ある半鴉人斥候の話   作:yagra

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第3話です。


03 辺境の街 初依頼

 かれこれ3日ほどかけて、彼女は何事もなく西の辺境の街へとやってきていた。

 ここに来たのには理由がある。それは至極単純、冒険者登録をするためだ。

 両親が言うには、冒険者ギルドにて登録をしなければ冒険者として認められないのだという。

 登録をせずとも冒険者の真似事はできるらしいが、その場合は当然非合法となり、取り締まりの対象になってしまうのだとか。

 面倒ではあるが、これから冒険をして生計を立てていく上では致し方のないことだ。街に入ってすぐ、彼女は冒険者になるための手続きを行うべく冒険者ギルドを探し始めた。

 

 

 

 ギルドは割とあっさり見つかった。沢山の人がいる場所を探せば自然と見つかるという父の言に従い、街で一番賑やかな場所を探しているとすぐだった。というよりも街の入口からすぐ、目と鼻の先にあったので探すべくもなかったが。

 

「あそこかな……よし、行ってみよう」

 

 まずは手っ取り早く登録を済ませてしまおうと、彼女は意気揚々とギルドへ向かっていった。

 

 


 

 

 ギルドは、いつも通りの喧騒に包まれていた。

 併設の酒場では、まだ昼だというのに酒を飲む一党(パーティ)や何か話をしている一党など、人でごった返している。

 そんな冒険者ギルドの受付カウンターにて、受付嬢はそのどよめきに耳を傾けることもせず、依頼を達成してきた冒険者の応対や依頼の受注管理をしていた。

 この季節になると受付嬢は心配になることが増える。というのもこの時期多いのが、いわゆる初心者の冒険者なのだ。

 彼らは見果てぬ夢を追いかけるかのようにこの時期に大挙して押し寄せ、そしてその多くが二度と帰ってくることがない。

 そんな彼らの顔はいつも希望で満ち溢れ、明るい将来を約束されているかのように振る舞う。そんな彼らがボロボロになって帰ってくるのだ。冒険はそう甘くないとはいえいたたまれないにも程がある。

 そしてその原因になっているのが、ゴブリン関連の依頼。この依頼によって何人もの新人たちが戻ってこなかった。

 依頼を管理する者として依頼の受注を渋ることもできなくはないが、あくまで自分ができるのは依頼の管理のみ、強く出られればなすすべはない。

 今日もゴブリンの討伐依頼を受けた新人の一党が何個かあった。無事に戻ってくれればいいのだが……。

 

 受付嬢がそんなことを考えていると、ギルドと外を繋ぐドアが開かれ女性が入ってくる。

 白く長い髪を後ろで纏め、整った顔に紅い目を持ち、黒く袖のない上衣に金属製のアームガードを纏い、下は動きやすいようにショートパンツとブーツを履いている。スタイルもよく、彼女と入れ替わりで外に出た男の冒険者が振り向くぐらいの美貌がある。

 一見すると、戦い慣れた冒険者のような出で立ちだ。しかし首には認識票がかけられていない。ということは……

 

「いらっしゃいませ! 冒険者ギルドへようこそ! 冒険者登録にいらしたんですか?」

 

 受付嬢の言葉に彼女は「はい、そうです」とはっきり答える。やはりビンゴ、見た目こそ新米冒険者らしくないが、彼女も駆け出しの冒険者のようだ。

 

「ではこの紙にご自身の氏名や種族などの情報を書いていただけますか?文字が分からないのでしたら代筆も可能ですよ」

「いえ、自分で書けるので結構です」

 

 珍しい。冒険者の中には読み書きができない子もいるというのに、彼女は自力で書けるという。

 紙を彼女に渡しながら、受付嬢は彼女を観察する。やはり整った顔に程よく締まり、それでいて主張するところはしっかりと主張している肢体、白い髪はよく手入れされているのかさらさらで、側頭部からは髪の一部が跳ねてちょっとしたアクセントになっている。やはりどこかの良家の出なのだろうか。

 

 

 

「……? どうかされましたか?」

「あっ、い、いえ! なんでもないですよ!」

 

 紙に記入していた彼女が受付嬢にそう問いかけると、なぜか慌ててはぐらかされてしまった。

 彼女としては受付嬢に自分をまじまじと見られていることに疑問を感じ質問をぶつけただけ……なのだが、こうもどぎまぎされると不思議に思えてならない。街の人は変人が多いんだろうか。

 とりあえず書ける場所はすべて書いておき、受付嬢に渡す。

 受付嬢は確認のため紙を読み進めていく。そして一通り読み終わったところでこちらを向いた。

 

「はい、確かに記入されてますね。ではこれから冒険者として守っていただきたいことをお教えします」

 

 そう言って受付嬢は冒険者としての心得を説いていく。だが彼女にとっては父から耳に胼胝(たこ)ができるほど教えられた心得と内容が全く同じだったため、冒険者の等級関連以外の話は半分聞き流していた。

