キンジ・リコイル -Kinji the non-reathal ammo-   作:XEI

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井ノ上たきな2

 

 

 リコリコの業務は、喫茶店とリコリスの活動だけじゃなかったりする。

 例えば、保育園や語学教室。千束の子ども受けがいいのはイメージ通りだが、あいつは意外と頭もいいから、講師として招かれる事もある。

 

 今日はその他にも、新鮮な粉をヤクザの組に届ける仕事が入ってたはずだ。ミカさんの挽いたコーヒー豆の愛好家は多いからな。……井ノ上、勘違いして銃を抜いたりしてそうなんだが大丈夫か? 

 

 まぁ、中々に幅広く依頼を承ってる。DAから予算が振り当てられてるとはいえ、先立つ物は必要だ。地域のコミュニティを構築することにも繋がるし、働き手が二人(俺と千束)だけであんまり回ってない事を除けば、結構理に適ってる。

 

 今回からはそこに井ノ上が加わる形になるが……千束と相棒になる以上、俺と組むことはないはずで、そこは安心だ。以後、井ノ上一人でもこなせるよう、研修を兼ねて連れ回されてるだろうな。

 

 その姦しいメンバーと別行動の俺はというと、子猫探し。これもまた一般からの依頼の一つだ。

 

 今は青海の公園にいる。昨日、この辺で逸れてしまったらしい。

 

 発見前提の上に報酬は安い地味なクエストだが、時間を割いてこちらに頼み事をしてくれる顧客の要望には可能な限り応えたい、とは千束の談。

 

 俺もミカさんも、ミズキさんでさえその意見を尊重している。こういう部分が千束の良いところだろう。だからこそ、リコリコはリピーターの絶えない賑やかで明るい店として、やっていけてるのかもしれないな。

 

 今回の件だって、依頼者からすれば家族の捜索とも言える。人殺しなんかと違って、やり甲斐は充分にある依頼だ。

 

「と言っても、猫の行きそうなところをしらみ潰しに回って、聞き込みするだけなんだが」

 

 猫の行動なんて読みようがないし、そうもなる。道中買ったマックを片手に、日当たりのいい場所や狭い場所を探すのに勤しんだ。

 

 

 

 ⭐︎

 

 

 

 公園の端にある水辺にいた子猫を無事保護し、同じく近場で捜索を続けていた依頼者に引き渡しを済ませてから……俺は小休止を取っていた。

 

 今日は他に依頼も入ってない。猫探しにかかる時間は予測ができないからな。急ぎがなければ今日はこれで終わりで、夕方からはリコリコのヘルプに入ることになるだろう。

 

 ミズキさんから【終わったんなら早く戻って働け】とLINEで催促されるのを見て見ぬふりしつつ……俺は旧電波塔を眺める。

 

「テロに遭うも、倒壊を免れた平和の象徴ね。たった5年で印象も変わるもんだな」

 

 ピサの斜塔を遥かに超える傾斜具合の、いつ見ても危なっかしい建物だ。

 

 俺はあそこに行った事はない。だが、こうして外で視界に入る度に、足がそちらを向こうとする。終わってしまった事を、認めたくないかのように。

 

 郷愁とも諦観とも怒りとも似つかない何かは、今も胸の中に変わらずある。こいつが晴れることは恐らくないだろう。

 

 千束が単騎でテロリストを壊滅させ、東京最高のリコリスと呼ばれることになった事件。その裏で、実は同じ事件解決に当たったリリベルは全滅している。

 

 仲が良かった人も、もうすぐ卒業だとはしゃいでいた先輩も……俺が目標としていた、あの人も。全員が、死んでしまったんだ。

 

「……」

 

 握り拳に力が入る。当時、あそこに俺がいれば、と思わなかった日はない。

 

 俺ならテロを防ぐことができた、なんて大言壮語を吐くつもりはないが……千束以外の全滅なんて結末は、避けられたかもしれないんだ。

 

 それに、その後かけられた言葉、

 

 ──使いにくい駒だったが、惜しい物を無くした。お前は、ああなるなよ──

 

 ……チッ、最悪な気分だ。猫探しの達成感なんてものはどっかに行ってしまった。

 

 ミカさんには悪いが、店はミズキさんに任せて、もう少し海風に当たっていこう。

 

