ダンジョンに穢れ持ち種族が潜るのは間違っているのだろうか? 再演 作:どらむすいいよね
ダンジョンの初探索から1週間の時が経ち、その間にゴブリン、コボルド狩りを行なってベルのステイタスは上昇した。 とはいえ、あまり上がっていないがの……普通はそうなのだろうか?
参考にはならぬが、儂のステイタスは相変わらずである。いや、成長するはずもなし、格下をどれだけ狩ったとしてもの。
狩りの時は‘ディメンション・ソード’の魔法使って敵を殲滅しながら、二剣無双のスキルを用いて効率よく、剣で割いて蹂躙する。
とまぁステイタスについてはこんなものじゃな、さて今日もベルに指導じゃ。
冒険者の心得と斥候の心得、軽剣士の心得を座学で……儂の鞄に入れてあった小型の黒板に何度も書かせて頭に覚えさせる。
小型の黒板は文字の読み書きを童共に教える際に、何度でも繰り返し使えるから重宝するからのぉ。
地図の下書きにもあれば便利で、
「“軽剣士はその一撃は軽く、弾かれることを当たり前と認識すべし”故に……えっとぉ……」
「“的確に、急所を突き狙うべし。軽剣士なるもの、迂闊な手数任せの一撃を差し控えるべし”じゃ」
「そうだった。“斥候は隠密を心がけよ。微かな手がかりから異常を読み取り、細心の注意を努々忘れるべからず。
「うむ、一字一句忘れておらなんだ。偉いぞ、ベルよ」
「ありがとうございます! “冒険者は常在戦場。身の回りに起こる変化には目を凝らし、一重の油断から命を刈り取られるものと思え”」
ベルが冒険者の心得を暗記したものを読み上げる。そこそこ長めだったが、儂の師であるあの人からの言葉を引き継ぐ……異世界で引き継ぐことになろうとは、人生とは小説より奇なりよな。
「“迷宮の蜜を啜ることにかまけず、引き時を見誤るな。過ぎた好奇心は己を殺す。常に平常心を心がけ、冷静に立ち回ることを意識せよ。何よりも「無理、無駄、無意味」の言葉で諦めるな、活路は、己を生かす道を諦めるな、生きることを諦めるな”っ!よし、全部覚えました……やっぱ、いいですね!この言葉は冒険者っぽくて!」
「ふ、これは師の言葉よ。儂もそれを心に留め、今日ここまでやってきたからのぉ……よく覚えたぞ、ベルよ。褒めて遣わす」
くしゃくしゃと荒い手つきでベルを撫でてやると、嬉しそうに頬を緩ませる。成人したとは言え齢15などまだまだ童よ。しかし、どこか可愛らしいのは天然か?
ふと、視線を感じてその方をちらりと見ると。壁に隠れながら頬を膨らませ、涙目でこちらを睨む主様が……なにやっとるんじゃあのお方は。
午前、朝食前に教鞭を振い。迷宮に行くのは午前10時から。長く、遅くなったとしても午後18時には
そして、迷宮に行く前の
「はっ!」
「気合いは及第点。しかしまだまだじゃなぁ」
「くっ、これならっ!」
ヘスティア・ファミリアの拠点は廃協会。というかほぼ廃墟なのだが、その隠し部屋である地下室が我が家となっておる。
崩壊した協会、奇しくもダンジョンを想定して障害物込みで室内戦の模擬戦は理にかなっておるのだ──大振りの攻撃を行うよりもコンパクトに剣を振るう方が、遥かに効率が良い──室内に置いてベルの非力さを補う戦い方はやはり一撃離脱、あるいは必殺必中かの。
「もっと心臓を狙うのじゃ、あるいは胸元を。魔石を砕けば魔物は死ぬのだぞ?」
「くっ、でも!」
「躊躇うな戯け。死にたくなければ避けよ」
儂はチョークで円を描き。そこに棒立ちで、ベルの攻撃を合わせて木の棒でナイフを捌く。ちなみに当たったとしても、ただの果物ナイフで傷をつけられるわけではないのでベルも半ば本気で突き込んでくる。
この円から儂を出せればそこそこ成長しているということに判断することとしたのだ。手加減はしているので、ベルと同程度のレベルくらい(身のこなしだけで避けるのは可能)を意識して相手を務めておる。
もちろん反撃もする。木の棒が強かにベルの横腹を叩くが、ポーションを呷らせれば治るからな。
「そら、詰めが甘い。脚も武器だぞ、ベルよ」
「は、はいっ! ふぅ、しっ!」
「ハイキックをするなら、足元に気を配らんか」
「うわっ! へぶっ!?」
蹴り上げを状態をずらし避けつつ、軸足に足払い。姿勢を保てないベルは顔面から地面に。む、そろそろ時間かの
「そろそろ切り上げるか。体を拭いて支度せよ」
「は、はい。ありがとうございました!」
「うむ」
勉学、訓練から実戦慣れのために儂が引率して迷宮に行き、日銭を稼いで拠点に帰る。そんな暮らしを続けておよそ2週間が経過した頃。
そろそろ、ベル1人で行動させても良いかとは思いだしたので。
