オレンジ・リベンジ   作:妖魔夜行@

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今回オリキャラが多数出ます。


第七話「狙撃手の師弟」

「寺島さん来ましたよー、急に呼び出してどうしたんですか? あ、これ差し入れです」

 

 お菓子や飲み物、カップ麺などが入ったビニール袋を両手にやってきたのは虎龍ミカン。ややオレンジかかった茶髪と鋭い目付きのせいで多くの隊員から不良と勘違いされている中学生だ。

 そんなミカンが何故開発室にやってきたのか、呼び出された本人も分からなかった。

 ミカンはトリガーの設定を変える時やトリガーについて相談する時などに来ることはあるが、呼び出されるのは珍しいことだった。

 ミカンからビニール袋を受け取って寺島は話し始める。

 

「差し入れありがとう。いやさ、望月さんと共同で新しいトリガーを開発してるんだけどさ。ちょっと行き詰まっててね」

 

 キーボードを打ち込みモニターにトリガーの内容が映し出される。

 

「なんて……『韋駄天』? 『高速移動での斬撃が可能』、へー」

「そう。予め設定しておいたコースを高速で移動することができるトリガーなんだ。トリオン体の機動力を無理やり引き上げるから発動最中は方向転換とか出来なくなるんだけど、トリオンさえあれば足が無くなっても移動することができるんだ」

「コースを設定っていうのは、バイパーみたいな感じなんですかね?」

「そうそう。ただし那須隊の隊長や太刀川隊の出水みたいにリアルタイムで設定することは出来ないんだけどね」

 

 モニターの中で韋駄天を発動させた際の動きが再現されている。ジグザグに移動するパターンや一度上に跳んでから急降下するパターン、一対多を想定したパターンもあった。

 

「意外と万能ですね。オレを呼んだのはこの韋駄天を使わせるためってことですか?」

「そのとおり、君にモニターを頼みたいんだ。それで使ってみた感想や改良点とかが合ったら報告して欲しい」

「別にいいですけど……どうしてオレなんですか? 他にも腕利きのアタッカーは何人もいると思うんですけど。それこそ素早い動きなら風間さんとか」

 

 確かにトリガーとしては面白そうだがミカンの戦闘スタイルは近寄ってぶった斬るか近寄られてぶった斬るのふたつしかない。少し離れた距離から奇襲を仕掛ける韋駄天は合わないと考えていた。

 

「いやさ、他にも何人かのアタッカーに聞いてみたんだ。勿論風間にも聞いてみたけど『悪いが、戦闘スタイルが違いすぎて参考にならないと思う』って断られたんだよね。他もだいたいそんな感じでさ……ある程度の技量がないとデータも集められないし、虎龍が最後の砦だったんだ」

「つまりオレが断るとデータ収集が出来なくなってお蔵入り、ってわけですか」

「まあそうだね」

「……分かりました。いつもお世話になっていますし、モニターやります」

「おー、助かるよ。じゃあ早速組み込むからトリガー貸してね。『韋駄天』のチューニングも兼ねるから暫くかかるよ」

 

 寺島にトリガー渡すとそんなことを言った。トリガーもないとランク戦も出来ないしどうしようか考えていると班員の1人が声をかけてきた。

 

「虎龍君、今トリガーなくて困ってるって顔してるね」

「……目のクマ凄いですよ(さざなみ)さん」

「あっはは、ココ最近徹夜続きだったからねぇ」

 

 笑い声に反して目が笑っていない。恐らく期限ギリギリの仕事でもあったのだろうとミカンは解釈した。

 

 この女性は漣美月(みつき)、開発室でエンジニアをしている20歳で、そのルックスと明るい性格から開発室の癒し枠となっていた。『なっていた』というのは蓋を開けてみればトリオンに関しての実験を飽きるまでし続け、挙句に仕事を溜め毎週徹夜をするダメな大人だったからだ。

 

「徹夜明けはどうでもいいんだよ。ところで虎龍君、キミはランク戦がしたくてしたくてたまらないって思っているね?」

「え、いやそこまででは」

「分かるさ。だってそういう顔してるもの」

「いやだから」

「そんなキミにオススメの場所があるんだ!興味があるだろう!」

「……すいません、この人何徹したんですか?」

 

 天井に向かって叫びながら力説する漣を他所に、近くで差し入れのコーヒーを飲んでいた男性に聞いた。

 

「三徹だね。今日の朝終わらせたんだけどなんかハイになっちゃったみたいで寝れないんだって。あ、コーヒーご馳走様」

「あ、はい。どういたしまして。というか三徹って漣さん……どれだけ仕事溜めていたんですか」

 