 と、思っていると……スマホに着信が表示される。鬼の形相をしたミズキさんからかと思えば、名前は千束。ピ。電話に出る。

 

『キンジ、今どこ?』

「青海だよ。依頼がちょうど終わったところだ」

『ぃよしっ確保ぉ! すぐリコリコに戻っといて! 着替え用意! 以上!』

「は?」

『説明は後! 依頼人(沙保里さん)の命に関わるかもしんないの! 私も着替えとか(ピストルも)取りに戻るから、それまでに駆け足早く!」

「命……っておい、千束!? くそっ、切れてる。要件がほとんど伝わってねぇぞ……!」

 

 こういう部分が千束の悪いところだ。あいつは本当に組織人か? 報連相の重要性が分からない訳じゃないだろうに……! 

 

 ただ、命の危機とは穏やかじゃない。沙保里さんとやらも事前に聞いてる依頼人じゃないし、イレギュラーが発生したと見るべきか。実際、悠長に説明をしている暇はないのかもしれん。

 

 旧電波塔ジャックテロ、銃取引、女性の命に関わる事件。どうにも平和すぎるぜ、この街は……! 

 

「だから俺はDAを辞められないんだ!」

 

 こうやって悪態をつくぐらいは許してほしいね。俺はスマホをポケットにしまいながら、千束の言う通りリコリコへ向かうため、駅に向かって走った。

 

 

 

 ⭐︎

 

「先生ー、お泊まりセットはー!?」

「押入れの中だ」

「あれ、キンジ着替え用意してないじゃん何してんの!」

「本当に着替えの用意の電話だったのかよ!?」

 

 ⭐︎

 

 

 

 なんと言うか、ああ、駆けつけた時には遅かった。

 薄暗く人の通りがない路地に、ワゴン車が止まっている。いや、止まらないわけにはいかなかった、だな。

 

 銃が乱射された後で、ヘッドライトはとっくにその役目を果たせないガラクタに成り下がっていた。見え難いが、車高が低い。タイヤが撃ち抜いてあるって事だろう。

 

 ガラスの弾痕から、井ノ上の射撃は正確に運転席と助手席、そして後部座席を狙い撃ちしている。少なくとも運転手は怪我を負ってそうだ、急発進は難しいと見て良いな。

 

 そしてそれを成しただろう井ノ上は、反撃が来ないうちに敵を全滅させる気だったのか、手早くリロードを済ませて再び狙いをつけている。それはいいんだが……井ノ上、お前一人か? 

 

 依頼者の沙保里さんって人はどうしたんだよ。一人で先に逃してしまったとしても別働隊の可能性を考えれば問題だし……まさかとは思うが、車の中にいるなんて言わないよな? 

 

「「何してんの(だ)!」」

 

 こちらにまで銃を向けてこようとした井ノ上の銃を千束が掴む。裏に引きずり込まれる井ノ上と入れ替わるように、塀から様子を覗き見るが……向こうさんはまだ体勢を立て直せていないようだ。

 

「尾行されてたので誘き出しました、彼らが銃の行方を知っているはずです」

「ちょちょちょ、沙保里さんは?」

「車の中です」

「おい!?」

「護衛対象を囮にしたの!?」

 

 思わず振り返って井ノ上を凝視する。何を驚いてるんだ、とばかりに不服さを隠そうともしてない。それどころか、負けん気を強めて言い返してくる始末だった。

 

「彼らの目的はスマホの画像データです。沙保里さんを殺す意図は無いと思います!」

「そういう問題じゃねえよ!」

「人質になっちゃうでしょうが!」

 

 こ、コイツ……! 有り得ねえ、依頼者を何だと思ってるんだ! みすみす銃取引の生き証人をその取引相手に捕まえさせるなんて正気か!? 壊れても交換可能な誘蛾灯じゃないんだぞ! 

