オレンジ・リベンジ   作:妖魔夜行@

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今回独自解釈が入ります。


第六話「迅悠一」

 ミカンがB級になってから一ヶ月が経った。風間とのランク戦から順調にポイントを稼いでおり、今では8000近くまで来ている。

 

 流石にB級になると強者(もさ)が多く、ミカンがストレート勝ち出来ない時も何度かあった。特にA級に君臨する者達とのランク戦では勝ち越せない者も多い。

 

 そして現在、ミカンは弧月を扱う黒髪の女子とランク戦をしている。

 5本勝負で彼が4本、女子は1本も取れておらず、今の試合が最後の5本目の試合だ。

 

 女子が繰り出した斬撃をミカンは孤月を斜め上から振り抜くことでたたき落とす。そのまま動作を繋げて彼女の脇腹にブレードを突き刺した。

 

「ぐっ……!?」

「終わりです」

 

 ブレードが滑る様に彼女の腹部を切り裂く。まだ上半身と下半身は辛うじて繋がっているがトリオン体は限界のようだ。

 

『トリオン体活動限界、緊急脱出。ランク戦5本勝負。勝者、虎龍』 

 

 

 

□■□■□■□

 

 

 

「よし、これでマスターランクに到達っと」

 

 ラウンジのカフェスペースで手の甲を見てポイントを確認している少年の名は虎龍ミカン。一ヶ月前に正式入隊したばかりのB級隊員である。

 そんな彼の元に一人の女性が現れた。先程ランク戦をした女子だ。

 

「あ、さっきはどうも。熊谷先輩」

「相変わらず強いわね。あ、隣いい?」

「はい。どうぞ」

 

 熊谷は挨拶するとミカンの横に腰を下ろした。その際にふわりと女子特有の甘い香りが彼の鼻に抜ける。内心ドギマギしながらも態度には出さず平静を保って見せた。

 

 髪色と戦い方から他隊員、主に歳下と同年代から敬遠されているミカンにとっては熊谷のように交流を測ってくれる人物は貴重だ。熊谷の他には防衛任務でよく一緒になる三輪隊や風間隊の面々が上げられる。

 

「相変わらず凄いわねー、あんたの剣。って、もうマスタークラスに上がったの!?」

 

 ポイントが視界に入ったのだろう。熊谷はあんぐりと口を開けて驚いた。

 

「はい。さっきの熊谷先輩とのランク戦で8000超えました」

「……ミカン、あんたって入隊したの確か先月よね?」

「? はいそうですけど……?」

 

 もう既に結構な範囲で知られていることなので今更説明する必要もないと思うのだが。そう思っていると熊谷が引きつった笑みを浮かべていた。

 

「い、1ヶ月でマスタークラスって……あんたどれだけランク戦してるの!?」

「え? ほぼ毎日ですけど」

「学校とかあるでしょ?」

「転校の手続きは済んでるんですけど、どうせなら4月から通おうかなーって思ってて。今は一時的に通信教材で勉強してます。その方がボーダー活動に集中出来ますし──もっと強くならないといけないんで」

 

 そう話すミカンの鬼気迫る表情を見てゴクリと唾液を飲み込む。自分より歳下のこの少年は、一体何を抱え込んでいるんだろう。不安げに見つめる熊谷の視線には気づかず、ミカンの目は暗く澱んでいた。

 

 その後、他愛のない世間話をして熊谷と別れたミカンは待ち望んでいた物が出来上がったという連絡を貰い、開発室へ向かった。

 

「お、来たね」

「寺島さん。出来たんですか?」

「ああ。試作品って形だけどとりあえず出来たよ」

 

 はい、とミカンに手渡されたのは腕輪のようなナニカ。お世辞にも綺麗なデザインとは呼べず、ただ黒く硬そうな無骨なデザインだった。

 

「これが……?」

「キミのサイドエフェクトを抑制する装置」

「えっと、使用方法は?」

「腕にはめるだけ」

 

 あまりにも単純な答えにミカンは戸惑いを見せる。その反応は想定内だったのか寺島は淡々と説明を始めた。

 