 半眼で見つめ呆れていると、天井を見上げていた漣の首がグリンと元の位置に戻りミカンの目を見つめる。なるほど、確かに目が血走っていると納得した。

 

「1ヶ月分さ、室長が怒鳴らずにコーヒーを入れてくれた時は流石にヤバいと思って徹夜したというわけだよ」

 

 あの鬼怒田が怒鳴らずにコーヒーを出してくれるくらい仕事を溜め込んでいた漣を見てミカンは、『これが大人か……』とどうしようもなく悲しくなった。

 何故クビにならないかというと、やろうと思えば仕事は出来て、しかもトリオンに対して凄まじい探究心がある、実は有能な人材だからだ。

 

「だからそんなことはどうでもいい! 虎龍君! このトリガーを使うといい!」

 

 そう言って漣が渡してきたのは何の変哲もないトリガー、困惑しながら受け取る。

 

「これは?」

「変哲もないただのトリガーさ。中にはイーグレットがセットされてるよ。これに換装して狙撃手(スナイパー)用訓練施設へ向かうんだ!」

「……なぜ?」

「私の妹がいるんだよ。この間虎龍くんの話をしたら会ってみたいって言ってたのを今思い出したから会いに行ってくれたまえ」

「思いつきかよ!」

 

 徹夜明けのテンションが収まりきっていないのかミカンの言葉をスルーして自分の世界に入る。話しかけても反応してくれない漣を諦め、そろそろ行くかと出入口に向かう。

 

「ん? おお虎龍、また来ておったのか」

「鬼怒田さん」

 

 するとタイミングよく鬼怒田が開発室に入ってきた。鬼怒田はミカンに挨拶を交わすとビニール袋に入った大量の差し入れに目をつけた。

 

「虎龍! また差し入れを買ってきたのか! 中学生がそんな頻繁に差し入れなんぞ持って来なくてもいいと言っとるだろうが!」

「けど開発室の人いつも頑張ってますし、オレ自身も世話になっていますから」

「子供がそんなこと気にするんじゃない! 全く、防衛任務に参加できるようになってからずっと続けおって……まあ、持ってきてくれたことには感謝するがな」

 

 鬼怒田は呆れたようにそう言うとミカンの頭に手を置き優しい手つきで数度撫でた。

 鬼怒田はミカンの事情を知っている。大規模進行で父親と弟を失い、復讐に身を焦がしながら近界民を屠る。まだ中学生だと言うのにミカンの心は近界民への憎悪に染まっている。

 親しい人物が増えたからか、平時ではなりを潜めているが、防衛任務の時に見せる憎しみに満ち溢れた表情と近界民の原型も残さないほど刃振るう姿は刹那的な危うさが見える。

 今は一緒に暮らしてはいないが鬼怒田も娘を持つ親の身。放ってはおけず、気づけば声を掛けていた。まだどこの隊にも所属していないミカンのことも考え、暇だったら開発室に遊びに来てもいいと言うくらいミカンのことを気にかけているのだ。

 

「鬼怒田さんの好きなカップ麺も買ってきたけど、あんまりカップ麺ばかり食べすぎないでくださいね。また血圧上がったりしたら怒られますよ」

「おまえに言われんでも分かっとるわい」

「室長、漣が溜め込んでいた仕事を終わらせましたよ」

「む? やっとか。それであの馬鹿は今どこにある?」

「あそこでトリップしてます」

 

 寺島が指を指した方向にはヨダレを垂らしながらブツブツと呟き続ける漣がいた。開発室のかつての癒し枠はただの変人と化していた。

 

「……じゃあオレは狙撃手の訓練室に行ってくるので、チューニング終わったらまた連絡してください」

「りょうかい。じゃあまた後でね」

「さざなみゃああー!!!」

「にょわっ!!? なっ、ししし室長!? なんでここに!?」

 

 鬼怒田の怒声と漣の情けない声を背にミカンは開発室を後にした。

 

 

 

□■□■□■□

 

 

 

 狙撃手用訓練施設に着いたミカンは漣が言っていた妹を探していた。辺りを見回していると何人かの訓練生と目が合う。訓練生はミカンと目が合うと小さく悲鳴を漏らしてそそくさと視線を逸らした。

 

(別に不良でもなんでもないんだけどな)

 

 髪色と目付きのせいで避けられているのが分かっている。ミカンがため息を吐いていると一人の少女が近寄って来た。

 

「あのっ、もしかして虎龍ミカンさんですか?」

「え? ああ、うん。そうだけど」

「うわー! お姉ちゃんやっと言ってくれたんだー! あたし虎龍先輩に会うのずっと楽しみにしてたんですよ!!」

「ま、待て待て落ち着いて。君は?」

 