 

「この女がどうなってもいいのかぁ!?」

「うぁー……」

「……最悪の状況だな」

 

 奴さん、当然だが頭に血が昇ってる。下手をすれば人質が殺されかねない、時間的猶予はないぞ。

 

「あなた方が止めなければ、もう終わってました」

「沙保里さんに当たっちゃうでしょ……!」

「そんなヘマしませんよ……!」

「言い合ってる場合じゃないだろ。千束、俺は裏に回って退路を塞ぐぞ」

「キンジ待った。たきな、射撃に自信あるなら7時方向でこっち見てるドローン撃ってくれる? あ、音出してね。キンジはその後速攻でよろしく」

「わかった」

「合言葉は?」

「命大事に」

「!」

 

 パァン! 乾いた音が閑静な住宅街に響き渡った。井ノ上は振り向いた一瞬でドローンを補足して、一発で仕留めたみたいだ。本当に射撃は優秀なやつだよ、射撃はな。

 

 音と同時に駆け出す。千束は前へ、俺は後ろへ。サイレンサーをわざわざ外して撃たせたのは、相手に一瞬の空白を作るためだ。そうすれば、千束は先に状況を視ることが出来る。

 

 そうなってしまえば、千束が負ける事はない。

 

「やあ、取引したいんだけ……ど」

 

 いくつかの銃声が聞こえた後、男のうめき声が鈍く届いた。最初の数発は男、後半は千束だろう。避けられた挙句、非殺傷弾をぶち込まれたらしい。あれ、マジで痛いからな。

 

 路地の裏手、車の背後に到達。そのまま飛び出る。車の中に1人、外に3人。内1人は千束がやってる。中の人間は……怪我をしてるな、人質を使ってくることはなさそうだ。なら、優先するのは外の戦力の無力化だろう。

 

「そっちだけじゃないぞ」

「!?」

 

 慌てて銃を向けてくるが、もう懐に入った後だ。銃を持っている右手に手刀。取りこぼした銃を車の下に蹴り飛ばしつつ、その返しで敵の足を崩しながら腹部へ一撃。体幹が崩れた所で首根っこを掴んでドアに突き立てて、まず1人。

 

 銃を俺へ構直した残りの男の後ろには既に千束が立っており、流れるように肩と腹部へ3発。後はワイヤーガンで拘束。ここまで20秒もかかってない。さすがの強さだ。

 

「非殺傷弾に無手の格闘……」

「たきなー、沙保里さんを!」

 

 ほーら血出てるよ血ー! うわー! なんて、はしゃぎながら敵を介抱している。本当にいい性格してやがるな、千束は。

 

 と、最初に千束にダウンさせられていた赤髪の男がゆらゆらと立ち上がったのが見えた。痛いだろうに、寝とけばいいものを。

 

 俺はため息をつきながら、転がっていた拳銃を拾う。そのまま男の背後へと歩いて行き、マガジン部分で後頭部を殴りつけて気絶させた。

 

「千束。拘束しないなら武装解除するなり腱を切るなりしろって」

「キンジもたきなもいるし大丈夫かなって。あ、クリーナー呼んでくれる?」

「ぎゃぁぁぁぁぁ!」

「ここのアドレスわかるか?」

「LC2808」

「たきなちゃ────ん!!」

 

 手当が痛すぎて絶叫する犯人と依頼人を囮にした護衛と泣きじゃくる依頼人、カオスな絵面だな、と思いつつ……クリーナーへと電話を繋ぐ。

 

「クリーナーお願いします。LC2808。ワンボックスで4人。重症1……「ああああああああ!」訂正、元気そうっす」

 

 改めて現場を見渡してみる。千束も井ノ上も無事、依頼人は取り返せた。一時はどうなることかと思ったが、結果から見れば何とかなって良かったぜ。井ノ上も転属1日目にしては、かなり密度の濃い日になったな。

 

 結局のところ、沙保里さんとやらがアンダーグラウンドの連中に狙われたのは、スマホの画像データだの、銃がどうのって言ってたが……これ、解決でいいんだよな? 

 

 

 

 ⭐︎

 

 

 

「例の事件、銃取引は既に終わってた!?」

「しかも千丁ね、千丁。戦争でも起こすつもりかも」

 

 開いた口が塞がらない俺に、頬杖をつきながら千束は首肯した。

 

 おいおい、って事はDAが偽の取引時間を掴まされたから銃が千丁もばら撒かれたんだよな。井ノ上が出向してきたのは、やっぱり上の不祥事を隠すためって事かよ……! 

