ONE PIECE 『ドレスローザ奪還』RTA【完結】   作:九時誤字くじら

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幹部としての任務〜女ヶ島からの引き抜きまで

今どき魚人差別は流行らないRTA、はーじまーるよー。

魚人空手を習得して泳げるようになった終身名誉魚人ティンくんですが、やはり彼が苦手とするのはやはり『地上にいる強めの雑魚』です。

 

まぁ、理由はこれがRTAだからで、1撃で沈まない上に大した経験値もくれないタフなだけの雑魚は本当にカスです。

なので初手でホーディを狩っておくのはRTA的には不確定要素をなくすためにも必須でした。

 

話を戻します、ですが苦手なんてものがあっては、ドフィからの信頼度、ひいてはファミリーからの依存度はあまり上げられません。

 

では、それをどう埋めるか。

……そう、雑魚狩りに向いた″能力者″と組めばいいのです。

自分がいないと成立しないバディを作れば完成です。

 

候補はいくつもあります。

『パムパムの実』で一気に吹っ飛ばせるグラディウス。

『イシイシの実』で地形ごと消し去れるピーカ。

『ホビホビの実』で相討ち狙いをできるシュガー。

 

ですが、この3人は使いません。

理由は単純で、この3人はとても好感度が上がりにくいです。

そしてシュガーなんてキャラが次々に忘れていくのでリアルでメモをとるのが面倒くさいです。

『知育玩具』とか『ファミリー腐敗の要』と呼ばれるだけあって運用に頭脳と手間を必要としますね。

 

なので、選ばれたのは『ユキユキの実』で一斉に凍えさせて足切りができるモネでした。

 

管理としては楽です。

なにせ誠実さ、実力を示していれば勝手に好感度が上がり、しかもアプローチをすればさらに上がりやすいからです。

 

ヴェルゴさんもしっかり敬意を示す身内には優しいですからね。

なのでしっかりさん付けで呼びましょう。

 

というわけで、早速ですが電伝虫によってドフィに報告します。

 

……電話に出たのはディアマンテですね、では早速今回の『心優しい老夫』という役に合わせて報告しましょう。

『死んだ海賊の話をしよう』『私の肺は世界中の海賊船を解体するだけの力を持っている』『仲間を皆殺しにされたのにインペルダウンで生きていくなんて、これじゃあ!』『あの子達があまりにも不憫だ!』『頼む、次からも死なせてやってくれ!』……という選択肢です、なんだこのエアプさん。

 

ディアマンテは資金さえ出してくれるならこだわらないらしく、彼は『ならもっと船落としてこい』と笑顔で言ってくれました。

 

では、もっと落としに向かいましょう。

メンバーはモネさんとドルシネアさん、そして魚人たちなのでモネさん以外は船に乗せないスタイルです。

棺桶ダンスみたいになってますが気にせず行きましょう。

 

道中にいる海賊船は全て竜骨を魚人空手でブチ折る単純作業なので倍速。

 

ひとまず、向かう先は『ドレスローザ』で準備した後で『女ヶ島』です。

ドレスローザのドフィの部屋の金庫があるので、その中に手に入れたありったけの財宝全てを入れておきましょう。

 

これは最後の最後で活きます。

 

そして今度は普通にそれなりの船をもらいます、あと幹部としての名前もドフィから与えられました。

 

ファミリーネームは『ドルシネア』ですね。

既に人格らしい人格の実在しない男に存在しない女の名前をつけるあたり、やはりドフラミンゴのネーミングセンスは信頼できます。

 

ドルシネアは剣術が使えないんだこのヤロー!

航海術も使えねえし、料理もつくれねえし、砲術も使えねェ!

