オリキャラが出ます。
「あの、すみません。僕たちと一緒に
この街に来て、あれから2週間ほど経った。
彼女は変わらず両親の教えに従って依頼の分別を行い、時に下水道のモンスター排除に動き、時に家無しゴブリンの討伐に向かって日銭を稼いでいた。
下水道の依頼を嫌な顔ひとつせずにコツコツとこなしていく彼女の姿は、ギルド職員からはありがたい存在であったが、奇妙でもあった。
そんなある日のこと、彼女はいつもと変わらず依頼の貼られた掲示板と睨めっこしているところに、先ほどの言葉が自分に投げかけられたのだ。
見れば、こちらと同じく駆け出しと思われる青年がいた。金色の髪に瑠璃色の目、精悍な顔立ちに質の高い皮鎧一式を装着している。戦士職のようだ。見た目からは少しいい所の息子のような雰囲気を漂わせている。
そして青年の後ろには、恐らく彼の仲間であろう男女が2人ほどいた。
「何故?」
彼女は当たり前のことを聞いた。そもそもの話、彼女と彼らとの間に面識は無い。この場で初めて会った赤の他人がいきなり一緒にパーティを組もうと言ってきたら誰だってこうするだろう。
青年はその言葉にハッとして、彼女に謝罪を述べながら理由を話し始めた。
「ああごめんなさい! これから僕たち、ゴブリンの討伐依頼を受けるつもりなんです。なんですけど……前衛が足りないんです」
なるほど、一時的な協力関係を結んで依頼達成を目指すということか。受ける依頼はどんなものだろう。
「この『ゴブリンに攫われた村娘の救出』って依頼です」
彼は掲示板から依頼の書かれた紙を引きちぎらない程度に引っ張り、彼女に見せてくる。
それを見た途端、彼女の思考は一旦停止した。
「……あれ? 大丈夫ですか?」
固まってしまった彼女に対し、青年は心配そうに彼女を見る。
だが彼女はすぐに復活し、彼の両肩を掴む。掴まれた青年は一瞬ビクッと跳ねた。
彼女にとってそれは自殺行為としか思えないと彼に話す。親の教えありきではあるが、娘が攫われたということはゴブリンの規模がかなりあるということに他ならないからだ。
駆け出しには過ぎた依頼だ。やめておいた方がいい。
そのことを教えると、青年は首をかしげる。
「え?でも僕含めて3人もいますし、あなたも参加するとなると4人ですよ? そこまでいれば大丈夫な気がしますが……」
確かにそうかもしれない。だが最悪の事態を想定すべきだ。もしゴブリンの群れの中に強力な個体がいたりしたらどうするのか。
しかし彼女の説明を聞いても、青年は納得していないようだった。
「でも他の依頼だと報酬の取り分が減りますし……うーん」
やはり説得は駄目かと諦めかけたその時、彼女の後ろから意外な助太刀が入った。
「ゴブリンを狩るのか?」
一際低い声に彼女も青年も驚く。見れば、そこには以前出会ったあの不気味な男が立っていた。そしてやはり、青色の認識票をつけている。
青年が事のいきさつを説明すると、男は一言。
「ゴブリンを甘く見るな」
その言葉には有無を言わせない迫力があった。
男曰く、「ゴブリンは馬鹿ではあるが、間抜けではない」という。ゴブリンとは狡猾な生物であり、罠は言わずもがな、奇襲や待ち伏せ、毒など、様々な手段を用いて人間に襲い掛かってくる。対策もなしにゴブリンの巣に突入するのは下策だと彼は言い放つ。
ゴブリンの習性も知らずに依頼を受けるのは危険だ。男がそう忠告すると、青年は申し訳なさそうに彼女と男に謝罪を述べた。
「しかし、今僕たちにはお金がないんです。報酬は少しでも多い方がいい。そうなるとこの依頼を受けるしかないんです」
そしてその話を聞いても、依頼を変更することができないと青年は言う。
確かに、彼の一党は人数が多い。対応できる依頼が多い分、1人当たりの報酬が少なくなってしまうということか。
それを聞いた男はまた一言。
「そうか、なら俺も行く。報酬はいらない」
「えっ……いいんですか!?」
青年にとっては願ったり叶ったりの状況だっただろう。それに男が行くのであれば、自分は必要ないはずだ。
彼女はそう思いここから離れようとしたところで、青年に呼び止められる。
「あっちょっと待ってください! あなたにも来てほしいんです!」