「ベルよ、今日からワシはお主と別行動にするぞ」
「え”」
「阿呆。 基礎はこの2週間で叩き込んでやったじゃろうが。 いつまでも儂におんぶに抱っこは
「フグッ!? そ、それは……」
「カカカッ! ならば強くなるのじゃ。 儂に追い付ける程に、な」
快活に、激励の笑顔でベルの頭を撫でる。 一所懸命に立ち向かってくるそのガッツは本物。訓練の時はまるで海綿のように教えることを吸収して、それを応用できる……
ベルは典型的な努力型の天才じゃ。現状、教えれることはなくなってしまったが故にまずは自己の実力を認識してもらおうというわけじゃな、ソロで行かせるのも。
「あ、そういえばシルヴァさん。見てくださいよ、これ!」
「んー? これは……ほう?」
ベルが見せてきたのはステイタスの記された紙。そこにはこの2週間の成果がきっちりと記されていた。
──────
ベル・クラネル
Lv1
力I:0→79
耐久I:0→25
器用I:0→95
敏捷H:0→180
魔力I:0
≪魔法≫
【】
≪スキル≫
【
・一定確率で習得
・一定確率で致命打発動。
・敏捷に高いアビリティ補正を得る。
──────
「ベルよ……これは?」
「えへへ……シルヴァさんに認めてもらいたいって思ったらなんか発現したのかもしれませんね」
「ムキィィッ! なんで、ボクが、影響で、じゃないのさぁぁッ!」
「主様、ステイ。 儂に言われても困るのじゃ」
堪らず、ハンカチを噛みながら奇声を上げる主様を宥めながら、ベルを見る。 そのはにかむ笑顔にクラっとした……なにこの可愛い生物。 年下の少年のあどけない笑顔になぜかホッとしてしまったぞ?
「ボクのベル君だぞぉ! メスの顔してるぞシルヴァ君!」
「おうこら、メスの顔などしとらんわ戯けぇ! 守りたい笑顔がそこにある的な顔じゃぁぁぁ!!」
と主様とじゃれつくことも増えてきたのぉ……ベルに惚れているのはわかっておるがもうちょっとこう、アピールをがんばれ主様。まぁ……なんだかんだ儂もベルを認めつつあるのは確かだろうがな。
なお、ベルを送り出した後。儂はようやっと主様と面と向かって話す時が来た。
「さて、ベルももう一人前……とは言えんな。半人前までは仕上げたが、主様よ」
「うん、最近はドタバタしてたしきっちり話をしないといけなかったからね。狙ってやったの?」
「うむ? いいや、狙ってはおらなんだ。まぁ、ベルに聞かせることはできぬ、子が親に相談するためだからの」
「相談、か。やっぱり君は
やはり、気がついておられたか。いや、このオラリオに儂のような種族。居なかったしのぉ……
「如何にも、儂は別世界よりここに迷い込んだ異邦人。種族としては誇り高き
「ばるばろす……」
「戦神ダルクレムを先祖とするこの世の‘穢れ’により潜在の力を解放した者たちが蛮族じゃ。大半は妖魔……コボルドやゴブリンの雑魚から一部の上位蛮族は儂のように半竜の力など、様々な異能の力を持っておる者たちじゃ」
「嘘はない、ね。ボクたちは
自慢げに胸を張る主様に呆れながら。親が子の嘘を見抜くのは得意技だろうにと心内で苦笑をこぼす。
「なるほど、それは恐れ入った。して、提案だが」
「うん、シルヴァ君を世間に出すのは少し憚られる……一部の子たちは君を見たらすぐにピンと来るだろうけどさ」
「真の強者は彼我の戦力比ができる奴よ、己の手に負えぬ者に挑むのは蛮勇通り越して愚者じゃからな」
「あはは……窮屈な思いをさせてすまないとは思うけど」
「あいわかった。しばらくはベルの師範として動くことにするか……というわけにも行かん」
「うんうん、分かってくれ……ないのかい!?」
いい感じにまとまりそうだったのをぶち壊すようで非常に申し訳がない。しかし、こちらにも譲れない一線があるのじゃ。
「主様よ。いつまでもベルを地下住まいにするするつもりかの?」
「ゔっ!? そ、それはボクが頑張ってアルバイトを」
「主神が万年アルバイト。レベル1のひよっこ冒険者の稼ぎで弱小どころか零細ファミリアに未来などあるものか。儂も迷宮には潜る」
「そ、そんなぁ……他の
「戯けたことを抜かすな主様よ、親の領分じゃその辺は」
いい笑顔でそう返してやりつつ、「とは言え」と付け加える。
「まずはこの崩壊した地上の教会を補修するつもりじゃ。上が使えるようにならば他にも団員を募れるじゃろうし」
「補修できるの? めちゃくちゃに荒れてるんだけど」
「まかせよ。超越者に不可能はない!」
この時はベルが‘トラブルメイカー’として色々と厄介ごとを持ってくるなんて思ってもみなかったが……台風の目の付近で過ごすのはそういうことじゃろう?