そんな彼に何ができるか。

 

──島から島まで船を引いたまま生身で泳げて、説得と覇気が使えます。

 

フィジカルゴリラのオトヒメ王妃、又はキュロス(種族名)みたいなもんですね。

 

なので女ヶ島に行き、七武海入りしたばかりのハンコックと同盟を組めないか打診しましょう。

……直前で場面が切り替わったので性格がチェンジされました、『サイコでミステリアスな女性』の役です。面倒ですね。

 

ハンコックと同盟を組めるだけの好感度を稼ぐには、いくつか条件が必要になります。

 

現時点で判明しているものはいくつかあります。

 

・奴隷を解放したことがあること

・魚人の歴史を知っていること

・魚人島の話をすること

・覇王色の覇気を使えること

・一定の戦力を保有すること

・性的な目で見ないこと

・対等なスタンスで話すこと

 

というのが現時点での彼女の隠し好感度を稼げるものとして判明しているのですが、今回は魚人島の加盟に関して七武海の立場から署名してもらいつつ、個人で彼女の国の傘下に入る様な形で女ヶ島との交易を許可してもらいます。

 

はい、女ヶ島を解放した理由ですね。

それは、彼女らはどんな方法で手に入れた財宝も換金してくれるというものがあります。

 

つまり、貴族の船を沈めて行方不明にしても、国を1つくらい沈めても、奴隷を勝手に解放して仲間にしつつ暴れて周囲の人々から金品を丸まんま奪い取っても、ハンコックと魚人島の人々が手を回して許してくれる様になるのです。

 

これにより我々は自由になりました……ティーチの様に。

ついでに女ヶ島で演説をして末端の戦士たちを部下に加えていきましょう、末端でも覇気を使えるのでとても彼女らは頼りになります。

 

帰りに海賊船を見つけることができるので、武装色を纏った弓矢で寄って集って穴を開けつつ解体しましょう。

多少泳げる人間もいるみたいですが、魚人空手でぶん殴れば大体死ぬのでロスはないです。

 

脱出ボートは魚人たちの力で奪います、数は正義ですね。

 

今回の敵船は『ネコネコの実・モデル黒猫』『オビオビの実』の2つの悪魔の実を持っていましたね。

こちらもキーアイテムとして使っておきましょう、ついでに宝箱を女ヶ島に置いていきます。

 

そして略奪中にアイテムを拾えました、『海鳥の図鑑』です。

モネ専用のプレゼントアイテムなので、これをしっかり渡しておきましょう。

 

好感度も上げたところでドフィに連絡、そのままモネとパートナーを組みたいと申請して終了です。

 

今回はここまでです、ご視聴ありがとうございました。

 

 

彼は、少し変な人だった。

……元バディのヴェルゴも変といえばすごく変だけど、その彼を見てもなお、変としか言えないくらいだ。

 

『不憫ってお前……自分で溺死させた海賊相手に言う言葉か?』

 

「頼む!次からも死なせてやってくれ……!」

 

『あぁ、そこまで言うなら仕方ねェ!ただし1.3倍沈めろ!』

 

ついさっきまでやってたありんす言葉をやめて、突然の激情キャラ。

舞台を終えて別の役に切り替えるかの様に、彼は瞬く間に身振りも口調も、その両方を変えた。

よくわからない奴。

でも、似た様なのが近くにいたから少し慣れている。

 

「死なせた原因は刀か、没収する。……おや妙だな、刀が見当たらない」

 

「いえ……彼はノコギリで首を斬っていたわ……うっぷ」

 

「そうだな、彼は武器らしい武器を持っていなかった」

 

そして何より恐ろしいのが、彼は普通に初対面の先輩に海水漬けの生首を運ばせる様な奴だったという事実だ。

確かにこの人数を数日で仲間に引き入れる『素質』は下手したら若以上かもしれないが、彼はかなりの異常者だ。

……いっそ両手を誰かと交換したい、と思ってしまうくらいである。

 

「ヴェルゴさん。というわけで死なせるが、効率的な問題なんだ……私を許してやってくれ!」

 

「ならおれは許してやるが、コイツが許すと思うか?……おや妙だな、ベビー5が隣にいない」

 

「あなた潜入中じゃない……それにあの子は謝られれば許すと思うわ」

 

「そうだ、俺は潜入中だしアイツは甘かった……!」

 

