「嘘だろ?」
その言葉はどちらから溢れたものだったか。
黒いモヤから現れたオドロオドロしい格好のヴィラン達は、瞬時に近づいた私の手によってギャグのように非現実に殴り飛ばされ宙を舞っていた。
慣れつつある雄英高校の日常、その少し大掛かりな実技授業。命を救うやり方を学ぶ時間に突然現れた途方も無い悪意に塗れた非日常。
向けれられる敵意、悪意、害意、欲望に心が呑まれそうになる中で割り込むように静かに響き渡る声。
その覚悟の込められた命令を心から歓喜し受け入れた私は動きだす。誰も傷つけさせないために。
六式の月歩と剃を併用した移動、指銃の速度で放たれるヘビー級ブローの獣厳、それらを同時に振るうだけで容易くヴィラン共を叩き潰すことができた。
(弱いな)
見た目の恐ろしさのワリには大したことが無い、というのが本音だ。
個性は容易く人を傷つけ命を奪える暴力。しかしそれは個性を扱わずとも同じこと。そんなものをわざわざ使わなくとも、少し大きな石で殴れば人は死ぬのだ。
比較すればこの世界に比べれば遥かに劣る質の銃とカトラスなどの刀剣類で武装した海賊達の方がまだ強いだろう。どうにもヴィラン共には後に引けない破れかぶれ感がないのだ。
当たり前か。海軍に捕まれば死刑確定の海賊と、警察に引き渡されても懲役ですむヴィランでは必死さに違いが出るだろう。
だからこそ攻撃に重さも鋭さも無く、チンピラらしいお遊びの暴力だ。
イラつくね。
あのマスコミ騒動からボスと物間君がどれだけ必死に対策を話し合っていたか。
どうすればよいか頭を悩ませていたのか。
どんな思いで私に命令を下したのか。
ああ、全く。
「許せないですね、ヴィラン共」
前世ではありえなかった感情を乗せた拳はお遊び気分のヴィラン共を吹き飛ばす。
結果としてニヤついた顔を浮かべたヴィラン共が驚愕し腰が引けだすまでさほど時間はかからなかった。
「なんだ、お前?」
首領格の手だらけ白髪男に私はこう返す。
「未来のナンバー1ヒーローの忠実なサイドキックですよ」
「爆豪、なんのつもりだ?」
「イレイザーヘッドはあの黒いモヤだけに集中していてください。この状況で厄介なのはアレだ」
「学生に過ぎないお前らが対処することではない、すぐに緑谷弟を下げさせろ」
「ダメだ、ワープ個性は封じておかないとクラスメートが散らされるし。あの手男とアンタは相性が悪過ぎる」
「なぜそんなことが分かる?」
「ヒーローもヴィランも個性合わせたデザインの格好をする、だからリーダー格の白髪手男の個性が手に関連するのは予想できる。なら無音で雄英バリアーを破壊したのはあの手男で、触れることで破壊する個性なら捕縛布と体術のイレイザーヘッドは相性が最悪だ」
「マスコミ騒動からそこまで考えていたのか」
「B組の物間も一緒に考えてくれたからな。激レアなワープ個性ありきのありえない予測が当たるとは思いたくなかったよ」
「外部の連絡はできない、なら俺がワープ個性を封じることも緑谷弟が戦うのも納得できる。13号は戦闘に長けてないしな」
「加えて向こうの切り札らしき、脳みそむき出し野郎がヤバい。多分アレは俺より強い」
「大した目利きだ」
「戦闘能力だけは桁の違うポンコツと向き合っていると嫌でもそうなるんだよ」
「後で説教の覚悟はしておけ、だが一つ確認する。緑谷弟は勝てるんだな?」
「ハッ、舐めんなよ。俺のサイドキックは最強だ」
やる気が尋常じゃないくらい上がりますよボス。
これくらいの距離なら聞こえますから。
ニヤリと笑う姿まで想像できますね。
相澤先生も納得してくれて何よりです、オールマイトによる前世暴露が効いてそうですね。
あのモヤ男、ワープ個性対策はイレイザーヘッドにしかできない。いかに私であっても個性の発動はどうにかできませんからね。13号にしてもあの殺傷能力マシマシな個性を救助に使っているだけでも驚きですから、対人戦闘までできるとは思えません。後方にてクラスメートの守りをしてもらうべきです。さっき見聞色の覇気のザッと探りましたが施設内にヴィラン集団がいます。クラスメートは各所に散らして叩くつもりだったんでしょう。