もう人員不足の問題は解決したではないか、なぜ自分が行かなければならないんだ。
彼女が疑問を投げかけると、青年は耳打ちで答えた。
「あの人怖すぎてこっちと連携取れるか分からないんです。だからお願いします」
ああなるほど……そういうことか。隣の男、「ゴブリン」という単語に対して異様に反応している。先ほどから殺気が溢れ出している程度には。
「はぁ……わかった」
彼女もため息をつきながら渋々了承することにした。
そして、男がまた一言。
「ゴブリンの依頼に行くなら回復と解毒のポーションを買っておけ」
それは青年たちの一党にとって予想外の出費となったようだった。
夕暮れ時よりも少し前、彼女と不気味な男も含めた一党は依頼先の村を訪れていた。
村の人から話を聞くと、依頼を出す前からゴブリンに村人が襲撃されることが多発していたらしい。
「襲われた方々は大丈夫なのでしょうか……」
そう言って心を痛めているのは、青年の一党の一員である女性新米神官。《
そして、かなり身体の一部の主張が強い。同じく身体の一部の主張が強い彼女自身が言えたことではないかもしれないが、慎ましく振る舞うことの多い神官職でこれは慎ましくなさすぎる気がする。まあどうこうできることでもないが。
「無事だとは思うが、それよりも慢性的にゴブリンの被害に遭ってたんだな……」
そう言うのは
「そうですか、ありがとうございます」
青年は証言してくれた村の人に礼を述べると、彼女たちの方向に振り返る。
「状況は一刻を争うようです。いち早く対応しないと……」
「ああ」
あの不気味な男は青年の言葉にそう答えると、スタスタとどこかへ向かっていく。
青年が慌てて止めようとするが、止まるつもりがないのかそのまま村近くの林の方向へ行ってしまった。
「ああもう! やっぱりあなたを一党に誘っておいて正解でしたよ!」
青年は男に対して文句を垂れつつ男を追いかけることを提案してきた。
彼女としても、ギルドでの一件からあの男は何かゴブリンに対する専門的な知識を持っているようだったので、後学のためにもついていくべきだと思い、その提案に乗った。
女性新米神官と圃人魔術師もそれに同意した。
男を追いかけて林の中に入り、しばらくすると人1人入れる程度の穴があった。その入口横に男が立っており、足元にはゴブリンの死骸が転がっている。
恐らくは件のゴブリンの巣穴だろう。そう彼女が予測していると、男が口を開いた。
「トーテムはない。
そう言うと男はいきなり足元のゴブリンの腹を剣でかき回し、そこから内臓を取り出して溢れ出る血を自分にかけた。彼女はそれを見て思わず顔を顰めてしまう。
「何をしてるんですか!?」
青年が驚愕し男に詰め寄る。しかし男は悪びれもせず淡々と言い放った。
「ゴブリンは鼻が利く。女子供、森人の匂いには特に敏感だ。だからこうして自分の臭いを消す。お前たちもやっておけ」
そう言うと男は穴の中に潜っていった。彼女らはそれを見送ると、顔を見合わせ渋々ゴブリンの血をかぶり穴に入っていった。
巣穴は暗く、松明がなければ何も見えないぐらいの闇に包まれていた。
松明を持つのは青年とあの男。男曰く後方からも攻撃されるとのことだったので、念には念をと青年は一党の最後尾を歩いている。真ん中の順番は彼女、圃人魔術師、女性新米神官だ。
そうして歩いていると、彼女は空気の動きからこの先に何かがいることを感じ取る。嫌な予感がする。
「何か来ます、注意して。恐らくゴブリンかと」
「……わかるのか?」
男に聞かれ、頷く。男はそれを確認すると「数は?」とまた聞いてきた。
「最低でも2体」
彼女がそう答えると、男は「そうか」と返し、腰に差していた剣を引き抜いた。
それは剣にしてはいささか中途半端な代物だった。長さが普通の
それを男は片手に持ち、構える。
数拍ののち、空気を動かしこちらに向かってきた2匹の緑色の小人が影から現れる。と同時に男は剣を突き出しながら突っ込み、2匹のゴブリンを纏めて貫いた。
2匹は苦悶の表情を浮かべ、叫び声を上げながら倒れ込む。
それと同時に巣穴全体が一瞬ざわめき立った。
