オレンジ・リベンジ   作:妖魔夜行@

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第九話「入学と部隊と」

 月日は流れ今は四月、入学シーズンだ。ミカンの場合は入学ではなく転学だが。

 三門市立第三中学校、二年の教室で担任の女教師が教壇に立ってホームルームをしていた。

 

「皆さんに新しい仲間が増えます。入ってきて下さーい」

 

 先生に呼ばれたので扉を開け、教室に入る。転校生が珍しいのかクラスメイト達は興味深そうにミカンを見ていた。

 

「それじゃあ、自己紹介をして下さい」

「虎龍ミカンです。虎に龍で虎龍、名前はカタカナでミカンと書きます。ボーダーに入るために三門市に引っ越してきました。宜しくお願いします」

 

 そう言って頭を下げるとぱちぱちと拍手が鳴る。ボーダーに入るため、とストレートに話すのもどうかと思ったが、下手に探られるよりはマシだろうと普通に話すことにした。実際、素直に話したことでミカンの容姿に不安を抱いていたであろう生徒たちのミカンの見る目が変わった。

 

「はいありがとうございます。虎龍くんは転校してきたばかりで慣れるのに時間がかかると思います。だから皆さん、虎龍くんが困ってたら助けて上げてね」

 

 先生の言葉にクラスメイトは「はーい」と声を合わせる。ミカンはなんとか馴染めそうだなと一安心した。

 

「えーと席は……三雲くんの隣が空いてるね。じゃあ虎龍くん、あそこの席に座って」

「はい」

 

 言われた通り三雲と呼ばれたメガネの少年の隣の席に座る。隣同士ということは何かと世話になるだろうと思い、ミカンは手を差し出した。

 

「よろしく三雲」

「え、あ、ああ。こちらこそよろしく、虎龍くん」

「呼び捨てでいいよ。オレも呼び捨てで呼ばせてもらうから」

「そ、そう?」

「うん。同級生なんだから敬語もいいよ」

「分かった」

 

 修からは気が弱そうだが優しそうな印象を受けた。

 その後、教科書などを配布しホームルームは終わり帰ろうとしたミカンはクラスメイトに囲まれた。

 三門市から去っていく者は多いが、こちらにやってくる者は中々いないということと、クラスメイトの1人がミカンが既に正隊員になっているという情報を得ていたことから暫く質問攻めを受けることになった。

 

「や、やっと解放された……」

「だ、大丈夫か? やっぱりあの時強く止めていれば良かったかな」

 

 結局先生が来るまで質問を答え続けたミカンはげっそりとしていた。修が心配そうに気遣ってくれるのを見て、第一印象通り優しいやつだということが分かった。

 

「そんなに疲労するくらいだったら途中で断っても良かったんじゃないか?」

「いや、でも皆、オレをクラスに馴染ませるために話しかけてくれたわけだし……断るのも失礼かなって」

「虎龍は優しいんだな」

「三雲ほどじゃないよ」

「僕? 僕は何もしていないだろ?」

 

 いきなり何を言うんだ? と首を傾げる修にミカンは呆れたように話を続けた。

 

「お前自分のことになると無頓着になるって言われないか?」

「言われないが……?」

 

 修はミカンが質問攻めを受けている時に転校初日で疲れているだろうからその辺にしときな、とクラスメイトを窘めてくれた。一歩間違えば自分が顰蹙を買うかもしれないのに、だ。

 

 実際はクラスメイト達も納得してくれたのだが、ミカンが『ここでコミュニティを築いておかないと後々苦労する』と思い、質問を続行させた。疲労しているのもミカンの自業自得なのに修は自分のせいだと思っている。

 

「なんて言うんだっけ……ああ、そう。面倒見がいいんだな三雲は」

「だからなんでそうなる……?」

 

 ミカンの言っていることを理解できない修は帰り道でずっと疑問符を頭に浮かべていた。それが何だかおかしくて自然と笑みが零れてしまった。

 

「ただいま」

「おかえり〜ミカンくん。学校どうだった?」

「早速友達も出来て上手く馴染めそうです」

「あら〜それは良かった! リンゴちゃんも来年双葉が通う学校に入学だし、双葉も進学したし、今夜はお祝いしなくちゃね! 何か食べたいものはある?」

「えっ? うーんと……すき焼きとか食べたいです」

「すき焼きね、分かったわ! 奮発してちょっと高いお肉買ってくるわね! リンゴちゃんも牛肉は食べれるのかしら?」

「食べれたと思いますけど」

「了解!」

 

 そう言うと叔母は鼻歌を歌いながら買い物に出かけた。ミカンが明るくなったのは、我が子のように可愛がってくれる叔母や叔父のような存在が身近にいたからだろう。

 

「ただいま。なんかお母さんがウキウキしてたんだけど……どうしたのあれ?」

「今夜はすき焼きよ〜ってスキップしてたよ、叔母さん」

 

 困惑した表情で帰ってきた双葉とリンゴにミカンは苦笑いを浮かべながら説明した。これも愛されている故なのだろうか……? 