はぁ、とため息を吐きつつ、そのやりとりを見守る。

その時、ふと彼が腰を上げたのが見えた。

ここに到着して間もないが、もうどこかに行くつもりらしい。

 

「そういえば、最近女ヶ島の皇帝が王下七武海入りしたそうじゃないか」

 

「そうね。ちょうどあなたが外出している間じゃなかったかしら?」

 

「そうか!国を挙げて彼女に歓迎の挨拶をしに行こう!」

 

「……なんの前触れもなく大勢で挨拶しにいくのは迷惑じゃないかしら」

 

やや常識の欠けた言動にため息を吐きつつ、彼を連れてドレスローザへと帰還する。

 

乱暴そうな魚人たちが付いてきていたが、新人の彼と共に船を一掃してくれるので私としてはかなり楽に帰ることができた。

この辺はなんというか、彼の計算という部分もあるのだろうか。

 

そんな風に考えながら若の部屋に入った所で、ついにティンが袋から宝箱を取り出した。

 

「ああ、ドフィくん。金庫がどこにあるかおしえてくれないか!」

 

「フッフッフッ、金庫ならこの部屋にある。入れておいてくれるか、″ドルシネア″……!」

 

「ドルシネア?……それが私の名前か?」

 

「そうさ、お前の働きならもう幹部をやっていい!ファミリーの皆は過去を捨てて新しい名前を授かる……お前は過去を捨てて″ドルシネア″になるんだ……!」

 

ティン改め、ドルシネア。

凶暴でありながらも繊細そうな彼は、その言葉に頷きながらそっと『役』を切り替えたように見える。

 

「ところで″若″、必要な悪とは国家が首輪を付けて『支配』しているものです」

 

「……?よくわからねェな、ドルシネア。まさかコロシアムの事を言いたいのか?」

 

「いえ。新聞を読んだため″王下七武海″の新入りに、挨拶をしに行くべきかと思いました」

 

「……!!フッフッ……!!あァ、それくらいなら勝手にやってくれて構わねェ!」

 

基本的に、ヴェルゴに怒られて落ち込んだ様子を見せるくらいには繊細。

だけど、それはそれとして王下七武海という同じ立場の若様に、間接的とはいえ面と向かって『悪』と言い放つ度胸も持つ。

 

ますます彼の事が、よくわからない。

空を飛べない、泳げない私は同行すればボートの上で座っているしかなくて、ついメガネをかけて考え直しながら背泳ぎをする彼の顔を見つめる。

 

「……やっぱり、見た事があるような」

 

「へぇ……じゃあモネくんは私の過去に関係しているのかな?」

 

「そうね……あなたと会った事があるのかも」

 

──故郷だろうか。

 

私もシュガーと一緒に救われた日から数日前くらいの事はショックによる記憶の混乱があり、多少覚えていない顔もある。

 

その関連だとしたら、目の前で親に斬り殺されかけたり、姉を目の前で撃ち殺されたり、人格が崩壊するような過去を背負っていてもおかしくはない。

 

「でも、やっぱり私の過去にあなたはいないのかも」

 

「……そう?」

 

「絶対忘れないくらいタイプだからかな、モネさんみたいな綺麗な人」

 

「……!はぁ……フザケるのはよして!」

 

怒られても笑いながら、背泳ぎで船を引く彼の真意はやっぱりよくわからない。

全てを壊したい。

そう言っていたと聞くが、やはりそれが全てなのだろうか。

 

「フフフ……関係ないけどモネさん、『田舎のネズミと都会のネズミ』ってお話は知っている?」

 

「知ってるわ……私は『蟻と鳩』の方が好きよ」

 

得体が知れない。

だからつい、妙な事を言って彼を揺さぶってみる。

すると、彼は少し目をパチクリとさせてから、ボートを指差して少し微笑んだ。

 

「まさにこの状況だね、モネくん」

 

「そうね……でも、私は鳩の方がいいわ」

 

「私も、蟻より鳩が好き」

 