「これはキミのトリオンを蓄えてくれるものなんだ」

「……それがサイドエフェクトを抑えるのにどう繋がるんですか?」

「うーんとね……虎龍はさ、サイドエフェクトのことをどういうものだと認識している?」

 

 質問を質問で返された彼は釈然としないが答えることにした。

 

「どうって言われても。トリオンが多い人が発現するものだとしか」

「まあそれくらいだよね。

 そもそもサイドエフェクトって言うのは多大なトリオンを持っている人物がそれを制御しきれないことで起こる障害なんだ。

 キミみたいに頭痛だったり、もしくは目眩だったり、サイドエフェクトのせいでイラついたり……これがサイドエフェクトのせいで起こる障害。

 で、どうしてその障害が起こるかって言うと、さっき言った通り……制御出来ないトリオンが体の器官に異常を起こさせているからだと僕らは考えている」

 

 PCを起動させてサイドエフェクトの症状の一覧を表示させる。

 

「これを見てくれ。これはキミが未来を予知をする時のトリオンの波形だ」

 

 画面には一定だった波が急に跳ね上がっている画像が映されている。

 

「サイドエフェクトを発動したことにより、急激にトリオンの負荷が上昇する。それが頭痛となって体に現れたんだろうね」

「なるほど……じゃあこの腕輪はなんのために?」

「さっきも言ったけど、この器具は装着者のトリオンを蓄えることが出来るんだ。装着者のトリオンの『波』を監視して『波』が荒れた時にトリオンの吸収量が増えるんだ。そうすることによって頭痛が軽減させされる」

 

 腕輪は毎日ミカンの微量なトリオンを吸収して体調を整える。彼のサイドエフェクトは急に起こってしまうものなので、その時は吸収する量を増やすことによって対応する。

 

「つまりオレはこの腕輪を肌身離さずつけていればいいんですね?」

「うん。頑丈に作ってあるからそうそう壊れることは無いと思うけど、壊れたら開発室(ここ)に持ってきてくれれば直すよ。あと肌身離さずって言ったけど、風呂の時とか運動する時に邪魔だと思ったら外してくれてもいいから」

「分かりました」

 

 腕輪を装着させながら返事をする。と、そこで寺島が「そう言えば」と口を開いた。

 

「キミ、トリガーの編成は変えなくても大丈夫? まだ弧月とシールドしかないだろ?」

 

 寺島の言う通り、ミカンのトリガーセットはメインに弧月、シールド。サブにシールドのみという随分とスッキリした構成になっていた。

 

「うーん……何だかんだこれでマスタークラスまで上がれたんで、特に弄らなくても大丈夫です」

「おっけー……って、え? 今なんて言った? マスタークラスに上がったって言った?」

「は、はい」

 

 デジャブかな? 首を傾げていると寺島は呆れたように息を吐いた。

 

「……キミがランク戦に入り浸ってるのは知ってたけど、まさかここまでとは思わなかったよ」

「いやぁそんな……」

「褒めてないからね? まあ凄いことだけどさ……そうだ虎龍、今から時間あるかい?」

「? はい。ありますけど……」

 

 時刻はまだ15時前、帰るには少し早い時間帯だ。

 寺島から一枚の紙が突き出される。受け取ってみると地図が書いてあった。

 

「玉狛支部、ここに行って迅悠一って人に会ってきな」

 

 

 

■□■□■□■

 

 

 

「ここか……」

 

 目の前に聳え立つ古めかしい建物、寺島に渡された地図を見る限りここが玉狛支部らしい。

 チャイムを押すとカピバラに乗り、ヘルメットを被った少年が扉を開けてくれた。

 

「きたか……」

「……子供?」

「こら陽太郎、客人を困らすなよ。ようこそ玉狛支部へ、歓迎するぜ少年」

 

 オールバックに首にかけたサングラス、寺島から聞いていた外見と一致する。 

 ミカンがここに来た理由、それはミカンのサイドエフェクトである『危険予知』と同系統のサイドエフェクトを持つ彼、迅悠一に話を聞くためだ。

 