 

「ではこちらがあなたの認識票になります。大切に身に着けておいてくださいね。失くされた場合は再発行に費用がかかりますので注意してください」

「わかりました」

 

 彼女はそう答えて受付嬢から渡された白磁の認識票を受け取る。等級としては最低、しかし誰しもが通った道だ。これからは依頼をこなし、装備を整え、実力をつけて等級を上げていけばいい。

 彼女は自分の認識票がもらえたことに内心小躍りしながら、依頼が貼り付けられているという掲示板を見る。

 そこには多種多様な依頼が所狭しと並べられている。といっても白磁等級の受注できる依頼は下水道の巨大鼠(ジャイアントラット)退治や小鬼(ゴブリン)討伐の依頼ぐらいのもの。はっきり言って少ないと言わざるを得ない。

 何を取ろうか。両親曰く、「ゴブリンの討伐依頼はしっかりと見極めなければならない。家畜や村娘が攫われたという実害の報告を伴った依頼には手を出すな。それは駆け出しのお前には過ぎた依頼だ。ちょうどいい依頼が無ければ下水道の依頼を取れ」とのこと。

 両親が口を揃えて言うのだから、それ相応の理由があってのことだろう。大方ゴブリンの規模的な話であろうが……。

 そして今回は運悪く実害の報告を伴ったゴブリンの討伐依頼しかないため、大人しく下水の依頼を取ることにした。

 依頼の紙を掲示板から引きちぎり、カウンターへ持っていく。

 

「はい、下水に住む巨大鼠の駆除依頼ですね。下水は暗いので何か明かりを用意した方がいいですよ」

 

 なるほど、確かに受付嬢の言う通りだ。何か明かりになるものを買うべきだ。

 しかし、買うための場所が分からない。どうしたものか。

 

「それでしたら、お金はかかりますがギルドからランタンを貸し出すこともできますよ」

 

 ランタン! 彼女にとってその申し出はありがたかった。彼女の役回り(ロール)上、片手が塞がるような松明を持つのは攻撃力の半減に近しい。

 幸いにも腰には物を保持できるベルトをつけている。ランタンをここに繋げれば、自分の行動を阻害することなく光源を持つことができる。

 それに家を出た時に両親から袋一杯のお金を渡されたはずだ。費用も足りるだろう。

 彼女は渡りに船なその申し出に対し、快諾する以外の選択肢はなかった。

 

「わかりました、ではランタンを持ってくるので少々お待ちください」

 

 そう言うと、受付嬢は奥へと消えていった。

 

 


 

 

 暗く、お世辞にもいいとは言えない臭気が充満する下水脇の通路を、カンテラを腰に提げた彼女が歩いていく。

 常人なら誰でも不快な表情をするであろうこの場所を、彼女は涼しい顔で歩いていた。

 なぜなら、母が与えてくれた衣服の中に鳥の嘴を模した薬草を中に詰めることのできるマスクがあり、そこに臭い消し効果のある薬草の乾燥粉末を入れて鼻と口を覆っているからだ。

 これで鼻が曲がりそうな臭いも完全にシャットアウトできる。薬草の粉末は、出発の際に母からもらったものだ。

 そしてあちこち見回りながら探していると……いた。正面に普通のネズミを何倍も大きくしたようなネズミが現れる。巨大鼠、今回の駆除対象だ。

 彼女は自分の右腿のナイフシースから投げナイフ(スローインダガー)を取り出し、それをノーモーションで投げつける。父直伝の投擲術と母譲りの膂力でもって投げられたダガーは真っ直ぐな軌道を描き、そして巨大鼠の左目付近に命中。

 皮を突き破り、肉を裂いて脳に達したそれは、一瞬でネズミの命を刈り取った。

 まずは1匹、今回の依頼は3匹駆除なのであと2匹だ。

 ネズミに刺さったままのダガーを引き抜き、彼女は次の獲物を探すべく周囲を見渡した。

 風は当然ながらない。しかし生物が動いている空気の流れを感じる。恐らくだがもう2匹、近くにいる。

 

「あ、いたいた」

 

 角を曲がったところで何かを食い漁っている巨大鼠を発見。先ほどと同じ要領で左腿のスローインダガーを投げつけ、絶命させる。残るはあと1匹。

 そしてダガーを回収しようとしたところで、ネズミが食っていたものの正体が判明する。

 

「――!」

 

 死体だ。蛆が湧くほどに損傷が酷く性別すらわからないが、首からは白磁の認識票がぶら下がっている。恐らくここで非業の死を遂げてしまったのだろう。

 彼女は逡巡した。今認識票を持ち帰って報告すべきなのか、それとも報告だけして然るべき等級の冒険者に回収してもらうべきなのか、と。

 悩んだ末、彼女は前者を選んだ。この者の魂も、一日でも早く陽の光を見たいだろう。それを手助けしないわけにはいかない。

 だがしかし、まだやるべきことがある。ごめんなさい、地上に出るのはもう少しだけ待ってほしい。彼女は心の中で謝罪しつつ、認識票を死体の首から取った。

 