 まくし立てるよう彼女を制し自己紹介を求める。少女は照れくさそうに頬を染め、コホンと咳払いをして話し始めた。

 

「あたし、開発室に勤めている美月お姉ちゃんの妹の漣ひなって言います! 虎龍先輩に会えて光栄です! 握手してください!」

「あ、握手??」

「はい! あっ、もしかしてダメでした!?」

「いやダメじゃないけど……」

「キャー!! 虎龍先輩と握手しちゃったー!!」

 

 何だこの子は。

 

 自分を見て怖がらない歳下と出会えた喜びと彼女のテンションに対する困惑でミカンの頭の中はごちゃごちゃしていた。

 しかしひとつ言えるのは、確かに姉妹なんだなと言うことだ。よく見れば面影もあるし、性格も似ている。何よりこのテンションが姉妹と言うことを物語っている。

 

「どうしてそんな、オレなんかと会いたがっていたの?」

「それはですね……虎龍先輩は気づいてませんが、あたし、虎龍先輩と同じ時期に入隊したんですよ」

「へえ、そうだったんだ。ごめんね気づかなくて」

 

 入隊式が終えてからの戦闘訓練ではスナイパーはここに移動して訓練を行う。基本的にスナイパーはランク戦をすることはなく、訓練もスナイパーだけで行う合同訓練しかない。なのでミカンが気づかないのも仕方がなかった。

 

「ああいえ別に虎龍先輩を責めているわけではないんですよ。ただあたしたち同期の中では虎龍先輩と木虎先輩はスターなので!」

「スター?」

「はい! だって虎龍先輩は対近界民戦闘訓練で1秒をきり、僅か三日でB級に上がる偉業を達成! しかも勢いそのままあっという間にマスタークラスに上がるんですもん! 木虎先輩は初期ポイントが破格の3600! 戦闘訓練でも1分をきり、今では広報で活躍中の嵐山隊に入り大活躍! 一番の出世株なんですよ!」

「木虎って……ああ、アイツか。嵐山隊に入ってたなんてしらなかったな」

 

 廊下ですれ違う度にぎぬろと睨みつけてくる女子が頭に浮かぶ。

 

「そうなんですか? 木虎さんが嵐山隊に入隊したのは結構話題になりましたよ?」

「その、オレあまり他人と話さないから……なんて言うか、ボーダー内の友達が少ないんだよね」

 

 学校にもまだ通っていないのでボーダー内どころの話ではないが、そこは話さないでおく。

 木虎とミカンの中はあまり良くない。というよりは木虎が一方的にミカンの事を敵視しているのだ。ミカンは忘れているが、戦闘訓練の時に言った「9秒の女子」という言葉をかなり根に持っている。それを知るのは木虎ただ一人だけなのだが。

 

 ひなはパンッ!と両手を勢いよく合わせ眩しい笑顔を浮かべた。

 

「じゃあ、あたしと友達になりませんか!」

「……君と?」

「はい! 話し相手ならあたしがいくらでもなりますよ!」

 

 ふんすっと胸を張るひなを見て苦笑する。妹と姿が被ったような気がした。

 

「そうだな……うん。漣ちゃんさえ良ければ、よろしく」

「はい! こちらこそ! あ、そうだ! 折角だからあたしの師匠に会ってください!」

「漣ちゃんの師匠?」

 

 ひなに手を引かれその師匠の元へ案内される。歳が近いからか、その姿が妹や双葉と重なり自然と笑みが零れる。

 

「ししょ〜!」

「ひな、師匠はやめろと……キミは……」

 

 ツーブロックの黒髪と切れ長の瞳に180はある身長、女性に好かれそうな容姿だなとミカンは思った。

 

「前に話していた虎龍先輩です!」

「ああ、この子が……()劉章(りゅうしょう)だ。呼びやすいように呼んでくれて構わない」

「えっと、虎龍ミカンです。もしかしてハーフさんですか?」

(ハーフさんって……可愛い言い方するんだなあ先輩)

「(ハーフさん……)ああ、父が中国人だ。だが日本に移って8年は経っているから日本語で大丈夫だ」

 

 李がひなの師匠であることは分かったが、自分が連れてこられた理由が分からない。ただ師匠を紹介したかっただけではないだろうに、ひなの意図が読めないでいた。

 

「で、漣ちゃんはなんでオレを李さんの元へ連れてきたの?」

「……? どういうことだ、ひな。まさか何も言わずに俺の元へ連れて来たのか?」

「ふえ? あたしはただ師匠に虎龍先輩を紹介したかっただけですよ?」

 