「ま、とりあえず上がれよ。お茶入れるからさ」

「お、お邪魔します」

「うむくるしゅうない」

 

 陽太郎と呼ばれた少年と迅に客間らしきところへ案内された。

 

「なんか茶菓子ないかな……お、いいとこのどら焼きみっけ。陽太郎〜これ皿に並べてくれ」

「まかされた。いくぞ、らいじんまる」

 

 陽太郎がどら焼きを皿に移し替えている間、迅は人数分のお茶を汲んでいた。ミカンはここは本当に支部なのか? と疑問に思いながらも迅悠一を観察していた。

 自分と似たようなサイドエフェクトを持つ男、その男に寺島は会いに行けと言ったのだ。何かしらの意味があるに違いない。そう思っていた。

 

「ほい、お待ちどうさん。んじゃ、名前は知ってると思うけど一応……おれは実力派エリート、迅悠一。よろしくな少年」

「虎龍ミカンです。実力派エリート……?」

 

 人から言われるならともかく、自分で言うか普通。口には出さずとも顔に出てしまったのだろう、迅は苦笑で答えた。

 

「寺島さんから話は聞いてるよ。何でも俺と似たサイドエフェクトを持ってるとか」

「はい。『危険予知』って診断されました」

「危険予知、ね。確かに似てるな。おれのサイドエフェクトは『未来視』って言ってね。その名の通り未来を視れるんだ」

 

 未来視、字面からして強そうな能力だ。

 

「キミの『危険予知』と違うところは大きくわけてふたつ。ひとつはおれはおれ以外の人の未来を見れるってところ、もうひとつは未来の詳細を知れるってところ」

 

 ミカンの危険予知はあくまで自分自身にしか発動しない。しかし迅の未来視は他人を通して有り得る未来を見ることが出来る。そしてミカンの予知は性質上間近のものしか見えないが、迅は年単位で見通すことが出来る。

 

「と言っても全部が全部そうって訳じゃないけどね。不確定なやつは直近の未来しか見えないし。確定している未来を動かすのも難しい」

「へえ……。あ、迅さんはサイドエフェクトのせいで頭痛や目眩が起こったことはありますか?」

「うーん……悪いね、そういうのは特にはないかな。ああそうそう、その腕輪大事にしてくれよ。おれも口添えしたやつだからさ」

「えっ、そうだったんですか。ありがとうございます」

 

 いーよいーよ、と笑いながらどら焼きをパクリ。いつの間にか陽太郎もモグモグと食べていた。ちゃっかりふたつ目である。

 ミカンも『そう言えばお茶菓子として出されていたな』とすっかり存在を忘れていたどらやきに手を伸ばした。

 

「そうだ虎龍。今日のこととその腕輪は貸しだからな」

「んぐっ!? ゴホッゴホッ!」

「おっと、ごめんごめん。はいティッシュ」

「なづけて……あんこスプラッシュ」

「名付けんでいい」

 

 ティッシュを渡され吹き出したあんこを拭き取る。神妙な顔をして技名を付けられてしまったがこんなものを必殺技にはしたくない。迅にチョップされてる陽太郎を横目に見ながら鼻をかむ。

 

「いきなり言うもんじゃなかったな。ごめんごめん」

「……これも未来視で見えなかったんですか?」

「そこまで万能じゃないよ。きみに対しては尚更ね」

 

 そう言って苦笑を浮かべる迅。それもそうかとミカンはかみ終えたティッシュをゴミ箱に捨てる。

 

「まあ貸しって言ったってそんな無理難題を押し付けるわけじゃないから。おれが力を貸してほしいって虎龍を頼った時に快く頷いてくれるだけでいい」

「捉え方によっては脅迫では?」

「まさか、タダのお願いだよ」

 

 迅の笑みは変わらない。ニヤリと口角を上げてミカンの瞳を見つめるだけ。

 

「まあ……無茶なお願いじゃなければ、オレなんかでいいなら力になりますけど」

「充分充分。んじゃ交渉成立ってことで、お礼に良いことを教えよう」

「良いこと?」

 