 

 

 

■□■□■□■

 

 

 

 転校してから一ヶ月が経つ頃にはミカンはすっかりクラスに馴染んでいた。ボーダーの方も順調に進み、弧月のポイントは10000の大台にまで乗り上げていた。

 休日、防衛任務を終えたミカンはランク戦をしようとランク戦室に来ていた。

 

「なんか見慣れない顔が何人もいるな。と言うよりも訓練生が増えた……?」

 

 心做しか普段よりC級隊員が多い気がする。気のせいかと考えていると聞き覚えのある声をかけられた。

 

「ミカン? やっぱりそうだ。久しぶり!」

「熊谷さん、どうも」

「二週間ぶりくらいね。聞いたわよ、攻撃手(アタッカー)ランキング5位になったんでしょ? おめでと!」

 

 ランク戦をし続けていたらいつの間にかポイントが10000を超え、気づいたら攻撃手ランキング5位という位置に着いていた。

 

「あ、ありがとうございます。ところで……なんで今日こんなにC級隊員がいるんですか?」

 

 歳上の、しかも女性に祝われることなど中々ないミカンは照れくさくて仕方がなかった。赤くなった顔を隠すためすぐに話題を変える。

 すると熊谷はミカンが理由を知らないことに驚き教えてくれた。

 

「えっ、ミカン知らないの? 今日は正式入隊日じゃん」

「正式入隊日……ああ、なるほど。今日か。ってことは……」

 

 正式入隊日は一月、五月、九月と年に三回ある。ミカンが入隊したのは一月だったのであの日からもう四ヶ月も経っているのかと思うと感慨深いものがある。

 

「今年も凄いのが入ったみたいよ。なんでも戦闘訓練で4秒を叩き出した子がいるとか!」

「へえ」

「『へえ』って……興味無いの?」

「まあ、あんまり」

 

 ミカン自身が1秒切りを果たしていることもあり、余り凄さが伝わらないのだ。そんなミカンに熊谷は呆れた目線を送る。

 

「確かにミカンは天才だもんねえ」

「天才って……やめてくださいよ。そんなんじゃないですから。本当の天才は太刀川さんみたいな人のことを言うんですよ」

「いや、あの人はもう別枠でしょ」

 

 A級1位太刀川隊隊長、太刀川慶。攻撃手、総合ランキング1位でありポイント40000超えという怪物だ。以前ミカンも個人ランク戦をする機会が合ったのだが、その時も5本勝負で1本しか取れずに負けた。

 

「というか、太刀川さんから初見で1本取ったあんたもその別枠に足を踏み入れてるんだからね。自覚しなさい」

「そんなこと言われても……」

「お黙りスーパールーキー」

「マジでそれやめてください」

 

 真顔で拒否するミカンに対して「にひひ」と悪戯っぽい笑みを浮かべる熊谷。一時期米屋がミカンの事をスーパールーキーと呼び続けたせいで会う人会う人に「やあスーパールーキー君」、「おっ、スーパールーキーじゃねぇか」、「スーパールーキー先輩! 一緒にお昼食べましょー!」と面白半分で呼ばれる事態になってしまったのだ。

 流石のミカンも堪忍袋の緒が切れて防衛任務終わりの米屋を捕まえて個人ランク戦で搾り取った。そのおかげで攻撃手ランキング5位になる程のポイントが稼げたのは蛇足だろうか。

 そんなことがあったせいでミカンはスーパールーキーという単語に対して忌避感を覚えるようになってしまった。ついでに米屋も冷や汗を流すようになった。

 

「それは置いといて、その4秒の新人のポジションってなんでした?」

「攻撃手ね、武器はスコーピオンを使ってたわ。結構小柄だったからまだ小学生とかじゃないかしら?」

「へえー……もしかして女の子でした?」

「いや? 男の子だったけど、なんで?」

「従兄妹が入隊してるんですよ。黒江双葉っていうツインテールの女の子なんですけど。運動神経いいからもしかしたらと思ったんだけど、男子なら違うかぁ」

 

 もしかしたら携帯の方に連絡が来ているかもしれないと思い内ポケットに手を伸ばそうとしたところ、熊谷が口を開く。

 

「ツインテールって、この子みたいな?」

「そうそうこんな感じの……って、双葉!?」

「ミカンみっけ」

 

 いつの間にか目の前に立っていたのは今しがた話に出てきた黒江双葉本人だった。その隣にはくせ毛の男の子が立っている。

 

「双葉と、君は?」

「おれは緑川駿。双葉の幼なじみでーす」

「幼なじみ、へえ。ああ、オレは虎龍ミカン。よろしく」

「みかん……ああー!! この人が双葉がよく話すミカンさんか!」

「ちょっと、余計なこと言わないでよ」

「怖〜。ねえねえ、ミカン先輩って呼んでもいい?」

「へっ? あ、ああ。いいけど」

「やたっ。よろしくミカン先輩!」

 