「はぁ。……ユキユキの実でも空を飛べたらいいのに」

 

私は、鳩みたいに飛んで蟻を助けることはできないから。

それに、若様の役に立つためとは言えカナヅチになったから。

妹もそうだし、私もそう。

……そこは、やっぱりヴェルゴが羨ましい。

 

「でもさ、モネくん。私は……」

 

「前、着いたわよ」

 

私情はともかく、私はもっと彼の本性を知りたい。

若様は疑っていないけれど、彼については知らないこともたくさんあるから。

 

「よし。じゃあ行こう、モネくん」

 

「行くって、関所にでも行くの?九蛇にそんな高等なものがあるとは思えないけど……!」

 

「前提として、偉い人は、高いところにいます」

 

「……?ちょっと?」

 

ビュン。

そんな音がしそうな勢いで、彼は勢いよく地面を蹴る。

あっけに取られる私を他所に、彼は空中に飛び上がってからもますます加速して、九蛇の王宮らしき場所にまで私を連行してきた。

 

──まずい、思った以上にこの男は無茶苦茶だ!

 

「ちょっと⁉︎大事になるわよ、というかどうやって飛んだの⁉︎」

 

「空気中の水分を魚人空手の技で蹴りました。『魚人空手』とはこういう武術です」

 

「そうだったのね……それはわかったから、早く逃げるわよ」

 

「……っ⁉︎誰じゃ‼︎」

 

案の定というか、大事になった。

この島の王らしき身なりのいい女性がやってきたのを見て、青ざめる私を前に彼は冷静に微笑んでいる。

 

初対面から生首持たせてきたりとおかしいとは思っていたが、ここまでとは。

 

「私はドルシネア、王下七武海の新入りとして挨拶にまいりました」

 

「……この島は男子禁制じゃぞ」

 

ならば私が。

そう考えて前に出る私を制して、やはり彼はそのままだ。

いっそ雪で凍らせて連れ帰ろうか、と思ったが、あのボートは彼が動力だ……彼を凍らせれば帰れなくなる。

 

──はっきり言おう、詰んでいる。

 

青ざめる私に対して、彼はやはりというか冷静なままだった。

 

「この世の中には″奴隷制度″、″差別″、″戦争″に″海賊″……無くなった方がいいものがたくさん存在します」

 

「聞いておるのか?これ以上居座るのなら、わらわが直接……」

 

「単刀直入に言います、″魚人島と交易すると言いなさい″」

 

……ダメだ、この男はイカれている。

精神面もそうなら、私が数回叩いて止めようとしているのにダメージの見て取れない肉体もそうだ。

狂気の沙汰という他なかった。

 

何故、ここで魚人島。

そう思っていたが、しかしそこで不意に女帝の表情が変わったのを感じた。

 

「……魚人島と?どういうつもりじゃ」

 

「あそこのオトヒメ王妃は友人です。海賊国家の九蛇に魚人島経由で違法な盗品を売り捌き、そうしたやり取りをする事で3者に利益を出そうと考えました」

 

「ほう?たしかに、地理の都合的に合理的ではあるが……互いに、互いの″海賊″が治める国を信頼してよいのか?」

 

「はい、信頼できる相手だと、これから先魚人島が傘下に入る″政府″にも言われています」

 

……女帝と新入りでは立場は違うが、七武海同士の実質的な同盟。

つまり魚人島の周囲には『ジンベエ』を含めて3つの七武海があることになり、故に魚人族に手を出すことは出来なくなる。

そしてジンベエが中間にいる以上、我々2人も不正な取引なんかはできない。

たしかに、いいアイデアといえばそうだ。

 

「わらわは政府を信頼しておらぬが……」

 

「ならシンプルな話ですね。友達になりましょう。血液型は?」

 

「突然何じゃ⁉︎……血液型はSじゃが」

 

「私と同じですね。オトヒメ王妃と3兄弟も同じ血液型なんですよ、なので、銃殺されかけたタイミングで彼らには輸血をしてもらったことがあります」

 