 李とミカンの目が合う。

 

『なんか噛み合わっていない』

 

 この時二人は意思疎通を可能にした。

 

「……虎龍、ひなは置いといて単刀直入に言う」

 

 「うええ!?」と驚くひなを無視して李は話を続ける。

 

「俺が作るチームに入らないか?」

「チーム、部隊を作るってことですか? 李さんが」

「そうだ。俺も入隊して三年目でな。今まで入ってた隊から抜けてフリーでフラフラしてたら、いい加減隊に戻るなり作るなりしろと本部長に言われてしまってな……その事をひなにうっかり話したら──」

「私もB級に上がったら入るんですよ!」

「……と言った感じで聞かなくてな。仮にひなが入ったとしてもこのままではスナイパー二人の遠距離特化になってしまうんだ」

「そこでオレに白羽の矢が立ったと言うわけですか……素朴な疑問なんですけど、どうして俺なんですか?」

 

 ミカンと李は今日が初対面だ。ひなから話を聞いていたとしてもそれはひなが噂で聞いた話でしかない。そもそもミカンはひなとも今日会ったばかりだ。だと言うのに何故ミカンを部隊へ誘うのか、そこが分からなかった。

 

「キミの話はひな以外からもよく聞く。例えば、雷蔵とかからな」

「雷蔵…? あっ、寺島さんのことですか?」

「ああ。アイツと蒼也……風間とは歳が同じだから親交があるんだ。二人からキミの事はよく聞いている。まあ、それを抜きにしてもマスタークラスの天才攻撃手、しかもフリーの隊員を誘わない手はない」

「過大評価ですよ」

「日本では謙虚は美徳と言うが、すぎれば嫌味に聞こえるぞ」

「……気をつけます」

 

 だとしても自分自身のことを天才と認めるのは何だか痛々しくないだろうか、そう思ったミカンだったが口には出さず心の中に留めた。

 

「部隊、か」

「今すぐ答えを出してくれなくてもいい。持ち帰ってじっくり考えてみてくれ」

「師匠の隊に入れば毎日鮭のホイル焼きが食べれますよ!」

「ひな、それは俺の好物と言うだけで振る舞う予定はない」

「あれ? よく見たら虎龍先輩隊服がいつもと違いますね。どうしたんですか?」

「話を聞け……」

 

 いつもこの調子なのだろうか、李は額に手を当てため息をつく。漣姉妹は良くも悪くも姉妹であることが分かった。ひなのテンションは徹夜明けの漣美月にそっくりだ。

 

「オレのトリガーは今調整して貰ってるんだ。これは漣ちゃんのお姉さんから渡されたトリガー。確かイーグレットが入ってるって言ってたかな」

「イーグレット? 虎龍先輩イーグレットも使えるんですか?」

「いや無理だから」

 

 ミカンの強みは接近戦で活かされるものであり、スナイパーは専門外である。そういった旨を伝えるとひなは肩を落とした。目に見えるくらい落ち込んでいる。

 

「そんなにショックなことかな……?」

「だってぇ……もし虎龍先輩がイーグレットを使えれば狙撃手三人の部隊になるじゃないですか」

「ええっと、それとこれとどう関係があるの?」

「あたしたちの隊が目立ちます! あたっ!?」

「まだ虎龍は頷いていないし、それはバランスが悪すぎる」

 

 再び暴走しそうだったひなの頭に鋭いチョップか降り注ぐ。これ以上ここにいると話が脱線して帰るタイミングを逃してしまいそうだ。

 

「じゃあ、オレはそろそろ戻るので」

「えー!? もう行っちゃうんですかー!」

「ひな」

「うぅ〜でもでもー! うーん……そうだっ! 虎龍先輩もスナイパーの訓練を受けていきましょうよ!」

「いやだからオレはスナイパーは専門外で」

「そうと決まれば早速レッツゴー! 師匠の教え方は世界一ですよー!」

 

 有無を言わさずに訓練所へ向かうひな。ミカンと李は二人同時にため息を吐いた。

 

 後日、李の指導を受けたミカンは『斬った方が早いかな』と言っていた。一方、ミカンを指導した李によると、『得意不得意は人それぞれだからな』と渋い顔で話していたらしい。




自分自身でQ&A

Q・陽菜ちゃんが李さんの弟子になった経緯は?
A・李さんが一度指導した時に弟子にしてくださいと頼まれました。初めはあまり乗り気でなかった李さんでしたが、陽菜ちゃんの熱意と美月の圧に押されて渋々承諾しました。
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