 にんまりと子犬のように笑う緑川を見てミカンは随分人懐っこい子だなあと思った。

 

「その子が双葉ちゃんね、あたしは熊谷友子。よろしくね」

「く、黒江双葉です。よろしくお願いします!」

「んー、可愛い子ね。キミは緑川くんだっけ、あんたもよろしくね」

「うん、よろしく熊谷先輩! あ、ねぇねぇミカン先輩、双葉って家ではどんな感じなの?」

「ちょっと駿!」

 

 緑川は慌てる双葉の顔が見れて満足したのかひとしきり笑うと続けて口を開いた。

 

「面白い双葉も見れたし、おれランク戦行ってくるね。またねーミカン先輩、熊谷先輩も」

「ああ。またな緑川」

「元気な子ねー。なんか子犬みたい」

「わかります」

 

 ブンブンと手を振って個人ブースへ向かう緑川の頭と腰に耳としっぽを幻視する両人。

 

「……じゃあ私もランク戦してくるね」

「おう。頑張ってな」

「頑張ってね双葉ちゃん」

「はい。頑張ります。じゃあ後でね、ミカン」

 

 丁寧にお辞儀をしてブースへ走って行った双葉の背を見送る。

 

「それじゃあ、オレもこれで」

「ええ。またね」

「はい、また」

 

 熊谷に挨拶をして、ミカンはロビーを後にした。

 

「……ん? 後でね、ってなに? どゆこと?」

 

 暫く熊谷の頭にはてなマークが浮かび続けた。

 

 

 

□■□■□■□

 

 

 

 オペレータールームへ向かっている最中にお目当ての人物が見つかった。あちらもミカンに気づいたようで、駆け足で近寄ってきて、飛びついてきた。

 

「あっ、お兄ちゃん!」

「おっと、コラコラ急に抱きつくな。危ないだろ? 研修は終わったのか?」

 

 危なげなくリンゴのことを抱きとめた後、頭を撫でてやる。リンゴは顔をふにゃふにゃに緩ませて柔らかい笑みを浮かべる。

 

「えへへ。今日はもう終わり! あのねあのね、沢村さんが来月から防衛任務のオペレーターに着いてみようかって言ったの! 私が予想以上のペースで頑張ってるからって!」

「へえー! 凄いじゃないかリンゴ!」

「えっへん! ……でもね、部隊のランク戦をオペレートするのはまだ早いかなって言われたの……だから早くても参加は次の次のシーズンからになっちゃうんだ……」

「うーん、まあそれは仕方ないさ。リンゴはまだ中学生になったばかりだし、というかそれでもめちゃくちゃ凄いからな? 他の隊のオペレーターを見ても大体高校生以上だろ?」

 

 そもそも中学生上がり立てでオペレーターになる方がおかしいのだ。一口にオペレートと言ってもやることは多岐にわたる。防衛任務でも近界民の出現地点予測、座標修正、増援の有無の判断、攻撃解析、周囲の確認、その他もろもろ……これがランク戦になると情報処理がもっと増えることになる。この前まで小学生だった子供が処理できる内容では無いのだ。

 それでもリンゴがやるのはミカンの、ひいては部隊のためだ。

 

「でも隊長さんとひなちゃんも待たせてるし……」

「二人も気にすんなって言ってたろ? むしろもっと時間をかけて完璧になって来いとも言ってた」

 

 既にリンゴ達の顔合わせは済ませてある。実家から帰ってきた後、ミカンが部隊に入りたいと話すと二人は喜び歓迎してくれた。加えてもうひとつ、オペレーターを自分の妹に任せたいとお願いするとそれもまた快く承諾してくれたのだ。

 ひなは──

 

「私と同い歳なんですよね? すぐ仲良くなれそうですし、それに先輩の妹さんなら大歓迎ですよー!」

 

 と、若干能天気な答えを返してくれた。

 李はと言うと──

 

「オペレーターとして一人前になるまでは部隊に参加させることは出来ないから仮部隊となるが……まあ些細なことだし気にするな。まだオペレーターも探してなかったから丁度良かったしな」

 

 そう答えてくれた。顔合わせの時も特にトラブルも無く済んだし、来月から始まるランク戦は無理でもその次のランク戦から参加すればいい。

 

「連携を磨いて、個々の技量を上げて、ランク戦に殴り込むのはそれからだって隊長も言ってたじゃんか」

「……うん、そうだね。私頑張る!」

「その意気だ。双葉はこれからまだ訓練が長引くらしいし、一緒に先帰ってるか」

「うんっ!」

 

 ミカンが右手を差し出すとリンゴは嬉しそうに左手で握り返す。その姿は仲睦まじく、二人の様子を微笑ましそうに見る職員たちがいたとか。




自分自身でQ&A

Q・弟はサッカー、妹は将棋の習い事をしていたけどミカンは何もやっていなかったの?
A・何もやっていませんでした。ただその分勉強に力を入れていました。母親から「学業成就」の刺繍が入った手作りのお守りをもらっています。
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