 最後の1匹は簡単に見つかった。先ほどまでまともな音も立てず駆除していたからか、気づかれることもなくあっさりと仕留めることができた。

 討伐証明用の巨大鼠の左耳3つと、白磁の認識票。物が多いが、こういったものを入れる袋を持ってきていなかったため今回は両手持ちで持って帰る羽目になった。今度からは頭陀袋でも持参した方がいいかもしれない。

 

 

 

 それからしばらくして、地上に出た。日の光が眩しい。

 下水から出たということでマスクを外すが、そこはかとなく臭う。どうやら下水の臭いが衣服についてしまったようだ。

 このままではギルド職員にいい顔をされないだろう。彼女は一度水を浴びて臭いを落とすことにした。

 

 

 

 すっきりした。完全に臭いが消え去ったわけではないだろうが、これなら問題無いだろう。

 水浴びを終えた彼女は早速ギルドへと向かい、依頼達成の報告をすることにした。

 玄関を開けると、そこには自然体の笑顔を見せている受付嬢と、謎の冒険者がいた。体格からして男だろうか。

 謎の男は控えめに言ってみすぼらしいとしか言いようがない服装に身を包んでいた。頭には薄汚れた鉄兜を被り、安っぽい革鎧を着ていて、鎖帷子をつけている。

 しかしそれ以上に驚いたのは、彼が開口一番「ゴブリンはあるか」と受付嬢に聞いたことだろう。

 一人だけで、しかも数が揃えば厄介なゴブリンの討伐依頼を引き受けたのだ。はっきり言って異常というほかなかった。やはり街には変人が多いんだろうか。

 そして踵を返すかのようにこちらに振り向いたその冒険者には、青色の認識票が光っていた。

 

 彼がギルドを出ていったのとほぼ同時に、彼女は受付嬢のいるカウンターに巨大鼠の耳を置き、依頼を達成したと報告する。

 受付嬢はネズミの耳が置かれたことに少しぎょっとしたようだが、すぐさま依頼が達成されたことを確認し、報酬を支払う運びとなった。

 

「初めての依頼達成、おめでとうございます。これからも頑張ってくださいね。では報酬を――」

 

 受付嬢にそう言われ、彼女は達成感に打ち震えていた。初めての依頼は怪我もなく、無事に終わらせられた。この事実は、彼女に冒険者としての自信を付けさせるには十分だった。

 だがまだ報告は終わっていない、下水道で見つけた損傷の激しい遺体から取ってきた認識票のことがある。

 

「あの、すみません。探索中に偶然冒険者の遺体を見つけたんですが……"これ"、回収して大丈夫でしたか?」

 

 そう言って彼女は白磁の認識票をカウンターに乗せる。それを見た受付嬢はまたも驚いた表情をしたが、すぐに仕事の顔へ戻る。

 

「これは……数日前に下水道の依頼を受けてそのまま行方不明になっていた白磁冒険者の認識票ですね……。ありがとうございます、本来であれば黒曜等級以上の冒険者が受ける依頼なのですがよく見つけてくれました。こちらが報酬となります」

 

 受付嬢がお金の入った小袋を渡してきた。彼女はそれを受け取り、中身を確認してみる。中には銀貨がそこそこ入っており、それなりの金額であることが確認できる。

 受付嬢曰く、行方不明だった冒険者の認識票を発見してくれた分もあるらしい。元から持っていた分も合わせれば懐はかなり暖かいと言えそうだ。

 

 

 

 それから彼女はランタンを返却し、今日の宿を探すことにした。この街に着いてから流れるようにして依頼を受けたのだ、疲れていないわけがない。

 受付嬢からおすすめの宿を教えられたためそちらに向かうことにする。名前は確か……「不死鳥亭」だったか。

 なんというか、宿の名前に少し運命的なものを感じてしまう。

 それはそれとして、部屋を確保しておかねば。幸いにもまだ日は高い。これならどこかの空き部屋を確保できるはずだ。

 彼女は小走りに、宿へと向かっていった。




主人公、初の小鬼殺しさんとの接触。
この時は他の冒険者と同じく不気味すぎて彼に声かけれてないんですよね。


主人公の持ってる装備一覧。

・革鎧(胴体)
・アームガード(金属製)
・膝アーマー(革製)
・マスク(ヒロアカの治崎のつけているものに似た形状。あちらよりも鳥の嘴に似る)
・スローインダガー ×2
・ダガー ×2
・革袋
・ベルト
・メモ帳
・お金
・保存食
・火起こし器
・各種薬草の乾燥粉末
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