通信が無理だから誰かを応援を呼ばせるために走らすべきですが、肝心のオールマイトが活動限界でしょうから当てにはできませんね。
ワープ対策にイレイザーヘッド。
生徒の守りに13号。
指揮にボス。
戦闘の私。
話し合った結果の最善手。
襲撃だけならこれで詰みですが、
「やれ脳無」
ボス達も予想できなかったヴィランの目的と、そのための切り札。
「ふざけたチートキャラがいるみたいだがこれで仕切り直しだ」
手男の言葉を受けて動き出す脳みそむき出し。
「オールマイト対策されたショック吸収と再生個性持ちのハイパワーの人間サンドバッグ。ガキが勝てる代物じゃねえよ」
中々のパワーとスピードに殴られる私、鉄塊にて防ぎましたが口の中切りましたね。
「来久君っ!!」
口から垂れる血を親指で拭います。
全く問題ですね。
「授業開始が遅れるじゃないですか」
「出来るわけねえだろ」
大した事がないと態度で示してみたら案の定キレたみたいです。
けどね、
「オールマイト対策された複数個性の人間サンドバッグですか、確かにそのパワーにその個性なら大概のヒーローには勝てるでしょう」
活動限界のある弱ったオールマイト確かになら厳しいでしょうね。
「オールマイトより強い私には何か意味ありますソレ?」
「ハァッ?」
武装色の覇気による右手の硬化、六式の剃にて脳無とかいう奴の眼の前に移動してからの、
「獣厳大威倒」
右拳一閃。
武装色の覇気にて硬度と威力を高めた最高速度のヘビー級ブロー。
爆散させないよう吹き飛ばしましたが、えらい打ち上がりましたね。しかし今妙な感触がしたような?ショック吸収される筈なのにそうでもなかったですね。もしや武装色の覇気はロギア系の通じたように個性に効くのかも?後で検証しますか。
「テメェッ!!」
「あんまり動かないでくれます?」
激昂する手男に冷めた気分で告げる。
「斬らないように打つの面倒なんです」
嵐脚峰打ち(風に峰なんてねえよ)。
本来鎌風にて相手を切り倒す嵐脚に切れ味つけないのは加減が大変です。前世と違って殺してはいけないのがかなりの枷です。
「クソがッ!!」
とはいえ三日月状の風の塊が体を通り過ぎたら崩れ落ちるくらい痛いですよね。
「死柄木弔っ!?」
両方まとめてぶち抜いたからモヤ男さんももう動けませんよ。あとは拘束して施設内のヴィランを片付けて警察に引き渡しておしまいです。
「来久っ!!」
油断はしていなかった。だがクラスメートから突然放たれたレーザーにボスの叫びで気づくことができとっさにその場から飛び退く、私を狙って?いや射線にはヴィランもいたが。
すると倒れ伏したヴィランの口からゴポリと泥のようなモノが溢れ手男とモヤ男を包み込む。
「今回は失敗だった。まさかふざけたチートなガキ共がいるとな。だが今度は殺すぞ、平和の象徴オールマイトっ!!」
負け惜しみなのかその場にいないオールマイトに届けとばかりに叫ぶ。
「そういうの補助輪とってから言ってください。
保護者同伴の悪事とか恥ずかしくないんですか?」
ボスの手甲による爆炎と私も嵐脚を泥の塊に追撃として打ちましたが当たることなくリーダー格達は逃げていきました。
命令達成ですね。
気になることはいくつかありますが、皆無事だから良しでしょう。
相澤先生達が職員室に連絡をとっているみたいですし、待ちぼうけヴィラン共を片付けながら待つとしましょうか。
雄英高校襲撃事件。
一生徒の対策により被害無く解決したその事件は、世間に少なくない影響を与えることになる。
とはいえその場に居た者達は違う。
同じ場所に居たにも関わらず何も出来なかった。
同じ情報を得たのに対策など考えもしなかった。
爆豪勝己は対応策を練り指揮をとり、
緑谷来久はヴィランを倒し尽くした。
生徒達は同じ学び舎の同級生との差を思い知らされてしまった。
命令しただけの爆豪に不満を持ちかけた者もいたが、共闘できない自身の実力に誰よりも憤っていたのは他ならぬ爆豪自身だと血の滲む拳から伝わってきた。
生徒達は何も言えずあらゆる感情に打ちのめされて帰路についたのであった。