 今までの笑みとは種類の違うニカッと含みのない笑みを浮かべて言った。

 

「近いうち、良い出会いをするよ」

 

 

 

□■□■□■□

 

 

 

 帰り道、迅に言われた『良い出会い』の意味を考えたが一体誰を指しているのか、何の関係性に対しての出会いなのか分からず唸っていた。

 

「おかえりミカン、ってどうしたの? 険しい顔して」

「ああ、ただいま双葉。いや実はさ──」

 

 今日の出来事を双葉に打ち明けた。話を聞いた双葉は首傾げて「うーん……まさかミカンに……そんなこと……」と数分考え込んだ結果、「あっ」と声を上げた。

 

「来月から学校でしょ? もしかしらそこで友達が出来ることを言ったんじゃない?」

「そうだと嬉しいなー」

「嬉しいなって……ボーダーに仲のいい人とかいないの?」

 

 歳下の少女に『友達いないの?』と言われると流石のミカンも心にくるものがある。ガラスのハートにヒビが入った音がした、気がする。

 

「し、仕方ないじゃん。この髪のせいで歳下の子達からは怖がられるし、よく分かんないけど同年代の女子から睨まれるし……まともに話せるの歳上の先輩達くらいなんだよ」

「あ、でも仲良い先輩はいるんだね」

「仲が良いって言っても一緒に、あー……訓練をすることが多くて、それが終わったあとに世間話をする程度なんだけどさ」

 

 この訓練とは防衛任務のことを指す。守秘義務のためぼかしている。しかし考えてみれば寺島が一番長い付き合いだということに気づいた。長いと言っても1ヶ月程度だが、それでもミカンの短いボーダー生活からすれば9割を占めるくらい長い。

 

「寺島さんにはお世話になってるしなぁ……今度お菓子とか色々持っていこうかな」

「その人も戦う人?」

「いやエンジニア。開発担当の人」

 

 この腕輪も作ってくれたんだよ、と言って双葉に見せる。ついでに腕輪の機能も説明すると感心したように頷いた。

 

「へぇー、すごいんだねボーダーって」

「うん。すごい人ばかりだよ」

 

 そう言ってミカンは楽しそうに笑った。

 

 それから他愛のない会話を交わしていると、話の流れで仲のいい異性はいるのかと聞かれた。今日話した熊谷くらいだろうか、「いるよ」と答えれば双葉は目を見開いた。

 

「え!? ミカンが!!? どんな人なの!?」

「そんな驚く……? 熊谷さんっていうオレと同じポジションの人なんだけど、凄い優しいんだよね」

「へえー」

 

 双葉の脳内におっとりとしたお嬢様のような女性の姿が浮かび上がる。

 

「なんて言うか姉がいたらこんな感じなのかな、って雰囲気で話しやすかったんだよね」

「お姉さんかぁ……確か、ミカンって一番上なんだっけ?」

「ああ。だから歳上の人に優しくされるのってちょっと新鮮なんだ」

「ふふっ」

 

 楽しそうに『熊谷先輩』について話すミカンの横顔を見て、双葉は嬉しくなって笑みがこぼれた。

 

「ん、どうした?」

「んー……なんでもないっ」

「何だよ、教えろよー」

「んふふ、秘密だもん」

 

 ボーダーに入隊が決まった日の部屋で涙を流しながら父と弟の名前を呼んでいたミカンが、近界民に対しての憎しみの感情でいっぱいだったミカンが、ボーダーに入隊してから笑顔を見せることが増えたのだ。嬉しくならないわけが無い。

 こうして笑いあう姿は兄妹のように見えるだろうか。

 

「そう見えたら、嬉しいな」

「うん?なんか言ったか?」

「……内緒!」

 

 またかよー、と苦笑するミカンにチロりと舌を出して笑って見せた。




自分自身でQ&A

Q・迅とミカンはお互いのことを覚えていないの?
A・ミカンは見たことあるような気がする程度ですが迅は普通に覚えています。
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