「気付かれたな、備えろ。奴らはあらゆる方向から来るぞ、横も警戒しろ。魔術師、神官、まだ技は使うな、取っておけ」
男のその言葉に、魔術師と新米神官が固まるのが見えた。かくいう彼女もまた、ナイフにかける手に汗がじわりと出てくるのを感じた。
その汗を指貫手袋の布で軽く拭き取り、腰に2本あるダガーを引き抜く。
そして、奇っ怪な叫び声と笑い声を混ぜたかのような鳴き声と共に、前方からゴブリンたちが現れた。
見る限りでは武器らしい武器は棍棒しか見当たらないが、前にいる男の話から推測するに毒を使った武器を持ってくる可能性がある。防御の薄い彼女にとっては警戒すべきことだろう。
前を見ると、あの男が前方から押し寄せるゴブリンを片っ端からばっさばっさと切り捨てている。狭い穴だというのに器用だ。
いや、器用というわけではない。あの刃渡りの剣だからこそできる芸当だと彼女は考えた。それにあの剣を小さく振る戦い方、壁面に剣をぶつけないためか。よく考えられている。
やはり、あの男は只者ではない。そう思いながら、男の横をすり抜けてきたゴブリンをダガーで切り伏せていく。
そこそこ楽な仕事だ。ゴブリンはこちらを見つけると我先にと襲い掛かってくるが協調性が全くない。それが散発的にやってくるだけなので、対処自体は非常に容易かった。
大振りに棍棒を振ってくるゴブリンの懐に飛び込み、心臓と首にダガーを突き立てる。小鬼の顔は激痛に歪み、ダガーを引き抜くとそのまま倒れ伏した。
それからしばらくして、穴が2方向に分かれている場所まで辿り着く。一党はそこで止まった。
「斥候、この先に何があるか分かるか?」
男から斥候と呼ばれ一瞬誰なのか分からず彼女は固まったが、すぐに自分のことであると思い返して穴を調べる。
空気の流れは……どちらとも止まっている。いや、右の穴に微妙だが動きがあるか。
「右の穴、何かが動いてる。数は不明」
「わかった」
男はそれだけ言うと、ずんずんと右の穴に入っていく。それを見た新米神官は軽く悲鳴を上げた。
「ちょっと! 危険ですよ!」
新米神官の言葉に対し、男は振り返ると「問題ない」と言ってそのまま歩いていった。
「お、おい……」
圃人魔術師も不安げに声を掛けるが、それも無視されてしまい途方に暮れてしまう。
「大丈夫です。見たところ彼は強い。突飛な行動が多いですがあの人も曲がりなりにも青玉等級ですし、ついていった方が得策でしょう」
青年の言葉に少しは納得したのか、魔術師と神官は覚悟を決めたようだ。
彼女もまた、危険に自ら飛び込んでいく男に動揺を隠せなかったものの、青年と同じ考えに至り男についていくことにする。
右の穴に入り少し進んだところで、あの男が立ち止まっていた。男の持つ松明の明かりの先には広い空間があり、その中に人のような影が見えた。
「あ、あれ……攫われた人じゃないですか!? 早く助けないと!」
新米神官が焦って前に出ようとしたところを、あの男が手で制す。
「待て、これは罠だ。今出たところでゴブリンの袋叩きに遭う」
「そんな……」
確かに、周囲にゴブリンが見当たらない。恐らく死角に隠れて奇襲の期を伺っているのだろう。
これでは考え無しの強硬突入は自殺行為だ。そして男はこういう場合の対応策を知っているように見える。
男はまた彼女の方に首を向ける。
「中にいる数は分かるか?」
彼女は男の問いかけに対して首を横に振る。彼女が感じ取れるのは動いている物体のみ、動いていないものについては感知できないからだ。
「駄目、動いていないと分からない」
「そうか」
男はそう返事すると、新米神官に《聖光》を使えと指示を出した。曰く、ゴブリンに対する目潰しに使うのだという。
「《聖光》が発動したら俺は中に入る。お前たちがどうするかは自分で決めろ」
男のその言葉に、それを聞いていた全員が頷く。
そして、新米神官が詠唱を始める。
「《いと慈悲深き地母神よ――」
神官のその声とともに、男は足を踏み出しゴブリンが待ち構えているであろうその空間に飛び込んでいった。
空気が一気に動くのを感じる。潜んでいたゴブリンが動き出したようだ。
そして――
「――聖なる光をお恵みください》!」
新米神官の《聖光》が、発動した。