銃殺。

初めて聞いた話に思わず目を見開くが、彼は気にした様子もない。

彼の初仕事はシャボンディ諸島だったが、恐らくはその下に潜っていったのだろう。

 

──彼は意外と、人魚が好きだったりするのかも知れない。

 

そして何の縁かはわからないが、女帝の興味も引けているように見える。

……どういう事だ。

ますます、この男がわからない。

 

「ほう、魚人島か。いずれ行ってみたいものじゃな、魚人には少し縁がある」

 

「リュウグウ王国は、オトヒメ王妃とフィッシャー・タイガー……海賊と王妃が並んで英雄として奉られる、ここ(アマゾン・リリー)みたいな国」

 

「そう言われると嬉しいが……犯罪に彼らを巻き込むわけにもいくまい」

 

たしかに彼女の興味は引けたみたいだが、それまで。

そう考えて息を吐いた私に、しかし彼は何かを思いついたような顔で手を叩いた。

 

「では、ドレスローザと直接交易すると言いなさい。これは助言です」

 

「うむ。それがよかろう」

 

「……ええ⁉︎」

 

「何を驚いておる?わらわにとっては格安で財宝が手に入る、こやつにとっては合法で盗品を換金できる……WIN-WINじゃ」

 

あまりに堂々とした、闇社会の人間同士のやり取り。

若様のようなスタイリッシュさとは程遠い、あまりにも強引でワンマンな手続きに思わず口を押さえて黙り込んでしまう。

 

……あまりにも、スムーズすぎやしないだろうか。

 

「は、反発を招かない?そんな簡単に決めて……」

 

「いえ、恐らく許される……ハンコックは美しいから」

 

「そうじゃ、わらわは美しいから全てが許される」

 

「そう……?」

 

謎理論での国交。

首を傾げつつ、しかしどこか二人が通じているような部分には首を傾げる。

……まるで、互いの心が読めるみたいで。

 

「ところで、王下七武海以外のメンバーなら何人か引き抜いていってもいい?人間への差別を解消するためにもメンバーを増やしたかったんだ」

 

「ほう、そんな末端の戦士でよいのか?確かに我が島の戦士なら末端とて多少覇気は纏えるが」

 

みんなが覇気を纏えるというのは、かなり脅威である。

確かに私の事を考えると彼がすぐここに来たのは英断かもな、なんて考えていると、彼は突然何もない壁を指差した。

 

「ありがとう。あそこの船の財宝、置いていってあげる」

 

「何じゃ、もう船が見えておったか。では財宝は全て欲しい、あとお主の財布も置いてゆけ」

 

「私……財布持ってないけど」

 

「なんじゃと⁉︎……ハァ、次は置いてゆけ」

 

どこか困惑しながら覇気を用いているらしい異様なやりとりを見つめていると、今度は彼が街へと降りていった。

もはや何が何やら、と目を回す私を前に、彼は大きく声を張り上げる。

 

「ボア・ハンコック公認で出入りを許されました、私は王下七武海直属のドルシネアです」

 

「男⁉︎本で読んだ通りだよ!……初めて見たけど、男は空を飛ぶんだね!」

 

「しかも蛇姫様と話してきたらしいの巻ね。男にはゴルゴンの呪いが通じないの巻?」

 

インパクトにざわつく市民たち。

だが、彼はやはり淡々と話を続ける。

 

「″自由″、″宴″、そして″財宝″……外界には皆さんを幸せにしてくれるものがたくさんあります」

 

「……蛇姫様の傘下というのは本当なのか?」

 

「はい。……ですが傘下入りの条件として、あちらにある海賊船の財宝を全て置いていくことを言い渡されています」

 

「なら、略奪するしかないわね!」

 

彼の演説に、という様子ではない。

彼はお世辞にもカリスマの人、と言えるような人物ではないから。

バカでノロマで、下に付く人間はあまり増やせない。

 

──ただし、バカでノロマなのは支配者にとってはプラスだ。

 