 

「その取引の瞬間を撮っちゃったのが沙保里さんってワケ」

「なるほど、そりゃ命を狙われるのも納得だ。と言っても、DAにも情報が渡った以上、沙保里さんを消す意味は無くなったよな?」

「だね。今さら殺して画像を消去しても証拠の隠滅にならないから、もう大丈夫でしょ」

 

 人を消すにも金がかかる。意味のない殺しは裏の人間ほどやりはしないだろう。そういう意味だと安心だな。

 

 面白くなさそうな顔をしたミズキさんがスマホを千束に返しながら呟く。

 

「フン、イチャついた写真をひけらかすからこんな事になるのよーだ」

「……僻まない」

「僻みじゃねーよ! SNSへの無自覚な投稿がトラブルを招くって言ってんのよ!」

「もう少し嫉妬を隠して言ってれば頷けるんだが」

「ぶっ飛ばすわよクソガキ!」

 

 酒瓶に直接口をつけて飲み出すミズキさん。そんな事してるから男が寄ってこないんじゃないか?

 

 少なくとも、俺は酒をラッパ飲み、しかも勤めてる店で勤務中にだぞ? そんな事する人と深い仲にはなりたくないぜ。

 

 わーわー騒ぐこちらとは裏腹に、ミカさんと千束は情報共有を行なっていた。

 

「あの日か」

「3時間前だって。楠木さん偽の取引時間を掴まされたんじゃない?」

「ふむ……」

「そういえば、本部との連絡が急に通じなくなったって話もあったな」

「あー、フキもそんな感じのこと言ってた。もしかして、サイバー攻撃だったりする?」

「DAをか? 仮にそうなら並の腕前じゃないぜ」

 

 DAは腐っても国家の運営する秘密組織だ。その性質上、機密のプロテクトも素人が想像出来ないほど厳重なもののはず。

 

 流石に現実味が薄い気もするが、偽の情報と電波障害。片方だけならまだしも、その二つが重なっている事実上、偶然と考えるのも危機感が足りないかもしれん。

 

 どちらにせよ、何かをやらかそうとしてるのは間違いないだろうな。なら、やる事は一つだけだ。

 

「とにかく、DAもコイツらを追っかけてるんでしょ? 先に私達が見つければたきなの復帰も叶うんじゃない? ねえ、たきな」

「やります!」

 

 ……うおっ。奥から出てきた井ノ上を見て、思わず心臓が一段跳ねた。リコリコの制服を着こなすのは想像がついたが、長くて綺麗な黒髪をツインテールに結ってくるとは思ってなかった。

 

 井ノ上の顔立ちは美人系でもあるが、幼さも残している。それが髪型で少女っぽさが増して……めちゃくちゃ可愛いぞ。これで素直な後輩だったら、危なかったかもしれん。井ノ上、恐ろしい奴だ……! 

 

「うはぁー可愛いぃぃ! ねぇねぇ写真撮りましょ撮りましょー!」

 

 千束は井ノ上の腕を引っ張って、無理やりカウンターへと連れてくる。

 

「ほらほら、先生もミズキももっと寄って! キンジ、フレームから出てるよ!」

「5人はキツくないか?」

「うん、どうせSNSに上げるのは私ら3人だけだよ」

「おい」

「でも写真としてはフルメンバーで欲しいじゃん? ほら入った入った!」

 

 それは分からなくもない。仕方ないか。

 

 俺もカウンターの中に回り、ミカさんの隣へと位置した。カシャリ。すぐに写真を撮る千束。流石に現代女子、慣れている。俺が席に戻る頃にはトリミングまで終えて、SNSへアップを終えていた。

 

「早速お店のSNSにアップしたわー」

「君はさっきの私の話を聞いてたのかね。無自覚な投稿は」

「あー、大丈夫だって、ここには向かいのビルはないよ。変なものは写らないって」

「写ってまずいのは飲兵衛の酒瓶ぐらいだろ」

「酒の何が悪いんだよ!」

「ホールスタッフが勤務中に酒飲んでるのはどう考えてもおかしいぞ」

「キャバ嬢だってホストだって酒飲むでしょうが」

「営業時間帯も職種も何もかもが違うものを例えに出すなよ……」

 

 カランカラン。お、お客さまがご来店だ。スーツをバシッと着こなしているいかにも仕事ができそうな男性。ミズキさんとのアホなやり取りは終わりにして、持ち場につかないとな。

 

「はは、賑やかなお店だな。やあ、ミカ。久しぶりだね」

「……!」

「ほらたきな、練習どおりに!」

 

「「「「いらっしゃいませー!」」」」

 

 

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