これでおれが提示できる理由は全部答えたかな。雨取ちゃんがボーダーに入ることで得られるボーダーのメリット、そして雨取ちゃんのメリット。まだ聞きたいことがあるなら答えるけど」

「……修くん、わたし、ボーダーに入りたい」

 

 その言葉を聞いて修は向き直る。

 

「千佳、よく考えろ。さっき迅さんが言ってた通り、りんじさんや友達を助けに行くっていうのはボーダーに入ってA級にならないといけないんだぞ。

 C級……訓練生からB級になるまでは虎龍が言ったように楽に上がれるかもしれないけど、A級になるにはそうとう時間が掛かるし、想像してる何倍も大変だ」

「それとね、千佳ちゃん。A級には一人じゃ上がれなくて、なるためには部隊を組まなきゃいけないの。

 仮に遠征部隊に選ばれたとしても、遠征するむこうの世界を選べるわけでもないからそこに攫われたお兄さんや友達がいるとは限らないんだよ?」

 

 修と宇佐美が二人で諭す。大切な人を助けたい、探したいという気持ちが痛いほど分かるミカンは次に千佳が発するであろう言葉も予想がついていた。

 

「うん、分かってる。わたしの我儘だってことも……でも、可能性があるならそれにすがりたい」

 

 その言葉と瞳には、小柄な体と大人しそうな顔から想像のつかないほど芯の通った力強さが感じられた。

 こういう顔つきになった幼なじみが何を言っても引かないことを知っている修は大きくため息をついた後、頷いた。

 

「ふう……千佳が決めたのなら僕は止めない……けど、一人では行かせない。行くなら僕と一緒にだ」

「……うん!」

 

 流石と言うかなんというか、幼なじみを守るために軽犯罪を犯してまでボーダーに入隊して見せた男は言うことが違った。

 

「んじゃ、意見もまとまったようだし、雨取ちゃん。ようこそ、ボーダーへ。おれたちはキミを歓迎するぜ」

「修くんが玉狛(うち)所属だし~、千佳ちゃんも玉狛でいいかな?」

「はい。家もそんなに遠くないし、大丈夫です」

「よ~し、これからよろしくねっ! 千佳ちゃん!」

「よろしくお願いします!」

「でも迅さん、入隊申し込み日とっくの昔に過ぎてるけど大丈夫?」

「そこら辺は支部長(ボス)に言ってあるから大丈夫だ」

 

 最初は不穏だったが、なんとか円満にことが済んだようでミカンは胸を撫で下ろす。そして同時に戦慄した。あのトリオン量で暴れ回って、果たして他の訓練生達は大丈夫なのだろうかと。

 

「(……まあ、大丈夫か)」

 

 トリオンが圧倒的に多いくらいで勝つことが出来るのは精々訓練生まで。正隊員になればトリオンのゴリ押しだけで勝つことは難しくなる。

 初めのうちは無理でも何戦も重ねていけば訓練生でも千佳に勝つことは出来るだろう。

 

 それに千佳程度(・・)の理不尽で心が折れるようでは来るべき大規模侵攻に立ち向かうことなど出来はしない。

 難しい顔で千佳を見つめるミカンを、迅もまた見つめていた。

 

 

 

□■□■□■□

 

 

 

「で、結局オレを呼ぶ必要はあったんですか。別にオレいなくても何とかなりそうでしたけど」

「いやいやあったよ。ありがとな」

 

 修と千佳が帰宅した後、ミカンは迅にラーメン屋に呼び出されて一緒に麺をすすっていた。

 

「虎龍がいなきゃ三雲くんはもっと食い下がっただろうし、雨取ちゃんもボーダーに入ることを躊躇うことになってたからな」

「へえ、お役に立ててよかったです。替え玉頼んでいいですか?」

「すごい興味無さそうだなお前……好きなだけ頼みなよ」

「やった。すみませーん!」

 

 ウキウキで替え玉を注文するミカン。ちゃっかり餃子も頼んでいる。食べ盛りの男子中学生の胃袋に関心しながら自身の財布の残金を確かめる。なんとか足りそうで胸を撫でおろした。

 

「ところで、次はどんな未来が視えたんですか」

 

 不意にそんなことを言われ、迅は虚を突かれる。

 

「あれ、虎龍もそこまで視えるようになった?」

「視えませんよ。でも迅さんが飯奢ってくれるのって大体未来関係じゃないですか」

「ひどい偏見だな……」

 

 実際当てはまるので偏見ではない。見抜かれているのなら話してもいいか、そう判断した迅は一旦箸を置いた。

 

「明確な日にちは視えてないんだけど、近いうちにお前と三雲くんは誰かと出会う。そいつが未来のカギを握っているっぽいんだ」

「キーマンですか」

「顔も名前も知らないけどな」

 

 ここで言う未来とは大規模侵攻のことであり、その後のことであり、近界遠征のことであり、それ以外の未来のことである。多数の未来において重要な役割を担っているのがその『顔も名前も知らない誰か』なのだ。

 

「一体どこのどんなやつなんですかね」

「案外二人と同じ学校にいるかもよ」

「それは流石にありえないでしょ……」

 

 仮にも中学生に背負わせるものではないし、いたとしたら顔も名前も知っているだろう。

 ふと食べ進めていた手が止まる。

 

「……」

「どうした? 替え玉伸びるぞ」

「迅さん、本当にオレたちは……守れるんでしょうか」

 

 初めて近界民を見た時の絶望感、父親と弟を失った時の無力感。何を、とは言わなかったが意味は伝わっただろう。

 そんなミカンの顔を見て迅は珍しく混じり気のない笑みを浮かべた。

 

「安心しろって。お前らのおかげで未来はいい方向へ向いているよ」

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