そして彼はそれを理解した上で、″支配者の名前″を使い、支配者のカリスマを使って他者をまとめ上げている。

 

「もしかして……次の最高幹部、決まったかしら?」

 

「どうかしましたか、モネ。置いて行きますよ」

 

「置いてっ⁉︎……はぁ、私も飛べたらいいのに」

 

遠くから海賊船を見ていたが、それは哀れなものだった。

船体に次々に弓矢で穴を開けられ、魚人空手で竜骨を折られる。

 

そして溺れて出てきたらさらに彼の拳を浴びせられ、撃ち漏らすことなく九蛇の戦士と魚人の一斉攻撃に合う。

 

──例えるなら、はぐれたライオンが軍隊アリの群れを率いているような光景だ。

 

集団、というのがさらに集団の攻撃性を高めて、そしてそれを彼が『集団の代表』として操る。

 

「……若様のやり方とも違う、支配」

 

「モネくん、ハトの方が好きだって言ってたよね?」

 

「そうだけど、それがどうかした……の?」

 

恐ろしい男。

そう思っていたら、突然彼がこっちに宝箱を持ってやってきた、

片手には、『野鳥図鑑』と書かれた本。

 

──子供の頃に無くしてしまった、肉親からの唯一のプレゼントだ。

 

きっと彼にとっては、意識しての事でもないのだろう。

だが、それでもこれは私にとって最高のプレゼントだ。

 

「もう一回言うね。私も、鳩が好き」

 

「……聞いたわ」

 

「でも、私は鳩よりも、モネくんが好き。だから、あげる」

 

「……!」

 

──ふと、シュガーの泣き顔が頭をよぎった。

 

あの日の彼女は確か、食事よりもなによりもブリキのおもちゃで遊ぶことを優先するくらいの歳だった。

でも、そんな妹が家が焼けた日に、流した涙。

 

──『お姉ちゃんの図鑑が……!』

 

あの子は、本当に家族思いの子だった。

若様には感謝している。

あの後、民衆であるにもかかわらず捕虜として殺されかけていたところを助けてもらったのも、ユキユキの力をもらったのも、全部ドフィのお陰。

 

私の今があるのは、あの人のお陰。

そして今、あの人の元にいたら、何の因果か元に戻ってきた。

 

「……ふふっ」

 

「どうかした?」

 

──シュガーみたいね。

 

そんな言葉は飲み込んだまま、そっと奪われた船のうち、まともそうないくつかの船に皆で座り込む。

きっと彼は、役に立ってくれる。

衆愚のリーダーとして、衆愚を都合のいいように操ってくれる。

そんな『愚王のカリスマ』『烏合の衆の頭』とでも呼ぶべき素質を感じて、私はそっと微笑みながらふやけた紙のページをめくった。

 

『ギンバト、ジュズカケバトの変異種』

 

「ユキユキの実。……真っ白でさ、まるでモネくんみたいだよね。だけど、じゃあ私が蟻なのかな?」

 

「ふふ……あなたはカラス、とかじゃないかしら?」

 

「虚栄のカラス、かな?」

 

……まるで、誰かを演じているみたいだから。

ファミリーであるからにはそのままの彼を見てみたいのだけど、ちゃんと彼はそのままの彼としてやってくれるだろうか。

 

「ねえ、モネくん」

 

「……いいわよ」

 

海岸に宝箱を設置し、海賊の持っていた信号弾を打ち上げて合図をする彼。

その彼がこちらに振り向いて何か言おうとしたので、なんとなく予想して先に頷いてみる。

 

すると彼は驚いたような表情をしながら、こちらに微笑みかけてきた。

 

「……あなた″も″未来が見えるの?」

 

「え……あなたには未来が見えるの⁉︎」

 

衝撃の事実に口を押さえながらも、大勢の人間を乗せて作った船で海中の海王類を倒しつつ行進する。

 

──彼は、ファミリーの中枢になってくれるかもしれない。

 

この時の私はそんなことを考えながら、船の中で屈強な戦士に囲まれたまま湿っぽいページをめくったのだった。

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